2017年6月8日の総選挙(定数650)において、メイ保守党政権は現有議席を13減らし、318議席で過半数(326)を割り込んだ。
任期を前倒ししても、総選挙を実施し、過半数をさらに積み増し党内基盤を強化し、EU離脱に臨むというその戦略が裏目に出た形だ。
しかも、この後は、だれがたっても、EU離脱のためのEUとの交渉が重要な政権のテーマになる。
だが、EU離脱自体については、労働党のコービン党首も、繰り返し、再度の国民投票はないことを強調していた。
それゆえ、国民はEU離脱反対派もあきらめに近い感覚が支配し、EU離脱自身は大きな争点であったのではない。
もっともどのようにEUを離脱するのか、EU離脱の仕方は争点であった。
メイは「悪い交渉なら、最初から完全離脱がいい」(no Brexit deal is better than a bad deal)というほど、ハードブレグジットを唱えていた。この点、単一市場へのアクセスは残すという労働党とは一線を画していた。
敗因についてはいくつかある。
メイ首相はEU離脱の交渉については党首討論などを避けていたし、社会保障政策では貧困層を配慮しない政策をとり、キャメロン政権時の内相として警察官の大幅削減を打ち出していたこともあって、マンチェスターのテロ事件を食い止められなかったことと合わせ、強い反発を招いた。
今後、対EU関係でいえば、EU離脱交渉は、欧州委員会のモスコビシ欧州委員が指摘しているように、離脱はEU条約50条で法的に通告後2年と規定されており、残り期間は1年9か月となっている。
すなわちイギリスでは、苦悩の日々がつづく。
他方、フランスでは状況は異なる。マクロン選出で同国の将来に希望を与えてくれると沸いている。
そのフランスでは、明日総選挙第1回投票が行われるが、18日の決選投票でも、マクロン新党が圧勝する予測があり、国民のムードにおいて、イギリスとは、大きな相違である。
イギリスに話を戻すと、北アイルランドの最大地域政党の民主統一党との連立で、かろうじて過半数を得ることになる。
しかし、本人の政権継続の意思の表明にもかかわらず、シティでは首相の辞任もうわさされている。
BBCは、本人は続投を表明したものの、昨年メイにより解任されたジョージ・オズボーン前財務相がITVテレビで、「テリーザ・メイは我が国史上最も在任期間の短い首相になるだろう」、「ハード・ブレグジット(英国のEU強硬離脱)は今夜、ごみ箱行きになった」と述べたことを伝えている。
彼女自身はキャメロン政権時には、EU離脱反対派だったことを考えると、皮肉な巡り合わせである。
ちなみに20世紀以降、英首相の最短在任記録はアンドリュー・ボナーロの211日。メイ女史は9日現在330日である。
総選挙結果を記しておけば、各党の得票率では、保守党が42%、労働党が40%、自由民主党が7%、英国独立党(UKIP)が2%、緑の党が2%。
なお議席数については、以下。左から保守党、労働党、SNP、自民、民主統一党、その他の順番である。
Seats
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318
|
262
|
35
|
12
|
10
|
13
|
Change
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−13
|
+30
|
−21
|
+4
|
+2
|
−2
|
参考記事
英国のEU離脱交渉、予定通り開始できるか不明=欧州委員 ロイター2017年6月9日
Is Theresa May about to become the UK's shortest serving Prime Minister since Andrew Bonar Law? Devonlive.com.June 09, 2017.
Why Prime Minister May is wrong to say no Brexit deal is better than a bad deal
7 Jun 2017 | 10:07 AM ETCNBC.com.