児玉昌己研究室

内外の政治と日常について想うことのあれこれを綴ります。
ルペンの敗北と低投票率(国民議会選第1次2017年)そしてマクロンによるEUの危機打破と活性化の可能性

The Guardianはフランス国民議会選挙(総選挙)について、マクロン党の勝利と低投票率という題で、この選挙を分析している。

 すでに多くが分析記事を提供しているから、ルペンの国民戦線についてのコメントを紹介しよう。

 The Guardianによれば、先の大統領選挙の決選投票では極右国民戦線のルペンは1060万票(34%)を獲得したが、それを活かすことができなかった。今回13.9%弱300万票余にとどまっている(前回2012年は12.3%)。

 同党は資金や質問時間などで優遇されている院内会派を形成できる要件である15議席の獲得を目指したが、果たせそうもないという。

 第1回投票では、118の選挙区で決権投票に進出できる資格を得たものの、左右両翼からの国民戦線排除のための投票呼びかけで、最悪、ルペン自身の1議席にとどまる可能性を指摘している。

 しかし同時に、重要なことは、今回の下院議会選挙は投票率でみると、60年で最低の5割を割り込んでいることである。 

投票数・率 23,170,977 48.71%
棄権票・率 24,400,342 51.29%

この低投票率の詳細な分析は、フランス政治の専門家に譲りたい。

 EU専門家として選挙のEUを通した欧州統合への影響について私見をいえば、マクロンの圧勝は、ドイツ主導で進められてきたEUにおいて、フランスの声を高めることになることは確実である。

 周知のとおり、EUにおいては、経済力を反映して、ドイツの影響が圧倒的である。 

 しかもドイツが与えた経済的影響力はEUの金融政策に如術に反映している。すなわち、ドイツ財務大臣ショイブレにみるように、 債務過剰国家に対しては、過酷な緊縮一点張りで、ギリシャに見られるように、EU加盟国内での経済格差を拡大し、反EU的ムードの高まりを生んでいる。EU条約は「域内における均衡のとれた発展」を明記しているのにかかわらずである。

 この悪しき現状の改善に一定の影響力を及ぼすものと考えられる。

 実際、こうした問題はルペンが先の大統領選挙で一千万票を得ることに見られるように、極右の台頭を招き、EUの危機を強めている。

 しかるに、EUは将来ビジョンが欠落していると指摘されて久しい。

 EUの「変わらないフランス旧体制」にたいする構造改革を促進しつつ、他方で、マクロンは、EUレベルでは、自己の確固たる構想を持ち、EUの財務相や、ユーロ圏議会、さらにはイギリス離脱で浮く欧州議会議席73を単一欧州選挙区で選出させるなど、連邦的統合を進める施策を大胆に打ち出している。

 単一欧州選挙区(a pan-European list/  transnational seats はアンドリュー・ダフなど、EUの連邦主義者はEU政治を活性化できるものとして、早くも1990年代後半には欧州議会で構想、検討されていたものの、法案化の作業過程で、時期尚早で、国家主権派からは夢物語とされ棚上げにされ、爾来20年余の間、政治指導者レベルでは今まで誰も公にしないものであった。

 いずれにせよ、マクロンをフランス政治の頂点に戴き、国内および対EUで、そのムードが一変すると考えられる。

  しかも長年EU統合においてその抵抗勢力として機能してきたイギリスのEU離脱も加わり、EU内の一層の所得再配分と、南欧諸国を中心とするEU内の格差是正と弱者救済、すなわち、経済通貨同盟の信頼性と、なによりここ25年全くそれ以降のビジョンを欠いていたヨーロッパ統合において、具体的構想を示し、全体としてのEUの正統性を強化にことに資することになるとみている。

参考記事

French elections: Macron's party buoyant but turnout slumps. The Guardian, 12 June 2017

One head, two votes: The case for a pan-European list for EU election EurActiv.10 January 2017.

Macron proposes 73 transnational seats to replace British MEPs after Brexit europeanpost - 5 October 2016

参考ブログ

2017.05.03 Wednesday マクロンのEUの将来構想 欧州市民とEUを直結させる革命的欧州議会選挙制度改革構想

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=4241

2017.02.28 Tuesday 関心高まる仏大統領選挙 エマニュエル・マクロンへの期待

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=4206

 

| 児玉昌己 | - | 09:18 | comments(0) | trackbacks(0) |

このページの先頭へ