児玉昌己研究室

内外の政治と日常について想うことのあれこれを綴ります。
 「ブレグジットはもはやEU首脳会議の主要議題ではない」(メルケル) そしてマクロン政権4閣僚辞任

 52対48%という僅差でブレグジットを決めた歴史的というべき英国民投票から1年。

 6月23日のあの日はロンドンにその取材にいて、夜アールズコートのパブに集まり、力久昌幸(同志社大)、スティーブン・デイ(大分大)の両先生と状況分析し、その後、深夜ホテルで、未明までBBCの開票を一人食い入るように見ていた。そしてイギリスの徹底的な没落の将来を意識していた。それについては、毎日新聞の森忠彦編集委員に依頼されて、国際電話でやり取りしつつ、同紙6月25日付に書いた。

論点:英EU離脱の衝撃 - 毎日新聞

 あれから一年、EU離脱に至る政治の中枢にいたキャメロンは、離脱になっても職務を継続するという前言を翻し、まさに敵前逃亡というべくも首相を辞め、議員を辞め、政治から姿を消した。

 2014年の欧州委員長選出の新手続、すなわちspitzenkandidaten過程で、「連邦主義者」とみるユンケルの欧州委員長就任阻止と、EU「改革」を叫び、その実、EU離脱を煽り、最後の1か月、財界からの強い要望で、EU離脱の結果の重要性を学び、一転、閣内の5名の離脱派を残したまま、EU擁護に回り、政府への不信を高めたのは、彼キャメロンだった。

 その彼も消えた。そしてキャメロン内閣ではEU離脱反対だったメイが首相となり、今がある。

 そのメイだが、この英首相が政権基盤の強化と、EU離脱交渉での主導権を握るべく、6月8日下院議会選挙に打って出た。結果は、予想外の敗北で単独過半数を失って、労働党の議席積み増しを許した。そしてすぐに対EU離脱交渉が始まった。

 リスボン条約50条のギロチン条項のゆえ、2019年3月と想定されているEU離脱の交渉期限はすでに3か月消費されてしまっている。そして昨日からのEU首脳会議と続いている。

 すでにEU加盟国でありながら、イギリスはこの3月29日に上記、リスボン条約50条にのっとり、EU離脱を告知した今、別の枠に置かれている。

 そのイギリスのメイ首相はEU離脱の瞬間に必要となるFTAの通商協定は後からとし、離脱条件について、まず市民権の位置づけを、EU側に近づけた提案をしている。すなわち、在英EU市民を登録させることで、内国民待遇を与えるとするという。

 ただし、権利の内容についての最終判断、すなわち司法管轄権はEU側が当然とする欧州司法裁判所ではなく、メイ政権は自国の最高裁とするとのことで、依然隔たりがある。

 ちなみに在英のEU市民は350万、EU内の英市民は150万といわれている。The Guardian 2017623

 加筆しておくべきは、ここ1年、イギリスの国籍からフランスをはじめとする他のEU加盟国の国籍に変更する市民も相当の数に上っていることである。

 離脱後の不自由を意識してのものだ。EU市民権を失えば、それまでのEU28か国の自由往来や職業選択が大幅に制限されるからである。離脱交渉を待たずに、すでに銀行、保険など金融機関に加え、人も大量出国エクソダスが始まっているのである。

 そして始まったこのEUサミット。正確には欧州理事会という。

 EUの首脳会議ではメルケルは「ブレグジットは、もはやEU首脳会議の主要議題ではない、27カ国のEUの将来が重要である」と述べている。独仏は分断されることはないとも述べ、イギリスを牽制している。

 これがイギリスが置かれたEU政治の現状である。 

 ドイツのメルケルが語ったEUの将来で言えば、ヨーロッパ統合を1950年からドイツとともにけん引してきたフランスでは、大統領選挙に続き577のうち350を得るという如く、全くゼロだったマクロンの新政党と友党の民主運動で6割の議席をえた。

 このマクロン与党の共和国前進(REM)と民主運動(DEMO)が議会で多数を得たことは、議員経験のないマクロンが大統領に就任したことと合わせ、「静かな革命」とも形容され、広く報道され、私も仏大統領選挙の決選投票には現地に飛び、フォンテンブロで投開票の模様を実見していた。そしてブログに数回にわたり書いた。

 そして登場したマクロン新政権である。その意味するところは、ドイツとの緊密な協力による、EUの連邦的統合推進の強化に尽きる。この政権ドイツ語を完璧に話す閣僚が数名いる。

 だが、マクロン政権はのっけからつまずいている。友党である民主運動の側に特にその責任があるのだが。

 特に、中道で大統領選挙から自身が降板してマクロン支持に転じマクロン政権下では司法大臣に就任したバイルを含め、欧州議会の秘書給与をめぐり不正疑惑が指摘され、国防大臣、欧州問題担当相を含め、閣僚が4名辞任している。

 これについては、フランス研究者で、この3月7日に名古屋大学大学院の国際問題のセッションでともに招かれ、肩を並べた東外大の渡邊啓貴さんが詳しく書いている。

渡邊啓貴「閣僚続々辞任でマクロン政権に激震」 

http://www.huffingtonpost.jp/foresight/macrons-people-calling-quits_b_17263098.html

 ただし、議会での圧倒的多数をもっていること、政権の最初期ということで、さほどマクロンの政権運営に影響を与えていくとは思われない。

 欧州議会での秘書給与をめぐる不正の容疑については、直接的には国民戦線のメンバーで欧州議会議員Sophie Montelの告発を受けてのことであったが、全く同じことが国民戦線党首ルペンについても当初から存在していた。

 むしろ、私にしてみれば、告発したのがルペンの国民戦線であることから、ルペンの疑惑の相対化とも思われる。

 司直のターゲットの本命は、ルペン彼女であり、この一連の欧州議会の予算の不正使用の問題の核心部分はルペンについてではないか、と思っている。

 事実、司直はルペンの欧州議会議員の免責特権の解除を欧州議会に求めているからである。以前ブログで、以下紹介した。

「欧州議会はフランス司直からの要請を受けて、ルペンの欧州議会予算の不正流用で、議員特権の停止を議決しそうである。ちなみに、ブルームバーグによると、欧州議会予算の不正流用は335146ユーロ(約4040万円)。この額はさらに膨らみそうである。」と。

 2017.04.27 Thursday ルペンが敗北する理由  仏選挙を語るに米国をもってする愚 選挙制度の相違を失念するな

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=4237

 フランス極右国民戦線のルペンや英独立党のファラージュはEUを徹底して非民主的として攻撃していた。だが、そんな彼らの政治的正当性を保障したのは欧州議会であり、その選挙制度である比例制度であった。

 ルペンなどは、その民主主義を徹底する選挙制度を持つ欧州議会が議員に与えている免責特権を悪用して、フランスの司直の捜査に応じていないということで、このポピュリストの人種差別主義者がいう「民主主義」の認識と二重基準の悪質さが一層際立つ。

 欧州議会でも秘書給与の在り方など検討され始めており、ルペンの欧州議会議員としてもつ免責特権の停止については、関連の欧州議会内委員会での審査も早晩、開かれるものと思われる。

 フランス大統領選挙とイギリスとフランスでの下院議会選挙は終わったが、英EU離脱交渉を含め、欧州政治は目が離せない。

  一つだけ指摘しておくべきは、わが国ではイギリスからEUと欧州統合を語るものが多いが、すでにメルケルが喝破したようにイギリスは、ことEUとヨーロッパ統合に関しては、その蚊帳の外に置かれ、すでにその中枢から離れた。

 したがって、イギリスがEUに未加盟であった1952年から72年までと同様、イギリスからEUを見ていても、ヨーロッパ統合とEUは本質的部分が全く見えなくなるということである。国家機関も、研究者も心しておく必要がある。

参考記事

仏大統領候補ルペン氏、決選投票直前に欧州議会招致か 資金疑惑でロイター 2017 04 17

 ルペン氏の国民戦線本部に家宅捜索−欧州議会の資金流用疑惑でBloomberg 2017221

参考ブログ

2017.02.04 Saturday トランプのアメリカ第一主義の政治はEUの結束と連邦的統合を強化する

  http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=4194

2016.06.11 Saturdayマッチポンプのキャメロン、反EUの火をつけて回り、挙句、消火できずに国家が大火災 EU離脱の可能性が高まる英国民投票

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=4050

 

| 児玉昌己 | - | 23:53 | comments(0) | trackbacks(0) |

このページの先頭へ