児玉昌己研究室

内外の政治と日常について想うことのあれこれを綴ります。
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EU懐疑派を代表するギデオン・ラフマン(Gideon Rachman)のFT記事を批判する 下

  EU派やEU懐疑派のコメントをみていると、なにかEUと欧州統合の発展は自分たちが加担したものではないという事実誤認の議論に満ち満ちている。

 例えば以下のようなあるイギリス人と思われる欧州委員会の長選出に関するコメントがある。下記に紹介するドイツ有力週刊誌シュピーゲルの記事に対するコメントとしてなされたもので、典型的な懐疑派の認識であり、ここに紹介しよう。ラフマンのこの類の議論だからである。

When the UK voted to join a Common Market it was never imagined here that the EU would become the political behemoth it is today. The plan was for a free trade area, not a United States of Europe.

訳すれば、イギリスがEEC加盟に調印した時、EUが今日の政治的怪物(political behemothになるなど思いもしなかったし、イギリスが目指したのは自由貿易圏であり、欧州合衆国ではなかったと、いうものだ。

しかし以下が最も重要なことだが、懐疑派はEUをビヒモスという怪物であるというが、EUは、政治的怪物のビヒモスかは別として、イギリスの政治的意思を無視して独断でヨーロッパ統合を実践してきたのでは断じてない。イギリスの2大政権が、そしてフランスの歴代政権が合意の上に、EUに加わったのである。

EUもかわいそうなもので、ビヒモスであったり、あるいはマリーヌ・ルペンには「欧州ソビエト連邦」と表現されている。

さらにいえば、上記のビヒモスと表現したコメント氏が全く認識できていないのだが、その始まりからEECは自由貿易圏程度の経済組織ではなかった。

それは統合度において自由貿易圏とは天と地との差がある関税同盟であった。それは、域内完全の撤廃は当然のこと、さらに進んで、対外関税の設定権という国家がもつ主権的権限をEECに譲渡した組織であった。イギリスは、自ら進んで、若干の譲歩で、工業国家として広大な無関税の市場をゲットし、EECのメンバーとなったのである。

当事者ならば、少しは勉強してものをいうべきであろう。

日経にフィナンシャル・タイムズの記事の翻訳が出たラフマンに戻ろう。

イギリスはこれまでEUとヨーロッパ統合の進展に自ら関わってきた。1973年のEU加盟条約に調印したのは、テッド・ヒースであった。1987年の単一欧州議定書に調印したのはマギーことマーガレット・サッチャーであった。また1993年のEU条約に調印したのはジョンメージャーであった。現行EU条約に調印したのはブラウンの労働党政権であった。

保守党政権がそしてイギリスの二大政権政党がEUの連邦的統合に常に積極的ではなかったにせよ、主役としてコミットしてきた。その歴史的事実を忘却し、他国が勝手にEUの連邦的統合を主導したなどという理解は、笑止千万である。

ユーロに戻って言えば、ユーロ加盟国、つまりユーロ圏諸国でユーロを離脱したいという国家などどこもない。

ユーロ圏はすでに18。さらに多数の国が希望している。これからも発展する。反ユーロは自国の利害だけをみるAfDなどの反EU主義者か、圏外にある一部のイギリス人だけがそれを言う。

主権国家からなる「欧州連合を」希望するイギリスの願望とは違い、EUは主権的権限の大規模なEUへの譲渡を本質とするユニオン連邦主義的「欧州同盟」をさらに形成している。

ラフマンのあまりに幼稚な記事がフィナンシャル・タイムズの重要記事として出され、私の方がおかしいのかと若干なりとも逡巡する気もなかったわけではない。

だが、110万部平均を誇るドイツの有力週刊誌シュピーゲルの国際電子版が、社説で、私と全く同じ理解に立って記事を出している。以下がそれだ。

「選択の時 イギリスは欧州にとどまるなら、選択せねばならない」すなわち、EUの民主的手続に従うことを厭(いと)うならば、EUを出(い)でよ、というものである。

次の文章もきわめて刺激的である。

For years Britain has blackmailed and made a fool out of the EU. The United Kingdom must finally make a choice: It can play by the rules or it can leave the European Union.

 

Decision Time: Britain Must Choose Now. If It Will Stay in Europe.A DER SPIEGEL Editorial  June 03, 2014 

http://www.spiegel.de/international/europe/spiegel-editorial-argues-britain-must-determine-future-in-eu-a-972903.html

事ここに至れば、イギリスのEU離脱も全く同感である。私自身このブログの前に、イギリスを観ていてもEUは理解できないというブログを書いている。参照いただければである。

 なお、ラフマンの理解とは違い、ユーロは危機の中にありながらも、確実にEU加盟国を取り込み、19番目となるリトアニアのユーロ圏入りの条件が整ったことが欧州委員会から発表されたことが4日付で報じられた。

 イギリスと同様であったデンマークも政権交代でユーロ導入に傾いているである。イギリスは欧州で孤立を強めている。欧州統合の驚くべき進展という動の後の反動。これが欧州議会選挙での極右反EU派の台頭である。

 だが、政権与党は各国でユーロ加盟を望み、EUはさらに発展する。欧州議会選挙後の政治スローガンはSocial Europe。 社会的ヨーロッパ、より社会にやさしい欧州という政治目標で、今後展開されていく。

 中国などの独裁国家とは違い、民主主義には意思決定は時間もエネルギーも要す。だからこそ、その後の政治的安定が確保されるのである。

 その人類的規模での未曾有の挑戦をEUが進めている。我々はそれを忘れてはならない。

 

参考記事

 Lithuania ready to adopt euro, Commission says EurActiv 04/06/2014.

Denmark should join the euro, says Thorning-Schmidt. Euractiv. 21.02.2014

参考ブログ
2014.05.13 Tuesday イギリスだけを観ていてもEUはわからない 上下 その理由 欧州議会選挙を前に 英保守党の苦戦
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=604
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3665

 追記
 リスボン条約の欧州理事会による欧州委員会の長の指名規定の加重特定多数決に沿って実施されれば、ユンケルが指名されうるという記事が以下、EurActivから出た。

Merkel says Juncker can be approved with qualified majority. EurActiv 03/06/2014. 

現行EU条約であるリスボン条約に従えば、それが論理的帰結であり、ユンケルなら国内からの突き上げで、EUからの脱退となるというそうした「内輪」の論理は通じない。内輪のことは内輪で解決せよということである。
 キャメロンやラフマンの言い分はEUの政治と法のコンテキストから見たら、全くの非常識というべき議論であり、より高次のEUの憲法的条約の手続に基づかない、恐喝blackmailと表現されている議論である。
 すなわち、EUに止まるなら、EU条約が規定する制度手続に従え、それがいやならEUから出でよ、というドイツシュピーゲル誌の6月3日の社説となる。
 参考ブログ

2014.06.05 Thursday 欧州委員会の長選出をめぐる欧州議会と欧州理事会による機関間闘争の始まり上中下

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3677
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3679

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3680

 

 

 

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