児玉昌己研究室

内外の政治と日常について想うことのあれこれを綴ります。
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坂井ロンドン特派員よ、EUは「国家連合」を目指しているからとはロンドン市長は言っていないよ 「連邦的同盟」federal unionを目指しているから離脱すべきと言っている

  2016年218-19日の欧州理事会(EU首脳会議)で、EU残留条件がイギリスと27カ国の間で一応まとまり、623日がEU残留を問うイギリスの国民投票が本決まりとなった。
保守党内では、キャメロンの保守党政権の閣内が分裂し、5名が離脱を支持する状況である。この動きに関連して、今最も注目されているロンドン市長がEU離脱を支持することを表明し、EU離脱に大きくシフトした感じのイギリスである。
 ところで、これに関して毎日のロンドン支局長の坂井隆之が「ロンドン市長がEU離脱を支持」毎日新聞2016223日 東京朝刊と伝えてきている。
 ここでは、見過ごせない重要な誤訳がある。

 この記事は、ジョンソン氏が大手紙デーリー・テレグラフへの長文の寄稿でEUを離脱すべきとする理由を語ったことに関連して出されたものである。
 ボリス氏寄稿を伝えるテレグラフの原文見出しは以下だ。
Boris Johnson exclusive: There is only one way to get the change we want – vote to leave the EU. David Cameron has done his very best, but a vote to Remain will be taken in Brussels as a green light for the further erosion of democracy. By Boris Johnson Telegraph. 22 Feb 2016.
 ここで語られるボリスの議論ついて、毎日の坂井氏は以下伝えた。
「我々が求める変化を得るには離脱に投票するしかない。EUは国家連合を目指しており、ほとんどの英国民とは相いれない」と説明した。
 しかし、坂井記者よ、「EUは国家連合を目指しており」というところは明らかな誤訳だ。
 英有力保守紙テレグラフに寄稿したボリスの原文を読むと、欧州人が「 単一の真の連邦的同盟」(
 a truly federal union)を創設したいのである、といっている。
 連邦と国家連合では天と地の差があることを知るべきだ。

 ここを間違うと、EUという政治組織の政治原理とその性格も、そしてイギリスのEU離脱を支持するロンドン市長の主張の理由も全く理解できなくなる。
 関係する箇所の英文を示せば、The fundamental problem remains: that they have an ideal that we do not share. They want to create a truly federal union, e pluribus unum, when most British people do not.
 ちなみに、エ・プルリブス・ウヌム ( e pluribus unum)とはラテン語で「多数から一つへ」ということであり、合衆国を意味するとウィキペディアにある。
 イギリスがEUを離脱すべきとするボリスの理由は、イギリス人が思ってもいない欧州連邦を形成するというそのことにある。
 現在のEUでも、すでに国家の主権的権限の重要な部分が国家の側にいまだある国家連合を超えてさえいる。
 通商政策、農業政策などは完全に
EUが所管している。
 EU代表部がEUを「欧州連合」とする使ってはならない訳語を採用しているから、こうした誤訳が出てくるのかもしれない。
 EUは常時そのうちに欧州連合を否定し、欧州連邦を志向する政治装置、例えば、特定多数決などを内在している。国家主権の絶対性が多数決では貫徹できず、国家主権の最高絶対性が確保できない。国家間組織の国際組織においては特異なことである。

 ちなみにEUを「欧州連合」とする邦語表記は1996年に欧州社会党から欧州連合の使用停止と「欧州同盟」への変更を求める書簡がだされているのである。私事だが私が当時英文論考を準備して現在欧州議会の欧州社会党の有力議員(英労働党)のコルベット氏に問題を提起し、書簡を出してもらったのである。
 EUの統合が、ロンドン市長のボリス・ジョンソンが言う如く、フェデラル・ユニオン「連邦的同盟」に向けて進めば進むほど、国家連合を意味する「欧州連合」という表記と、日々連邦の様相を濃くするEUの実態とのかい離が鮮明になる。
 ever closer unionは、EUの到達地点に対する無(期)限的性格をうたったものであり、その最終到達点は最低でも欧州連邦、最大、到達地点は欧州合衆国となる。
 それだからイギリスはそれでは困るしそれに加わる気はないというのである。

 ユニオンを「連合」とする日本では、「さらに緊密な連合」なとどいう訳語となる。であれば、統合の到達地点は単なる連合にとどまることになる。「さらに緊密な(連邦的)同盟」とすべきなのである。同盟とは明示的、または暗示的に「連邦の」(Federal)という語をEU政治では伴うと理解してよい。
 EUで使用される、関税同盟、銀行同盟、政治同盟、通貨同盟、財政同盟など、ユニオンという語はすべて国家の主権的権限のEUへの譲渡に係り、それに同意するEUと加盟国の関係をあらわす言葉である。
 無理やりフェデラル・ユニオンを「連邦的連合」などとすれば、それこそ政治学の用語としては、まったくのナンセンス。意味不明となる。社会科学は用語に厳密でなければならない。
 遺憾ながら、わが国では、この識別のなさによって、
EUの性格とイギリスの理解とが、意味不明となる。まったく、困ったことだ。
以下参照
2010.11.02 Tuesday欧州連合を否定しつつEU(欧州同盟)は連邦主義的権限強化に向かう 上 金融財政部門でのリスボン条約改正の動き
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=2575
 ともあれ、この市長は、国家連合(confederationという言葉を一度もそこでは使っていない。ここを間違われると、まったく意味不明となる。
 ちなみにボリスはこの寄稿の中で、EUについて、federal(連邦の)という形容詞を3回使っていることを指摘しておこう。
 蛇足だが、市長ボリス・ジョンソンの寄稿の中には、テレグラフが見出しに使った「さらなる民主主義の侵食」(the further erosion of democracy)という言葉はない。
 テレグラグフが勝手に付加したものである。

 オックスフォード大ベリオール・カレッジBalliol College, Oxford出身で、教養があり、イギリスのインテリの立場からEUを正確に見る彼は、テレグラフのような無様なことは言わない。
 彼は「(欧州が目指す)この連邦主義者の構想は恥ずべき理念ではないことを忘れてはならない」(We should remember that this federalist vision is not an ignoble idea.)と述べてさえいるのだから。
 「国家主権の侵食」(erosion of sovereignty ならボリスも否定はしないだろうが。「民主主義の侵食」とは言っていない。

 ともあれ、正確に伝えるべきものが、「連邦」(フェデラル)を、一方的にソ連型と認識して、蛇蝎のごとく嫌うテレグラフというこの新聞社の反EUイデオロギーで、恣意的に操作されてはかなわない。
 これがゆえに、私はことEU報道に関して、テレグラフ紙をあまり評価しないのである。

| 児玉昌己 | - | 07:50 | comments(0) | trackbacks(0) |
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