児玉昌己研究室

内外の政治と日常について想うことのあれこれを綴ります。
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「キャメロンの国民投票は英政治史上最も馬鹿げた政治運動である」David Cameron's EU referendum is the most absurd political campaign ever fought(N・Nelson The Mirror)
  イギリスのEU残留を問う来月23日の国民投票が迫ってきた。その取材でロンドン出張する。
 そのイギリスは残留remain 離脱leaveの両キャンプの政治運動が過熱している。
 EU離脱派陣営にあって、2か月前にはまだ抑制が効いていた前市長のボリス・ジョンソンだが、両陣営のキャンペーンが加熱するにつれ、EU統合は、ナポレオンやヒトラーと同じ企てだといって、人々を幻滅させた。それは書いた。
2016.05.16 Monday 加熱する英のEU残留を問う国民投票 陣営内で齟齬(そご)を来す ヒトラーを持ち出すジョンソン前市長
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=4036
 保守党内の離脱陣営は、仮に国民投票で残留が決まっても、党首であるキャメロンに対し不信任案を出すなど言う。
 「残留が決まっても」、というところに最近の離脱派の劣勢とそれを背景にした危機感が強まっているのだが、それほどキャメロン不信が強く、保守党内の亀裂は泥仕合というにふさわしい。

 そんななかで、かつてキャメロンを長く支えていたSteve Hiltonがタイムズとのインタビューで語った評価がAFPを通して広く報じられた。
 ヒルトンは現在米国に居を移しているが、2009年に6歳で亡くなったキャメロン首相の息子の名親(洗礼立ち合い)で、20年来の盟友でキャメロンの選挙参謀を務めた人だ。
 その彼が以下いう。

“If he was a member of the public, or a backbench MP or a junior minister or even a cabinet minister, I’m certain that he would be for ‘Leave.’

「もしキャメロンが一般市民、あるいは陣笠議員、あるいは閣外相であるなら、さらには閣僚であったとしても、彼はEU離脱支持者となっていたことだろうと、確信している」
 Cameron is pro-Brexit by ‘instinct’ By AFP 26 May 2016.「キャメロンは本能的にEU離脱派だ」(盟友ヒルトン)
 実際、キャメロン自身「私はEU懐疑派だ」と公言していたが、彼の過去を振り返れば、それを超え、EU離脱派というにふさわしい実績を残している。
 例えば、EUの行政府である欧州委員会の長選出の政治過程、いわゆるspitzenkandidatプロセスでみせたユンケルつぶし工作に表れている。その様を知るものとしては当然だという気持ちだ。
 実際、2014年2月スウェーデンまで出向き、ユンケルつぶしを画策したが、6月の欧州理事会で蓋を開ければ、最終的には民主主義に問題のあるポピュリスト、オルバンのハンガリーのみがキャメロンにつく26対2という欧州理事会史上最大の不必要な惨敗を見せていた。
 この結果は当初からわかっていて、それでも玉砕覚悟で、採決を求めたのであった。

 またEU残留の条件は、いくつかあったが、EU統合の無期限的性格をいう由緒ある条約上の文言、「一層緊密な同盟」(ever closer union)の削除を口にしていた。このユニオンはフェデラルユニオンと一般に理解され、国家連合を否定する欧州連邦形成を暗示した言葉である。
 ちなみにこれを「一層緊密な連合」と訳する者がいるが、連合という訳語ではキャメロンがなぜこの文言に反対しているのか、まるで不明となる。
 EUは通貨同盟、関税同盟、財政同盟、そしてそれらを含んだ連邦的政治同盟というように合意による主権譲渡の連邦形成の性格を持っているのであり、そのことについて全く認識が及んでいないということである。
 しかも、これは
EU条約上の文言で、全会一致でないと削除できない性格の基本的なものであった。
 それがゆえに親英的なポーランド首相経験者で現在も欧州理事会の議長を務めているトゥスクさえ、トムクルーズの映画タイトルから来た「不可能な任務」(
mission impossible)と語っていたのである。
 結局、イギリスだけが連邦的統合の深化をいうこの文言を認めないという立場に、すべての加盟国は意を置く、という程度の決着を見たに過ぎなかった。
 それゆえ、いまEUについて、その残留とその必要性を声高に唱える彼キャメロンを見ていると、まさにマッチポンプ、すなわちあちこち火をつけて、後で消して回る滑稽なピエロというべき姿が実に印象的である
 そして労働党系で親EU派のタブロイド紙ザ・ミラーMirrorのコラムニスト、ナイジエル・ネルソンはいう。
 それが今日のブログの結論であり、見出しである。
David Cameron's EU referendum is the most absurd political campaign ever fought. The Mirror, 28 May 2016.
 なお、EU離脱派は最近大量難民の流入の危険を強調し、国民健康保険NHSへの負担を離脱の理由とする論調を強めている。
 だがその実際については、例えば、ガーディアン紙がポーツマス病院の事例として、80名の医師、350名の看護婦は、他の
EU加盟国出身者。英国全体で13万のEU加盟国出身の医療や介護の関係者がいて、イギリス以外からきた彼ら(彼女たち)から「途方もない」便益を受けている、と報じている。
NHS had benefited “enormously” from 130,000 European Union doctors, nurses and care-workers. theguardian.com 2016522
 イギリスでは史上初めてあれこれの対EU関係の正確なデータが提示され、国民の間にまともな事実認識に立ったEU認識が形成されつつあるといえる。
 それほどに、BBCも含めて、イギリスのメディアは、ことEUといえば、極めて一方的で偏向したタブロイドの煽情的記事にあふれたており、社会は、反EU報道の害悪に染まっていたのである。
 実に「史上最もばかげた」とミラー紙のコラムニストネルソンが書いたキャメロンが導入した今回のEU残留を問う国民投票に意味があるとすれば、イギリス人がそうした環境を、イギリス戦後史を決定的に画する重要性と意味を持つ政治イベントのまさに土壇場で、ようやく得たということであろう。
参考ブログ
 英の国民投票については、最大限の皮肉を込め、個人的には、以下ブログしています。

2016.02.28 Sunday 英のEU離脱 個人的には賛成である
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3984

2016.05.07 Saturday
EU加盟国首都で史上初のムスリムのロンドン市長誕生とその意味 人種差別主義への一撃
http://masami-kodama.jugem.jp/?day=20160507

 
追記 
 キャメロンはロンドン市長選で数週間前まで労働党候補でムスリムのサディク・カーンを「イスラム過激派」との関係があると根拠もない個人攻撃していた大金持ちの与党候補ザック・ゴールドスミスを応援していた。
 だが、その与党候補が大差で敗れた今、先の発言を謝罪し、サディク・カーン氏と連携するのは「誇りである」と語っていることが、ミラー紙により皮肉られている。
 この急変ぶりこそキャメロンという指導者の資質が表れているように思えるの私だけだろうか。
 もとより、キャメロンは残留獲得に必死だ。
 もし僅差の結果で残留が決まったとすれば、保守党内を分裂させたとしてキャメロン不信が広がり、首相継続の目論見は大いに揺らぐのだから。

David Cameron says he's 'proud' to campaign against Brexit alongside London Mayor Sadiq Khan... just weeks after condemning his links with extremists.By James Tapsfield, Political Editor For Mailonline.The Mirror 30 May 2016.



 
 
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