児玉昌己研究室

内外の政治と日常について想うことのあれこれを綴ります。
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英EU離脱についてのタブロイド・メディアの責任

   政治の季節だ。わが国では参院選が改憲勢力3分の2という結果で終わったが、欧州ではもとより英のEU離脱。 さらには、オーストリアでは僅差で極右政党の候補が敗れた大統領選挙で、再選挙が司法から命じられている。

 イギリスのEU離脱に戻れば、労働党出身でウェールズ選出の欧州議会議員デレック・ヴォーガンはEurActivから取材を受け、ウェールズの有権者が離脱を選択した理由について、以下のよう述べている。

 「それは複雑な要因があると思うが、過去20年に及ぶメディアの反EU的なネガティブな報道があったと思う。それはつねにEUの他の加盟国からのウェールズへの移民を非難していた。

I think it is quite complex, I think it is due to the fact that negative media for the past 20 years has always criticized the EU, (and) always criticized migration from the EU into Wales.

Vaughan: Labour MEPs want to continue work until UK leaves, ‘if it leaves’ EurActiv ‎201678

 ちなみにこの記事は、「もしEUを離脱するなら」となって、離脱のその時まで議員活動を継続したいというものである。カッコがついているのが残留派の議員の声として痛ましいのだが。

 実際、そのコメントで、ウェールズでは各種のEU予算が投入され、19.2万の雇用がEU関係で生まれていたのにという同議員の言葉がある。

 どうしてこうした重要情報が反EUの声にかき消されていたのだろうかと、さえ思う。

 労働党系のミラー紙などの例外はあるが、ザ・サンにみられるイギリスのタブロイド紙の反EU報道にはうんざりしていたのだが、イギリス労働党の欧州議会議員によるメディアの責任を直接語った直接の見解に触れるのは実に貴重だ。

 実際、BBCも、反EU的報道姿勢であったことについては、その例外ではなかったことが4月に報じられていた。

 私も時にNHKを通して提供されるBBC制作のドキュメントで、非常に一方的と思われる報道があり、なんだこれはというものが多々あったことを記憶している。

 BBCの「偏向」報道については、スイスのメディア調査機関Tenorが報じたもので、ニューズウィークやガーディアンなどもこれを報じていた。

 ガーディアンは、国民投票の政治キャンペーンが過熱していくさなかの4月21日、以下の見出しで伝えている。

「BBCの報道はプーチンを扱う以上にEUについてはネガティブである」と。

 BBC's EU reporting 'more negative than its Putin coverage' The Guardian, 21 April 2016. 

 イギリス研究者は意外に感じる人もいるようだが、EUで実際起きている事実を知るものからは、そして大陸の報道の論調に触れてきたものからは、実に心が痛むものであった。

 現在、英離脱に伴うポンドの下落はとどまるところを知らない。

 しかし、離脱派の「ウソ」の主張を大々的に報じ、EU離脱に貢献したそれらのタブロイド紙は、経済的苦境の始まりは知ったことかと、もう政治問題から目を離し、いつものゴシップや保守党内紛の記事で埋まっている。実に他人事のようであり、無責任極まりない。

 第4の権力と言われるメディアの報道姿勢にも注意の目を向けていく必要がある。

 追記

 これを書き終えた後、対立候補だったレドサムエネルギー相が党首選レースから降り、内相のメイ女史が保守党党首、すなわち首相となることが決まったとの報に接した。これでEUからの離脱手続が進むことを望んでいる。

 わが国の一般的なメディアの論調とは違い、EU内で欧州統合の最大の抵抗勢力だったイギリスがEUから抜ければ、EU内の国民戦線のルペンや蘭自由党のビルダースなど国家主権至上主義のナショナリストの抵抗勢力が求心力を失い、かつイギリスの金融と経済への深刻な打撃をみることで、EU離脱派の論の根拠はもとより、政治的な砦も失う。

 私は、EU離脱で最も震え上がっているのは極右ナショナリストだとこのブログで繰り返している。有産市民の一部がかれらの支持基盤だったのだが、無産市民以上に有産市民はイギリスで起きている市場の報復としてのポンド急落に驚愕していることだろうからだ。

 ポンドの急落は序の口に過ぎない。すぐにイギリス全体を大不況の波が襲うだろう。

 緊縮財政と増税、それでも海外からの直接投資もしぼみ、資金調達が困難になる。

 EUから出たイギリスがいかにみじめかを早晩、厳しい経済状況の中でイギリス国民は知ることになる。

 他方、EUは、ギリシャなどの脆弱性を抱え、それゆえ、ポンド危機などでさらに揺らぎかねないユーロ圏でのユーロ価値の維持のために、財政同盟の強化という連邦主義の強化として統合は確実に進むとみている。

 実際、すでにイギリス離脱で、欧州大陸では全般的にEU支持派が盛り返しているというガーディアンの以下の記事が出ている。

 またEUの防衛政策でも同様だという記事も出ている。

 EU解体、EU分裂などという表層的記事や評論家の言説には要注意である。

参考記事

Brexit causes resurgence in pro-EU leanings across continent. the Guardian, 9 July 2016. 

Brexit is an opportunity for EU defence policy.EUobserver.8. Jul, 2016.

参考ブログ

2016.06.17 Friday EU残留巻き返しに必死のFinancial Times 指弾されるキャメロン英首相の優柔不断と大失策

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=4052

2016.07.09 SaturdayティンメルマンスTimmermans 欧州委員会副委員長の欧州議会で演説 2 欧州統合の意味と価値を考えさせる演説

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=4078

 

 

 

 

 

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