児玉昌己研究室

内外の政治と日常について想うことのあれこれを綴ります。
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金融、財政面から確実に進むEUの統合深化とEU統合の2スピード化の加速 下

本稿は以下の続きです。

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=4202

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=4203

 

 ところで、EU統合の大規模な進展に伴う2分化について、興味深い記事が、EU専門の上質なネットジャーナルのEurActivから出ている。

 「父はEUの全会一致に苦しんでいた」という見出しの記事で、EU統合の創設の父、ポールアンリ・スパークの娘が記者に問われて語った言葉だ。

 スパークはEEC創設を導く1955年の「スパーク報告」でその名を欧州統合史に残している。

 ちなみに、このスパーク報告をわが国で初めて仏語原文から翻訳したのが、後に初代EU学会理事長となる片山謙二である。彼は九州帝国大学仏法を修め、戦前、関西学院大の法学部教授として奉職した。

 後に、片山教授はEUの訳語として「欧州連合」という訳語を、それは国家連合を意味するという観点から、EUを創設したものの理念と思想を体現していないどころか、それと全く相反する訳語だとした。

 実際、EU創設の父たちは、最大到達点としては欧州合衆国を構想した。事実、モネはECSCの最高機関の委員長を辞めた後、「欧州合衆国行動委員会」(Comité d'action pour les États-Unis d'Europe)の委員長であったことを思い起こすべきである。

また最低でも「欧州連邦」を構想していた。欧州石炭鉄鋼共同体を導くシューマン宣言は「欧州連邦の具体的な最初の基礎」(les premières bases concrètes d’une fédération européenne )と位置付けていた。

 これらを熟知する片山謙二は、「欧州連合」というEUの組織表記の訳語は、国家主義を乗り越え、欧州連邦を形成しようとした欧州統合の創設の父たちの意思をまったく反映するものではなく、あたかも、「我が家の庭を土足で荒らされるごとき」と表現し、EUは「欧州同盟」でなければならないと述べていたのである。(拙著『欧州議会と欧州統合』付録英文論文参照。

 その結果は、欧州議会の当時最大会派だった欧州社会党からEU表記に関する「欧州連合」の使用停止と欧州同盟の使用の書簡まで出るに至る。1996年2月のことだ。

 私が英文論文をもって、日本でのEUの訳語をめぐる状況について、リチャード・コルベット欧州社会党党幹部(現英選出欧州議会議員)に知らせたものだった。

 話を戻せば、ポール・スパークの娘アントワネット・スパークAntoinette Spaakは、現在88歳で、自身も欧州議会議員経験者でベルギーの有力政治家である。

 彼女は、重要事項において、国家主権が貫徹され擁護される全会一致制の下では、EUの意思決定が停滞する現状を意識している。

 そしてますます深刻化し、市民を不安にする移民問題の対処での全会一致制度に関連し、2スピード(2層)のEUの可能性について、「父君(スパーク)が存命なら賛成でしたか」とEurActivの記者に問われて、以下回答している。

 Yes, I think so. We need a two-tier Europe. We cannot be held to ransom by one country out of the 28 that rejects the solutions that are best for Europe as a whole.

Spaak: My father was tormented by the unanimity rule.EurActiv.com 2015520

 「そう思います。私たちは2層の欧州を必要としています。欧州全体にとってベストな解決策を1カ国が拒否するとすれば、その国家1国にかまってはおれません」と。

 ちなみにポーランドの指導者カチンスキーは上述のEurActiv.com with AFP の記事の中で以下語っている。

The future EU “must be one and it must also be different, it must be better.”

 「EUは一つであるべきだが、それぞれ相違しているべきでもあり、それがベターである。」

 前段は、EUが制度として統合を求め、現実もそうであるがゆえに、仕方なくそれを認め、後段でむしろ本音を吐露しているとみるべきだろう。

 ポーランドの現政権などが主張するのは、EUの連邦的政治組織から国家からなる連合組織、つまり「欧州連合」への改組転換である。

 しかし、EU(欧州同盟)の、国家連合である「欧州連合」(European Association)への後退的改組は、EU条約の改正を必要とする。EU条約の改正は全会一致である。

 すなわち、これまでの、そして現在の独仏枢軸体制が壊れない限り、そうしたポーランドなどによるEUの改組転換は全くナンセンスで、論外の議論となる。

 すなわち、EUEUを通して進む欧州統合への参加が嫌なら、イギリスのようにEUから離脱すればいい。だが、それさえできないのがポーランドである。

 ポーランドがEUから離脱すれば、たちどころに通貨ズロチは売りたたかれ、国際的信用は吹き飛ぶ。軍事的にもロシアを前にその脆弱性が増す。イギリスでさえそうなのだから、いわんやおやである。

 イギリスのポンドは下がっていないではないかという諸君には1年半前の7月ポンドは190円だったことを思い出すべきだ。すでに20%以上下がっている。離脱の瞬間的にはそれ以上、下落した。蛇足だが1960年代初頭ポンドは対円で1000円を超えていた。

 しかも、まだ離脱の始まりとなるリスボン条約50条の通告の引き金は引かれていない状態でこれである。

 ともあれ、EUは解体、分裂するのでなく、EUは統合の連邦強化の方向での深化という中核部の一層の統合進展で、「二分化」するのである。まして統合が終焉するなど笑止千万な議論だ。

 二分化するが、進まない側、例えばポーランドなどの東欧諸国の多くは権威主義的覇権主義に傾くロシアへの対応という軍事的観点から、そして単一市場のメリット、EU予算を通したEUの所得配分の恩恵からEUを離脱することなど考える余地もない。すなわち、最低でも、現在の統合レベルを維持していくことになる。

 そして経済的に余力が出た国家は、ユーロ圏入りし、先頭集団に加わる。 

 それがEUの中核である独仏やベネルクスの連邦主義者が、抱いている認識であり、実際であり、将来の構想である。

 もとより、各国で強まる極右反EUナショナリスト諸政党はこれに徹底抗戦するだろう。

 ポーランドなどが欧州統合の深化に反対しても、そして日本の英語圏の反統合理念に影響された研究者が何と言おうとも、EUの核心部分のユーロ圏での金融経済財政統合はさらに深化していく。

 すなわちEUの二分化は必然的だ。

 このブログの最後に、EUの前身である欧州共同体を通した欧州統合は危機のなかで深化してきたという西独首相ブラントの言葉と、単一通貨創造が国家の側に与える意味と影響について、EU法研究者プリアコスが放った言葉とを再録しておこう。

 「端的に言って、今でもそうだが、欧州共同体の歴史は危機の総計ということができる。それは危機を通して、危機の中で発展してきた過程であると書き記すことができよう。」 

 Brief as still is, the history of the European Community is the sum of its crises. It might be described as a process of development in crises and through them. 

 Willy Brandt, People and Politics: The Years, 1960-75 1976.

 「共同体の通貨主権の出現は,予見できない効果をもって国家主権の堅い核を打ち破る。」
“ L‘émergence d’une souveraineté monetaire communautaire brise le noyau dur de la souveraineté  étatique , avec des effets imprévisibles.”

Pliakos, A.D., La nature juridique de l‘union européenne . Revue trimestrielle de droit européen.  No. 2. 1993, p. 223.

 参考記事 

EU、右派政権を調査 「法の支配」違反も 毎日新聞2016525

Poland rejects EU warning on constitutional court crisis.EurActiv.com with AFP20161223

Poland shrugs off EU warning EurActiv.201663

Visegrad calls for complete change of EU-27.EurActiv2016629

参考ブログ

2017.02.15 Wednesday Spitzenkandidaten(欧州委員長選出手続)Ver.2について

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=4200

2016.07.11 Monday 英EU離脱についてのタブロイド・メディアの責任

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=4082

2010.11.02 Tuesday 欧州連合を否定しつつEU(欧州同盟)は連邦主義的権限強化に向かう 上 金融財政部門でのリスボン条約改正の動き

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=2575

2014.06.06 Friday EU懐疑派を代表するギデオン・ラクマン(Gideon Rachman)のFT記事を批判する 上下 彼の言う「欧州の民主主義を救え」は「イギリスの保守党の言う民主主義を救え」ということだ

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3681

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3682

2015.10.21 Wednesday 竹森俊平の「逆流するグローバリズムーギリシャ崩壊、揺らぐ世界秩序」PHP新書を読む 上下

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3917

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3918

敬称略

 

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