児玉昌己研究室

内外の政治と日常について想うことのあれこれを綴ります。
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 ユーロ圏議会構想をマクロンとショイブレが協議 EU懐疑論者を青ざめさせるユーロ圏における連邦通貨主権創造への一歩

 ヨーロッパ統合の連邦的強化の最大の抵抗勢力だったイギリスが3月29日にEU離脱をEU側に告知し、5月のここ数日前にマクロンが仏大統領に選出された。

 そして間を置くこともなく統合は息を吹き返し始めた。

 予測通り、ユーロ圏議会について、早速、マクロンが会談して、ドイツの財務相ショイブレがその創設に乗り出すことことをイタリア紙が伝えた。以下がロイターのそれだ。

独財務相、ユーロ圏議会の創設を呼び掛け=伊紙 2017 05 12

Germany's Schaeuble calls for euro zone parliament: La Repubblica.

Reuters  May 11, 2017

私は、多くの在京のEU研究者が「欧州統合の終焉」といった、近視眼的な記事を書いていた3年前に、ショイブレのユーロ圏議会構想に注目し、下記のブログでそれについてコメントしている。

 ヨーロッパ統合は確実に進むのである。理由は簡単である。

 カール・マルクス風に、下部構造の進展が上部構造の変革を要請していると書くことができるが、それでは、芸がない。

 もっとわかりやすく言えば、ユーロの価値の防衛は必然的にEU予算によるユーロ市場の下支えを必要としているからである。それは失業保険や再雇用促進費、さらには銀行の支援、整理など国家の事例と同様に広範なものとなる。

 ユーロ圏議会が問題ではない。すなわちユーロ圏自身が活用できるユーロ圏独自予算の創設の必要がユーロ圏議会創設の背景として存在する。

 駆け出しの頃より学会を通して懇意にさせていただいている田中素香東北大学名誉教授に、例えば、「ユーロ共同債」はどうですかと問うと、それがあれば、ユーロ防衛には、便利ですね、という回答を即座に頂いた。

ユーロ共同債は、ユーロ圏財務省と、さらにはそれを監督するユーロ圏議会を必然とするのである。

 実際、国家の財政当局が出す国債をユーロ圏レベルでやろうとするから、発行の主体、発行額、利率、集まった資金の配分など、管理問題が直ちに発生する。

 乱発すれば、ソブリン債同様、ジャンク化し、国家経済を苦しめるギリシャ債同様、ユーロ圏ひいてはEU全体を苦しめることになる。

 ドイツの財務大臣ショイブレは、ソブリン債機の全面的展開の過程で、厳しい緊縮財政をもとめて南欧の諸国の怨嗟を買ったが、ユーロの価値の維持については、財政家として、 ユーロ圏の独自予算の必要とそれを民主的に監督するユーロ圏議会の必要性を語っていたのである。

 他方、マクロンも経済相時代に、スーパー・コミッショナー率いる欧州の「経済政府」が市場で資金を借りられるようにし,この政府にEU の域内総生産の約 1 %よりも大きな個別予算を持たせるとその機能を具体的に語っている。

  「ユーロ圏通貨同盟どう強化するか,2 陣営で議論」ロイター 2015 9 14

 確かにEUは周辺国家と中核国家に分断されていくが、それはやむを得ない。関税同盟と単一市場だけでも、ハンガリーやポーランドなど国家主権擁護派の国家からすると、せっかくロシアから奪還した主権の簒奪として、腹の虫がおさまらない。本来それに合意してEUに加盟したはずなのだが、現政権はそんなことに無頓着である。

 だが、こうした非ユーロ圏諸国を別にすれば、ユーロ圏19か国ではユーロの価値の防衛が絶対的な命題である。

 EU加盟各国の単一通貨、すなわち19か国においてはユーロの安定が必須であり、これなくしては、EU統合など意味をうしなうのである。

 すでにEUにあっては、ユーロ導入により、ユーロ圏と非ユーロ圏とで分化現象を起こしている。

 EUにあっては、国家主権の確保の場である欧州理事会の中に、早くも1998年にユーロ・グループが導入されている。  

 欧州議会の中にユーロ圏議会が創設されても何ら不思議ではない。それどころか、まさにユーロ・グループに相応した民主的監督の制度が出来るのは、理にかなっている。

 実際、ユーロの価値の維持に混乱をもたらすにユーロ圏の諸国に対してEU予算を活用することになれば、問題を生じる。

 それはユーロを発行している19か国の、すなわち限定される問題であるからである。

 予算の行使と監視は議会の伝統的機能であり権限であり、おのずと予算の使途を民主的に監視する機関が必然となる。

ユーロ圏議会の動き、今後の展開を注視したいところだ。

 いよいよヨーロッパ統合は、国家が金融主権と財政主権を一体として持ち、有機的に行使していると同様に、真の財政連邦主義と、連邦通貨主権の獲得へと独仏一体として、乗り出していく。

 ユーロの防衛など関心なく、むしろ足を引っ張ってきたEU統合の抵抗勢力というべきイギリスの影響力がEU離脱で消滅し、ヨーロッパ統合推進派のマクロンが仏大統領に選出された。 

EUを通したヨーロッパ統合は、再び前進を始める。

 イギリスをベースにEUを語ってきた世のEU解体論者、欧州統合終焉論者は青ざめることだろう。

参考ブログ

2010.11.02 Tuesday欧州連合を否定しつつEU(欧州同盟)は連邦主義的権限強化に向かう 上 金融財政部門でのリスボン条約改正の動き

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=2575

2014.01.30 Thursdayドイツ財務相ショイブレのユーロ圏議会構想 上中下

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3609

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3610

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3611

参考文献

児玉昌己 危機の時代におけるEU・欧州議会の権限強化の動向 ─立法権限,行政府構築,通貨分野への関与強化─

阪南論集2016年第51巻第3号特別版 辰巳浅嗣学長退任記念号

https://hannan-.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view

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