安倍内閣で、失言や閣内不一致とも言われかねない現象が多発している。
最近格上げされた防衛省の久間大臣のイラク開戦の失敗論もその1つだ。イラク政策の失敗は、誰もが認めるところだ。
実際、ブッシュ政権が目論んだようなパリ解放や、対日占領のようには進まなかった。各宗派ごとに憎しみで殺しあう内戦状況に至っている。こんなことは日本では考えられないことであった。事実、敗戦した日本では、きわめて例外的な暴発事件を除いて、天皇の命令の下で、無条件講和を受諾し、それ以降は、粛々として武装解除につき、戦後は、国民が一丸となって経済復興に全力を挙げた。
他方、ブッシュは、イラク解放をパリ解放や日本占領という浮薄ともいうべき期待願望にもとづく状況判を行い開戦に踏み切った。そして、その後の展開は事実認識がいかに誤っていたかを知らしめる結果だ。現在米軍はそのツケを、首都バグダッドを含む、各地の治安の更なる悪化と、自国兵士の血と死、そして莫大な戦費で、支払わされている。
実際、時事通信は、イラク戦費が月1兆円にのぼり、開戦時の2倍になったと報道している。(1月19日)
市民が市民を殺しあうという、惨憺たるイラクの現状は、戦争前から、部外者によって世界各地で専門家により予測され、警告されていたことである。イラク戦争に消極的だった仏独を、「古い世界」の政治家とあざ笑ったラムズドルフは、彼を評価して側近としたブッシュJR同様に、中東の歴史も現状も理解できなかった無能な政治指導者として記憶されることになるであろう。
実際、この戦争は、2つのことを明らかにした。第1は、フセインのイラクが、相異なる宗派的勢力の上に成立し、単一の求心力を持った国民国家としての体をなしていなかったことである。第2は、フセインが、恐怖政治で宗派間の対立を押さえ込んでいたに過ぎないことであった。
それゆえ、一国会議員ならば、米国の判断の軽薄さを責める発言もあるかもしれない。だが、そのことを承知した上で、あえていおう。
米国と同盟関係を構築しているわが国の立場を代表する防衛大臣としては、いうべき時と場を間違っていると。
ブッシュ大統領は、大量破壊兵器も発見できなかったイラク介入政策の失敗を認めたところだ。あえて、失策を認めている相手をたたくべきではない。そして、それ以上、日米の信頼関係に軋轢をもたらす必要はない。
それになによりも、東アジアにあって、我々は米国を必要としている。中国、北朝鮮という政治制度を異にする国家を隣国とし、北朝鮮については、直接的な軍事的脅威になっているなかで、日米の軍事同盟は、いやおうなく国家の利益の根幹を成す。
それに、防衛省に昇格して、傲慢になったかと思われるのもつまらない。あえて、イラク政策で劣勢にたつ米国ブッシュ政権を刺激する、不用意な発言はすべきではない。
2年後は大統領選で、黙っていても、現政権はレームックになっていくのだから。