児玉昌己研究室

内外の政治と日常について想うことのあれこれを綴ります。
米金融安定化法案とその日本政治への影響
 政治はやはり面白い。
 ブッシュが早朝異例の記者会見をしたものの、政権末期で、求心力と影響力を限りなくゼロにしているこの大統領。共和党下院議員の多数の造反で、彼が最後の仕事としたであろう金融安定化法案は賛成205、反対228で、予想外の否決にあってしまう。
 そして777ドルのNYダウの史上最大の下げ。ただし下げ率では、史上17位とむしろバブルのはじけという印象を強くする数値。
 下院議員の造反は、彼らも予期せぬ否決となって、証券市場に襲いかかった。造反には理由がある。膨大な市民が住宅ローンの未払いで家を取り上げられ、しかも彼らが払った税金がモラルハザードの責任を十分に問われることないまま、その穴埋めに使われるという当然の市民感情を無視できなかったことである。
 下院議員も選挙を控え、地元有権者の意向を配慮せざるを得ない。実際この法案、総額7000億ドル74兆円を予定している。これは米国の予算の実に4分の1に相当する額である。
 かくして、世界の株価は大いに下げ、金融機関保有資産の大幅の減額となった。
 話はこれでは終わらない。この安定化法案拒否ショックは日本にも飛び火した。これにより、解散必至だった政局も一転。
 経済環境の悪化に伴う補正予算の必要性が前面に出て、早期解散論だった公明党までもが法案の成立と方向転換。かくして、総選挙の時期は暫く遠のくことに相成った。
 学生諸君にも今日から始まった政治学の講義で、経済と政治は一体不可分である、今我々は、まさに米国資本主義の落日という激動の時代を経験しつつあること、つまり同時代史の中で、面白い状況が展開されていて、それゆえに十分勉強するに値すると、以下、語ったことであった。
 危機こそは、日頃専門家以外知りえない膨大な重要な情報が提供され、それゆえ、最高の教材である、と。
| 児玉昌己 | - | 21:52 | comments(0) | trackbacks(0) |
NYダウ大暴落
 NYダウは1時に就寝時点で288ほどの下げだったが、一夜明けると以下だ。
Index Value: 10,365.45
Change: 777.68 (6.98%)
 米の金融不安は、依然として止まるところを知らないことを示している。
 早朝の異例の会見でブッシュが不良債権処理のために、金融界への大規模な公的資金投入を表明したもかかわらずである。今日の東証は売り一色で、大荒れだろう。
 だが、韓国や中国などアジア、そして欧州市場ではもっと深刻な状況となる。通貨も韓国の対米ドル比での下げはここ数年で最悪で、無惨なほどである。
 ただしこれでパニックになる必要もない。世界の終わりというわけではないからである。party is over(バブルがはじけただけである)。バブルは泡で、いつかははじける。それが来たということである。
 投機資金は世界に数千兆円存在する。下がれば、買われる。そうした資金が存在するのだから。
 ただし、モラルハザードにはきっちり対処していただきたい。
 異常というべき常識が金融界では支配的で、巨額の報酬は、世の人の憧れでもあった。
 実際、それは異常極まりないものである。
 短期の利得に目を奪われ、リスクも法外となる金融商品を金融工学の名でさも科学的なものとして売り出し、挙句は、自らも会社経営を破綻させた。そんな詐欺師というべき経営者が、東京ドームの数倍もの広さの豪邸に住み、100億円単位の退職金を手にする。
 住宅を取り上げられて、最下層に転落する市民が膨大に出ている一方でである。
 むき出しの金融資本主義の実際をこれほど劇的に描き出す事件もない。
 英国国教会のトップは、マルクスの学説は、部分的に当たっていたと述べているほどである。
 CEO(簡単に言うと代表取締役社長)と呼ばれる米金融界のボスたちには、公的資金投入ということであれば、その返済資金に保有する個人資産を全て吐き出してもらい、4畳半に移ってもらうということだ。
 刑事処罰の対象であれば、もとより塀の中にである。
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NY株急落、ダウ777ドル安=過去最大の下げ幅
9月30日5時50分配信 時事通信
| 児玉昌己 | - | 08:55 | comments(0) | trackbacks(0) |
首相の所信表明演説を聞く
 麻生首相の所信表明、正直、なかなか迫力があった。だが、政局がらみで民主が動いたというのは、いいすぎか、言い訳に過ぎない。それを意図したのは民主党ではなく、直近の国政選挙であった1年前の夏の参院選挙で天下に示された民意、つまり有権者の意思であったのだから。
 参院選での勝利が小差ならいざ知らず、あれだけの大勝を得たら、どの政党も、政権与党の政治にたいし、これを論難することだろう。参院が独自の第2の院としてまさに機能した瞬間を、政治学者として実際に見せてもらった。
 実際、衆参の意思が異なる状況の下で、異例の事態が続出した。
 首相の問責決議案の可決も日本の憲政史上初めてのことであった。首班指名に際して衆参両院の意志の相違に基づく両院協議会の開催も同様である。これらは滅多に見られる状況ではない。
 それまで「カーボンコピー」(後述)という評価を得ていた参院だ。実際、参院選直前には、TVのコメンテイターや司会者などからも、無様だが、平気で廃止論が唱えられていた。その参院だったことをも指摘しておく必要がある。
 他方、自民党の側に即していえば、あれほどの大敗を喫したら、なによりも、その後の政局がこのように展開することは十分に予期できたことだ。それゆえ、その時点で、民意を問う総選挙というのが筋だった。
 だが、今に至るまでの1年間、ガソリンの暴騰にもかかわらず、せっかく適正化した暫定税率を元に戻す増税を行い、しかもそれを道路行政に使うという姿勢を維持した。後に世論に押されて少し軌道修正したが、実践はまだである。しかも、物価の異常な高騰についても、景気対策は後手後手で、格差拡大で弱者を更に痛めつけた。
 この間、安倍から福田、麻生と政権はたらい回しされ、今に至っている。もはや、何であれ、誰であれ、総選挙で民意を問うしかないというのが、政治の常識だろう。
 なお、民主を主要な敵に選んで、逆質問した意表をついた戦略については、民主は鳩山幹事長が面白い反論をしていた。
 野党の代表質問のような麻生総理の所信表明演説は前代未聞で、むしろ後に来る野党第1党の小沢代表が政権政党としての所信表明演説をやるようだと表現していた。即妙なこのコメントで、とられたかにみえた1本技を上手に、押し返した。そう私にはみえた。

なお若い人はご存じないが、上記のカーボンコピーとは、ワープロやパソコンがない時代、つまり手で叩くタイプライターの時代、オリジナルの紙を別の用紙に複写するためのカーボン(炭素)でできた特別の紙のことである。与党多数の衆院の決議を同じく与党多数の参院で追認する、それだけの機関であると、参議院をネガティブに表現した政治用語である。

 
| 児玉昌己 | - | 21:22 | comments(0) | trackbacks(0) |
秒読みの衆院解散 総選挙近し 下
 よりによってこの時期の大臣の暴走には、連立を組む公明党が激怒し、国会論戦も予算審議もそれを続けると、政治的に野党の攻撃材料としてとられると強く反発している。
 国民は大増税と原油暴騰による諸物価の高騰に憤っているというのにである。補正予算の審議さえ出来ないなどは、由々しきことである。
 花を咲かすこともなく散った福田政権だったが、最後に打ち出した経済政策は、すこしは評価できるものであった。しかしながら、そして戦術的にはタイミングも遅きに失した。なにより、昨年夏の参院選大敗という大政局の中では、一総理の政治指導などたかが知れていた。ともあれ、解散総選挙は秒読み段階である。
「負けて知る日本」。
 「構造改革」という美名の下、徹底した弱者いじめと地方切捨ての格差拡大政治にまい進した小泉首相以降の7年政権を担当した政府自民党にこそ、この言葉は必要なのかもしれない、そう考えている人は多いことだろう。いや自民こそが政権担当する唯一の政党であるという人もいるだろう。
 もとより総選挙において、それは国民が、そして有権者が審判を下すことである。
 なおわが国には、「負けて知る」と同時に、「勝って兜の緒を締めよ」という言葉もある。これについてはいずれ書こう。
| 児玉昌己 | - | 12:28 | comments(0) | trackbacks(0) |
 秒読みの衆院解散 総選挙近し 上
 今政界関係者や我々政治学者だけでなく、一般の市民にとってもっとも関心のある話題は解散の時期と、そしてそれにより決定される総選挙の時期である。政局では、解散は10月3日説が急浮上してきた。
 解散の種自体は以前からある。参院と違い、衆院は解散があるからだ。実際、歴史的に見て、任期満了は後にも先にも1度しかない。戦後1976年に三木内閣のときにあるだけだ。
 そして今回直接の種がまかれた。それは一人の大臣の暴言による。
 国土交通大臣という与えられた職務に関係しては成田空港問題で政府が謝罪した空港反対派への暴言、そして職務に無関係な教育問題でも、自己のドグマ(教条)を声高に叫び、誕生早々の麻生内閣を苦境に陥れた異様な暴言大臣に負う。
 彼はわずか4日で辞任となり、戦後2番目という最短在任記録に迫る記録さえ作った。 ちなみに最短記録の保持者は、政界を揺るがしたリクルート事件で政治献金疑惑に関して、結果として虚偽となる発言をし、3日で辞任に追いやられた長谷川峻法務大臣。
 そして、時代は21世紀。わずか8年しかならないのに、小泉氏から数えて5人目となる麻生内閣総理大臣は、総理だけが持つ解散権限を、そんな暴言大臣のために大いに狭められた。
 もっとも、当の議員を大臣に据えたのは、麻生総理自身によるものであるのだが。
 
| 児玉昌己 | - | 12:14 | comments(0) | trackbacks(0) |
負けて知る日本−悲劇の戦艦大和
昨夕は大河ドラマ篤姫と薩英戦争のことを書いた。そこで「負けて知る日本」という言葉を使った。
ちなみに「負けて知る日本」というこの言葉は、1863年の薩英戦争から82年後、連合艦隊旗艦大和の沖縄特攻を当事者として艦上で戦い、奇跡的に生還した吉田満氏(後の日銀監事)が戦後遺した、『戦艦大和ノ最期』で使った言葉である。
 航空機の援護もなく丸裸で、豊後水道を出た後、米軍雷撃機に捕捉され、撃沈され、深海に今も眠る戦艦大和。
 「大和の発見」の関連番組で、この書物を読み上げ、紹介していた立花隆が、感極まって涙したことでも記憶に新しい。知のエピキュリアンと評され、日ごろ、およそ涙などとは無縁と思われた冷静沈着な立花がである。
 新憲法の制定と、武士の志を忘れない町人国家としての民主主義日本の戦後は、「負けて知る日本」というこの言葉で、始まったといっても過言ではない。
| 児玉昌己 | - | 12:02 | comments(0) | trackbacks(0) |
日曜日の夜は篤姫―薩英戦争と「負けて知る日本」
 いよいよ篤姫は、クランクアップ(撮影終了)し、期待以上の好演を続けた宮崎あおいは感極まって、落涙したとのこと。
 そうだろう。あれほど緊張感が続いた大河ドラマもなかった。間延びしていると感じさせる回が、9月の終わりまで一度たりとなかった。凄いことである。それは視聴率の異例の高さが物語っている。
 老女・村岡役で出演した星由里子も番組を振り返り、出演できたものたちはすべて「お得」だったという言葉で、その喜びを表現していた。
 これまでも大河ドラマでは多数の幕末ものが放映されている。だが、今回はとりわけ、幕藩体制の権力の頂点を裏から支える大奥の女性の側からは、幕末維新の政治過程はこのように見えていたのかと、目から鱗(うろこ)の新鮮な体験をしていた。歴史は男だけのものではないという、当たり前のことの新鮮な確認であった。
 今夜は薩英戦争。欧米の諸列強と戦い、完璧に撃破されて初めて、攘夷の無謀さと空論さを心胆から感じ取り、その後、幕藩体制を崩壊させる対幕戦争の、いわゆる維新回天の偉業に向かう。その薩摩と長州。まさに負けて知る日本ということである。
 なお、ウイキペディアは「薩英戦争」を詳しく解説している。この戦争については、幕府からの賠償金を得ていたがゆえに、薩摩攻撃を無用だったとイギリス議会が自国海軍を論難していることが面白い。
 また、薩摩が勇猛果敢に奮戦したこと、そしてそれが故、イギリス側の死傷者は予想以上で、しかもアームストロング砲も破裂して、その死傷者がかなり出て、自国のイギリス海軍から納入がすべてキャンセルされたことなど、実に興味深い記述となっている。
さてスタンバイするとするか。

| 児玉昌己 | - | 18:32 | comments(0) | trackbacks(1) |
ポール・ニューマン逝く
 Movie legend Paul Newman dies, 83 「伝説的映画人、83歳でガンで逝く」とBBCは、彼の代表作数本のサワリを流しつつ、伝えている。
 かれの映画は多数あるが、私はやはり「スティング」(1973年米映画。製作会社はユニヴァーサル)を上げたい。男のダンディズムを演じ切って、いつもかっこよかった。これまた好男子ロバート・レッドフォードとの共演だったが、音楽もセリフもいい。
 映画を知らない人でも、主題曲「エンターテイナー」のピアノのメロディは、聴き覚えがあるだろう。
 たくさんのいい映画と心に残るシーンをたくさん頂いた。本当に有難うございました。
 
 
| 児玉昌己 | - | 01:27 | comments(0) | trackbacks(0) |
深まる秋と2つの電話
疲労して、昨夜は早々に就寝。
 秋の空が広がっている。元来汗かきだが、寝汗で、寝具が濡れるということはさすがになくなった。後期の初めての週の始まり。さすがに週末は疲労している。
 個人的には2つの電話での会話が印象に残った。ひとつは日本古代史研究とりわけ、九州王朝研究では、スリリングなほどにも重厚な考察をしておられる古田武彦先生。
 久留米で重要な遺跡が発掘され、以下、西日本新聞が報じた。「古墳時代の集落跡発見 久留米市太郎原 300年間同じ地に 6日現地説明会」 2008年9月5日
 ファンが九州も含めて全国におられるので、ご存知とは思ったが、同時に、京都向日市在住ではもしかしてお知りになっていないかもと、その記事をファックスしたことだった。それで電話があり、アレコレ話せたことだ。御歳、82歳。パワフルなお声にこちらもパワーをもらえる。
 もう1つは、偶然ながら、新潮社の小駒勝美さんと話せたこと。10年かけて日本語漢字辞典を完成され、刊行された。図書館用にもと求め、それが到着したので、いい本が出たことを、一読者として電話した。それだけのことだった。
 ご本人が隣にいるということで、偶然ながら、編者かつ執筆者であるご本人と話ができた。この辞典刊行いきさつについては、以下の新書で書かれていて、ブログでも紹介したところだった。
 SDカードにでもしてもらえれば、電子辞書で常に携行でき、便利で、もっと幸せになれるのですが、とささやかな希望を申し上げたことだった。
2008.06.23 Monday 面白くて、ためになる本 小駒勝美「漢字は日本語である」新潮新書2008年。

 なお、政治学者のこの小ブログだが、昨日のヒット数は2368で、日間のヒット最高記録を更新した(それまでの記録は7月29日の2118)。月間は、4日を残して、現在2万9613。7月につけた月間ヒット記録3万3251を抜けるかというところだろう。たくさんの読者に読んでいただいて、感謝である。
 
| 児玉昌己 | - | 12:22 | comments(0) | trackbacks(0) |
 軽にして薄なる大臣 下
 自分の独りよがりな科学的根拠もない持論で、関係者を傷つけていることも理解できず、それを他人から指摘され、本人が目を白黒して釈明に追われる、まさにそんなところだろう。
 毎日新聞は昨日22時の記事でこの中山国交相の失言について、きわめて重要な指摘をしている。以下紹介しよう。
 深刻なのは、発言がいずれも過去の経緯や事実関係を踏まえていない点。成田問題で政府は95年1月、亀井静香運輸相(当時)が閣議で了解を得た上で、建設反対派の農家に謝罪文を提出した。「単一民族」問題も、国会が今年6月にアイヌ民族の「先住民族」認定を求める決議を採択したばかり。教育問題は、斉藤鉄夫環境相から「日教組の組織率と学力試験に相関関係はない。科学データに基づかない発言は大きな誤解を生む」と批判された。毎日新聞 2008年9月26日 

 この大臣は与党議員でありながら、自己の所属する政党と政府のあらゆる重要決定に関して、まるで理解できていなかったか、知ろうとしなかったことを示している。かくしてこのおよそ社会の常識と国会の決定に反した無責任極まる放言である。
 メディアは、この暴言大臣を、自民党保守派文教族と分類している。しかも論客と記されている。由緒ある自民党だが、だとすれば、この程度が論客か、と皮肉りたくもなる。保守も論客も、言葉の重みがここ30年で随分落ちたものである。
 トップが放言癖で知られる麻生氏だから、これもむべなるかな・・・か?

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麻生内閣:中山氏失言、小泉氏引退、低支持率…早くも荒波
毎日新聞 2008年9月26日 
| 児玉昌己 | - | 11:58 | comments(0) | trackbacks(0) |

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