EUでは、加盟国の財政危機に対しては、非救済条項を設けている。それゆえ、現在の欧州委員会や加盟国政府が考えていると思われる提案はEUの枠組みを崩す動きであり、「財政改革の実行方法が問題である時に、支援を制度化する方法について協議するのは有益ではない」とするウェーバー総裁の言葉に、ドイツ連銀およびEUの通貨当局である欧州中央銀行の立場を物語っている。
ただ、通貨基金については、欧州中央銀行のトリシエ総裁は、基金を設立し危機に陥った国を支援する欧州の構想について、この問題の微妙さを意識した発言をしている。
トリシエ総裁は、「欧州通貨基金(EMF)と呼ぶことは、必ずしも適切ではない」とし、基金が提供するのは、「金融面での支援ではなく、むしろ財政支援であり、厳格な条件の下での譲与的ではない財政支援だ」と語っている。
なお、EUの政府債務残高については、欧州中央銀行(ECB)によれば、ユーロ圏の政府債務残高をEUが定める国内総生産(GDP)比60パーセント以内に削減するには、20年かかる可能性があるとの調査リポートをまとめている。
冒頭に書いたように、EUは金融と財政が国家とは違い、分断的状況にある。全てはここから発しているのである。
EUはこれまでも、多くの危機を克服して来た。そして今日がある。
「危機は統合を促進する」という言葉もある。
さて、いかなる決着をみるのか実に興味深い。
EU内部についていえば、基本的には、国家がそうであるように、金融財政の一体化を目指す方法で解決、つまり過去60年おける欧州統合の深化の基本的方向である連邦的要素の強化という方向でしかこれを解決できないとみている。
第2に対外的には、米国発の無秩序な投機的な国際金融資本による投機的資金運用に対する規制の強化である。財政の弱いところを狙ったソブリンローンへの攻勢は今後も続くからである。
いずれにせよ、財政政策は、租税政策と同様に、国家の主権的権限のもっとも重要な根幹をなす分野である。
そして加盟国では、政府与党は、そして政治家は、基本的に、有権者の不興を買う増税を控え、むしろ有権者の票を意識し、放漫財政を放置する誘惑に常に駆られている。それゆえ、加盟国では常に放漫財政と財政赤字への転落の可能性は高い。
個別加盟国ではなく、加盟国27カ国を統べる統合組織として経済通貨同盟をその内に形成しているEU(欧州同盟)において、残されている究極的な選択肢は、財政金融の一体化しかないのである。
赤字財政を統制できない国家については、ユーロ圏、つまり欧州経済同盟からの離脱を命じる規定の導入の必要性が一部で議論され始めたのは、その動きの延長線上にある。
もっとも、元来、経済ファンダメンタルズの弱い国家を、ユーロ圏外に置くということは、すでにユーロ圏国家として、圏内に加盟させているところから、政治的にはかなり困難なことであることは間違いない。
ともあれ、財政、金融政策が分断状況にあるEUの苦悩は続くのである。
参考記事 以下和文はすべてロイター
欧州の救済基金構想は非生産的=ウェーバー独連銀総裁2010年 03月 10日
ユーロ圏の政府債務残高、削減に20年かかる可能性も=ECB3月11日
ECB、欧州の基金創設構想を否定せず=トリシェ総裁2010年 03月 11日
欧州諸国が新救済基金創設案を支持、ECBは難色示す2010年 03月 9日 Commission backs European Monetary Fund.By Jim Brunsden and Simon Taylor.08.03.2010 2010 European Voice.