サッチャー回顧録Margaret Thatcher, the Downing Street Years.1993を読んでいる。断固たるナショナリストでそれがゆえに、徹底したヨーロッパ統合反対論者であった、サッチャー英首相の自伝だ。
原書が出されて、いつのまにか13年の時を経ている。彼女も一代貴族となり、貴族院議員となったものの、すでに85歳。最近はあの鋭い発言も、彼女に関するニュースも聞かれなくなった。歴史の人となっている。
彼女のこの回顧録、日経新聞から、石塚雅彦氏による、良質な訳書が出されている。
ただし、微妙で、もどかしい個所があり、困惑していた。長崎の書斎から原書を家人に持ってきてもらい、再読。
言語に通じた達人でも、原書にある微妙なニュアンスを正確に訳しだすのは、容易なことではない。 時に訳者の問題ではなく、書き手自身が意図して、微妙な言い回しをしていることもあるからだ。今回もこの部類に属することだった。
幸い、友人で、EU政治の研究者でもあるイギリス人のスティーブン・デイ先生(大分大学経済学部)に直接電話して、その文章について、質問し、機微をおしえてもらった。
重要だと私が思う個所だったので、疑問が氷解して、実にうれしい瞬間だった。
それにしても、日本はたくさんの訳書が出ている。多くは上質で有り難い。出鱈目なものは困るが、母国語で読めることは、何より有り難い。知識があれば、訳者の思わぬ誤りにも対応できるし、必要なら、原文にもさかのぼれる。
日頃日本で生活する限り、頭の中では日本語で論理を組み立てている。それゆえ、日本語で読めることは、よほどひどいものでない限り、有り難い。
今回必要に応じて、自伝や伝記を見返しているのだが、ヨーロッパの政治家の多数の自伝がわが国では、自前の言葉に訳されていて、改めて日本の知的水準と外国のものを摂取しようとする意欲の強さを知る思いだ。
ただし、日本の政治家については、どれほどこれらのヨーロッパの政治指導者の経験を学んでいるのだろうか。ヨーロッパの第1級と評価されている政治家の経験が、政治に活かされていない感じを、与野党の幹部の国会議員を通して、受ける。
参考ブログ
2006.12.02 Saturday イギリス映画「ブラス」
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=367