児玉昌己研究室

内外の政治と日常について想うことのあれこれを綴ります。
比例制について 2

 右翼、左翼を含め、有権者の支持を得れば、多数の党が議席を得ることができるのが、比例代表制である。それは知っておかねばならない。
 したがって、単独政権は困難となり、連立政権が状態になる。単独政権が政権運営は楽になると一般に思われる。 一般論としてはそうだ。
 しかしながら、わが国で、300余議席を持つ民主の、無残というべき実績が示すように、それは必ずしもそうではないことも立証されている。 
 もとより日本の場合、民主という党の幹部らの、政治指導者としての貧相な資質と、300議席を得ながら、あっという間に期待を裏切り、食いつぶし、支持率10%台という劣悪というべき政治指導に加えて、参院という第2院の存在があることも関係する。
 小選挙区制度かでは、膨大な死票が出る。この大量の死票を生みつつ、政権獲得を唯一の目的とした政党が無理に形成される。
 そして野合的に形成された政党では、外部からはもとより、内部でも、もともと政策やイデオロギーの大きな相違を孕んだ野合的であるがゆえに、強い不満を鬱積させている。
 そして次の総選挙では、死票すなわち「虐殺された民意」、あるいは今の政権にたいする「民意の復讐」が待っている。
 イギリスでは、次の勝者が、前の勝者が構築した政治的実績を根底から覆していく「敵対の政治」(adversary politics)という言葉がある。
 以前書いたかもしれないが、30年以上も前のことだが、イギリス留学中、そして帰国後、北海石油政策に関して、イギリス議会政治を分析し、修士論文を作成したが、イギリスにおける敵対の政治のすさまじさと、むしろ当時の中選挙区制度下での日本の政治の安定度に、改めて思いを馳せたりしたことを鮮明に記憶している。
 もとより中選挙区制度への回帰を支持しているわけではない。参院は、ブロック制比例、衆院は、地域の特性を反映させた選挙区を維持したドイツ型の比例代表制がいい。
 イギリスの例だが、小選挙区制度は巨大与党を出現させやすい。そしてイギリスは5年の不文律の任期を23度全うする。
 さすれば、10-15年の時を得て、規律も緩み、傲慢となり、有権者に飽きられ、そしてその末期は地滑り的な野党の勝利というパターンをとることになる。
 もっともその制度が固有に持つall or nothignの特性をもっているからである。
 だが2大政党を誘導し、2大政党に圧倒的に有利に作用する小選挙区制度の中でも、イギリスでは価値の多様化が進み、2大政党制が内部から有権者の支持を失い、現在の制度改革を迎えているといえる。
 現在では2大政党の支持者は65%程度であり、35%が保守労働党の支持者外である。
 なによりも、中期的にみれば、より広い支持基盤を、連立で得ている政権が、政治における持続性と政治的安定を得るといえる。 

 
| 児玉昌己 | - | 17:54 | comments(0) | trackbacks(0) |
比例制について 1

 比例制は、有権者の意思を広範に組み上げ、代議制民主主義の議院に代表を送ることを可能にする制度である。英語ではproportional representation PRと略される。
 ということは、極右も、極左も、非合法政党は問題外だが、有権者に支持を得れば、議席をもつことになる。
 比例制はドイツワイマール憲法下で実施され、経験を踏んでいる。ナチスが国政に進出してくるのはまさに民意を得てのことであったことは知られている。
 パイパーPRという言葉がある。イスラエルにその事例を見るが、敷居(足切り)が1.5%というように極端に低く、議席を小党も軒並み得ることになる。それは政治と、政局の不安定を生む。
 PRのそうした欠陥も踏まえ、敷居が設けられている。一定の得票を得ないと議席を与えないという政治的体験に基づく、合理性を持つ装置である。
 ただこの敷居を高くすると、小党の締め出しとして機能し、民主主義を抑制することになる。欧州では5%から3%あたりが相場である。ドイツの5%条項は比較的知られている。
 ところで、前回イギリスで法案が最終段階を迎えつつあるAV方式について触れたが、イギリスの小政党の多くが、これに満足しているわけではない。
 よりストレートな比例を支持している政党にイギリス国民党(BNP)がある。これは白人だけをメンバーとする明らかな人種差別政党で、選挙に当たってはその綱領に対する憲法上の問題で修正が求められている。
 EUの中にあって、移民労働者の急増というEU加盟国で顕在化している状況を受けて、ナショナルな感情を支持し、そのBNPは支持を拡大しつつある。欧州議会選挙では労働党有力議員を破ってと議席を得た。
 さらに、BNPに加えて、UKIP、ユ-キップもある。イギリス独立党である。イギリスは主権国家で、独立国家なのに、独立党とはなんだ、奇妙な名称だと思われるかもしれない。実際奇妙である。
 これはEUと関係する。
 
 イギリスはEUの加盟国だが、そのEUから離脱することを党の最大の目的としている、それがイギリス独立党である。この政党も、AVには複雑だが、どちらかといえば、欧州議会選挙(イギリス選挙区)で恩恵を受けているPRを支持している。
 実際、UKIPは、20096月の欧州議会選挙(イギリス選挙区)では、当時、急速に支持を落としていたとはいえ、当時政権与党であったイギリス労働党を抜いて、保守党に次いで、第2位に躍り出ている。
 そんなUKIPだが、国内の下院議会選挙では、わずかに定数1の完全小選挙区制であるがゆえに、議席獲得に困難をきたし、徹底して国政の舞台から締め出されている。

| 児玉昌己 | - | 08:59 | comments(0) | trackbacks(0) |
イギリスで採用予定のalternative voteについて

以下、読者の方から、質問を受けた。Alternative Voteの性格についてである。
 質問
イギリスで問題になっている
alternative vote現時点のでは、小選挙区を維持しているので「一種の比例制」とは言えないと思いますがどうでしょうか?

  回答

 良い質問ですね。鋭い指摘です。研究者による定義は分かれています。この制度のどの側面に注目するかで、分類が違ってくると思います。
 小選挙区を維持し、それを基準にしていることでいえば、そして投票区に焦点を当ててみれば、厳密には、比例とは言い難い側面は確かにあります。
 ですが、同時に、票が単に白黒というごとく、
all or nothing
でカウントされる単純小選挙区制度とは異なり、勝者確定の票集計過程で、票に別の要素を持たせているという意味で、広義に比例に分類することは可能でしょう。「一種の比例」という一種というところに意味を持たせています。
 膨大な死票を軽減し、有権者の意向を単純小選挙区制度(FPTP)よりも格段に反映することになります。実際、昨年のイギリス総選挙でこのAV方式で試算すると57議席の英自民党は80近い議席になるという試算があります。
 ただし、たとえば、ドント式という比例の典型的な方法とは違い、その「比例」度は、格段に劣るという欠点は存在します。ドントで計算すれば、英自民党は、130-150議席程度にはなるでしょう。
 伝統を重んじるイギリスでは従来からのFPTPに配慮し、各党も過渡期的として、一歩前進として、消極的にこれを支持するという立場をとっている政党が多いといえます。
 私個人はドント方式の支持者で、Alternative Voteは中途半端だとみているものです。しかしながら、イギリスの選挙制度ではこうした票計算過程という限定されたものでありながらも、winner gets allという現行の、単純小選挙区制度における「民意の虐殺」の状態と比較して、はるかにベターで、現状の、異常というべき欠陥を改善する方式としての意味を、AVにみているところです。 いずれにせよ、ノー陣営の必死の広報宣伝活動で、逆に示されるように、このAV制度は、現状の小選挙区制度の延長ではないということは明瞭です。
 ちなみに以下の記事で、
BBC
が各党の立場を要約しています。
また5月5日に予定されているAV導入の国民投票の予測では、現状ではAVに賛成派が10%ほどリードしているという報道もあります。
 選挙法改正では、激しいイエス、ノー両陣営の広報合戦が繰り広げられています。
 参考記事

Pro-AV campaign surges to 10-point lead.By Matt Chorley, Political correspondent.Indipendent.Sunday, 13 February 2011.
各党のAVでの立場は参考までに。
http://www.bbc.co.uk/news/uk-politics-11609887 

| 児玉昌己 | - | 00:19 | comments(0) | trackbacks(0) |
内紛続く「野合的」民主政権は選挙制度がなさしめるもの 8 比例制度への転換を図れ

   小選挙区制度は少数党に実に過酷で、膨大な死票のうえに巨大与党が成立することになる。
 例えば、2010年の総選挙では、イギリス自民党は得票率23%でわずか8.7%程度の議席しか獲得できていなかった。1997年の総選挙ではイギリス労働党は得票率43%418議席63%
弱を得ている。
 この稿に関連して言えば、日本の政治家の想定とは違い、イギリスでは、かくのごとき問題ある小選挙区制度ということで制度改革への認識が広がっている。
 実際、イギリスにあって、保守党と労働党という
2大政党の合計得票率を見ると、元々小選挙区制度が2大政党の既得権益というごとくにも、圧倒的に有利に作用するのだが、それでも1979年の総選挙から20105月の直近の総選挙では、80%から65%強へと保守党と労働党という2大政党の得票率は、回を追うごとに確実に減少している。

 すなわち、イギリスの有権者が、小選挙区制度に明らかにネガティブな対応に転じていることを示している。
 ついでに言えば、これは
1999年に実施された欧州議会イギリス選挙区において、他の加盟国にあわせて、ドント方式に転換したことの影響が大いに作用していると私は理解している。

 そして、昨年5月の総選挙で保守党と自民党との連立が成立した。
 現在イギリスの小選挙区制度を根底から崩すAlternative Voteへの転換という歴史的、画期的な法案がイギリス議会に提示され、その審議の最終段階にある。

 ここで、この長くなったブログの言わんとしていることをまとめよう。
 民主党の内紛に見る野合的政党の形成は、小選挙区制度がもたらしたということである。
 しかも、わが国の政権担当政党である民主も自民もその政治家たちがほとんどイギリスを模範にしているというものの、その実態がまるで理解できていないということである。しかも分かっていないうえに、完全小選挙区に向けてさらにその制度を悪化させようとしているということである。
 そしてメディアも同様である。実に無残な状況が現在の日本の選挙制度を取り巻く状況である。
 
1票の格差は現行の定数是正では済まない。なぜならそれは比例を削減し、民主主義をさらに危機にさらすということであり、あるいは大都市部の議席を積み増し、地方の代表者を削減し、結果として現状でも疲弊している地方を死滅させることになる。すなわち、民主が言う地方主権とは正反対の施策ということになるからである。

 イギリスは、小選挙区制度をすて(より厳密にいえば小選挙区を残しその集計方法で、内実を比例に近づけるというのが正確だが)、ヨーロッパ議会に見られる民主主義の準則に合わせるように、下院議会選挙で、比例に向けて歴史的制度改革に動き出している。
 現状打破は比例を持って当たるしかない。
 なお、イギリス選挙の分析については、現在、久留米大学大学院比較文化研究科年報で、イギリスの選挙制度を欧州議会(英選挙区)での実績を比較した論文「多党化する欧州議会選挙の英選挙区と2010年英下院議会選挙−欧州統合運動の英議会政治への影響」を準備中である。
4月には出来あがるだろう。

| 児玉昌己 | - | 09:11 | comments(0) | trackbacks(0) |
内紛続く「野合的」民主政権は選挙制度がなさしめるもの 7 イギリスの現状

 本題に戻れば、実際、日本のメディアも含めた政治が異様に美化したイギリスの2大政党制はその弊害や問題がすでに1980年代から指摘されていた。

例えば、長くイギリスの総選挙分析を指揮し、定評のあるオックスフォード大学のナッフィールド・カレッジのデビッド・バトラー教授は、その著「過半数なしの統治(政権運営)」Governing Without a Majority.Collins1983で、1973年の中ずりの議会に触発され、2大政党制の問題を、より民主的な比例制を念頭に置きつつ、分析していた。
 日本で、現在の小選挙区制度の議論のきっかけを生むリクルート・スキャンダルなどの政治腐敗が問題化するはるか以前のことだ。
 ところがこうしたイギリスの選挙制度とそれが生む問題については日本では完全に無視された。
 現在の政治の混乱を見るにつけ、この制度が生む問題を予見し、積極的に提示できなかった政治学者(特に悪質なのは選挙制度改革を党派的に利用しようとする勢力に意識、無意識に、加担したもの)や、自前でまるで諸外国の状況を提示できなかったメディア、そして当事者の国会議員は恥じるべきだろう。
 実際、宇宙工学、遺伝子や再生医学を含めた基礎医学など、基礎科学でのわが国の世界的な学術水準の高さとは対照的に、政治の基本を決定する選挙制度についてのわが国の関係者の認識レベルの低さには愕然とさせられる。
 今、問題は、さらに深刻である。なぜならば、この状況をさらに悪化させるように作用する方向での選挙制度改革(改悪)が民主と自民で検討されているからである。現行制度のままでの議席削減はさらに状況を悪化させる。
 日本の選挙制度の中で唯一、宝石として残されている比例が削減されるか、あるいは地方の定数が削減される危険を内含しているからである。
 さらに1票の格差は違憲状況にあることは司法の場で示されている。
 1票の格差を改め、民意をより議席に反映させるには、選挙制度を比例制度に改める以外に手はない。
 現行制度の延長での改革は、むしろ現在以上に政治の混乱を招き、そしてさらに膨大な死票を積み上げ、国民の不満をさらに高め、政治をさらに不安定にするだけである。
 

| 児玉昌己 | - | 08:02 | comments(0) | trackbacks(0) |
内紛続く「野合的」民主政権は選挙制度がなさしめるもの 6

 現在でも、誤ったことをいうものがおおい。たとえば、あらゆる分野で、「よくわかる解説をする」というコメンテイターがいる。
 その彼が、選挙制度を扱った番組に登場し、選挙制度では完全なものはないと言っていた。実に陳腐なコメントである。

 民主主義社会の政治において、はっきりしていることはある。投票者の意思がより正確に政治に反映することである。
 すなわち民意がより正確に反映できる制度か否かで優劣はあるということだ。わずか4割の有権者の支持で、選挙区全体の7割の議席を得る制度がいいわけがない。
 特定の選挙区で、50%と49%と支持が分かれば場合、ほとんど拮抗しているというべき後者が全てゼロになる制度がいいわけがない。
 この点についていえば、民意という民主主義という価値を基準した選挙制度の質的な優劣は確実にある。コメンテイターは、むしろそういうべきであろう。
 完全なものはないなどと、制度的な価値を相対化するこうした一見無害なコメンテイターの持つ危険性も痛感している。
 実際、イギリスの有権者はそれにずっと苦しんでいた、それゆえ欧州議会選挙での比例制への移行などの段階を踏み現在の、単純小選挙区制度と決別する動きをイギリス議会が見せているのだといえる。
 我が国に戻って、公選法改正からだけみても、
17
年余りが経った。そして現状の、混乱する巨大政党の驚くべきな政治がある。
 この間、政治学者として、日本政治で起きているとは書いていこうと思っている。幸い、インターネット社会である。
 近年自民も民主も、議員定数削減を主張している。だが、これは小選挙区制度の持つ反民主主義的特性をさらに強化する。
 しかも、日本の国政担当の政治家の数が如何にも多いというような、誤った事実認識に発する。
 それゆえ、基本データを調べ、各国比較で提示した。以下のそのブログについては、昨年5月26日には、15115のヒットをツイッターも加わり、頂いた。 

議員歳費と議席の削減論について 4 先進11カ国の人口比別国会議員定数

http://ceron.jp/url/masami-kodama.jugem.jp/?eid=2364 

 

| 児玉昌己 | - | 07:33 | comments(0) | trackbacks(0) |
内紛続く「野合的」民主政権は選挙制度がなさしめるもの 5

個の、極めて非民主主義的なイデオロギーである。そのことを忘却して、熱病にうなされたように、メディアが政治の特効薬みたいに囃し立て、煽り、政治学者もそれに手を貸し、政治家が具現化した。1大政党制が善であるということ、それ自身が、2 英米型の
公選法改正と2大政党制への誘導に戻って言えば、2大政党制が是であり善であるという前提で全てが進められた。

 イギリスでは、得票と獲得議席の異常な乖離現象を生むこの小選挙区制度に対して、反民主主義的制度として苦悩し、それに対する強い不満が長年にわたり付きつけられていたからである。
しかるに日本では、イギリスでの状況についてはほとんど美化されるだけで、メディアも学者も含めて、まともにこの制度に対するイギリス内部の問題点については、研究されていなかった。
 だが、本来、政治資金規正法の罰則強化や腐敗防止法こそが求められるものであった。
 1994年の公選法改正を導く前提は、リクルート事件と佐川急便事件などの金権腐敗があり、それが問題であった。

 そんな自国の選挙制度の問題をそのままにして、わが国の選挙制度で影響力があるものが、軽軽な発言をすることに、不快さを感じていた。
 米国といえば、今に至るまで、民主主義を掲げつつ、広範な市民の参加民主主義を実質的に著しく制限し、人口比で見て欧州の先進国からみて極めて過小の議員定数で、権威主義的政治を実践する国と私は見ている。
 だが、それはそれとして、当時テレビで、「一度やって悪ければ変えればよい」と語っていたことにたいしては、不満であった。
 故佐藤文生代議士の選挙区に身を置いた日本政治の研究があるが、これは、日本政治学の古典として評価している。
 コロンビア大学に籍を置き、日本政治研究では評価も高いジェラルド・カーチス教授がいる。
 当時、インターネットという便利な装置もなく、私自身、政治学者として臍をかむ思いで、あの小選挙区制度へ向けた中央の狂騒を見守っていた。
 個人的なことで恐縮だが、公選法改悪に向けた動きは、今から17-20年も前のことである。

 そして小選挙区制度の危険は、尊敬する政治学者の猪木正道教授も、中選挙区制度がまだましだと、毎日新聞紙上だったと思うが、指摘しておられた。
 当時、あちこちでよく耳にした小選挙区を美化する発言にたいして、いったんその制度下で勝利した政党が、どうして制度の改正に応じようか、という無残な思いで聴いていた。

 

 

  

 

| 児玉昌己 | - | 07:33 | comments(0) | trackbacks(0) |
内紛続く「野合的」民主政権は選挙制度がなさしめるもの 4

 

 なにより、1994年の公選法導入までは、中選挙区制度であり、現在の小選挙区制度とは違い、定数6-3名ということで、複数議席を得る自民から、公明、共産と複数定員の大規模選挙区ではどの党も候補者を当選させることができた。

 だが、状況は一変する。
 膨大な死票が出ること、これが小選挙区下での総選挙の現象であったが、政権奪取のために、内部の基本的政策の対立を抱えたまま、野合的政党が出てくる。これが第2
の現象である。

 実際民主において、基本政策をめぐる各政治家個人の立場の相違は、極めて大きなものがある。自民党時代にもそうした相違はあったが、総務会や政調会という党内のチャンネルで規制され、政府の政策としてはまだ一元化されていた。
 しかるに民主はどうであろうか。政権トップが入れ替わるごとにコロコロと変わる。
 外交政策における鳩山由紀夫前総理や仙石前官房長官と、前原外相の立場の相違がそれだろう。内政ではTPP
で菅首相と山田前農相との相違がそれだろう。
 小沢氏についていえば、財政均衡など眼中にないバラマキ型で利益誘導型の自民党的な古い特性を引きずっていると評する者もいる。
 党内はもとより、知識人の中にも、熱狂的ファンもいる同氏だが、政党を壊しては作り、壊し屋のイメージがある。
 政党の解党と、創設のたびに受け取った政党交付金について、その資金の所在が問われることになり、あるいは、最近のことを言えば、菅首相が国会で、当時の小沢代表が口にした2・6万の子供手当の額の高さついて、びっくりしたといい、岡田幹事長も同様だといったことにも、党内でいかに杜撰な政策議論しか行っていなかったかということである。これも含めて、小沢政治の一側面を物語り、実に示唆的である。

 ともあれ、改正公選法のもと、小泉政権時や鳩山政権誕生時に見られるように、厖大な死票を生みつつ、43%程度の集票で73%の議席を得る異様な状況が生まれ、一転、その後の2009年の総選挙では、自民と民主がまるで入れ替わる、巨大政党と、弱小野党という形で政治が明確な姿をとって現れることになった。

  参考記事

子ども手当 首相も岡田幹事長も「支給額聞いてびっくり」 野党は反発 産経2011.2.24 

小沢系議員、「びっくり」発言に抗議=官房長官は陳謝時事通信 2月25

| 児玉昌己 | - | 14:30 | comments(0) | trackbacks(0) |
内紛続く「野合的」民主政権は現行選挙制度がなさしめるもの 3
  すなわち候補者数の劇的な減少傾向が生まれていること、そしてその中では、むしろ世襲は、相対的には極めて大きくなってきているという重要な点である。

 小選挙区制度では当選できるものは1議席、1名でしかない。それだから、勝てない、勝ちそうにない、激戦だが負けそうだという候補者は、立候補を自主規制し、断念を強いられる。
 他方、世襲はどうか。自民の小泉2世に見られるように、父君が自民の最高幹部なら、それだけで候補者選定を行う県連、都連、府連では圧倒的に優位に立つ。
 候補者選定において、党の最高幹部の子弟を排除できるであろうか。排除せずとも他の候補者と同等におけるだろうか。
 その瞬間に有能か否かに関わらず、優秀であっても世襲以外の候補は立候補の機会を奪われる。他の党も同じようなものである。

 その結果、能力に問題がある世襲が出てくる。そして時に、国会議員として、能力の有無にかかわらず重要ポストに就く。鳩山氏などはその典型というべきであろう。

 そして小選挙区制度はたしかに2大政党を生むが、1党の圧倒的勝利となり、予定された第2党は弱小政党と化す。そして鬱積した不満は、参院選挙で、爆発し、ねじれが生じる。
 繰り返すが、小選挙区制度は定数わずか1名のみ。1名が勝者となる。
 それゆえ、当選できないという候補者は立候補を断念する。それで候補者数の激減が起きた。そのなかで、党幹部の世襲者のウエートが格段に政治で高くなった。
 現在の民主政治に目を奪われているが、ほんの2年前まで自民党の長期政権であったことを確認しておく必要がある。
 もともと自民党は古い政党で長く政権政党として機能して来たから、有力指導者が固定される弊害を持っていた。
 だが、庶民感覚とは縁もない世離れた世襲指導者の輩出となり、末期自民党から民主鳩山政権へと続く世襲貴族的政治家の悪弊を形成するのは、公選法改正以降である。
 世襲の問題は中選挙区の下では、ほとんど問題になっていなかったのが、その証だ。有権者の投じた票が死票になる率が、現在と比べて少なかったことによる。
 すなわち、小政党も得票に応じてそれなりの議席を得ることができたためである。その中では世襲問題は希釈されていたといえる。
 中選挙区が党内の派閥の形成を可能にしていたが、それはそれで一つの秩序を与えていた。

| 児玉昌己 | - | 11:42 | comments(0) | trackbacks(0) |
内紛続く「野合的」民主政権は選挙制度がなさしめるもの 2

 1つは、小選挙区制度が持つ、大量の死票の発生である。言い換えれば、少数意見の大虐殺が生まれた。死票では少数党として厳しい状況に置かれている共産党がそのデータを出している。
 それによれば、2009年の総選挙では、小選挙区で投票総数7058万票のうち、「死 票」は3270万票で、投票総数の実に46.3%にのぼり、87選挙区で過半数が死票だと共産党 が算定している。200997日「しんぶん赤旗」
 選挙区では定数1で、わずかに1名しか当選しない。それゆえ、有権者は、強い不満を抱えながらも、勝てる候補や政党に、嫌々渋々投票するという現象である。民意の歪曲と不満の沈潜化がおこった。
 そして出来上がったのは、基本的政治路線やイデオロギーを押し殺して、野合的糾合し、現在の民主党の成立である。
 もっとも、政党の目的は政権獲得である。それゆえ、政権を目指して政治勢力を糾合すること自体が間違っているわけではない。
 だが、無理をして政党を形成すれば、内部に不満は残る。鬱積したのは有権者の不満だけではない。糾合した、合い異なる政治思想や政策の相違による党内の不満の蓄積である。
 そして不満による亀裂はすぐに明らかになる。
民主の場合、これに加えて、財源の手当てをまるで欠いたマニフェストという噴飯ものの計画を政権公約として掲げたことが加わる。
 このマニフェストでたらめさは2年ほど前にこのブログで書いたところである。しかもここれを神化し、紙の声の如く喧伝した。マニフェストも相対的であるとしていたらまだよかったのだが。神のごとくに崇め、裁量の余地を狭め、自ら墓穴を掘っている。
 実際、無理はすぐに破たんする。マニフェストの変更、修正、断念は、それに期待して票を投じた有権者には許しがたいことである。
 看板を掲げて呼び込んだ客に対して、書いたこと、や言ったことができない会社があるとすれば、社会通念では、それは信用の失墜となり、即、倒産ということになる。
 今、この党で起きているのはまさにそれである。
 選挙制度の改正に付随して起きたことは、その過程で、膨大な死票が生まれたことに続いて、候補者の数の激減と世襲のウエートの増大である。
 毎日の風知草のコラムニスト山田孝男専門委員は「実は世襲が減っている」と書いたが、能天気というべきも、現行選挙制度を美化しその上に乗った議論であり、参加民主主義の危機という観点をまるで欠いた、実に浅薄かつ問題ある議論だった。
 世襲議員の実数が少なくなっているというその部分を大げさに書いただけのもので、実際は、政治の場でもっとも重要なことを見落としていた。

参考ブログ

2008.10.20 Monday 論理に疑義あり 「実は世襲は減っている」山田孝男毎日新聞編集委員に問う 1http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=1491

2009.07.28 Tuesday 驚くべきも不適切な民主の公約の財政的裏付け 下

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=1937#trackback

 

 

| 児玉昌己 | - | 16:01 | comments(0) | trackbacks(0) |

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