児玉昌己研究室

内外の政治と日常について想うことのあれこれを綴ります。
ねじれ解消の1院制論の錯誤と陥穽(かんせい) 7 本丸は選挙制度改革にある

 

 結論を言えば、現行制度がねじれをだしているから、効率が悪いから1院制にせよというのは、本末転倒の議論であるということである。
 現状分析は悪くない毎日紙だが、同紙までも、眼前の政治現象に引きずられ、本丸は参院改革という。 読んでごらんなさい。
 総花的な記事になっているが、この社説氏は89年の選挙から05年、09年とネジレの説明で、最も重要な点について、触れていない。
 この間、何が起きたのか。小選挙区制導入の94年の公選法改正という最も重要な事実を失念していることである。
 巨大メディアの一角を担う毎日の顔ともいうべき社説氏がこんな安易な政治認識でものを語ってもらっては困る。
 どの社も似たりよったりだが、わが国のプレスメディアは、外信部、国際報道、社会部のレベルはいいが、こと政治部となると、既存政治に著しく思考を阻害されて、木を見て森が見えないものが多いと感じるのは私一人だろうか。
 実際、毎日といえば、かつて、現行制度移行後の、一般立候補者数の激減という重要な変化を問題にせず、世襲の微減を強調する表層的な分析をした山田孝男専門編集員によるコラム「風知草」の記事を批判したが、著名になるほど思考が鈍る傾向にあるようだ。
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=1491
2008.10.20 Monday
 論理に疑義あり 「実は世襲は減っている」山田孝男毎日新聞編集委員に問う 1-5
 参院改革や1院制議論の問題の発端、すなわち原点は94年にある。1994年の公選法改革に触れない議論は、本質を突いた議論とならない。
 加えて、この総花的社説、1票の格差の問題を指摘するなら、完全比例を導入すれば、みんなの党などがいうごとく、瞬時に格差問題は解決する、そのことをどうして主張しないかである。
 社説:国のかたちを考える/2議会再生参院改革が本丸毎日新聞20120429
 本丸は、当面、毎日が言うような参院改革ではなく、選挙制度改革にある。すなわち、衆院の小選挙区制度全廃と、比例転換にある。
 選挙制度を変えれば、今のようなねじれ現象は収まる。参院は別の角度からの審議という本来の機能を取り戻す。参院の制度改革はその後やれる。
 1院制を導入するために、憲法改正をやる前に、まず、膨大な死票を生みねじれの原因を作っている現行小選挙区制度の全廃と民意を正確に議席に反映する比例制度の導入を速やかに行えということである。
 異様なネジレの問題は当面収まる。もとより、比例にすれば、巨大野合政党の発生の再発も防止でき、政治は連立が常態となる。
 21世紀の社会は多様な意見と利害からなる多元的社会である。合意形成には時間がかかるが、それが政治の安定の保障となる。
 民主の比例80削減論は、世界的に見て、逆パラダイム・シフトというべき動きで、封建遺制への逆行である。1院制は、誤った現状認識に基づき、誤った処方を提供する愚論である。
  効率という観点で政治をやるとどうなるか、見てのとおりである。
 政治における効率性の議論の延長には何があるか。
 金融ブローカーがいったとされる1議席いくらで買えるかというファシズムに行きつく。
付記
 マレーシアで選挙制度改革の大規模デモが実施されている。同国議会は定数222任期5年、イギリスの植民地遺制を引き継ぐ単純小選挙区制度で、比例への転換がその主張である。世界が小選挙区制度を否定し、比例に向かおうとしている時、民主は時代錯誤に生きている。
 名がなく「民主」だことよ。

 選挙制度改革求め数万人デモ マレーシア首都 朝日2012428

参考ブログ

2011.02.25 Friday内紛続く「野合的」民主政権は選挙制度がなさしめるもの1-5

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=2701

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=2702

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=2703
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=2704

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=2706

2012.01.16 Monday 諸悪の根源は小選挙区制度である 1-7 政治学者の選挙制度認識を質す
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3049

2010.05.13 Thursday イギリス総選挙2010結論 6%の得票差で201議席の差 イギリスに見る小選挙区制度最大のナンセンス
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=2339

 

| 児玉昌己 | - | 09:29 | comments(0) | trackbacks(0) |
ねじれ解消の1院制論の錯誤と陥穽(かんせい) 6 比例議員と選挙区議員の正統性

 考えても見るがいい。

 選挙区における1票の格差は、もとより問題である。だが、小選挙区制度が生みだす膨大な死票は、全国に及んでおり、個別選挙区の不均衡の問題以上にその規模において深刻な問題である。
 投票総数のうち、死票が46.3%も上るというその事実が、如何に有権者の声が政治に反映できず、いわば虐殺状況に置かれているかということである。

 往々にして、小選挙区論者に選挙区での勝利こそが命だというものがいる。耳に入りやすいが、全国の大都市部を構成する花の1区で何が起きているのか。

 投票率は都市部になるにつれて低く、せいぜい5割程度である。そして選挙区での勝者の得票率となると3割程度かそれ以下であろう。
 全国でみると、自らの選挙区で3-4割程度の有権者の支持しか得ていない当選者が多数いる。
 言い換えれば、その程度の信任で勝利し、選挙区を代表する者であると主張している。すなわちその議員の正統性とはたかだかその程度のものでしかない。
 実に、選挙区選出の議員が比例選出の議員に対して胸を張る正統性のレベルとは、その程度のものである。
 これに対して、比例で選出されるものは、数学的に確実に民意を体現していて、3割程度の選挙区での得票で当選する者よりもはるかに正統性を持つと断言できる。

 いかがだろうか、読者の皆さん、そして政治家の諸君。
 選挙制度は政治のすべての根幹に関わり、政治の前提を規定する。
 選挙制度の党派的利用は、排除されねばならない。
 我々はそれに1994年に失敗し、今の無様な、政権獲得だけで形成された、水と油を合わせたような、巨大野合の政権与党を生むそんな政治を生みだしている。

 ちなみに、上述した衆院選挙制度改革の与野党協議会の座長の樽床伸二民主党幹事長代行案は以下である。
(1)比例代表定数を75削減(2)残る定数105のうち、35を中小政党に有利な比例代表連用制とする(3)比例代表選の全国11ブロック制を廃止し、全国単一に変更というものである。

 連用制のつまみ食い的数字である。
 比例代表連用制の王道をとるたとえば、ドイツが全選挙区に渡る比例制度を基礎にし各党に議席を割り振り、さらに議員定数の半分で小選挙区で連用制をとっている。
 そのような比例代表制を採用しているのと比べてみると、民主の私案は、選挙制度の政治的利用の典型というべきであり、論外の議論とはこれをいう。実際、各党は直ちにこの試案に反発した。
 見ようによれば、およそ落とし所を探るというより、徹頭徹尾、比例の大量削減を維持した案でしかない。
 欧州議会で否定され、イギリスさえも1999年の欧州議会選挙で転換を余儀なくされた単純小選挙区制度への露払いの試案とも言いうる。

参考記事
比例75削減、連用制導入を提案 樽床私案 産経新聞 2012425



 

| 児玉昌己 | - | 15:37 | comments(0) | trackbacks(0) |
ねじれ解消の1院制論の錯誤と陥穽(かんせい) 5 問題なしか 選挙区選出議員
  

  選挙制度改革議論において政治の中心にいる樽床氏より、試案が出ている。

だが依然としてこの政党、民主主義の扼殺を意味し、膨大な死票を積み上げる比例議席の大量削減を主張している。

連用制を一部導入するなど、比例制度の政治的利用でしかない。冗談ではない。
 どうして膨大な死票を積み上げるだけの効果しか持たない比例のみを削減の対象としようとするのか。なぜ、公平な数学的正確さで民意を議席に反映させる選挙制度という21世紀的制度を取り入れないのか。
  まして民主は地方主権などといっていたではないか。あれは口から出まかせなのか。現状をどういじっても、都市部の積み増しと地方の議席減という方向から離脱できない。それは代表を欠く地方の衰退、死滅をもたらし、地方主権とはまるで違ったものとなる。
 ここで1院制について述べよう。1院をとるスウェーデンの議会選挙は完全な比例制度であり、人口は924万、議員数は349。人口比でみると、日本に置き換えれば、国会議員が4000名もいる勘定になる。
 
あたかも市会議員の如く、国政担当者が有権者の隣にいる。しかも有権者の意思を数学的に見事に反映した数でである。これなら1院制でもいい。
 愚昧な数の限られた政治家が、その希少性から貴族化し、跋扈するほど愚劣なことはない。これを愚者の楽園という。
 実際サギやカモだと酷評され、国益を損ない、国家の品格を貶め、政治不信をばらまきつづける「世襲」政治家がいる。  
 日本の選挙制度に戻ると、特定の選挙区間の1票の格差よりも、全ての選挙区で出ている大量の死票の問題がさらに、遥かに深刻である。

 言い換えれば、2大政党制を掲げることで、そしてそれを実現する政治装置として、中選挙区が否定され、小選挙区制度が導入され、少数意見の大虐殺が生まれた。
 死票では少数党を厳しい状況に置く。その最大の「被害者」の1つである共産党がそのデータを出している。
 それによれば、2009年の総選挙では、小選挙区で投票総数7058万票のうち、「死票」は3270万票で、投票総数の実に46.3%にのぼり、87選挙区で過半数が死票だと共産党 が算定している。200997日「しんぶん赤旗」
 時にこの新聞、いいデータを出してくれる。
 もっとも、同党は下部党員の奮闘むなしく、戦略的発想を欠くがゆえに退潮傾向を続け、これ以上の退潮は同党の死を意味するから当然の反応なのだが。
 公明もみんなの党も、昨今、トンとその名を聞かない舛添新党も少数政党は、そして民主主義を日頃口にする巨大メディアもこの数字をもっと積極的に国民に知らしめよである。

  実に膨大な死票ではないか。半数近くが死票となっているその事実には、ため息をつく。中選挙区時代にはあり得なかった累々たる死票という有権者の政治的意思の死骸の山である。
 半数も支持のない政党が政権をとり、選挙で勝利したとその正統性を振りかざし、国家の権力を壟断していいはずがない。  
 ちなみに、1票の格差に対して、最高裁は違憲判断をなした。
 だが司法は、小選挙区比例代表並立制の下での1票の格差という、提訴された当該事案を審理するだけで、政治の根幹を形成する、あるべき選挙制度の問題には言及できないという限界を持ち、現行小選挙区制度の下で、都市部と過疎地域の議席のゼロサム的再配分のなかで、自らの判決が地方の死滅をもたらしかねない政治的影響力をもつことについては、沈黙せざるを得ない状況にある。

 それが最高裁を頂点とする司法判断というものの限界である。

| 児玉昌己 | - | 15:29 | comments(0) | trackbacks(0) |
ねじれ解消の1院制論の錯誤と陥穽(かんせい) 4 誤った参院強大化論

 根拠のない参院強大化論  

1院制論、つまり参院廃止論の背後には参議院強大化論がある。これも馬鹿げて表層的議論と認識である。

参院の権限強大化のための法制度の改革はあったのかね。参院は憲法明記の国権の最高機関として衆院とともに存在する国家機関である。すなわち、わが国では、国権の最高機関について、憲法改正があったのか、という質問を出してみればこの理解が如何にナンセンスか理解できるであろう。

参院改革も含めて、憲法改正は一度も実施されていない。権限において参院は何一つこの60年変っていない。 
 参院はその権限において、以前も今も、何一つ変わりがない。木を見て森を見ない、まさに近視眼の典型的議論である。政治学を専門とするものの中にもこの種の議論をするものがいる。  
 参院強大化論についていえば、参院が持つ重要な機能である問責決議が響いているのだろう。
 だが、それは参院固有の権能である。なにも強大になったわけではない。この1点をもってしても、参院強大化論が如何に馬鹿げているか理解できるであろう。

ただし、参院を政治的に「相対的に」強くした理由はある。それこそ94年の公職選挙法の改正であった。
 改正というより、改悪であり、最大の政治の失敗を生んだ愚策であったといえる。
 ネジレを含むすべての政治的不安定さは、比例制度がわずかに尾ひれのようについたこの小選挙区制が根源にある。しかも比例枠は当初から削減された上に、その後も、確実に削減されている。 
 選挙のたびに、膨大な死票を出し、極端に議席がブレルのが、この小選挙区制度である。
 そしてその反動として、死票となった有権者の累々たる死票の矢が、成立した政権与党に次の国政選挙時に向かい現職を射す。そして累々たる骸を野に曝す。
 国政選挙で議席の大量移動が起こる。
 政局を不安定にしているのは、参議院ではなく、選挙制度、すなわち現行の小選挙区制度によってである。

しかも、民主は、そして自民も、選挙制度では比例の80まの大量削減、すなわちわずかに残った宝石のような民意の大量虐殺を主張し、自ら積み上げた膨大な財政赤字に対する真摯な反省もなく、軽々に増税をいう。
 自民も民主もとともに、チキンレースさながらに、比例削減と、増税を繰り広げている。
 死票を積み上げ、政治をさらに国民から遠ざけるのが両党の考えなのだろうか。 
| 児玉昌己 | - | 10:49 | comments(0) | trackbacks(0) |
ねじれ解消の1院制論の錯誤と陥穽(かんせい) 3

 公選法改正に戻って言えば、自民党の長期政権を契機としたリクルートスキャンダルや金権腐敗政治を契機として、本来なら、政治資金規正法の強化や腐敗防止法が導入されるべきだった。
 それにもかかわらず、選挙制度の問題にすり替えられ、選挙制度が悪用されて、2大政党制を創設するという目的で、現行の罪深い小選挙区制度に置き換えられてしまった。
 2大政党論とは、2大政党に社会の利害を集約するということである。
 そういえば、耳に入りやすい。だが、いいかえると、2大政党支持以外の意見を合法的に、そして強制的に政治の舞台から排除、抹殺する思想である。
 利害が輻輳する多元的社会にあって、少数意見を代表する政党は不要という時代錯誤の議論である。現在でも民主と自民でない票は、35%ある。これは仕方なくどちらかの党に入れたものもあるから、厳密にはそれ以上ということになる。

 実際、小選挙区制度は、イギリスと米国に典型的な事例を観るように、少数政党を見事なくらい排除していく。第3党の英自民は2位の労働党とわずか6%の得票の差で、実に201議席もの差を生む。そんな制度が、単純小選挙区制度である。
 そして15年という単位で、40%内外支持しかない政権が継続し、その後、飽きられ地滑り的に大敗して、政権交代する。イギリス政治はそれを繰り返していく。
 成立した政権は、今度は前政権の構築した制度を覆していく。それが「敵対の政治」である。
 イギリスの石油政治で分析したことがあるが、同時にわが国の郵政民営化法がどうなったのかを我が日本において、有権者は、目撃しているところである。
 単純小選挙区制度は、かくも非民主的な政権を生じさせる。わが国でも、45%が議席の7割を取り、それで正統性を得たという状況をもたらしている。
 これが、2大政党制の論理であり、帰結である。
 すなわち、多元的社会における多様な意見を一切無視する形で、無理やりに2大政党に糾合するのが現行の選挙制度であり、これが1994年に公選法で導入され、2年後の1996年の総選挙から導入された。
 結果は、どうなったのか。

 2大政党制を創設するという目的で、現行の小選挙区制度になり、無理やりに政権獲得のために民主党にみられる党の基本綱領さえない巨大な「野合」政党が成立し、外交安保と内政の局面で、あるいは増税政策で、法の支配より、人による支配という状況を呈している。
 小沢氏は増税について、原点に戻れと言い、「いっていないことは、やってはいけない」といっていた民主の首相は粛々とやるというごとく。

 

| 児玉昌己 | - | 10:06 | comments(0) | trackbacks(0) |
ねじれ解消の1院制論の錯誤と陥穽(かんせい) 2

 参院がなければ、原発対策や、防衛問題、対米関係など、今の民主の失政を少しなりとも正すことさえできない。
 超党派からなるという議員諸君よ。
 ネジレ解消のための1院制という発想など何所からくるのだろうか。私にはさっぱり分からない。
 気分を落ち着かせて考えると、いかに馬鹿げているか分かろうというものだが。

 そもそも、ネジレとは何か。なぜねじれが生じるのか、ネジレは悪か、という本旨に戻ってみよう。
 ネジレが問題になってきたのは、1994年の小選挙区制度の選挙制度改革がなされて以降のことで、2001年の小泉内閣の誕生あたりからで、この10年のことである。

 ネジレは選挙制度の改正と密接に関係し、選挙制度の改革(改悪)により、その問題が顕在化して来た。
 実際、1994年以前の中選挙区制度の時代、ネジレはあまり問題にならなかった。そして参院は、むしろ衆院の「カーボンコピー」と表現されるのが常態であった。
 カーボンコピーは、タイプライター時代に、炭素の紙を敷いて、そこでオリジナルのタイムの下の紙に、同じように印字できる。この用語は、それに由来する。
 すなわち、参院はあたかもこのカーボンコピーのように、衆院と同等の議決をするということであった。以前は機能を果たさないからと批判されていたのが、参院だ。
 今度は、強大化し過ぎたとして、廃止の対象となる。参院の評価はかくも変わったのである。
 余談だが、議員連盟の諸君は衆院参院の対等合併というが、これまた表面的議論で、予算先議権のある衆院が母体として残るに決まっている。
 対等合併など、希望、願望の表現であっても、法的、政治的表現ではない。あるいは参院も、自己の選挙区は残してほしいというアピールかもしれない。

| 児玉昌己 | - | 09:50 | comments(0) | trackbacks(0) |
ねじれ解消の1院制論の錯誤と陥穽(かんせい) 1

 ねじれ解消の1院制に向けた改憲案が国会に提出されるという。

毎日紙によると以下伝えている。

 「民主、自民、公明など超党派の国会議員による「衆参対等統合一院制国会実現議員連盟」(会長・衛藤征士郎衆院副議長)は27日、衆参両院の設置を定めた憲法42条を改正し、1院制とする改憲原案を衆院に提出する。改憲原案の国会提出は現憲法下で初。改憲原案の国会提出は現憲法下で初。実現見通しは立っていないが、参院で野党が多数を占める「ねじれ国会」の打開へ向け、憲法論議に一石を投じる狙いだ。」
 1院制改憲原案>衆院提出へ 超党派の国会議員連盟毎日新聞 427()

選挙制度の決着もみていないのに、しかもねじれ解消のための、参院廃止、憲法改正とは、本末転倒の議論であり、あきれるばかりだ。

政治学的にいえば、2院制の目的は1院の暴走を食い止めるということにある。特に政権が過半数の支持もないのに3分の2に届きそうな議席を得る現状においては、参院は民意の受け皿となっており、1院の横暴を制することでは、極めて重要である。

現在の小選挙区制度で生じる膨大な死票となった不満票が次の国政選挙に向かう。
 政治の当事者に、ネジレは正常な民意であるという認識がまるで欠如しているのには、あきれるばかりだ。
 衆院選での得票と獲得議席の著しい乖離があり、それが参院もしくは衆院は別の院の選挙で、大量の政権与党への反発として投じられ、一方の院の暴走を牽制するものとなる。

ネジレの積極的側面をまるで理解できず、ネジレないために院を廃止するとは、驚くべき議論であり、理解である。

 

| 児玉昌己 | - | 14:42 | comments(0) | trackbacks(0) |
フランス大統領選とミッテラン余話

 くしゃみ鼻水の風邪の症状だ。咳が出てないのが救いだ。
 還暦を過ぎれば、あちこち故障も出てきて、無理がきかない。
 週末学会関係で出張していたこともあり、また仏大統領選挙のことも書いたりして、忙しかった。
  フランス大統領選挙では、懇意にさせて頂いているY先生とEメイルで会話していた。先生ご自身もフランスに数年留学され、その社会に造詣が深い。
 話は、オランドとロワイヤル「カップル」のことから発展して、フランス政治に燦然と輝くナショナリスト、ドゴールにつぐ知名度を持つ大統領、フランソワ・ミッテランと、その子のことに及んだ。
 ミッテランには「隠し子」がいる。
 マザリーヌだが、今、どうしているかという共通の疑問で、調べてみた。
 フランス語のウイキでは、欧文全体にいえるが、各項目とも、近年急激に精度のレベルを上げていて、内容が充実している。
 今は30代後半で、これまでにプロバンス大学(エクスマルセイユ)で、スピノザなど哲学を教え、父君の名を冠した研究所の運営を手伝いつつ、自己の幼年時代のことを書いたものを含め、5冊の著書を持ち、作家のタイトルも持っている。現在は、1男2女と3児の母としてパリ大学(第8、サンドニ校)で教鞭をとっているとのことだ。
 さすがに父君が偉いと子供も立派だ。
 マザリーヌとは、フランス最古の図書館の名に因むということだ。またリセも、パリ市内のアンリ4世校やエコールノルマルの名門に通っている。
 エリゼ宮から通っていたようだ。20歳になるまで彼女の存在は、秘せられていて、1994年にパリマッチがすっぱ抜いて、世間に知られることとなった。
 なにより驚いたのは、彼女が父君にそっくりだということだ。
 親子はかくも似るものかというほどに。
 社会党の長く事実婚を続けたロワイヤル女史やオランド候補のことも含め、そんな第1級の大統領をもつフランスの政治や社会ことを、止まらない鼻水の体調で、想っている。


 

| 児玉昌己 | - | 08:24 | comments(0) | trackbacks(0) |
フランスの大統領選挙をどうみているか  4
  EUとフランスの関連で付言すれば、フランスの大統領選挙を戦ってきた人々もEUと深い関係を持っている。

たとえば、社会党の大統領候補としては、今回第2回投票で一位を占めたオランドは、党内で、マルテーヌ・オブリ女史(現社会党党首)に勝利して大統領選候補者のチケットを得たということだ。

オブリ女史は「ミスター・ヨーロッパ」として人ぞ知るジャック・ドロール元欧州委員会委員長(仏蔵相経験者)の娘である。

また前回2007年の大統領選挙候補は、セゴ(レーヌ)とサルコ(ジ)の戦いといわれたが、今回、現在決選投票に進むフランソワ・オランドは、長く連れ添った「夫人」がセゴレーヌ・ロワイヤル女史である。

すなわち前回、サルコジに「夫人」(離別)が決選投票で負けているので、今回は、「夫婦」入れ替わってのレベンジ(リターン)・マッチということができる。

なお、第5共和政以降の大統領選挙(決選投票)での象徴的な選挙戦の事例と候補者、得票率は以下。

 1965年の選挙では、シャルル・ド・ゴール新共和連合55.20%、第2位はフランソワ・ミッテラン社会連合で、44.80%

 2002の大統領選挙では、極右候補が社会党のジョスパン候補を僅差とはいえ破り、決選投票に進出し、欧州を震撼させたルペン・ショックと受け止められたことは上述したが、決選投票の結果は、ジャック・シラク共和国連合が82.21%、第2位のそのジャン=マリー・ル・ペン国民戦線は17.79%であった。   前回の2007ニコラ・サルコジ国民運動連合が得た票は53.06、 セゴレーヌ・ロワイヤル社会党46.94%
 極右候補マリーヌの父、ジャン=マリー・ル・ペンもEUに関係している。当然ネガティブな意味において。
 EUの議会である欧州議会では最長老として議席を持っていた。
 ただし、欧州議会主流派は、排外主義的、人種差別的言動で知られる極右候補のルペンが欧州議会選後新たに開催を招集する暫定欧州議会議長に就任することを嫌い、人権擁護に熱心な主流派は一致して、欧州議会議院規則を改正し、極右が欧州議会の招集議長になることを阻んだのである。
 これについては拙稿「極右への欧州議会の対応−欧州議会議院規則の改正を通して」同志社法学34720117月で分析した。

追記
 ロイターは、オランド氏は開票率99%の時点で、得票率28.6%でトップ、27.1%のサルコジ氏が2位、3位には18%のルペン氏、極右候補として過去最高の得票率を獲得、と伝えている。
仏大統領選でルペン氏躍進、決選投票は極右支持層の動向鍵に ロイター423
ルモンドもBBCもMarine Le Penの得票が630万票と伝えている。

23 April 2012 Last updated at 10:01 GMT. France election: Hollande takes lead into second round
なおオランド28.63、サルコジ27.18、ルペン17.9%と確定を報じている。

Hollande et Sarkozy partent à la quête des électeurs du FN
「オランドもサルコジもFN(国民戦線)票次第」

Le Monde.fr avec Reuters | 23.04.2012 à 20h44


| 児玉昌己 | - | 00:07 | comments(0) | trackbacks(0) |
フランスの大統領選挙をどうみているか  3
  フランス大統領選挙で注目している第2の点は、上述した主権的権限の譲渡に関わる国内の右派、極右の動向である。

 欧州統合とは、ヒト、モノ、カネ、サービスの国境障壁を除去し、あたかも単一の連邦国家のように、EU加盟27カ国を統合することを目的としている。

大統領選挙で今回争点となっているのは、ソブリン債危機に発するユーロ危機への対処の財政条約だけでなく、進む連邦的統合と、それにたいする、刺激されたナショナリズムを代表する極右勢力の動向である。

主権の譲渡をもって進む欧州統合とその実践装置としてのEUは、確実にナショナリズムを刺激しており、加盟各国で極右と排外主義勢力を強めている それゆえ、フランス大統領選挙でルペンの得票に注目しているところだ。

2002年では、今回のルペンの父であるジャンマリー・ルペンが第1回投票では16.86%を獲得し、社会党のジョスパンが07%の差とはいえ敗北し、決選投票ではシラクと極右候補が争うことになった。それでフランス国民ならずとも、EU加盟国に衝撃を与えた。これがルペンショックである。
 決選投票では、それまで競争相手だった側も、フランス憲政の危機ととらえ、社会党などの陣営から大量のシラク支持票が出て、
82%を超える大量得票で、シラクは極右候補のルペンに圧勝する。
 それゆえ、今回
2012年の選挙では、ジャンマリーの娘、マリーヌ・ルペン党首(43)がどれだけ得票するかに注目している。
 そしてそれが決選投票にどう動いていくのか、それが私の注目点である。

 この仏大統領選挙で明確にいえることは、欧州統合とその実践的政治装置としてのEUがいかに加盟国政治に影響を及ぼしているかということであり、それをフランス大統領選挙での政治動向は如実に示しているのである。

| 児玉昌己 | - | 00:07 | comments(0) | trackbacks(0) |

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