それにしても、左翼運動を、NHKの大河ドラマで、くしくも私もこのブログで書いたことのある「獅子の時代」(1980年放映)の2つの人物像になぞらえて書かれていて、興味深い近現代日本の精神史となっている。
獅子の時代を書いたそのブログは、先生も見ていて、あれいいですねとのコメントをもらっていた。が、想えば、その時、先生は本書を書かれていたのだ。
本を書くことは、書き手自身の思想を世に明らかにするということでもある。先生の先生たる所以を書くとすれば、以下の個所だろう。
先生は書く。
往々にして、人間は利益を求めることを価値の低いことのように見下してしまう。こんな態度がいきつくと、現実の人間を理念の手段として踏みにじる、と(7頁)
この繰り返される内外の左翼運動の傲慢さへの自戒を込めた主張こそが、私が大いに共感するところである。
また真偽の判別もつかないような一部の輩に、異様にというべくも、貶められる傾向にある丸山眞男についての正当な評価も大いに共感できる。
現代は奇妙な時代だ。
実際、松尾先生も指摘されているように、従来のカテゴリーがまるで当てはまらないような理解を平気で行うという、価値や判断基準に対する確固とした精神の崩壊というべき時代を迎えている。
剥き出しの金融資本主義を是とし善とする米国流の自由主義をもちこみ、ヒルズのブローカを評価するなど、特にそのエトスにおいて、大々的に格差拡大を展開した小泉氏や、日教組出身の幹事長が党中枢にいて、反民主主義の、民意の虐殺というべき比例の大削減の選挙法改悪に意識、無意識に手を貸す、いわば化け物というべきあの巨大野合政権を持って、左翼などとする認識の転倒とカオスの時代である。
左翼であれ、右翼であれ、保守であれ、革新であれ、基軸こそが求められる時代にあって、その混同が驚くべき不合理と政治的腐敗を生むという指摘は重要である。
若い世代には、我が日本の知識人がいかなる精神の葛藤の歴史を経て、現在があるか、それを学ぶためにも、一読といわず、再読されるに相応しい書である。
そう独り想っている。
なお右翼と左翼について、さる文筆家が、「国家を激しく憂えると右翼になり、社会を激しく憂えると左翼になる」、と表現している。
国家と社会という基軸は、松尾教授の右翼、左翼の定義の、内と外、上と下というモチーフにも通じていて、これも至言である。
参考ブログ
2010.08.06 Friday 好著のご紹介 松尾匡「不況は人災です」筑摩書房 2010年上下http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=2469
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=2470
2010.11.09 Tuesday 松尾匡先生と新著『図解雑学マルクス経済学』ナツメ社のこと
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=2587
2011.12.14 Wednesday 31年ぶりにCATVで観るNHK大河ドラマ「獅子の時代」
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3020
2012.01.10 Tuesday NHK大河ドラマのことども 「獅子の時代」に寄せて
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3043
追記
なお、講談社の「週刊現代」書評担当者から依頼があり、同誌2012年10月20日号書評欄に、本書「新しい左翼入門」(講談社刊)の書評(加除修正版)が掲載された。