特に看過できないのは、選挙制度をめぐる議論である。
欧州では比例制度が選挙の準則で、小選挙区制度はEU27カ国を要する欧州議会では退けられている。合法的なら、そして民意を得れば、極右も極左も議席獲得ができる選挙制度を、それを承知で、準則としている。
小選挙区制度を150年続けているイギリスでも欧州議会選挙法に合わせるべく、1999年に欧州議会選挙では、下院議会で使っている小選挙区制度をすて、比例制を採用した。
他方、わが国では、米国留学組の「エリート」層で、英米の極めた遅れた小選挙区制度が、なにかファンシーなものとして理解されている。欧州政治の常識を知らない疑似エリートいうべきだろうが。
米国は、寡頭制の権威主義的な政治と、国民の25%が180万円以下の、彼らが定義する貧困層にあるという超格差社会である。これに目を向けずに米国をバラ色に語った総理がいた。グローバリズムとは一種アメリカニズムの代名詞でもある。
EUの法秩序は欧州全域に広がりつつあるが、独禁法、EUでいう競争法の領域では、米国の法秩序とも激しく衝突している。
もとより同盟国としてのその関係は何より重要で、日本外交の機軸であるべきなのだが、政治は別だ。国家の成り立ち、文化、歴史全てが異なるから、政治制度のサルまねが不要なことは、容易にわかることだろう。
政治学者のなかにも、米政治を理想とし、これを導入することに力を貸す輩がいる。行政優位の意思決定こそが、政治の安定だという輩である。政治語りの政治知らず、とはこれをいう。
「決められない政治の打破」、すなわち「決められる政治」を最善の価値として、民意の合意形成を無視する。代表民主主義の何かをまるでわかっていない。実に危険な思潮である。
和をもって貴しとなすわが国に、公選法改悪で、中選挙区制度を全廃し、小選挙区制度を導入し、敵対の政治をもたらしたのは、自民脱党者で形成した政治家たちだった。が、メディアと政治学者もそれに手を貸した。
現在に至っても、メディアは、わずかに残った比例定数の大幅削減に手を貸し、小選挙区制度による死票の極大化にまたしても手を貸そうとしている。
他方、中選挙区制度が民意の表出からみれば、今の膨大な死票を出す小選挙区制度よりよい。比例制度ならなおよい。小選挙区制度は、イデオロギー的には、同じ陣営の私闘というべき「怨念の政治」の拡大再生産を続ける。
そして中選挙区がよかったと120名もの現職の国会議員が思って研究会を作っている。実に無様とはこれをいう。
もっとも、反省しこれを改める動きは悪いことではない。反省もせず、これを極限に進める民主党が問題であり、これに社民勢力といわれる政治家が加担していることが、思想上の堕落を示して、最悪である。
国家の大きな損失を招いた選挙改悪の事例であり、岩見隆夫が動画で語っている通りである。
しかし、中選挙に逆戻りするより、民意の汲み上げという観点から、比例制度への転換の方が、さらによい。
多元的21世紀の社会にあって、民主主義は、意思形成は時間も金もかかるのは当たり前だ。共産党独裁国家とはわけが違う。しかし、それは、いったん合意すれば、最も安定して機能する。
自民と民主そして維新による比例定数の大規模削減による民意の合法的虐殺という反代議制民主主義のチキンレースを、日経以下の巨大メディアまでが、あたかも政党機関紙の如く、追認し、唱導する無様さである。
民意の正確な政治舞台への代表を保障する選挙制度があっての政治だ。それでこそ政治が安定する。でなければ、恒常的な政治の不安定を招く。
公選法の改正による1996年の総選挙からこの14年ずっと日本の政治は不安定をかこってきたし、その傾向は敵対の政治を増幅させ、悪化の一方である。
当時の関係者も小選挙区制度が失敗だったことを口にし始めている。
そして、国会の議員定数を500近くも削減することを平気で言う、デマゴギーの個人独裁政党さえ出てくる始末である。
一票の格差は問題の本質ではない。本質は、それを含め46%も民意が全国規模で「虐殺」されている小選挙区制度にある。
政治家はもとより政党も、メディアも含め、日本の戦後民主主義の60有余年の歴史がたかだかこの程度の学習効果しか上げなかったかと思うと、愕然とする。
(敬称略)
参考ブログ
2009.09.17 Thursday 政治学の教材としての政権交代 4 政権交代の新鮮さ そして危うさ
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=2025
2009.09.17 Thursday 政治学の教材としての政権交代 3 政権交代の新鮮さ
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=2024
2012.09.02 Sunday 大手新聞社の政治部記者の選挙認識のレベルに驚く1-4 毎日用語解説と日経坂本英二編集委員にみる選挙解説の問題
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3259
2012.09.08 Saturday かつての当事者が認める小選挙区制度の失敗 過則勿憚改 上 下
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3268