EUからは話を変えれば、吉川先生と交わした問題表記は、アルジェリアの「テロ事件」についてである。
、わが国のメディアが採用している問題表記として「人質事件」という表現がそれである。これは、実に安易すぎる問題表記である。
周知のごとく、アルジェリアの天然ガスサイト襲撃事件では、無辜の邦人が卑劣なテロリストに生命を奪われる痛ましい事件となった。
用語の使用法においては、「邦人人質事件」ではなく、むしろ本質的には、イスラム過激派によるテロであり、アルジェリア「邦人テロ事件」とすべきであろう。
特に報道では日本人は当初より、そのターゲットにされていたことも明らかになっている。
テロの結果、悲惨な殺害事件となったわけで、単なる物盗りなどの犯罪による「人質事件」ではない。9.11をはじめ、イスラム過激派のテロはこれまでも多数の事例があった。だが、ややもすると、わが国では、海の向こうのことのように感じられている気配のある出来事であった。が、今や、完全に日本人に直接向けられている。
今回の狭隘な宗教イデオロギーに基づく、テロであるということを確認すべきであろう。
世界に広がる日本企業の活動の発展と同じく、貧困と抑圧を背景に世界的に広がるイスラム過激派のテロ勢力とどう向き合い、どう対処するのか、それが今後の核心部分でもある。
もう一つの問題表現は、尖閣列島について、なされる「国有化」という表記である。
これもみずから中国や欧米をいたずらに刺激する表記であることもメディアが十分理解していない。
すでに実効支配でも明らかなように、わが国の領土であり、領有権は当初から存在し、島の個人の所有が国家に置き換えられただけにすぎない。あえてそれを強調する必要もないのである。
というより、領土としての尖閣の歴史的現実を現在まで、存在しなかったかのように欧米に誤解を与える表現であり、その表記は、むしろ有害でさえあるというべきであろう。
メディアも自己の発する言葉の政治的影響力をしっかりと考慮、検討すべきなのである。
以下は、言葉の不正確さが有害な事態を引き起こすことの例として挙げておこう。
中国におけるインターネットの影響はわが国以上のものがある。「南方週末」新年特集号社説書き換え事件に観られたように、報道の自由は、共産党独裁政治の根幹を揺るがす事件ともなりうる。それゆえ中国では、共産党の意向に反する言説に対しては、厳しい言論統制がしかれている。
インターネットはそれをかいくぐれる場合もあるし、そうでない場合もある。
中国におけるインターネットの影響については、尖閣防衛に関して、朝日が外務省がプレス・レリースしていないことまで書き、その誤報を基に、中国共産党系のメディアと香港の記者がインターネットで、非難合戦を起こしていることだ。
それを記事にしているのが以下。
朝日の記事引用で「誤報」論争 中国メディアVS.香港の記者 産経2013.01.27
http://www.zakzak.co.jp/society/foreign/news/20130127/
frn1301271018003-n1.htm
朝日の尖閣での対応を巡る対中政策関係の記事に関連させ、メディアにおける言語空間の問題とその政治的影響を書いて、実に優れている。
事件のあらましを簡単にいえば、日本外務省が敢えて触れていないことまで、朝日が書き、結果として誤報を流し、この誤報を巡り、香港の記者と中国共産党系メディアが反日論調を強めるという状況を生んでいる。
朝日はこれまで平和勢力として自己規定して来たはずだが、むしろ皮肉にも、実に安易な報道で、日中間の対立を結果として激化させているということである。
我々は発する言葉を正確にすべきということであり、言葉が持つ政治的意味に十分慎重にあるべきだ。
そういえば、朝日は「言葉の力を信じて」という社内のキャッチコピーを持っていたはずだ。調べると、ネットでも朝日自身で紹介されている。以下がその一部だ。
「2006年5月から展開した第二弾では、第一弾と同じく「言葉のチカラ」をテーマにしていますが「言葉には人を救ったり、勇気を与えたりするポジティブな力もある。だから朝日新聞は言葉のチカラを信じている」と、読者に朝日新聞社の決意を再び伝えています。」
上記の事件では、国内のみならず、中国、香港、(そして韓国)での朝日の影響力を逆に物語って印象的だが、わが国のプレス、メディアによる中国報道は、その書き方次第では、国際的規模で、政治的に利用されていくということを、朝日の上層部はしっかり理解した方がいい。
参考ブログ
2013.01.23 Wednesday イナメナスの悲劇
http://masami-kodama.jugem.jp/