EUのことを書こう。EUの行政府である欧州委員会が成長戦略に軸足を移しつつあるということをロイターが伝えている。
それによると、5月29日、欧州委員会は、フランスやスペインなどEU加盟の6カ国の財政赤字削減目標を緩和することを決定したとのことだ。
緊縮ばかりでは国民はたまらない。経済も政治もバランスである。
何よりEU加盟国とEUの政治家を取り巻く政治環境でいえば、EU加盟国内の反EU勢力の台頭があり、この決定にはその影響があるといってよい。
EU加盟国内では、ギリシアの放漫財政が生んだユーロ危機があり、南欧諸国やキプロス、スロベニアなど、今もユーロ市場の不安定材料になっている。
放漫財政の規制と財政健全化の増税等の諸措置に伴う経済の低迷と国民の窮迫に加えて、その不満を成長の肥料にしている極右があり、そして移民問題が極右、人種差別勢力の台頭に拍車をかける。
国家の指導者も、そして欧州委員会もこうした政治環境を無視できないのである。
スウェーデンでの1週間続いた暴動は、スウェーデンの比較的寛容とされてきた移民政策を痛撃するものとなった。経済が悪化すると、内在的に先進的加盟国がすべからく抱える人種問題などが噴出する。
EUでは、基本的にはヒト、モノ、カネ、サービスの自由移動の原則が確保されているから、加盟国間での移民の抑制は、基本的にはEU条約に反する行為なのである。現在ある規制は、過渡期的措置とみなされている。
第2は中国に対する反ダンピング関税の是非をめぐる欧州委員会とEU加盟国間の対立だ。
政治外交では対中国武器禁輸の問題などが知られているが、今回は太陽光発電のパネルの反ダンピング関税(47%)導入をめぐるもの。欧州委員会は国内産業の保護を目的として、中国のダンピングを監視し、反ダンピング関税による是正措置を考慮しているが、ドイツを含め、14の国家が反対しているという。
フランス、イタリア、スペインなど南欧の国家は太陽光発電に力を入れているが、ドイツ、オランダ、イギリスなど中国に大規模に産業が出ている国家は、EU内で2万5千人といわれるこのセクターの打撃と解雇の危険(FT)には目をつぶってでも、中国ビジネスを確保したいということだろう。
欧州委員会は、6月からの暫定関税実施から本格的な関税引き上げが予定される12月までに態度を決するが、中国側の報復の圧力もあり、腰砕けになる可能性もある。
ドイツは欧州委員会のこの措置が解除されるよう欧州委員会に働きかけている。欧州委員会の独立性も正念場である。
EUは一体として動いてEUの価値がある。すなわち、27加盟国の一つの声(One Voice)を前提としてのEUである。
「成功と苦悩」とかつてNHKラジオ講座のテキストのサブタイトルにしたが、EUの状況は、まさに加盟国の数の急速な増加と、それによる域内間格差の拡大が進行している。 すなわち加盟国の比較優位部門の相違や、産業政策の相違を広げている。
そしてこの格差がゆえに、ダンピングしてでも輸出に傾斜する経済巨人中国を前に、統一的な対応をとれずにいる。
成長政策についても、アベノミックスが影響を与えているのかもしれない。もっとも、こちらも金融政策だけが先行し、成長政策はこれからで、円安による物価の上昇も顕在化しつつある。財政健全化のための増税の景気への悪影響も今後のことだが。
いずれにせよ、巨大化する中国との関係は欧州のものでもある。だが、国内製品のコストを無視して海外市場の占有率確保のために、輸出に傾斜する国家とどう向き合うかは、欧州のみならず、わが国の問題でもある。
参考記事
「欧州委が6カ国の財政目標を緩和、成長戦略への転換鮮明に」 ロイター 2013年5月30日
「EU加盟国の大半、中国製太陽光パネルへの課税に反対=外交筋」2013年 05月 28日
「連夜の暴動 多文化主義の優等生 移民問題きしむスウェーデン」東京新聞2013年5月25日