児玉昌己研究室

内外の政治と日常について想うことのあれこれを綴ります。
この時期の訃報と年賀欠礼 山口定、小室程夫両先生のこと

 政治学者で、大阪市大、立命館大学名誉教授の山口定(やすし)先生の訃報は、門下生である佐賀大のフランス政治専門家、畑山敏夫教授から直接お聞きしたところだった。
 またEU法学の分野では、ベルギー時代にお世話になった神戸大学の小室程夫先生がお亡くなりになったことは、お弟子さんの浪本先生(熊本学園大学准教授)からお聞きしていた。
 ちなみに浪本先生は3年ほど前だったか、九州EU研究会で初めてお会いし、研究報告を拝聴したのだが、その緻密さに感心し、どなたの指導を受けられましたかと聞くと、神戸大で小室先生でしたということで、宜(むべ)なるかなと納得した次第だった。

 今回、年賀欠礼を頂いて、改めて寂しさを深くしている。
 両先生との思い出で言えば、山口定(やすし)先生には1970年代の半ば、大学院時代、非常勤で同志社に来られていた先生には、受講者が私だけということで、マンツーマンで修士の時に指導を受けた。
 山口定先生は独語に堪能で、ファシズム、ナチズム研究の第1人者であられた。近代化論に関する翻訳や、主著というべき「ナチエリート」などの名著を残されている。

 当時は国際政治学会といえば、冷戦研究と、ファシズム研究が2大潮流というほどにも研究者を集めており、その中で指導者的立場にあられた。理論に疎かった私のことを案じて、理論の勉強の必要を説かれたのが、今となっては貴重な個人的な思い出である。
 小室程夫(のりお)先生は、ベルギーの欧州大学院大学で1年間ご一緒させていただいた。先生は助教授として来られていた。私は院生としてきていた。EU法(当時EC法)のイロハを直接ご指導いただいた。
 ブログにも書いているのだが、先生は防大助教授の地位にあられ、奥様とご一緒に学外に住まいを借りられていた。
 ご事情で、奥様の帰国後は、EU法の勉強とは別に、私的に特に先生のお酒の相手を務めさせていただいた。
 ブランデーの飲み方は、こうするんだよ、と実践的に指導された。
先生も私もまだ若かったこともあり、ストレスの多い留学生活の中で、楽しいことだった。
 実際、先生はヨガなども楽しまれていて、先生のアパルトマンだったと思うが、目の前で倒立など実演され、目を白黒したものだった。

 小室先生のフランス語はストラスブール大仕込みで実に見事であり、またスマートだった。そして、欧州の学生や教師を相手に堂々とやり取りされていて、どうだ日本の研究者のレベルも悪くないだろうと、私の密かなプライドとしていた。
 欧州司法裁判所の判事をしているファンデア・バウデ君は欧州大学院大学同窓で、今年、早春、同所見学の後、私邸に一泊させていただいて旧交を温めたが、当時、法律学研究科で小室先生と一緒に学んでいた。
 行政学研究科にいた私とは、所属は違ったが、小さい学校で、ともに旧知の中であった。彼は、会うたびに先生は元気かいというほど、特に小室先生を慕っていた。彼が、ブルージュを去った後の先生のアパルトマンを引き継いだのだ。
 小室先生は、EU学会のみならず、国際経済法学会でも多数の仕事を残されて、EU法、国際経済法学の分野で、学界に多大な貢献をされた。

 最後にお会いしたのは、しばらく前で、学会の流れかで、京都三条河原町のビアハウスだったと思う。
 ともあれ、人生の一時期、まさに偶然の機会を得て、両先生には、学術のことで、ご指導いただいた。まさに自他ともに許す、わが国最高水準の先生方であり、私にとっては、実に幸運であった。

 両先生の学恩に改めて感謝している次第である。

 
 

| 児玉昌己 | - | 00:56 | comments(0) | trackbacks(0) |
本学公開講座のこと
  
 勤務校では、学内(久留米大学)での講義はもとより、広く対外的に公開講座を開催し、大学が持つ知的資源を一般に供し、社会に還元している。
 会場は学内、久留米の公的施設エールぴあ、天神のサテライト教室(エルガーラオフィス)など分かれており、講師陣も多彩である。
 講座も、語学系から、歴史、文化、政治経済、そして医学部を抱える大学として医療などの教養講座で多くの受講者を集めている。
 過日、私の担当の講座も無事終わった。
 学内でカバーできない分野は、外部の先生方にお願いしている。
 今回も、東京や神戸から佐瀬昌盛、木村汎の防衛大と北大の両名誉教授にきていただいており、また両先生をはじめとして、各政策領域の専門家をお招きして、最新事情を講演いただき、知見を新たにしている。

 一般市民に広く開放されており、終わった後の講師の先生方や受講者との語らいも楽しい。若い方の参加は大いに歓迎である。
 来年度のプログラムの準備をしているところである。

2013年度実績は以下

http://www.mii.kurume-u.ac.jp/shien/koukai-d.htm


| 児玉昌己 | - | 08:34 | comments(0) | trackbacks(0) |
ボージョレ・プレムールBeaujolais Primeurを愉しむ会に出る
  政治や経済は日々、厳しい局面で動いているが、市民はゆっくりと豊かな時間を過ごすこともあっていいし、実際私にとっても、昨夜はそうした息抜きの貴重な時間であった。 
 ボジョレを愉しむ会がそれで、この地で開催されて、今年ですでに11回目となるとのこと。

ご承知の通り、ボジョレは世界同一時間に解禁ということで、世界的に、各地で、そのイベントが開催される。まあバレンタインのチョコと同じで、フランスのワイン業界の企画が大当たりして、商品の注目度も上がるということだ。

同志社校友会の友人で酒造用精米業を営むT君に誘われたのだが、なんと500名ほどの参加者という大盛況。
 その中で、フランスの新酒と、立食ながら、たっぷりと提供される食事を、大いに楽しむ。

企画としては「涙のリクエスト」で知られるチェッカーズの藤井フミヤ氏の弟君の尚之氏も加わるザ・トラベラーズの生バンドの演奏もあり、大いに盛り上がった。
 ボジョレを生んだフランスはサッカーでも強豪国として知られているが、この直前に、W杯出場出場の最後の段階で、対ウクライナ戦を戦い、3点差の勝利が条件というまさに崖っぷちの試合に臨み、これに大勝利して、国内は大いに沸いていた。

私もそうだったが、今年のボジョレはフランス人には特に美味だったに違いない。

 

| 児玉昌己 | - | 19:54 | comments(0) | trackbacks(0) |
母校、欧州大学院大学(ベルギー)の同窓会からのあるイベントへの招待

   EUでは、イタリア政府が閣僚理事会議長国に着任する時期が、2014年後半と迫っている。
 それを前にして、母校、欧州大学院大学(College of Europe)同窓会が協賛するブリュッセルのイタリア文化センターのイベントへの招待のEメイルが届いた。

 最近、中国や韓国からの留学生はいても、わが国からの留学生が少ないということで、意欲のある人はチャレンジしてほしいものだ。
 私が学んだのが30年ほど前のこと。現在28を擁するEU加盟国だが、当時はEU(欧州同盟)という言葉はチンデマンス報告など理論と構想上でしか存在していず、条約に即していえば、EEC(欧州経済共同体)と呼ばれていた。加盟国はいまだ10か国だった、そんな昔のことだ。
機関や、加盟国の政府、議会ときわめて密接な関係を持つ大学院大学があることを知っていただく意味もある。EU ベルギーのブルージュには、こうした
 それがゆえに、私信ではあるが、原文も含めて紹介しておきたい。
との密接な関係をもつことを知らしめて、貴重である。またこの時期のEUの閣僚理事会議長予定国の動きとしても、意味がある。EU、およびEU加盟国政府、国会など研究と官僚養成の最高学府が、EU 欧州大学院大学という

常駐代表部で議長職準備チームの長の2人ゲストを招いて講演してもらい、議論し、その後夕食会を開催する、招待します、よろしかったらどうぞということだ。EUイタリア政府の議長国着任を前に、欧州委員会担当のイタリア国会議員の長と、伊政府の 比較的短い文だが、EUの専門用語で溢れていて、英語が単に読めるだけでは意味不明な方も多いと思われる。それで、内容を簡単にまとめておこう。
 2014年後半に閣僚理事会の議長国を務めるのが、イタリア政府であり、欧州大学院大学同窓会は、イタリア文化センターとの共催で、EU閣僚理事会における

イタリアの議長国就任は、7か月余り先の話だが、それに備えましょう、ということである。
 こうした誘いはままあるのだが、如何せん、場所は欧州のこと。しかも、業務多忙のために、12月のそのイベント参加はできないのが残念なことである。
 なお欧州大学院大学志願関係については、以下のサイト。

https://www.coleurope.eu/website/study/apply-masters-programme
 また留学記については「欧州大学院大学 留学記」と検索すれば、入手できる。

 

 

4 December 2013  Debate and dinner on Italian Presidency of the EU Italian Institute of Culture - Brussels
 Dear Masami,

The Alumni Association and the Italian Institute of Culture are pleased to invite you to a debate on the initiatives and priorities of the incoming Italian Presidency of the Council of the European Union (second term 2014). A dinner will follow the discussion.

Guest speakers include:Alessia Mosca, Head of the Democratic Party delegation in the EU Commission in the Italian Parliament; Francesco Tufarelli, Head of Training for the EU Presidency; and Stefano Sannino, Italian Permanent Representative to the European Union.

The debate will take place on 4 December 2013 at 6.30pm at the premises of the Italian Institute of Culture in rue de Livourne 38. The dinner will start aound 8 pm at the same premises. A contribution of 15 per person is kindly requested for the dinner.

The event will take place in Italian and English.

You will receive shortly a link to the registration page. We look forward to meeting you there! Your Alumni Association College of Europe Alumni Association.

 

 

 

 

 

| 児玉昌己 | - | 09:11 | comments(0) | trackbacks(0) |
輝く月と流れる雲はさながら蕭白(しょうはく)の龍 それを詠む 海鳴庵児玉

 気温もぐっと下がり、晩秋の趣。夜空は月が煌々と雲間から輝き、雲の動きで、さながら、江戸の絵師、曽我蕭白(しょうはく)の龍のようである。それを詠む。

 晩秋の 煌々たる月 龍の眼か 雲間に跳ねる 蕭白(しょうはく)の龍
               海鳴庵児玉


参考歌 海鳴庵
2008.10.13 Monday
 
羊雲 行くや天空 果てもなく 青きに白き 赤富士なれや

 

| 児玉昌己 | - | 21:48 | comments(0) | trackbacks(0) |
大鷹節子先生よりのEメイル 岡部伸産経編集委員の書、山本七平賞受賞のこと
  大鷹節子先生からEメイルを頂いた。
 大鷹先生は戦前、戦中を通して、陸軍のインテリジェンスの高級将校として国際舞台の最前線に立たれた小野寺信少将の次女で、現在、日本チェコ協会の会
長や、中欧能楽文化協会の代表の職についておられる。

ご本人も幼少時代(1936-38)にご父君とともに欧州におられ、バルト諸国の1つ、ラトビアのリガで過ごされている。

小野寺信少将についていえば、スウェーデンの日本公使館を拠点に駐在武官として、情報活動に従事されていたが、敗戦の予兆を告げるソ連の対日参戦とその時期を明示したヤルタ密約についての最高度の、極秘重要情報を、独自のルートでいち早く入手、本国の陸軍上層部に送信されている。

その情報は、しかし、送信されたものの、陸軍上層部「奥ノ院」に握りつぶされ、その電文の所在も不明となった。意図的に隠ぺい廃棄された可能性も高い。
 それがゆえに、陸軍上層部による戦争継続という無様極まりない戦争指導を長引かせ、結果として日本の終戦決
断の時期が遅れ、沖縄戦、原爆投下、北方領土の被占領という、止められていたかもしれない大惨禍に続いていくという運命をたどる。

それについて、産経新聞の岡部伸記者が、小野寺家文書や国際的な資料を渉猟し、『消えたヤルタ密約緊急電―情報士官・小野寺信の孤独な戦い―』(新潮選書2012)を刊行されている。

実にすばらしい研究書で、私も昨年、ブログで以下、書いたところである。

 この度の大鷹先生からのEメイルは、近況に加えて、この岡部伸産経編集委員の書が山本七平賞を受賞されたことを知らせるものであった。
 当然ながらそれに値すると思いつつも、一読者として大いに喜んだ次第である。

 

 多くの方が、この優れた書で、こうした情報活動に従事した知欧派の極めて優れた武官がいたこと、そして、さらには戦争と平和、そして苛烈な国際政治にあってインテリジェンスがいかに重要かを学んでいただけるなら、著者の岡部氏や小野寺家の関係者ならずとも、欧州政治を専門とする一読者としても、うれしいことである。
 

参考ブログ
2012.09.10 Monday 書評 岡部伸『消えたヤルタ密約緊急電 情報士官・小野寺信の孤独な戦い』新潮社2012年 上中下

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3270

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3271

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3272

 

2011.06.08 Wednesday 日本とチェコ 大鷹節子先生とホルプ先生との出会い

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=2845

| 児玉昌己 | - | 15:36 | comments(0) | trackbacks(0) |
宸襟という言葉  山本太郎参院議員の園遊会問題に関連して

秋の園遊会での手紙事件で、山本太郎参院議員が記者会見で、反省の弁を語り、「宸襟」を悩ませたという古風な特別な敬語を使用したのを耳にして、驚いた。

同じ印象を得た者もいたようで、インターネットでそうした反応を知ることができる。
 
宸襟(しんきん)ということを使うくらい、陛下のことを日頃想っていれば、園遊会で前代未聞の書簡渡しなどおよそ考えもしなかったと思われる。
 それほどの彼の行為と言葉の落差である。
 
宸襟とは、語義的にいえば、宸が天子、襟はえり首を意味し、天子の心を煩わせるという意味である。
 人間天皇が宣せられて、70年余り。とりわけ、21世紀となっては歴史用語となっていた観のあるこの言葉である。
 
冒頭書いたように、他の人々と同様に、彼からその言葉が出たのに強い違和感を覚えた次第だった。

 

 側近に助言されたのか、出た言葉かもしれない。
 案じられていたことだが、彼の事務所には刃物入りの封書が送りつけられてきた。しかもこれまた陛下のお心(宸襟)を悩ませたという報道である。

 この問題については、各方面でさまざまにコメントされている。
 私が考えることは、実のところ、憲法における天皇の地位について、この議員がまるでわかっていないということに尽きる。

 日本国憲法は天皇について、国民統合の象徴と明記している。

政治権力の絶対的存在からわが国における非政治的、文化的権威の存在へと変化しているのが、日本の戦後の憲法と天皇の地位と機能である。
 
憲法史を振り返れば、「不磨の大典」としての明治憲法が規定した天皇主権という天皇制イデオロギーが今次大戦における無条件降伏により清算され、民主主義的国家と国民主権への移行の過程で、天皇の位置づけは明瞭に変化した。

陛下は、国民統合の象徴として、国民主権の下で、唯一参政権もない非政治的存在である。
 すなわち、もし国民統合の象徴である陛下が特定の政治的イデオロギーや政党や会派の主義、主張に傾斜されることとなれば、即座に国民統合の象徴という憲法上の規定に抵触することになるからである。

 参院議長から厳重注意処分となった今回の山本議員の事案についていえば、以下のことがいえる。

特定の主義主張を陛下に提起することができるとするならば、右から左まで、政治的主張をもった膨大な意見書がその日のうちに陛下に届くことになる。

そんな憲法と天皇の地位に関する理解もなかったのかというのが、彼の行為に対する私の印象で、そのことに驚くのである。
 
原発反対の主張は大いに結構だ。だが、それは陛下に申し上げることではおよそなく、自身が参院議員としての政治的存在として、立法府において、まさに活動すべきことである。

はわが国のメガバンクの銀行家を招いて、イギリスのスタジオでこの問題を取り上げ、キャスターが、それほどのエチケット違反なのかと問うたという。BBC 余談だが、この問題、外国でも取り上げられている。
 
 もし報道が事実ならば、この英人キャスターの日本政治の認識のレベルも、知れているということである。
 問題はエチケットの類の問題でなく、わが国の近現代史を背景とし、憲法そして天皇制に関わる問題なのである。

 BBCに招かれた、その国際派銀行家についていえば、日本人の多くが鋭敏に反応したことの意味について、彼が、この事案で提起された問題は、単にエチケットという表層的なものでなく、憲法と天皇制にかかわる問題であるという認識に立って、皮相な外国の認識に対して、適切に応答して頂いたことと期待している。

参考記事

1511天皇陛下、山本太郎氏の脅迫事件を心配される読売新聞

キャスター「エチケットはそんなに大ごとなのか」山本太郎問題で日本人コメンテーターBBC

と火花J-CASTニュース1110 

| 児玉昌己 | - | 07:33 | comments(0) | trackbacks(0) |
2014年の欧州議会選挙のこと 下
  極めて遺憾ながら、わが国のEU代表部はEUにおいて、欧州レベルで唯一民意を代表する主要機関である欧州議会の最大会派(当時)であった欧州社会党から「欧州連合」の使用停止と欧州同盟への変更が求められていたにもかかわらず、「欧州連合」という極めて問題のある表記を維持し続けている。
 そして、連邦形成で進む欧州統合とEUにもかかわらず、皮肉にもEUの広報部がわが国のEU認識を著しく損なっている。「連邦」(federation)と「連合」(Association/confederation)は、国際組織の性格において、峻別されるべき言葉であるにもかかわらずである。

 この結果、国家の連合である欧州連合を否定し、最終的には欧州合衆国さえ望んだヨーロッパ統合の父ジャン・モネが、わが国ではなんと、彼が否定すべき出発点とした「欧州連合」の父という驚くべき表記となってしまった。
 すなわち、ジャンモネが欧州石炭鉄鋼共同体の行政機関である最高機関の初代委員長を辞した後、「欧州合衆国創設行動委員会」(le Comité d'action pour les États-Unis d'Europe)の委員長となったことさえも理解されていない。

 時代は下って、21世紀の現在、EU加盟国でありながら、イギリスのキャメロン首相と保守党は、反EU色を強く打ち出しており、EU加盟を問う国民投票の導入を公約として掲げた。
 EU側との必要となる再交渉の中では、キャメロンは、なによりも、欧州経済共同体条約から現在のEU条約にいたるまで、その条約の前文にあるever closer unionというEUの用語を取り上げ、イギリスのこの表現の適用除外を主張している。その点、英有力紙ガーディアンは以下2013年1月23日付で報じている。
David Cameron has outlined the scale of his ambition to transform the terms of Britain's membership of the EU by calling for the UK to be exempted from its founding principle: the creation of an ever-closer union.
 この表現は、1957年のローマ条約で打ち出され、以降55年以上にわたり使用され続けているEUの方向性についての、「無期限的性格」を打ち出した文言である。

 イギリスがこの表記に強い不満を持っているのは、まさに「エバー・クローサー・ユニオン」(一層緊密なる同盟)が、国家の連合体を否定しつつ、連邦形成を最終到達地点とするというEUの創設者のEUという組織の方向性に対する確固とした一定のイメージを持つ言葉であるが故にである。
 またその方向に無期限にEUを進めていくということに対する強烈な不満が故にである。

 EUが、欧州連合が意味する国家主権を維持できる国家の連合組織であるならば、イギリスは、一層緊密なユニオンという表記を問題にする必要はないのである。
 
 かくのごとき重要性を持つのが、EUにおけるユニオンという用語であり表記である。
 この状況下で、欧州委員会の代表部が成していることといえば、本来その方向性に対し中立であるべき行政機関であるにもかかわらず、欧州委員会は「欧州連合」と、組織表記を邦語表記にすることにより、連邦派と連合派で厳しく相対峙するEU加盟国内部の意思の相違にあって、一方の領域に立ち、その中立性を侵してさえいるのである。

 これまた現地欧州では全く考えられないことであるが、欧州と異なり、EUの中で本体を欧州連合とし、政策部門については通貨同盟、関税同盟などとしたため、用語の一貫性が失われてしまった。
 これは通貨同盟は通貨連合に変えるべきではないという田中素香教授の危惧も提出されていた。 
 こうした代表部による恣意的なEUの組織表記の採用により、わが国では、関税同盟も、経済通貨同盟も、銀行同盟も、政治同盟も、なにかしらEUの外で行われているようにさえ一部に思われている。

 これらはすべてEUの中で規律され、EUの枠内で、EUの準則に従い、行われている政策領域であるのに。
 なおEU学会では初代理事長をはじめとし、歴代の理事長経験者の5名が、明確に「欧州連合」の表記の使用に反対し、「欧州同盟」を使用していること、最近でも吉野作造賞受賞者である慶応大学の竹森俊平経済学部教授も同様であることを、改めて指摘しておこう。
 EU代表部による極めて不透明かつ明確な説明責任を欠いたこのEU表記採用についていえば、以下のように表現できる。
 無知であることは、問題ではない。だが、無知が、権力を背景にして公的に影響力のある行いをなすときに、無知であることは実に罪深いこととなる、と。 
 わが国では、EU認識に関わるかくのごとき問題を抱えつつ、欧州議会選挙をむかえることになる。
 その注目点は、すでに報じられているように、そして私も書いてきたとおり、極右、すなわち欧州統合反対派の伸長の程度である。すなわちEUがさらに連邦的制度を深めるのか、それを国家連合に押しとどめるのかの対立である。
 加盟国から、EUは大々的に国家主権を、合意により、移譲、譲渡させることで、連邦的制度形成を進めてきた。それがEUと欧州統合の歴史である。
 それが故の、国家主権擁護派の反発であり、反EU運動であり、反動現象である。
 半年余りとなった第8次となる2014年5月の欧州議会直接選挙。それを注視して、みていこう。
参考記事

David Cameron calls for UK exemption from EU's 'ever-closer' union Nicholas Watt, chief political correspondent theguardian.com, Wednesday 23 January 2013

極右政党、「反EU」共闘=欧州議会選で躍進期す(時事2013/11/14-08:12

EU parliament has 'surplus' of democracy EUObserver 01.07.13 By Honor Mahony


| 児玉昌己 | - | 20:14 | comments(0) | trackbacks(0) |
2014年の欧州議会選挙のこと 中

  選挙が政治の基本で政治を形成するという事例として、やや長くなった。
 だが、選挙制度が政治を決定するというのは、近代議会制度を取る国家においては普遍的現象であり、欧州についても、同様である。
 前回も書いたが、この欧州議会選挙、EU法を理事会とともに定立するのが、EUの議会である。その議員を選出するのが、この欧州議会選挙である。
 EU法は加盟国法に優越するというその一点において、極めて重要な法であり、欧州で展開する域外の企業も、国籍を問わずすべからく、その活動においてその影響を受け、規制を受ける。

その巨大さが故に、米マイクロソフトという米国自身を意味する企業も例外ではない。EU法の中でも最も強力であるEU独禁法(競争法)違反を欧州委員会に問われ、800億円もの巨額の制裁的課徴金を課されたことさえある。

 この事件は欧州司法裁判所第1審に持ち込まれたが、欧州司法裁判所は欧州委員会の決定を支持し、マ社は敗訴している。EU加盟国の大学の法学部はこぞってEU法研究を行っている。EU法の上位規範性が故にである。
 グローバリゼーションというアメリカの意志とそれを体現する法規範に唯一対抗できるのはこのEU法規範だと思えるほどで、国際政治では法の空間で米とEUとが激突しているのである。
 国家の代表である理事会とともに、そうしたEUの法規範を日々制定し、法の領域を欧州に拡大しつつあるのが、この欧州議会である。その選挙の有り様を、このブログでぼちぼち書いていきたい。
 ちなみに、欧州議会については、インターネットでは、国会図書館の古賀豪(つよし)先生が、コルベットの研究を活用しつつ、実にコンパクトに重要な点を網羅する論文(報告書)を発表されていて、簡単に見ることができる。
 コルベットは、自身も欧州議会議員の経験もあり、欧州議会研究ではその名を知らないと論外というべきオックスフォード大学出身の欧州議会の専門家である。
 前回の欧州議会選挙で、英労働党の欧州社会党の比例の2番目の候補として順位づけられたこともあり、反EU政党の候補者と競り合って負け、落選したものの、ファンロンパイ欧州理事会議長(EU大統領)の政治顧問もに任命されている。
 このことからわかるように欧州社会党はもとより、欧州議会きっての逸材である。

 なおコルベット氏は、1996年当時、欧州社会党の党官僚であった時に、私が邦語表記の問題を記した英語論文をもって接触し、「欧州連合」という邦語表記の使用停止と「欧州同盟」への変更を求める書簡を、グリンフォード欧州社会党議員を通して、欧州委員会に出していただいたこともある方だ。

参考サイト
古賀豪「拡大EU : 機構・政策・課題 : 総合調査報告書」国立国会図書館調査及び立法考査局2007
http://www.ndl.go.jp/jp/data/publication/document/2007/
200705/017-036.pdf#search='%E6%AC%A7%E5%B7%9
E%E8%AD%B0%E4%BC%9A+%E5%85%90%E7%8E%8
9%E6%98%8C%E5%B7%B1+%E5%8F%A4%E8%B3%80'

 

 

 

 

 

 

 

 

| 児玉昌己 | - | 09:17 | comments(0) | trackbacks(0) |
2014年の欧州議会選挙のこと 上
 欧州議会研究はライフワークだと以前から書いている。
 同志社の後期博士課程の院生時代から、欧州議会の面白さを恩師金丸輝男先生から学んで、その後、留学したベルギーの欧州大学院大学ではルドルフ・フルベック教授(独チュービンゲン大学)からさらにその面白さを教授いただいた。それ以来この超国家的議会を研究の中心に据えてきた。
 日本風に言うと、国権の最高機関であり唯一の立法機関である加盟国議会が存在するのだが、欧州では、この国家の上位に位置する政治組織であるEUが形成され、その中に議会が創設されているのである。
 そのことの意味を、素朴に考えられたことがあるだろうか。

 その意味は、実は現代の国家間の関係が形を現したとされるウエストファリア条約以降、最も画期的な出来事である。
 私流にいえば、革命的とさえいえることである。

 そして5年に1度のその議会選挙が、来年20145月に実施される。
 今回は1か月前倒しで、22日から25日の間に28のすべての加盟国で実施されることが決まった。前倒しの理由は大学や職場で夏休みに入る前に実施したいということで、低下傾向が顕著な投票率の向上にある。

 海の向こうのこの選挙はまだ半年以上あるが、5年に一度ということもあり、その動向に早くも関心を向けている。
 ところで、議会と政治家ということに関していうべきことがある。
 政治家で選挙に臨んでワクワクしない候補者はあまり評価できない。政治学者も同様である。

 選挙は政治家にとって勝ち取るべき花であり、学者にとっても政治の研究素材としても同様であるからだ。
 
選挙は、国家の政治の在り様に大きく影響を与え、国家の政治の在り方を規定するからである。
 選挙が政治に影響を与え政治そのものを形成するという事例は、1994年の公職選挙法を改正(悪)を見ればいい。
 この法改正の結果、有権者の投じた票の3800万票、実に56%が政治に反映されないで合法的に抹殺されるという、とんでもない反民主主義的状況が生起している。
 選挙制度を変えれば何が起きるか、わが国の政治の状況において、顕著に現れたことである。
 実際、殺された票の怨念の矢は次の国政選挙で政権与党に放たれ、その結果政権与党候補者の累々たる死骸の山を築き、政治が著しく不安定になってしまった。
 これを実践した政治家、支援した学者、そしてメディアは深く反省し、徹底して民意を反映できる比例制を導入するよう尽力せねばならない。
 この問題は今次、問題となっている1票の格差どころの問題ではない。
 司法判断の対象となっている当該選挙区の死票の数と比較してみると、全国に広がる膨大な死票の問題こそ、問題の質と、深さにおいて、憲法違反というべき深刻さである。
 もっとも小沢一郎氏のように、19世紀の遺物である完全小選挙区制に入れあげる逆パラダイムシフトに生きていると思える政治家もいるのだが。そしてその結果、選挙では、得票に相応する議席もなく、自ら描いた選挙制度でほとんど青息吐息の状態である。
参考ブログ
2012.12.18 Tuesday
これが小選挙区選挙の実態だ 上下 死票は半数以上、3730万票、死票率は実に56.0
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3355

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3356
2013.10.21 Monday
 来年(2014)5月の欧州議会選挙について 上下
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3555
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3557
 なお政治家が「選挙でワクワクする」という言葉については、記憶が定かではないが、自民党愛知選出の故久野忠治議員(1998年逝去)に関わる言葉で、ご本人か、妻女が議員ご本人の引退後、あるいは選挙区を引き継ぎながら10年勤めあげた後、議員に向かないとして、引退した御子息が、父君を振り返って語った言葉だったはずだ。

| 児玉昌己 | - | 07:06 | comments(0) | trackbacks(0) |

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