イギリスからは5月の欧州議会選挙について、世論調査YouGov surveyとComResがそれぞれ 実施され(16日、19日に公表)、前者では労働党が首位32%、UKIP2位26%、政権政党の保守党は第3位23%。英自民9%。
後者では政権与党の保守党を抜いて、UKIP27%と首位、2位が労働党26%、保守3位25%というニュース。
UKIPとは、以前にも書いたが、UK Independent Partyイギリス独立党。イギリスは歴然たる独立国家であるのに、インディペンデント「独立」という党名を冠している。実に外部からは不思議に思える。
これは、イギリスがEUにより支配されていて、それからの独立、解放されるべきであるということからその党名がつけられている。それほどのEU嫌いの政党である。
UKIPは国内下院では小選挙区制度で議席ゼロだが、比例の欧州議会イギリス選挙区では、現在13議席をもっている。
わが国では小選挙区制度が諸悪の根源ではないというように選挙制度を軽軽に言う政治学者がいる。だが選挙制度がいかに議会の議席に影響を及ぼすか、イギリスの事例を見ていればよくわかる。
イギリスでは国内議会選挙が単純小選挙区制度、欧州議会イギリス選挙区選挙がドント式比例というように、異なっている。
その結果、第1党になろうかという政党が、国内議会の英下院では議席ゼロということが起きる。すなわち、有権者の政治的意思が小選挙区制度では強く排除されていることがわかる。
まさに選挙制度のマジックというべきことであり、制度の構築の仕方いかんでは、簡単に諸悪の根源なりうるほどに、民意を扼殺するよう作用する。
ところで、今のイギリス人有権者は、独仏などの国家でも同様であるが、EU市民権は理想としては認めるとしても、実践として、旧ソ連圏からの貧しい加盟国からの福祉狙いの、大量の経済移民には、強い反発がある。それこの世論調査結果からわかる。ルーマニアやブルガリアといったEU内最貧国からの移民の過渡期制限措置が終わることもあり、ヒト、モノ、カネ、サービスの自由移動を尊ぶEUの設立理念のこともあり、この問題は深刻である。
ちなみに政治においては政権与党の動向がどの党のものより重要であるが、保守党は、上記2つの調査によると、第2党の労働党にも僅差ながら抜かれて、現在欧州議会選挙での獲得議席予測では、いずれも第3位ということだ。
他方、英自民党は、保守党と連立を組みつつも対EU姿勢では保守党とは異なり、親EUのスタンスをとっている。その英自民は、5月の欧州議会選挙で全議席を失う可能性があるということだ。
キャメロン保守党政権についていえば、15年の総選挙の結果で、保守党が政権にあれば、国民投票を実施するという公約を掲げている。
だが、その保守党は、反EU的スタンスで、即時のEU脱退を唱えるUKIPに全くお株を奪われており、キャメロン党首がいう国民投票でワンクッション置くEU政策では生ぬるいと、党執行部の意向に反して、反EU姿勢をさらに鮮明にする動きも出ている。
これにたいして、英自民は親EU姿勢で劣勢に立っている。だが、イギリスのEU離脱について、党首のニッククレッグは「数百万の職を危うくする」とプロEUの姿勢を崩していない。
実際、米、独、日などの企業経営者もEU離脱となれば、工場を移すとこのEU離れに警鐘を鳴らしている。わが国外務省もイギリス政府に覚書で、1300社の進出企業と13万人の雇用へ影響するとして、EU加盟継続を日本の進出企業とのことで希望して、内政干渉だと報じられたほどだ。
フランスの極右政党の国民戦線は、欧州議会の院内会派を形成すべく、このUKIPに秋波を送っている。
加盟国の反EUの極右政党のEUのなかでの統合化現象。
本来、自民族優位の排外的思想、人種主義をその核心とする加盟国の極右政党さえも、反移民と反EUという政策で連携しつつある。
1989年ベルリンの壁が崩れて、ソ連が崩壊消滅して25年余。急激に進む東欧諸国も取り込んだEU統合。旧社会主義圏の諸国を民主主義の中に組み込むという理念が先行し、彼らを受け入れる側とEU新規加盟国との間で、ヨーロッパ統合を進化させていく制度が追い付いていない。
そうした理念と制度の乖離で政治的齟齬(そご)を加盟国間、加盟国内部できしませつつ、ヨーロッパ統合の60年の歴史的実践は進んでいる。それは、極右政党さえも統合化させる必然性を持つ。それがヨーロッパ統合である。
欧州議会選挙も5月と迫ってきて、この動きとともに実に興味深い。
参考記事
英国の世論調査、反EU政党の支持率が1位に ロイター2014年 01月 20日
英国>日本政府「EUに残るべきだ」“異常干渉”と報道 毎日新聞2013年7月21日
英国のEU離脱、数年以内に実現=英独立党党首 2013年 01月 30日
参考ブログ
2013.01.18 Friday イギリスのEU脱退論 EUは「イギリスなきEU」を21年経験 上 下
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3374
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3375
故サッチャー首相の呪縛 上下 地方選での保守党惨敗と反EU党UKIP大躍進
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3456
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3457