児玉昌己研究室

内外の政治と日常について想うことのあれこれを綴ります。
ドイツ財務相ショイブレのユーロ圏議会構想 下

 ユーロを支える経済通貨同盟(EMU)それ自体が、EUを導入したマーストリヒト条約の大きな基盤の1つである。  
 
実際ショイブレは財務相は「われわれは欧州の統合を知的なやり方で進展させ、(EU)条約に変更を加えてそれを制度化していく必要がある」と述べているという如く、
 EU条約の改正が必要であるということ自体、EUを離れてはユーロ圏議会も存在しないということである。
 実際、欧州議会を完全に離れて、ユーロ議会もありえない。権限関係でもそうであるし、ユーロはEU条約にその基礎を置くものである。繰り返すが、EUを離れて、ユーロもないからである。非ユーロ圏であるイギリスがむしろ例外的存在であるというべきであろう。
 実際、ユーロ導入に伴いEUの中では大きな変化が生まれてきている。すなわち、ユーロ導入が本格化し、EUの国家利益を体現する閣僚理事会の中には、すでにユーログループが既に設置され、重要な機能を果たしている。
 これはマーストリヒト条約には正式の機関としては打ち出されていなかった。運用上で必要となってきた機関である。
 閣僚理事会の構成国の間で、ユーログループが形成されたように、欧州議会の中にユーロ発行国の議員の会合を持つというのが論理的であり、一番ふさわしいことに思える。もとよりそれはヨーロッパ人が決めることであるのだが。
 それゆえ冒頭のロイターの記事に戻っていえば、
欧州議会と「別に」ユーロ圏加盟18カ国だけの統一議会の創設という「別に」という言葉の意味がこれから問われていく。
 ちなみに201111月に日経のインタビュに応じて、政権を担当したドイツ社民SPDのシュレーダー元首相は、「財政や経済政策の監視の必要性に関連し、それは民主的な付託のない専門家でなくて、欧州議会ややるべきだ」と語り、欧州議会の議員がその任にふさわしい旨、語っていた。
 ユーロ圏議会構想は制度に与えるその衝撃において、確かに極めて大きい。同じ記事でロイターが報じたように、ユーロ非加盟のイギリスにみられるように、EU加盟継続にどう作用するか、それも見ものである。
 ただし、イギリスに目を奪われ、EUで、そしてユーロをめぐり起こっていることの方向性、つまり大局を忘れてはならない。
 もともとEUについて言えば、EUの前身の欧州石炭鉄鋼共同体ECSCや欧州経済共同体EECの時代からイギリスのEU加盟は21年も遅れたことを知るべきである。
 逆に言えば、大陸のEU諸国は、イギリスなしで20年以上もイギリスなしでEUを構築してきており、その事実を想起すべきである。
 非ユーロ圏の国家の中には、イギリスのような、ダイハードの反ユーロ国家もいるが、それは上述のごとく例外であり、EU加盟国で非ユーロ圏の国家で言えば、条件が
そろえば、ユーロ圏入りを考えている国家が半数以上あるということである。
 この1月ラトビアがユーロ圏入りした。

 すなわちイギリスだけがヨーロッパから、EUから遠ざかっていくということである。 なお、イギリス保守党政府のEU脱退論については、テレコム産業の巨人、ジーメンスが「投資の終焉」と語ったように、産業界から強い批判の声がでている。わが国の政府も、内政干渉と反発されたEU残留を希望する覚書を出している。
 また、イギリス自身も分離運動がある。
 欧州議会選挙の後、この秋にスコットランドでは国民投票が実施される。この運動が強まれば、イギリス政府という表記法からイングランド政府という表現が広がってくると思われる。
 同地の有力政党スコットランド国民党SNPは、イングランド政府を対EU関係で「EU嫌いで田舎的」と批判している。
 イングランド政府により独占されてきた予算配分について、スコットランドとの交渉如何では、スコットランド側での独自の対EU、対ユーロ政策が展開される潜在性もあることを指摘しておこう。
 ともあれ、アテネ大学のプリアコス教授がリスボン条約批准について法学的に考察した論文で喝破した言葉がまたしても意味を持って迫ってくる。
“ L‘émergence d’une souveraineté monetaire communautaire brise le noyau
「共同体の通貨主権の出現は,予見できない効果をもって国家主権の堅い核を打ち破る。」EU法四季報19932

dur de la souveraineté  étatique , avec des effets imprévisibles.”

union européenne .  Revue trimestrielle de droit europeenne. No. 2. 1993, p. 223. ‘Pliakos, A.D., La nature juridique de l


参考記事
独財務相、ユーロ圏加盟国だけの統一議会創設に前向き姿勢表明 ロイター2014 1 28

UK's EU exit would end investment, Siemens says25.11.13 EUOBSERVER
Keating 22.01.2014 EuropeanVoice
 By Dave  SNPUK government ‘Europhobic and parochial'

参考ブログ
2011.07.04 Monday シンポジウム「ユーロと欧州統合の行方」(EUIJ九州・九州EU研究会共催)おわる 上
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=2859

 

 

 

| 児玉昌己 | - | 10:06 | comments(0) | trackbacks(0) |
ドイツ財務相ショイブレのユーロ圏議会構想 中

  EUの最大の懸案事項であるユーロ危機は一言でいえば、EU(正確にはユーロ圏)が金融主権を持ちつつも、他方で、加盟国の租税政策と一体となった財政主権がいまだ加盟国の手の内におかれているという欧州連邦を目指すEUの過渡期的な政治制度の分断状況に負う。すなわちEUという統合組織の原理的な中途半端さからくる危機である。

 現在のEUにあっては、ユーロの価値の維持のために懸命の努力がはらわれている。そして財政規律の強化をもとめる「財政条約(Fiscal Compact)と、ユーロ圏諸国の金融危機に対する支援の枠組みが発効した。

 すなわち「経済通貨同盟(EMU)における安定、協調、統治に関する条約(Treaty on Stability, Coordination and Governance in the EMUTSCGと、ユーロ安定化(ESM)条約がそれである。

 今後、ユーロ圏18カ国では、その意思決定と民主的正統性の確保が一層求められてくる。ラトビアも今年11日からユーロ圏入りした。

 実際、なにゆえに、たとえばギリシアは予算編成権限の行使を拘束されているか、という国民国家の主権にかかわる本源的問題である。

 この問いかけは、昨年邦訳が出たウルリッヒ・ベックUlrich Beckの「ユーロ消滅?ドイツ化するヨーロッパへの警告」(岩波2013年)原題 Das deutsche Europa- Neue Machatlandschaften im Zeichen der Kriese 「ドイツのヨーロッパー危機の時代における新たな権力の風景」の主題でもあった。

 ショイブレ独財務大臣の発言は、実現すればということだが、ユーロ加盟国としてユーロの価値の維持に責任を負う18カ国がユーロ事項について、非ユーロ圏10カ国を含む28カ国からなる欧州議会とは「別に」ユーロ圏議会を構築するということである。

 確かにロイター電が伝えるように、「こうした考えは28の全加盟国で立法を行うというEUの根本原理に対する挑戦であり、欧州議会が分裂すれば欧州統合の最大級の象徴が損なわれるとの批判もある」のは事実である。

 

 だが、その記事の後段はいいとして、まず欧州議会が、その認識において、分裂するという認識が果たして正しいかということである。

 たとえば、ユーロ圏への金融支援の在り方と運用の実際を非ユーロ圏の加盟国出身の議員が容喙できるのかという問題が根底にあるからである。確かにその意味ではEUは、消えてなくなるという意味での分裂ではなく、連邦的EUの推進の核がその方向に反対する国家をあとに残して、分化しつつあるし、ユーロ圏、非ユーロ圏となった当初からEUは分化したということはできる。

 いわばジャックドロール欧州委員長がかつて口にした「アバンギャルド」(前衛)や「コア」という概念も、さらには「可変翼」'variable-geometry' や「多段階統合」という言葉もある。EUの用語の中には、こうした思想的装置はenhanced cooperationという言葉もEU条約にはあり、実践されている。

  ロイターが伝えるショイブレの構想の問題は、それ以上に、制度的に欧州議会研究者に興味深いテーマを与えてくれる。

 構想されているユーロ議会が、どれだけ欧州議会とは「別に」存在できるのかという問題である。

 別の組織であれば、すでに選出され、25年の実績のある直接選挙された欧州議会とその議員とは別に、ユーロ圏18か国の議会の議員を新たに選出するのかという素朴な疑問も出てくる。経済、政治の効率からそれは考えられない。

 ユーロ事項はEU事項と密接に絡み合い、両者は完全に区別できないということも考えられる。

 それゆえ、欧州議会とは別にユーロ圏議会を置くということは、非現実的である。欧州議会の中にユーロ圏議会を位置づけるのがより現実的であろう。

 EUは既成事実を積み上げ、それを事後的に条約に盛り込むという手法は多用されてきたことを思い出す必要がある。

 

| 児玉昌己 | - | 07:16 | comments(0) | trackbacks(0) |
ドイツ財務相ショイブレのユーロ圏議会構想 上

 EU分化の可能性がさらに高まってきた。すわEU解体か、ととらえないでほしい。

それは浜矩子氏などのいう「EU解体」や「EUメルトダウン」ということではおよそなく、EUを支えてきた核心部分でのヨーロッパ統合のさらなる推進ということで、EUとユーロを防衛する強いユーロ圏諸国とりわけドイツの強い意志によるものである。

ちなみに、同氏は1990年代中期から日経の自著で「EU解体」といい、それ以降も、欧州統合とユーロについて、危機を強調し、ネガティブな見通しを続けている。だがその間、EUは解体するどころか、15か国から28か国に成長し、33か国に広がろうとしている。如何に同氏がEUの発展を見誤ったかである。

「欧州経済の分裂 EU解体の構図」日経1996年がその例である。

ちなみに、彼女の思想の特色は常に現状を扇情的にというほどにも危機としてのみとらえるということにある。原発を模した「メルトダウン」などはジャーナリズムの言葉であり、EUの政治経済の研究者の言葉ではない。

実際、市場もEU通貨にかかわる加盟国とEU機関の懸命な努力で、相対的に安定してきている。そうなれば、ユーロ崩壊論者は出る幕がなくなる。

実際、ここ1年、EUレベルでのトラブルシューティングが功を奏して、通貨が安定してくると、あれほど騒がれていたユーロ解体論も影を潜めている。

ユーロについていえば、現在1ドル141円ほどの価値を持ち、ユーロ加盟国17(狭義のユーロ圏)に加えて、総計で25か国、3億2600万人が活用する現行通貨に発展している。

一部の排他的ナショナリストやその代弁者の政治家は別として、その自国通貨を国家が簡単に揚棄し、以前の自国の通貨に戻るということを思う方が全くナンセンスである。

実際、想像してみるがいい。ギリシアがドラクマに戻ると、信任なき通貨では、市場で買い手もなく、通貨は急落し、ユーロ建債務は天文学的に膨らむ。

他方、ドイツマルクは逆に高騰し、世界最大級の輸出産業は大打撃を受ける。なにより、経済を預かるギリシアやドイツの政府関係者で、ユーロ放棄を口にするものはだれ一人いないということを指摘しておこう。

さて本題だが、ロイターは2014 01 28日付で「財務相、ユーロ圏加盟国だけの統一議会創設に前向き姿勢表明」興味深い記事を送ってきている。

 それによると、ショイブレ財務相が欧州議会と別にユーロ圏加盟18カ国だけの統一議会を創設する構想に前向きな姿勢を表明したとのこと。その発言は欧州議会における中道右派グループの「欧州人民党」が主催した集会でなされた、と伝えている。

 欧州議会の専門家として欧州議会が報道されること自体が重要であるが、さらに重要なのは、EUの主要機関である欧州議会に新たなユーロ圏議会を作るという可能性をこの記事が示していることである。 

 ユーロは周知のごとく、欧州中央銀行ECBが金利と通貨供給という金融主権を一手に引き受けている。

他方、ソブリンローン(主権的権限下のローン、すなわち国債)という人口に膾炙したことが示すように、同じユーロ建ではあってもギリシャの国債や、ドイツの国債というごとく加盟国単位でが出され、その財政をまかなっている。だが、面白いことに、国家の経済のファンダメンタルスペインを反映し、金利が大きく異なるという状況にある。

そしてギリシアについていえば、その国債が、返済の十分な裏付けを欠きジャンク化する危険を強めることで、ギリシャの国債を持つ南欧諸国への連鎖の懸念を生み、同国のデフォルトの危険となり、一気に全ヨーロッパ的なユーロ危機へと発展した。

本来は国家にあっては、金融主権と財政主権は、財務省と日銀がというように、手と手を取り合って実践されている。

しかし国際組織EUである。国家ではないEUにあっては、国家主権の大規模な譲渡を前提にヨーロッパ統合が進められているが、国家主権の核心中の核心である通貨については、国家主権至上主義の国家との確執もあり、この国家が一体としてもつ通貨に関する主権的権限が分断状態にある。

| 児玉昌己 | - | 06:27 | comments(0) | trackbacks(0) |
佐瀬昌盛先生による新刊「むしろ素人の方がいい 防衛庁長官・坂田道太が成し遂げた政策の大転換」(新潮選書)届く
  敬愛する国際政治学者、佐瀬昌盛先生から新刊書『むしろ素人の方がよい 防衛長官・坂田道太が成し遂げた政策の大転換』(新潮選書)が届いた。

佐瀬先生は防衛大学校名誉教授で、勤務校の公開講座や比較文化研究所欧州部会講師もお願いしている。

本書については、講演の後、坂田家のある熊本八代市に向かうことなど、本書執筆を窺わせる言葉はお聞きしていた。それゆえ、届いた書籍小包を開封して、ああこれがそうだったのかということだった。

先生は、1934年お生れで、喜寿を超え、今年はめでたく80の傘寿も迎えられる。

同じく公開講座国際政治編の講師をお願いしている北大名誉教授の木村汎先生(元北大スラブ研センター長)が1936年生。木村先生も2012年になんと500頁を超える「メドベージェフVSプーチン」藤原書店をお出しになっている。

ついでにいうと、私の関係している公開講座についていえば、その生みの親、育ての親というべき文部省キャリアOBで、本学名誉教授で著作権法の権威の大家重夫先生も1934年生である。

 先生は「美術作家と著作権ーその現状と展望」里文出版(福王共著)ももう間もなく出るとのことである。

とにかく先達のあくなき向学心、学問への情熱にはただただ頭が下がるばかりで、私も緩みつつあるバネを巻かねばという思いである。

 さて佐瀬先生の上記の近著であるが、2つの点で特筆される。

1つは、本の表題が示すように、政治家坂田道太の防衛長官としての資質について初めての本格的な評価がなされたということであろう。

2は、同時に今は防衛大臣と表記も改められた防衛長官の地位にあった坂田道太の足跡をたどりつつ、著者佐瀬先生がご自身の防衛大学校教官として体験、考察を通して得られた日本の防衛政策形成史論と優れた政治家論となっているということである。

本書の詳細については、読者に判断してもらうことになろう。
 だが、軍事を扱う防衛庁長官に指名されたいわば文人で「素人」の坂田道太氏が、苛烈な戦争経験を通して否応なく遠ざけられてきた国民と国家の防衛の距離を縮め、防衛政策の基本と広報の確立に真摯に取り組まれた長官であったという先生のライトモチーフだけをここでは記しておこう。それは学術的な文献の精査と、若き日、坂田長官を身近にしておられた佐瀬先生の体験に基づくものである。

佐瀬先生は、いうまでもなく、戦後はもとより、1970年代になっても国論が分かれていた防衛問題にあって、防大教官として自衛隊幹部候補生の教育に身を置かれた。そしてそのことがゆえに、研究、出版、学界活動上で、「陣営性」という非学問的理由で、不本意な、そして強い不快感と不満を体験されている。

先生が74年に防大教授に就任されてから40年。

 2014年現在、内にあっては国家の代弁人と理解していたあの朱建栄の拘束も含めて、批判勢力の人権を抑圧し、複数の空母保有に着手するなど膨張主義的共産党支配を強める国家の国際政治舞台への本格進出で、友愛の海どころか、覇権の海となっている東アジアである。

40年前、というより今次大戦後というべきあろうが、わが国に強く存在し、軍事問題研究のタブー化のあの時代状況を想起されつつ、反対陣営も今や自衛隊を自己のものとしつつあるという大きな国民の防衛観念の変化を、改めて噛みしめておられることだろう。

本書で使用された先生の言葉でいうと、人間の本来的感性である「本能」でのみ支えられてきた防衛政策が、より合理的な「政策選択」のレベルにまで疑いもなく洗練されてきたことへの安堵感だけは、お持ちではないかと察するところである。  

そしてまた、ますます重要になる防衛政策においては特にそうであるが、政治は、優れた政治的資質を持つ代表を通して、国民が作る、という政治の大道への強い信念を我々に語られているのではないかと察するところである。


 参考ブログ

2010.10.22 Friday アクロス福岡佐瀬昌盛先生講演 上

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=2561

| 児玉昌己 | - | 21:42 | comments(0) | trackbacks(0) |
3度目の正直 咲いた蝋梅(ろうばい)を詠む 海鳴庵児玉

 梅(ろうばい)の花が咲いた。我が家では枯らしてしまい、3度目の正直だ。

 蝋梅といえば思い出ある。もう5年前のことだが、鴎外先生の墓所のある津和野の永明(ようめい)寺を訪ねた。玄関わきに、さりげなくも、活けてあったのが蝋梅だ。いまだ春浅く、雪の残る境内だったが、その場所だけが周囲に負けず、凛としてあたりに深い余韻を残していた。

 梅は百花の魁(さきがけ)として知られるが、蝋梅もそれにふさわしい。

 

冬にあり 春を先駆く 蝋梅の 姿勢(すがた)凛とし 寒風に立つ

                    海鳴庵児玉昌己 

     

 

参考ブログ

2009.02.02 Monday 津和野散策

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=1684

 

2009.04.13 Monday 蝋梅(ろうばい)の苗木が届く

 

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=1768

 

 

| 児玉昌己 | - | 23:32 | comments(0) | trackbacks(0) |
近づく欧州議会選挙(2014.5.)イギリス選挙区 雑記

  友人で大分大学経済学部教授のスティーブンことデイ先生とはスカイプでEU問題では頻繁に情報交換していることは書いた。
 彼も欧州議会専門家。私は欧州議会や欧州委員会、欧州理事会という機関間の権限関係というEUの統治構造のなかでの欧州議会の立ち位置により関心があるが、彼は欧州議会の内部、すなわち欧州政党により注意と関心を向けている。

 話をしていて、前欧州議会議員リチャード・コルベットのことになった。
 彼は欧州議会関係者や研究者なら知らないものはいないというイギリス人で、その有能さがゆえに、現在EU大統領ファンロンパイ欧州理事会常設議長の政治顧問をしている。
 個人的にも、「
欧州連合」というEUの日本語表記の使用停止と欧州同盟への変更を求める欧州議会最大会派(当時)の欧州社会党からの欧州委員会への書面質問へとつながる1996年の面談も含めて、2度、彼のオフィスを訪ねたとがある。
 そのコルベットさんのことだ。
 前回、すなわち2009年の欧州議会選挙イギリス選挙区Yorkshire and the Humberの投票区で、ドント式比例名簿で、
労働党(欧州社会党)の名簿2位につけられ、票が届かず、よりによって、反EUを唱える人種差別政党BNPの候補者に敗退する結果に終わっていた。

 今回、デイ先生によると、労働党が優勢であることもあり、リスト搭載順はあるが、有利な状況にあるのではないかということであった。
 イギリスの欧州議会議員といえば、もう1人アンドルー・ダフがいる。
 英自民で欧州議会では自由民主改革党という、欧州人民党、欧州社会党につぐ第3勢力に属し、最も権威的な委員会の1つである制度問題委員会に席を置いて、欧州議会選挙制度改革を積極的に提言している有力な議員である。

欧州議会選イギリス選挙区での英自民の劣勢が伝えられるので、その議席確保に注目している。

いずれにせよ、デイ先生の情報、5月に迫った欧州議会選挙のイギリスおよび各国の各政党の比例名簿への対応を思い起こしてくれた。有り難い限りである。

それにしても、選挙はどこも熾烈である。

 

| 児玉昌己 | - | 13:17 | comments(0) | trackbacks(0) |
イギリスの欧州議会選挙1月予測調査 UKIP首位

  イギリスからは5月の欧州議会選挙について、世論調査YouGov surveyとComResがそれぞれ 実施され(16日、19日に公表)、前者では労働党が首位32%、UKIP2位26%、政権政党の保守党は第3位23%。英自民9%。

 後者では政権与党の保守党を抜いて、UKIP27%と首位、2位が労働党26%、保守3位25%というニュース。

 UKIPとは、以前にも書いたが、UK Independent Partyイギリス独立党。イギリスは歴然たる独立国家であるのに、インディペンデント「独立」という党名を冠している。実に外部からは不思議に思える。

 これは、イギリスがEUにより支配されていて、それからの独立、解放されるべきであるということからその党名がつけられている。それほどのEU嫌いの政党である。

 UKIPは国内下院では小選挙区制度で議席ゼロだが、比例の欧州議会イギリス選挙区では、現在13議席をもっている。

 わが国では小選挙区制度が諸悪の根源ではないというように選挙制度を軽軽に言う政治学者がいる。だが選挙制度がいかに議会の議席に影響を及ぼすか、イギリスの事例を見ていればよくわかる。

 イギリスでは国内議会選挙が単純小選挙区制度、欧州議会イギリス選挙区選挙がドント式比例というように、異なっている。

 その結果、第1党になろうかという政党が、国内議会の英下院では議席ゼロということが起きる。すなわち、有権者の政治的意思が小選挙区制度では強く排除されていることがわかる。

 まさに選挙制度のマジックというべきことであり、制度の構築の仕方いかんでは、簡単に諸悪の根源なりうるほどに、民意を扼殺するよう作用する。

 

 ところで、今のイギリス人有権者は、独仏などの国家でも同様であるが、EU市民権は理想としては認めるとしても、実践として、旧ソ連圏からの貧しい加盟国からの福祉狙いの、大量の経済移民には、強い反発がある。それこの世論調査結果からわかる。ルーマニアやブルガリアといったEU内最貧国からの移民の過渡期制限措置が終わることもあり、ヒト、モノ、カネ、サービスの自由移動を尊ぶEUの設立理念のこともあり、この問題は深刻である。

 ちなみに政治においては政権与党の動向がどの党のものより重要であるが、保守党は、上記2つの調査によると、第2党の労働党にも僅差ながら抜かれて、現在欧州議会選挙での獲得議席予測では、いずれも第3位ということだ。

 他方、英自民党は、保守党と連立を組みつつも対EU姿勢では保守党とは異なり、親EUのスタンスをとっている。その英自民は、5月の欧州議会選挙で全議席を失う可能性があるということだ。

キャメロン保守党政権についていえば、15年の総選挙の結果で、保守党が政権にあれば、国民投票を実施するという公約を掲げている。

 だが、その保守党は、反EU的スタンスで、即時のEU脱退を唱えるUKIPに全くお株を奪われており、キャメロン党首がいう国民投票でワンクッション置くEU政策では生ぬるいと、党執行部の意向に反して、反EU姿勢をさらに鮮明にする動きも出ている。

これにたいして、英自民は親EU姿勢で劣勢に立っている。だが、イギリスのEU離脱について、党首のニッククレッグは「数百万の職を危うくする」とプロEUの姿勢を崩していない。

 実際、米、独、日などの企業経営者もEU離脱となれば、工場を移すとこのEU離れに警鐘を鳴らしている。わが国外務省もイギリス政府に覚書で、1300社の進出企業と13万人の雇用へ影響するとして、EU加盟継続を日本の進出企業とのことで希望して、内政干渉だと報じられたほどだ。

フランスの極右政党の国民戦線は、欧州議会の院内会派を形成すべく、このUKIPに秋波を送っている。

 加盟国の反EUの極右政党のEUのなかでの統合化現象。

 本来、自民族優位の排外的思想、人種主義をその核心とする加盟国の極右政党さえも、反移民と反EUという政策で連携しつつある。

 1989年ベルリンの壁が崩れて、ソ連が崩壊消滅して25年余。急激に進む東欧諸国も取り込んだEU統合。旧社会主義圏の諸国を民主主義の中に組み込むという理念が先行し、彼らを受け入れる側とEU新規加盟国との間で、ヨーロッパ統合を進化させていく制度が追い付いていない。

そうした理念と制度の乖離で政治的齟齬(そご)を加盟国間、加盟国内部できしませつつ、ヨーロッパ統合の60年の歴史的実践は進んでいる。それは、極右政党さえも統合化させる必然性を持つ。それがヨーロッパ統合である。

 欧州議会選挙も5月と迫ってきて、この動きとともに実に興味深い。


参考記事

英国の世論調査、反EU政党の支持率が1位に ロイター2014 01 20

英国>日本政府「EUに残るべきだ」“異常干渉”と報道 毎日新聞2013年721

英国のEU離脱、数年以内に実現=英独立党党首 2013 01 30 

参考ブログ

2013.01.18 Friday イギリスのEU脱退論 EUは「イギリスなきEU」を21年経験 上 下

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3374

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3375


故サッチャー首相の呪縛 上下 地方選での保守党惨敗と反EU党UKIP大躍進

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3456

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3457







 

| 児玉昌己 | - | 09:52 | comments(0) | trackbacks(0) |
お年玉付き葉書当選をチェック 一句詠む海鳴庵児玉 
  帰宅後、年賀はがきの当選発表のチェック。180枚ほどのうち、今年は4枚の切手シート。まずまずだろう。当たらない時もあるが、4枚は上出来。何に使うわけでもないが、所帯を持って近況を認(したた)めた年賀状を出し始め、35年を超える行事だ。その年賀状も、返送分や書き損じ分を集めて20年分くらいはファイルしている。それは他者に宛てたものであると同時に、我が家にとっての大切な思い出でもある。

  歳月の 重みを知るや 年賀状   

           海鳴庵児玉 

| 児玉昌己 | - | 01:32 | comments(0) | trackbacks(0) |
大寒の久留米の湯 それを詠む 海鳴庵児玉昌己

 昨夜は深夜2時から外湯に出かけていた。久留米温泉は掃除の時間を除いて、終夜営業。疲労した心身を労わるには、最適だ。弱アルカリ泉。硫黄が微かに香る都心部のレアもの温泉。場所は湯の坂。地名が由緒を忍ばせ、私のお気に入りの憩いの場所である。

 

 湯の坂の けむりも嬉し 冬の夜

 

大寒の 凍てつく夜は 湯気の中 固まるからだも ゆるり蕩(とろ)けて

                    海鳴庵児玉


海鳴庵児玉昌己句歌集2013年後半

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3511



| 児玉昌己 | - | 23:50 | comments(0) | trackbacks(0) |
関心を高める都知事選細川出馬表明 その意味

 前日の最低気温は久留米は零度を下回っていたが、今朝も寒い。明日のセンター試験を前に幸い降雪は避けられている。北国の受験者や大学関係者は大変だろう。

 ところで、今日のテーマは都知事選。知事選挙といえば、石原都知事の後を襲って圧勝した現職が金銭の不透明な授受を受けて、わずか1年で辞任し、それは受託収賄罪を視野に入れた捜査にまで発展している。それでまたしても都知事選挙ということである。

 空白を埋めるこの選挙では、自民から離党し新党を立ち上げたものの、わずか数年で活動停止消滅した党の党首であった桝添氏が立候補し、それに各党相乗りで決着かと思われていた。

 だが、原発廃止を掲げる元総理の小泉氏が同じく首相経験者の細川氏を擁立し、本人の正式表明ということで、ここにきて面白い展開になってきた。

 政治は、政治的意志を広く当事者の市民から聴くということが基本であり、面白いというと、一部に不謹慎とも無責任に聞こえるが、そうではない。

 多様な意見が公的に戦われるということは、代表民主主義の政治と選挙の基本であり、それこそ政治の本質的事象であり、結果として選挙を面白くするということである。政治と選挙、面白くなったということは、決して無責任であることではない。

  原発が争点になることを自民は恐れている。それで都政と何が関係があるかという。軽薄な見解だ。

 都政で原発が争点になることを恐れるものにいおう。

 フクシマは東北であるにもかかわらず、東北電力ではなく、都民の電力をまかなう東電の所管であることを思い出せばいい。それが語ってきた安全神話が完全に破たんし、起きた大惨禍であるという素朴ながら最も重要な事実を想起するだけで。

 都民そして政治家は、いわば、福島は本来東京が引き受けるべきであった原発禍の「「身代わり」になったことを思い出すべきである。

 それに東京はただの都市ではない。

 隣接する県民と合わせれば日本人の2割が住み、政治と巨大企業の意思決定の中心であり、また同様に行政機能を高度に集権化させている霞が関の中央官庁はもとより、皇居も抱えた国家の心臓だ。それこそ将来のエネルギーをどうするかを含め、原発問題を取り上げるにふさわしい。

 世論に逆らい、この期に及んでも強引な原発推進を唱える自民の現政権があり、それに異を唱えるものがいる。しかもその者たちは、かつての自民の総理を含めた「老人」たちである。

 そのことは、国家指導を担った総理経験者の原発に対する強い危機意識を反映しているという事実に負う。

 総理経験者が強い危機意識を持つということは、国家と政治にとって健康的なことでもある。彼らは決してその意味では老人ではない。 

 経済でせっかく部分的に成果を上げてきたにもかかわらず、その驕りか、機密保護法、靖国で、国民世論を分断する形でそれを強行し、政治的に傲慢になり、対米関係を損ないつつある安倍政権だ。大いに政治を争うといい。そう思っている。

 

 追記

 財界関係者の中には、自民とともに原発推進で、巨大地震に伴う原発禍の当事者であった。だが、細川出馬について、ただの「願望」と原発禍を過小評価し、原発廃止を軽んずる。冗談だろう。

 保守CDUのメルケルドイツは国家政策として明確に原発廃止にかじを切っていることも知らないかである。

 汚染除去など血税で国民に増税を求め、自身は頬かむりではなく、原発推進するからにはその責任を果たすべく、発電とは全く無関係な原発禍の後始末、汚染除去や被災地域住民の移転費用などを「原発推進税」として、守旧派というべき時代錯誤の財界人には、しっかり負担してもらう必要がある。


参考記事

古巣に容赦ない小泉節=自民震撼、都知事選に危機感 時事通信 114()

地下水汚染濃度、最悪更新=220万ベクレル、福島第1海側―東電 時事通信 111()エネルギー基本計画素案>「原発は引き続き重要」と明記毎日新聞2013 126石破幹事長、原発新規建設あり得るとの考え示す読売新聞 1116()


| 児玉昌己 | - | 07:36 | comments(0) | trackbacks(0) |

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