人口4500万を擁するウクライナでのロシア寄りの大統領派と親EU脱ロシアの反大統領派の対立による流血は報道されているだけでも80名を超える死者を出す惨事となっている。
ブルムバーグBloombergは、ウクライナ情勢について「大統領の国外脱出を阻止−議会は解任決議採択」(2月23日付)で以下書いている。
「ウクライナのヤヌコビッチ大統領は23日、国外脱出しようとしたが、税関当局に阻止された。拘束はされていない。同国では最高会議(議会)が22日に同大統領を解任し、5月25日に大統領選挙を実施する決議を採択した。同国の首都キエフの中心部は反政府勢力が掌握。」
この流血事件は、EUとウクライナ間でせっかく合意した「連合協定」の調印停止に端を発するもので、ロシア的ウクライナから決別したいとする西欧的ウクライナの不満と怒りに火を注いだ。もっともそれ以前をいえば、2004年11月の大統領選挙をめぐる拮抗する両陣営の投票不正問題での混乱ではヤヌコビッチが候補者という最大の当事者として登場している。
ちなみにEUの連合協定はAssociation Agreementという。Associationを連合とする訳語こそ正しく、欧州同盟とすべきEuropean Unionを「欧州連合」と誤訳することで、日本では欧州連合に連合するという表現になり、EU加盟(Accession)と、連合協定の識別もつかない状況にある。実際、欧州連合に連合するということは一体何か、加盟をいうのか、意味不明となる。
またEUの連合協定は準加盟協定というものもいるが、加盟を前提とするものではく、不正確である。それはEUと第3国との協力協定以上のものではない。地理的に見ても非ヨーロッパの中東圏に属しEU加盟はありえないイスラエルとも、EUは連合協定を結んでいる。
ウクライナ情勢に戻って言えば、EUはウクライナ政府に対する制裁を決めた。
時事が伝える制裁内容は、暴力行為の責任者がEU域内に渡航するのを禁止。責任者の資産を凍結するほか、弾圧に使用される装備の対ウクライナ輸出を停止する、というものである。
また毎日紙は「ウクライナ>大統領は支持基盤の東部に東西分裂の恐れも」 と2月23日付で書き送っている。
ウクライナは、国家の東西で民族的な居住区分ができていて、東側ではロシア系住民が多数住むという状況がある。ロシアにとってもウクライナはロシアの前庭であるという意識があるがゆえに、反ロシア的ウクライナの出現は大いなる脅威となると理解している。
大統領職を解任された大統領はロシアを後ろ盾としていた。そのロシアについていえば、ソチ冬季五輪のさ中、反プーチンの女性パンクバンド、プッシー・ライオットがソチで即席の抵抗のショーを始めた途端、尾行していたと思えるコサックとのあだ名を持つ自警団に催涙スプレーをかけられ、鞭を打たれるという衝撃的映像が世界に流された。
その後、わが国の感覚でいえば暴行傷害の現行犯というべきこの自警団が逮捕されたという報道もない。こんなロシアなら御免こうむるというのが西側の民主的国家と西ウクライナの市民の反応だろう。
EUはユーロ危機や、急激に進む旧東欧からの移民の反動現象として、ナショナリストや極右勢力の台頭があり、わが国では浜矩子女史にみられるように、今にも崩壊するというようなネガティブの評価に溢れている。
だが、欧州の旧社会主義のソ連の支配下にあった地域ではEUは依然として強い求心力を持つ存在である。というより、EUがソ連圏崩壊後の民主化した国家の受け皿となっている。しかもトルコとは違い、キリスト教国家であり、ウクライナは東ローマ帝国の東方正教会の一員である。今回のロシア的ウクライナが払しょくされれば、ウクライナとEUの関係も、中期的には、連合協定を超え、EU加盟も射程をとらえてくるのではないかとさえ想っている。
ユーロについても「メルトダウン」(浜矩子)どころか、ユーロ圏は18か国に増え、着実にトラブルシューテイングに向かっている。
欧州委員会のレディング委員は、EU脱退の可能性をほのめかすイギリスを切り捨て、EUの連邦制を強化し、ヨーロッパ合衆国を形成しようという統合の強化も口にされてきた。
ウクライナとの関係で言えば、むしろ旧ソ連の共和国を構成していたロシアの眼と鼻の先のウクライナにまで、チェコ、ポーランドなどでみた東欧の民主革命の火が及んできたとも言うべきである。
我々はEUの対外的影響力と求心力の大きさは強まるばかりだということを忘れてはならない。
ともあれ、ウクライナの早期の政治的安定と人権の確保が守られることを望んでいる。
なお勤務校の国際政治学科にはウクライナ語に堪能な専門家の阿部三樹夫教授もおられる。話を伺ってみたいところだ。
参考記事
議長が大統領代行=ヤヌコビッチ氏の出国認めず―政権崩壊状態・ウクライナ時事通信 2月23日(日)
ウクライナ議会が大統領を解任、野党勢力が首都掌握ロイター 2月23日(日)
対ウクライナ制裁合意=危機打開へ行程表―EU 時事通信 2月21日(金)