山本雄史氏の署名で以下の産経から選挙制度の記事が出ている。
衆院選 比例復活の課題浮き彫り 10万票落選×2万票当選産経新聞 12月16日
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20141216-00000070-san-pol
テーマは10万票落選×2万票当選ということで、比例復活と結び付けている。
あれこれ候補者の当落の現状を書かれているが、だが、なぜ比例復活がこの極端に矮小化された当選者と落選者の実態と関係するのかね。
それは比例とは無関係で、徹頭徹尾、小選挙区制度の致命的欠陥に起因する。
比例はむしろ死票と化した有権者の意思を救済するように働いているという事実になにより目を向けるべきだとは思わないかね。
貴兄は書く。
「沖縄県では全4選挙区で出馬した与野党候補計9人全員が当選し、落選者は1人もいなかった。死票ゼロという極めて異例の結果となった。」
死票とは有権者が投じた票が議席に結びつかないということであり、死票が少なくなったとはいえても、死票ゼロなどは本質的定義の理解に欠いた書き方である。
例えば、上記の沖縄1区では自民党支持の票53,241(36.6%)はすべて死票になっている。たまたま自民が比例の惜敗率で救われただけだ。沖縄でも日本全国どこででも、落選した候補者に投じた票はすべて死票である。
小選挙区制度の本質的定義がそうであるように、当選議席は1である。All or Nothingがその本旨だ。比例が復活当選で、小選挙区の不合理を軽減し、救済したということでないのかね。
実際、山本さん、あなたは自身の記事で一体何を言いたいのかね。
比例復活が問題なら、そう書けばいい。だが小選挙区制度の死票の問題と、比例復活は無関係である。
むしろ比例が、小選挙区制度という合法的な民意の大量虐殺を意味する膨大な死票を緩和している。そうではないのかね。
沖縄はそうして自民が出した膨大な死票を軽減できたのだよ。山本さんよ。
本質的に選挙区ごとの異常な最低得票当選者と最高得票落選者の問題が起きる。それは徹頭徹尾、小選挙区制度の問題であって、比例の問題ではない。
都市部と地方の人口格差のある中で、小選挙区を採用しているから、こうした無様な選挙区ごとの格差が生じるのではないのかね。
記事が、読者に全く理解不能であるのは、そこにある。
山本記者は比例代表並立制が「本来の趣旨に添わない珍現象」という。
だが、1994年の公選法改正で並立制を導入したものたちの不見識が最初にあって、並立制をとれば、ここ数回の総選挙結果が明らかにするように、「珍現象」でなく、きわめて論理的な展開であり、帰結である。
導入に関係した当時の官邸の関係者の成田氏はこの膨大な死票の次に生じる怨念によるねじれ現象である敵対の政治がかくも大きなものかを予測できなかったと自身で語っている。まさに自己の不明さによるものだ。
現行制度では前回の総選挙で記録したように、4割で8割をとるという如く、1位の政党への議席配分が小選挙区で極端に増幅され、比例は数学的に配分されるため、小選挙区制度による極端な得票と議席の乖離を戻すようにはなっていない。
しかも、選挙制度改革では小沢一郎氏らが公明、共産つぶしで、これを主張したことは周知の事実で、森元総理も日経履歴書で書いているところである。
公選法改正で、はるかにましであった中選挙区を捨てた際、比例を導入したものの、本来500を小選挙区と比例の配分を300と200と当初からアンバランスとなり、さらに比例は180へと削られ、比例のウエートは下がり、小選挙区の異常、異様というべき膨大な死票を生む現在がある。
そこが、比例で得票ごとに当選者を政党に割り振るドイツの比例併用制との決定的違いである。ドイツ型にしていたら、こうした無様なことも基本的には起こりえなかった。
最後に、山本記者に問いたい。では貴兄は自身の記事で、何をどう変えたいのかね。
まさか比例復活が面白くないから、膨大な死票をさらに加速化する完全小選挙区制度にせよといいたいのかね。それは前近代的な逆パラダイムシフトでしかないことだ。
EUの欧州議会は比例代表制を選挙の準則として、欧州議会選挙法に書き込んでいる。
小選挙区制度の本家本元のイギリスも、この出鱈目な小選挙制度でもがき苦しんでいる。(米国は封建遺制に眠りこけているが)
比例制度は欧州各国の国政選挙で一般的となっており、欧州議会の選挙法改正の動きに従い、1999年にイギリス選挙区では小選挙区制度(FPTP)を捨て、ドント式比例に変えたのだよ。ご存知かな。
イギリスでは、それが国内政治に波及して、多党化現象を起こし、英独立党(UKIP)などが台頭し、好き嫌いを超えて、政治がにぎやかになっている。
ともあれ、産経は何をどうしたいのか、ストレートに言うべきだろう。
珍現象は比例復活制度のためではない。小選挙区がその起因であり、それを変えれば、解決する。
すでに読売は、社説で、現制度下での議員定数の大幅削減を、民主と維新の「デマゴギー的」(英文訳)大衆迎合であると批判し、民主維新の両党は「何を勘違いしているのか」と、切り捨てている。
その通りで、欧州と人口比でみる極端に議員定数が少ない部類に入るのが日本である。下記のブログを観よ。
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=2364
しかも、国民の代表の数は、行財政改革とは無縁のもので、カネの問題で代表を削減することは、議席をいくらで買えるかというヒルズの金融ブローカーの言葉にもつながり、民主主義の死に直結する危険な兆候だ。
前回、4割で8割の議席を得る得票と議席との異常なる乖離を前に、そしてそれで鬱積した不満は政権運営次第で、民主がそうであったように、次の自民にも突き刺さる効能性が高い。
産経の選挙制度に関するビジョンも聴きたいものだ。
なお、今回の自民の選挙区での実態は以下。時事
自民は48.2%の得票で、全295選挙区のうち223議席を獲得。議席占有率は75.6%。全小選挙区の合計で約2541万票。全得票に占める死票率は48.0%
参考ブログ
2013.01.14 Monday 森喜朗元総理の日経私の履歴書 比例削減での小沢一郎氏の役割への言及
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3373
2014.11.26 Wednesday 英独立党UKIPの議席獲得の票数にみるわが国の小選挙区制度のグロテスクさと定数削減論の愚昧さ
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3771
2014.12.14 Sunday 定数削減を大衆迎合とする読売紙社説(2014.12.9.)を高く評価する
http://masami-kodama.jugem.jp/?day=20141214
2011.10.04 Tuesday 国会議員定数国際比較についての本ブログ記事への反応
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=2947
議員定数削減 大衆迎合の主張は嘆かわしい 読売社説2014年12月09日英文読売
Parties’ demagogic calls to curtail number of Diet seats deplorable.The Japan News. December 09, 2014