朝日などの報道によると、衆院の選挙制度改革を検討する衆院議長の諮問機関「衆議院選挙制度に関する調査会」(座長=佐々木毅・元東大総長)は9日、「一票の格差」の是正するため小選挙区の定数を「9増9減」する案の検討を明らかにした、という。
特に時事通信は、1票の格差」を是正するための各都道府県への小選挙区の配分方式について、人口比がより反映される「アダムズ方式」と呼ばれる手法を軸に検討を進める、と書いている。
80議席の比例の削減を言う反民主主義の民主や、参院全廃衆院半減、すなわち500議席もの定数減をかつて唱えた維新の大衆迎合の愚劣な大幅削減をいわないのは前進だ。
だが、「アダムズ方式」とはなんだか新鮮に聞こえるが、実のところをいえば、人口比といいながら、選挙制度の骨幹である小選挙区制度の問題をまるで問わず、その選挙区間の格差を調整するだけのことでしかない。
このアダムズ方式とは、たとえて言えば、妖怪コメディの「アダムズファミリー」並みの、いわば、古色蒼然たる、子供だましのお化け屋敷というべきものである。
抜本改革にはおよそ無縁の、現行の出鱈目な小選挙区制度を維持したうえでの定数再配分にすぎない。すなわち膨大な死票の構造的継続と、人口の多い都市部への積み増しと、地方の議席削減の、言い換えれば、現行の民意と、地方を大量に殺すグロテスクな選挙制度の小手先「改革」でしかない。
有識者として政治学者の佐々木元東大総長が座長というが、憲法違反というべき1票の格差の継続と、合法的な民意の虐殺というべき膨大な死票による代表民主主義の危機を増幅させている1994年の公選法改悪による小選挙区導入については何ら手を付けず、現状維持に手を貸すだけでしかない。
議席獲得を過剰に進め、右から左へ、左から右へとあっという間に劇的に変化させ、国家の政治を根本的の不安定にし、政治家を育てることがない、こんな政治に直結する悪しき選挙制度でいいのかね。
何より現行の小選挙区比例代表並立制度は、導入した河野、細川氏ら関係者が、すべからく失敗したという制度ではないか。
「政治の精神」という立派な書がある佐々木先生だが、学識経験者の代表として、すこしは政治学者の精神を示すべきではないかねと言いたい。でないと、政治学者など「殿中の茶坊主」と、故猪木正道先生(京大教授/防衛大学校長)が生前冗談交じりに言われたという言葉が現実となり、今後、だれも相手にしなくなるだろう。
ちなみに、市民有識者というべき大田光征氏らは、現行制度が生む膨大な死票を生む現行の小選挙区制度についてこれを憲法違反として、東京高裁に提訴した。
小選挙区制度は、1票の価値どころか、国民の半数の民意を合法的に虐殺する制度として、まさに憲法違反に相当する。大いに応援したいところだ。
なお私が専門にする欧州各国では比例代表制がほとんどであり、欧州の28の加盟国を束ねるEUの欧州議会は長年のその方向性での議論を経て、2002年の法改正で比例代表制度を選挙の準則と欧州議会選挙法に明記している。
フランスも1999年の欧州議会では国内の決選投票制度を改め比例制度に移行した。小選挙区制度の本家のイギリスも、ブレア労働党の時期の1999年に、他の加盟国にならい欧州議会の当時の動向をみつつ、小選挙区制度を捨て、ドント式比例制度に移行した。それまでの過剰議席を失うことを知りつつ、転換したのである。実際33議席減と半数以上を失った。
これが「身を削る」と維新や民主など政治家が簡単にいうことの真の行動であり、意味である。
プレスメディアの諸君にも声を大きくして、いいたい。自己の見識を示せ。こんな制度で日本の豊かで、安全で、民主的な将来を子孫に残せるのか。
歴史的にマンチェスターから出発した労働党支持の英有力紙ガーディアンだが、同紙が選挙改革で、本来の政党支持を超えて、比例代表制を打ち出している英自民党を支持するという社説の一部である。ここに再録しておこう。
まさに権力の茶坊主というべくも意識も、意欲もないヘタレ朝日の政治部記者たちを念頭に、下記にブログした記事に引用したものだ。
「本紙に投票権があるならば、(小選挙区制度の撤廃と比例制度導入促進を打ち出す)英自民党に熱狂的にその票を投じる」
(If the Guardian had a vote it would be cast enthusiastically for the Liberal Democrats.)The Guardian,
2016.02.23 Tuesday デマゴギーと大衆迎合 誤った「約束」に立った定数削減論議
http://masami-kodama.jugem.jp/?day=20160223