2015.05.30 Saturday
独M・ウェーバー欧州人民党党首が英独立党ファラージュを嗤う EU議会の選挙制度の先進性とイギリス下院の小選挙区選挙制度の後進性
2015年5月、すなわち今月のことだが、イギリスでは総選挙が実施され、保守党がたかだか36.9%の支持で単独過半数を獲得した。この選挙がイギリスの対EU政策を決めるのだから、触れないわけにはいかない。 有権者の支持が4割にも満たない政権が、国民の支持を得たとして、単独で国家の政治を指導すること自体が驚きの小選挙区制だ。 また3,881,129票でUKIPは1議席、他方スコットランド民族党は1,454,436票で56議席という異様異常な得票と獲得議席の乖離を生み出す小選挙区制度については、EUとの関連で、書いておこう。 UKIPのファラージュが自国の総選挙で敗北し、負けたら政界を去るといった彼の公約に関連して、欧州議会で最大会派の欧州人民党のウェーバー党首(Manfred Weber CDU)が、同議会の議場に彼の存在を認めて、EUとその民主主義に感謝したらどうだと語っている。 「イギリスの小選挙区制度よりも、はるかに民主的な比例制度に立つ選挙があったればこそで、もしヨーロッパがそうでなければ、貴兄はもはや、どこにも職務を果たす場所さえないではないか」と。 以下がそれだ。 "Europe has a far better electoral system than the one that exists in the UK because, if Europe didn't have a proportional system for elections, he wouldn't have a job anymore." Leading MEP makes fun of Farage. Euractiv. 21/05/2015. UKIP英独立党のファラージュ党首について言えば、EUへの徹底した攻撃で欧州議会イギリス選挙区で支持を伸ばし、耳目を集めた。しかしわずか1年後、今度は、ナショナリストとして、自己が愛してやまない当の母国イギリスの、19世紀的遺物というべき遅れた選挙制度によって、400万票近く集めても徹底して排除され、潰されるというごとき、浮き沈みの激しい政治体験を味わっている。 ちなみにファラージュ自身が、愛するイギリスの選挙制度について5月8日、「破たんした」と以下語っている。 "Personaly, I think the first-past-the-post system is bankrupt," he said. "It is bankrupt because one party can get 50% of the vote in Scotland and nearly 100% of the seats, and our party can get 4 million votes and just one seat. Nigel Farage resigns as UKIP leader as the party vote rises. BBC 8 May 2015. 私もこの事態を想定して以前からウェーバー同様の指摘をしている。 EUの民主主義があったればの欧州議会イギリス選挙区でのUKIPの勝利であったことを。 かくなるうえは、イギリス本国で、自民などとともに、小選挙区排除と比例代表制導入の政治運動に入れということだ。もっとも反EU的メンタリティのために次回はスコットランドが分離して、イギリス自体がリトルイングランドになっている可能性さえあるのだが。それはまさにUKIPが望んだことの論理的帰結ということになる。 ファラージュを離れても、この総選挙、イギリスの対EU関係では極めて重要なものとなった。 イギリスの単純小選挙区制度によって、すでにブログしたように、イギリスがユニオン解体の危機にある。 保守党を3割台の支持で単独過半を与えるというように、グロテスクに勝利させ、方やスコットランドを異常というべくも独り勝ちさせ、労働党は前回よりも得票を上げながら、議席を減らすというごとく。小選挙区制度が、国民の意思をまるでそれが表現していないからである。 それが実に、小沢氏らが画策した中選挙区制度の廃止と比例代表並立制という小選挙区制度のモデルとなったイギリス下院議会の完全小選挙区制度である。 そしてこの封建時代の遺制というべき時代錯誤の選挙制度は、その副作用を超えた、劇薬として、イギリスを侵し、イギリスを解体に追いやっている。 本ブログで以前書いたが、イギリスの有力紙ガーディアンが、「自由主義的瞬間がやってきた」という社説で、前回2010年の総選挙時に単純小選挙区制度の改正の必要のコンテキストにおいて放った言葉を、もう一度、政党と、メディアには書き残しておこう。 こんな大手新聞が日本に一紙でもあると、私も安んじて、就寝できるのだが。 General election 2010: The liberal moment has come Proportional representation – while not a panacea – would at last give this country what it has lacked for so long: a parliament that is a true mirror of this pluralist nation, not an increasingly unrepresentative two-party distortion of it. The Guardian has supported proportional representation for more than a century. 「比例代表制、それは、万能薬ではないにせよ、それは、ますますもって国民の意思を代表することがない2大政党制という歪曲された議会ではなく、わが国が長く欠いていた多元主義的な国民の真の鏡となる議会を、すくなくとも付与してくれるものである。本紙は一世紀以上にわたり比例代表制を支持してきた」と。 そしていう。 「本紙に投票権があるならば、(小選挙区制度の撤廃と比例制度導入促進を打ち出す)英自民党に熱狂的にその票を投じる」 (If the Guardian had a vote it would be cast enthusiastically for the Liberal Democrats.)The Guardian, Friday 30 April 2010. こんな出鱈目な制度を、わずかに比例をつけて、わが国民主主義のモデルとしてふさわしいともてはやし、1994年の公選法改正を実施した。この政治的悪行に手を貸した政治家、学者、メディアは、その不明と無知を国民に詫びる必要がある。 そして、今も、政治の現実を学ぶことなく、比例定数の大幅削減を何かすばらしいかのごとく、「身を削る」などと、自己のポケットの話を、議会の民主主化とは全く無関係な問題に転化し、比例の大幅削減で、単純小選挙区制度へのさらなる接近を主張する民主党や、維新は、そろって自己の主張の反民主主義性格を理解する必要がある。 参考ブログ 2015.05.09 Saturday 英総選挙2015 当面の総括 36.9%で単独過半 小選挙区制度の異常さ http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3835 2015.05.08 Friday英総選挙開票始まる 小選挙区制度は国家を滅ぼす UK解体に作用する選挙制度 http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3832 2014.06.10 Tuesday 2014年欧州議会選挙余滴1 UKIP党首のファラージュのこと http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3684
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