2日前、戸外は、2週間ぶりの本格的雨。大地も潤って、外気温も一挙に6度ほど下がった。 連日35度を超えていると、30度が涼しく感じられるのは不思議だ。各地で異常高温が報道されている。欧州も同様に異常な暑さで、干ばつ、洪水ということだ。 それ以上に驚くべきニュースは、以下だ。
中国:人民元、連日切り下げ…市場の動揺拡大 毎日新聞 2015年08月12日
中国は、あたりかまわず、為替操作による露骨な元安誘導に乗り出し、世界経済は大混乱である。
一方的な為替操作は、自国の経済の苦境を救うためだが、他国への影響も考慮することなくである。 如何にも共産主義国家の政治である。
民主主義国家では、打撃を受けるセクターの政治的反発は、次の選挙で大きな脅威となる。だが、共産党独裁国家では、選挙などないし、あっても統制された官製選挙であるから、経済的打撃によるセクターと関連する国民の不満など、まるで考慮せずに済むからである。
国際社会に負う経済大国としての責任を放棄し、国際社会の問題児と見る者も出てくるだろう。対中貿易赤字で深刻な米国も、態度を硬化させることだろう。
人民元といえば、IMFの特別引き出し権(SDR)構成通貨採用の是非をめぐる議論が進んでいるが、株式での市場操作しかり、為替相場での通貨操作しかり、およそ国際的なアクターとして全くふさわしくない行動である。
資源大国も打撃は大きい。
中国指導部についていえば、国内経済の悪化と、証券市場のバブル崩壊で、国民の共産党不信を急速に広げている。
このところの中国での証券市場の暴落については、債務危機に陥ったギリシャの政府債務は3750億ドル。対して、中国株式市場が1カ月未満で失った資産は時価総額3兆ドル以上と報じられている。
加えての最近の人民元高と輸出不振。
すなわち、今回の為替操作は、国民の怒りを鎮める間接的な習近平の国内対策である。そうでなくとも、中国の輸出競争力が急速に失われつつある。しかも不動産バブルがはじけ、シャドー銀行ともいわれる国有企業の不良債権は膨らんでいる。
外交でも、尖閣や南沙問題での強引な覇権主義の展開を進める中国である。
他方、これにたいし、対中姿勢を硬化する米国。中国指導部は、今度の為替の人為的な政治操作については、対中姿勢を強化に転じている米国を当然意識してのことであろう。米国は利上げのタイミングに制約をかけられた形である。
中国の今回の措置は世界的に影響が大きい。これを契機に、どの国も為替管理に乗り出す可能性が高い。
ちなみに、EUについて言えば、ユーロ圏諸国では、それができないだけに苦しくなる。
中国は世界に対して、通貨戦争でも仕掛けようというのかということだ。 世界の対中不信は高まるだろう。
長老の江沢民系指導者らを排除するなど、政治的敵への粛正を進め、国内の政治的緊張を高めている習近平である。それがゆえに、経済での失敗は、自身の政治生命に直結する。
日本も含めた西側先進国では、政治的敗北は、通常では政治的な範囲での責任となる。だが、法の支配が確立していない国家にあっては、価値は人治ということになり、指導者の政治的敗北はその指導者の物理的生命にまで及ぶ。
中国は大国であることは間違いないが、共産党の一党独裁という民主主義の歴史から見れば、政治的にきわめて遅れた国家である。他方、わが国は宝石のごとくアジアに輝く国家であるという認識を心から理解しておく必要がある。
開発独裁という言葉があるが、中国もまさしくそれに当てはまる。問題はそれが巨大であることだ。開発独裁の国家は徐々に民主化していくが、共産党が価値を独占するという政治体制にある限り、それは相当の困難を伴うだろう。天津のあの大爆発事故で見せた管理の出鱈目さと、被害情報もまともに伝えない報道管制を見ればわかる。
冷戦下にあっては、核を持つ超大国だったソ連は、通貨や貿易の分野ではココムやコメコンにみられるように、西側世界とは分離されていた。
だが、21世紀初頭の問題は、冷戦下のソ連の時代とは違い、かくも異質な国家が強大化し、WTO、IMFなど国際経済や金融のなかに組み込まれ存在することである。
「権力は腐敗する、絶対的権力は絶対的に腐敗する」(Power tends to corrupt, and absolute power corrupts absolutely)というジョン・アクトン卿(John Acton1887年4月5日)の金言の通り、党の腐敗もとどまるところがない。
どこもそうだが、とりわけ、中国との関係でわが国がおかれている環境の厳しさを、否応なく感じさせるむき出しの為替操作である。