児玉昌己研究室

内外の政治と日常について想うことのあれこれを綴ります。
田舎政治家が米大統領になる可能性への世界的危惧 孤立主義に向かう米

  政治学には、国家と国民そして政治家の関係について述べた至言がある。
   「政治を軽蔑するものは軽蔑に値する政治しか持てない」、と。 もう1つは、「国民は、その質以上の政治家や国家を持つことはできない」というものである。
 アメリカの共和党の大統領候補指名争いで独走しているトランプだ。この政治家の発言を聴いていると、まさに上記の至言を思い起こす。
 すなわち田舎政治家の登場で、戦後70年をリードしてきた米国が、田舎国家に退化するということである。
 米国が世界国家であることをやめ、新孤立主義に向かい始めたということだ。
 ブッシュジュニアに続いて、こんなレベルの政治家を大統領候補として共和党が送り出しているということこそ、国民も国家も、余裕を失ってきたことの証だが、かくも国際感覚のないポピュリスト政治家もいない。
 しかも大統領の最有力候補というから恐れ入る。
 おそらく外国語の素養もまともにないだろうし、外国に友人を持つとか、外国にも意味のある形で出かけたこともないのだろう。
 かつてNHKの解説員が米下院議員の国際感覚について触れ、その半数はパスポートも持っていないということを口にしていたことがあったが、この不動産屋のお金持ちは、国際感覚において、おそらくそのたぐいのものだろう。
 日米安保と、米韓安保の解消を口にし、日本の核武装まで口にする有様だ。彼が当選するとは考えられないが、民主党がイスタブリッシュメントを絵に描いたあのヒラリー・クリントンでは、万一の場合のことも我々は考えておく必要があるだろう。
 もっとも、米国の戦後の基本方針を大転換することの影響の大きさについては、無知なる憂さ晴らしの有権者の意識はさておき、国務省、国防総省など政府機関も熟知している。
 それゆえ、彼が大統領に選出された場合でさえ簡単には動かないと考えられる。なにより、イスラム教徒の入国を禁止するとか、ブッシュ政権下で行われ、中東での対米不信を強めた、拷問、水攻めを復活するなど、人権と憲法感覚自体を疑わせる発言を連発しているのだから。
 トランプが無能な孤立主義を決め込めば、国際関係に悪影響が出ることは必至だ。
 米国外交が下手を打つ場合の影響については、我々は知っている。
 実際、国連を無視し、独仏を「古い欧州」と痛罵し、英首相ブレアを誘って、私怨というべきフセインつぶしを断行し、あげく統治機構を喪失させ、現在のISを生み出したブッシュの事例や、シリア介入の必要時に公約に反して無策を決め込んだオバマの中東外交の大失敗が現状の中東の大混乱を招いた事例がある。
 さらには、オバマ米外交の無策が尖閣に押し出す中国や、クリミアへのロシアの軍事侵攻を許すことになった。それで我々は米外交の影響の程度を経験済みである。
 米国は、そして世界は、トランプ選出となれば、そんな事態の再来を経験することにもなりかねない。
 またテロリスト集団やテロ支援国家に隙を与えることにもなる。
 それを考えるだけで、トランプを選出することのツケは、高くつくどころの話ではなくなる。
 わが国の安保反対論については、わが国の左翼陣営も今までのように、米国の傘の下で安易にできたように、安直なことは言っておれない。腹をくくっていくしかなくなる。
 わが国の防衛の根幹にあった日米安保の解消、実は80年代まで、左翼陣営は多くそれを主張してきたのであるが、安保解消の後、日本の防衛をどうするかということをである。
 日米同盟が解消され、核の傘を失えば、無法国家や覇権国家に対して、何をもって対抗するのかということも実践的に考える必要がある。
  21世紀にあっても共産党独裁のもとにあり、言論を封殺し軍拡と覇権に走る中国や、縁もゆかりもない「共和国」を僭称しつつ核開発に狂奔する3代世襲の金王朝の北朝鮮が跋扈するアジアである。
 それを前に、まさか非武装中立をとるなどということも、もはやありえないことである。
 憲法前文がうたう「諸国民の公正と信義に信頼して」など、到底期待できない状況なのであるのだから。
 トランプの脅威は、韓国も同様だろう。いやこちらの方が我々より百倍大きいだろう。
 米国に国家を救済されるという歴史にありながら、自由と民主主義の陣営にいることも忘れ、中国にすり寄るなどしていたこの国家こそ、北朝鮮の脅威に真っ先に曝される。
   この国の無責任な北朝鮮擁護派の反米野党の動きも、フォローする必要がある。
 この国の特に左翼は、米国の孤立主義回帰の傾向については、内心、「時はきた」というのではなく、無責任な反米、反権力の言説が、今後軽々にできなくなることへの恐怖があるのかと推測される。
 また対外的にも、対日不信にもとづき、今のところはあり得ない、日本の核武装の動向にもおびえることになると思われる。
 その意味では、米国なき場合の国家政策が、かの国にも、我が国同様、問われ始めたということである。 すなわち、あらゆることが起り得る状況を想定し、これに対処すべくシュミレーションしておく必要があるという時代に入りつつあるということだ。
 トランプに戻れば、その世界観について、当事者である米国の最有力紙ニューヨーク・タイムズが26日に出した記事見出しを掲げておこう。
 「米国第1主義、他のすべてのものは金を払え」 America Comes First, and Everybody Else Pays
 もとより、ここでいう他のすべてのものとは、アジアの同盟国家だけでなく、欧州、すなわち、EUNatoについても同じであり、我々はコミットメントを再考すると言っているのである。
 「もう戦後と」いう言葉が1960年代半ばに流行った。そして、戦後71年を経た2016年にして、いよいよ「無敵の」米国の時代、すなわちそれに支えられた戦後は、真の意味で終わるという予感を持たせる大統領選挙での田舎政治家トランプの登場である。
 参考記事
In Donald Trump’s Worldview, America Comes First, and Everybody Else Pays. MARCH 26, 2016 The New York Times.

 

 追記 4.20.
 なお、米大統領候補者トランプの政治家としての資質について、その醜悪さ、愚劣さを、英有力紙Financial Timesの記者フィリップス・ティーブンスが記事を出し、Jbプレスが秀逸な翻訳を掲載している。

以下がそれだ。
「トランプ現象を笑えない欧州 議論を非難に、事実を偏見にすり替えるポピュリストたち」2016.3.15JBプレス。なお原タイトルは Populists replace argument with blame, facts with prejudicePhilip Stephens, Financial Times. March 10, 2016
   こんなことが起こるのは米国だけだ。ドナルド・トランプ氏が共和党の大統領候補指名を獲得しようとする中、ほかの国々は、困惑したり、唖然としたりしながら見守っている。友好国の反応には、見下したような雰囲気がかすかに混じることがある、と言って構わないだろう。国のトップの公職を目指す人物が自分のペニスのサイズを公の場で自慢するなどということは、目を見張るほど低俗な米国をおいてほかにどこで起き得るだろうか?

| 児玉昌己 | - | 22:16 | comments(0) | - |
書評 松尾豊「人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの 」(角川EPUB選書)2015/3
   現在、人工知能の本をアレコレ読んでいる。
 非常に勉強になるのが、
松尾「人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの (角川EPUB選書)2015/3である。
  人工知能の歴史と現状、可能性など解説されて優れている。技術的には、AIの原理など、文系の私にはあまり理解できないところもあるが、人工知能という言葉は1957年に誕生したこと、人工知能に挑戦する科学者と技術者の天才的努力と、その発展の過程の概要を理解できる。
  興味深いのは、人工知能の研究の過程で味わった、若き日の、松尾先生の研究費獲得不首尾につながる、わが国の過剰な期待と、裏返しの幻滅を背景とする苦い体験を、有体(ありてい)に描かれていることである。
 文科、理科を問わず、研究者には、自身の研究の第3者の学問的評価にたいして、つまり、資金を持つ権力という第3者による牢固たる権威主義や無知、無理解などにたいする不満など、大なり小なり似た経験を持っている。
 それがゆえに、共感を持って読むことができる。
 一見するとスマートな世界なのだが、どの世界もいろんな障害があり、その中で多くの研究者はもがくことになる。先生もそうした苦悩を背負って研究されてきたということを知り、大いに親しみを感じるところだ。
 実際、松尾先生によると、わが国では、第5世代コンピュータ計画にみられるように、人工知能開発において、長期的視座を持たずに、過剰な期待と裏返しの幻滅と冷視というように、短期で評価が動いたということである。
 そして、腰を据えて、これに取り組む必要を書かれている。特に先陣を切ったものが圧倒的に優位に立つというこの世界の掟があるということだ。
 また、圧巻は、専門家集団同士での画像認識のコンペについての箇所である。
 カナダ人学者ジェフリー・ヒントン率いるトロント大のチームが全く新しい発想すなわちディープラーニング、「深層学習」で、驚異的スコアを挙げたというところである。149-148頁
 ちなみに先生はディープラーニングを「特徴表現学習」と表記されている。

   それは、それまでの改良型のソフトを圧する圧倒的なベンチマークの勝利で、まさにブレークスルーとなったということである。
 すなわち、それまでの方法の延長でシステムの改良を考えていたこの分野の研究者が、自身の将来を危惧するほどのものであったということである。
 ともあれ、いま最もトレンディな話題はやはり人工知能だ。
 政治学者の私も、医師、弁護士などと同様、いわゆる知識を扱うインテリも、人工知能の前に、お払い箱になりかねない圧倒的な潜在力を持ってこの分野は進んでいるからだ。
 実際、チェス、将棋と人間の牙城を崩され、囲碁の世界でも人間は完敗している。
 すなわちAIと人間との勝負でいえば、1997年にチェスの世界王者が敗退し、2013年には将棋のプロ棋士が破れている。そして最後に残った囲碁も今年すなわち2016年にAIの前に敗れ去った。

 その意味では、すでにそれらの職業人は危機にあるといってよい。
 ロボットと人工知能を組み込んだ製品が出てくると、大学教育など、激変する可能性もある。
 近未来に起こりそうな状況を言えば、教室に助手として導入したAIロボット君に、「ロボ君、あれ何年のことだったかね、ウィキペディアの記載を読み上げてみて」、と命じても、「知識において不完全で乏しいあなたに代わって、私が講義を担当します」と言い出される可能性は大いにありだ。
 せめてAIロボットを前に、我々学者は、何ができるのか、AIロボット君にコケにされないものを持つ必要があることを感じさせる読書であった。
 そういえば、マイクロソフトの人工知能テイが、ヒトラー礼賛や人種差別を刷り込まれたというニュースも出た。そんなレベルなら、まだまだ我々の出番はあるということだ。

参考ブログ
2016.03.26 Saturday人種差別主義となった「Tayテイ」 マイクロソフト人工知能の脆弱さ
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=4003
2016.03.14 Monday 囲碁での人工知能AIの人類への勝利の意味
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3994
2015.12.30 Wednesday 年末の休み入りし、AI、ロボット、2045年問題関係の書でリフレッシュ 
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3952




 
 
| 児玉昌己 | - | 21:35 | comments(0) | trackbacks(0) |
人種差別主義となった「Tayテイ」 マイクロソフト人工知能の脆弱さ
 過日、囲碁でのグーグルのアルファ5のトップ棋士戦での4勝1敗という勝利について、ブログした。
 定型的分野での可能性は人類を超え始めているが、問題も多いことを示す記事が飛び込んできた。

 「話しかけるほど、賢くなります」という触れ込みで出たマイクロソフトの「テイ」(想定19歳女性)が、人種差別主義者に教育されて、その下僕となったということだ。
 以下がその記事。
 「Microsoftの人工知能は、なぜ虐殺や差別を支持するようになったのか」 BuzzFeed Japan 2016年 325日。
 人種差別的なことがらについて、よくフィルターもかけずに出したものだということだ。
 マイクロソフトも大慌てだろう。謝罪の記事も出ている。膨大な資金を投入し、逆宣伝になるとは思いもしなかったのだろうか。
  それでも開発のこの段階でこうした、開発者の間抜けさが明らかになったのは悪いことではない。
 人工知能開発において、規範に関する社会的常識が持ち込まれることになるからである。

 このテイ事件は、人工知能開発史に重要事件として記録され、長く人々の間に記憶され、語り継がれていくことになるだろう。
 人工知能は結局は人間が生み出すものということを改めて知らしめて興味深い。
 いかなるコンセプトで人工知能を発展させるか、その規範と価値観は社会性を持つ人間のみが与え得るものだということである。


 参考ブログ

Microsoft、人工知能Tayの無作法を謝罪 「脆弱性を修正して再挑戦したい」
ITmedelia20160326
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1603/26/news
015.html

2016.03.14 Monday 人工知能AIの人類への勝利に関連して 米SF映画「her 一つ世界でひとつの彼女」 2013年公開
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3995
2016.03.14 Monday 囲碁での人工知能AIの人類への勝利の意味
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3994
2015.12.30 Wednesday 年末の休み入りし、AI、ロボット、2045年問題関係の書でリフレッシュ 
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3952

 
| 児玉昌己 | - | 10:04 | comments(0) | trackbacks(0) |
難民とテロの危機はEUの統合を強化する 
 パリへのISの無差別テロ攻撃に続いて、今度はEUの首都ブリュッセルへの攻撃である。
日本人も2人の被害者を出し、一名は重篤で意識不明ということだ。米国も2名の死者と10名を超える負傷者を出している。
 これは対岸の火事ではない。

 イギリスでは6月23日のEU残留を問う国民投票が迫り、賛否両派の激しいキャンペーンが展開されているのはこのブログでも書いたが、反EU主義者の中には、自国の安全だけをいう敗北主義者もいる。
 わが国ではイギリスなどの論調を反映して、
EU解体論を展開する手合いが多い。
 だが、移民問題も、テロも、そしてユーロもだが、統合を加速化するよう作用する。
 実際、以下のように、
EUと主要国首脳はEUの治安と防衛について、さらに協力関係を強化し、統合を推進するよう動いている。それはまさに、メルケルがテロ攻撃を受けて語ったように、EUの持つ「ヨーロッパ的価値」についての揺るがない自負があるからである。
 そして陸続きの欧州では、一国が安全であることが、ハナから期待できないからである。
 今年2月の欧州理事会を前にEUの前身である欧州石炭鉄鋼共同体を創設した原加盟6か国の外相会合で語った独伊の外相言葉を掲げておこう。

「我々は欧州のために戦わねばならない。欧州が問題ではなく、欧州が解決策なのである。」(F・シュタインマイヤー)
「一体となってこそ影響力を行使でき、バラバラでは意味をもたない。」(P・ジェンティローニ)


参考ブログ
2016.03.16 Wednesday 王室をEU離脱キャンペーンに使う英メディア「サン」ら反EU派の魑魅魍魎
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3996
2015.11.15 Sunday
 大惨劇のパリ 許しがたい所業
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3930

参考記事
Merkel expresses pride in 'European values' after Brussels bombings.March 22, 2016.

Italy calls for common European defence after Brussels attacks. By EurActiv.com with AFP March 22, 2016.
Europe’s shattered peace, Europe’s struggling values. EurActiv.com PLC.  March 24, 2016.
Juncker warms to the idea of an EU intelligence agency. EurActiv.com March 23, 2016
Verhofstadt calls for creation of EU intelligence agency. EurActiv. November 19, 2015.



 
| 児玉昌己 | - | 23:06 | comments(0) | trackbacks(0) |
愛するベルギーへのテロ攻撃を許さない
Je suis belge. I condemn brutal attacks to Brussels.
My heart and mind go to the victims, the wounded and their family & friends.

死亡者の数字は毎日紙が最も多く、速報性が高い。
<ベルギー同時テロ>空港と地下鉄駅で爆発、34人死亡

毎日新聞2016 年322()2116分配信
なお負傷者は130人を超え、死者は増える見通し。
参考ブログ

2015.11.15 Sunday
 大惨劇のパリ 許しがたい所業
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3930

追記
死傷者数については、32、340と報じられている。

 
| 児玉昌己 | - | 22:47 | comments(0) | trackbacks(0) |
卒業祝賀会を詠む 海鳴庵児玉
 今日は卒業式。終われば恒例の祝賀会。
確かに祝賀に相当する卒業だ。親からすると、長い子育てが終わり、社会人になり羽ばたく日でもあり、どれだけうれしいことか、である。かくして、一年のサイクルが終わる。
 
 卒業の 喜び満てる 祝賀会 巣立つ諸君に 前途幸あれ
                  海鳴庵児玉 

 
 
 
 
| 児玉昌己 | - | 17:28 | comments(0) | trackbacks(0) |
 若竹酒造(田主丸)の蔵開きに出むく
 昨日は萃香園での久留米ロータリーの例会に招かれ、この地を代表する紳士淑女を前に、EUの難民問題とイギリスのEU離脱を問う国民投票など、最新EU事情について卓話をさせて頂いた。
 土曜日の今日は仕事から解放され、若竹酒造(田主丸)の蔵開きにバスで出かけてきた。
 私が部会長を務めている勤務校の比較文化研究所の欧州部会講演の常連さんに声をかけてもらったのである。
 現在の勤務校に移籍し久留米に来るまで、筑後地方のチの字も知らなかったのだが、すでに14年が過ぎて、それなりに人間関係もできている。  副社長の篠田さんとは、酒関係の会合であいさつを交わしていたが、今回社長を務められているお兄さんにもお会いできた。
 100円のぐい呑みを買い、それで利き酒して回るのだが、創業元禄年間という老舗中の老舗だけに、お酒のバリエーションも実に豊富だ。
 もとより、何本か求めるために、リュックを背負って出かけていたのだが、若竹醤油にも顔を出し、醤油に加えて、酒粕や星野村のお茶、奈良漬なども買い求め、楽しい土曜日のひと時となった。
 それにしても、アトラクションでは、大道芸人さんの河童のパーフォーマンスもあり、昭和30年代にタイムスリップした感じだった。
 歴史と伝統を守る心意気と、この筑後の奥深さには、いつも感動を覚え、敬意を表する次第だ。
   夜はもとより、粕汁にして、楽しんだ次第だ。
参考ブログ


 
| 児玉昌己 | - | 23:26 | comments(0) | trackbacks(0) |
小選挙区制度を固定化し、厖大な死票を積み上げ、抜本改正をなし崩しにするアダムズ方式に反対する
 選挙制度改正は焦眉の急である。実際、本質的な制度改革の中長期的議論も必要だ。
 そしてアダムズ方式が何かまともなもののように喧伝される。
 果たしてそうだろうかな。
 云われているアダムズ方式の向こうにあるのは何かね。

 アダムズ方式は都道府県の人口比率を反映しやすいのが特長で合理的な方法といわれている。
 「衆院選の選挙制度改革 「アダムズ方式」は一票の格差を埋められるのか」THE PAGE 222日がそれだ。

 だが、何をもって合理的というのか。
 これは、有権者の投じた票の半数以上が虐殺される1人区を本旨とする小選挙区制度を、未来永劫、固定化する極めて危険な方式である。つまり、わが国の選挙制度の、有権者の意思を体現した抜本的改正から遠ざける方式である。それがゆえに、まったく支持できないのである。

 小選挙区を前提とし、人口比で定数を定めれば、人口の大きい東京、神奈川、埼玉などが議席を多数持ち、少数県では限りなく議席がゼロに近づくというだけのことだ。しかも、10年ごとの定数調整という。だがそれは、小選挙区内での議席の調整にしか機能しない。
 1票の格差どころか、全選挙区にわたる小選挙区制度の死票問題こそ憲法違反というべきもので、前々回2012年の総選挙では、小選挙区で投じられた票では、全体で実に56%、3730万票という膨大な死票がでた。この問題については、小選挙区間の調整方式に過ぎないアダムズ方式では、まったく問題にもされない。
 この制度は、一見1票の格差を解消するようにみて、さらに徹底して民意の合法的虐殺状況を固定していく制度である。妖怪映画、「アダムズファミリー」並みの時代錯誤のお化け屋敷と私が評すゆえんである。
 ちなみにアダムズ方式とは19世紀の第6代米大統領(1767-1848)の名からきている。200年ほど前に考案された方式で、小選挙区制度を前提にし、それに割り振るために使用する限り、まさに古色蒼然という方式である。
 
19世紀の時代錯誤の封建遺制を持ち出してこれを改革というのかね。
 問われているのは、21世紀の衆院選挙制度改革である。
 しかもそのアメリカ、下院任期はわずかに2年、人口が3億を超えても、90年近く不変の下院議員定数435では、100万に2人も確保できず、国民の声もはるかに遠い。それがゆえに、格差全開で、人口比で15%が困窮に喘ぐ貧困超大国である。米貧困者4600万人=過去最多、人口比15―2010914  
 行政府が圧倒する大統領だが、選挙は下院選挙同様、いまだに植民地遺制の驚くなかれ、直接選挙でなく間接選挙(投票総数でゴアに負けていたあのブッシュJrを生んだこともある)で、その共和党の有力候補は、特定の宗教をもって、その入国を禁じるなどと大衆迎合丸出しの、憲法感覚を著しく欠く不動産王だ。
 こと国家の政治を決定する選挙制度では、米国は封建遺制の中に眠りこけているという認識を持つ必要がある。
 日本に戻せば、定数是正のたびに地方の代表は削減され、ただでさ、インフラ、モノ、カネをすべて集中的にそして圧倒的に持っている大都市部の議席が積み上げられるだけではないか。そして地方は代表を失い、確実に死滅していく。
 そしてその行き着く先は、イギリスが苦しんでいる完全小選挙区制度へのシフトである。
 比例は民意を完ぺきに反映し、しかも小選挙区制度の厖大な死票を軽減する意味を持っているが、その削減も佐々木調査会さえも提言している。
 メディアが社説を掲げるとすれば、現行の半数を超える国民の声が合法的に死票として抹殺される小選挙区制度の上に立ち、その強化に手を貸し、地方創成どころか、地方総殺に機能するだけの佐々木調査会の答申そのものを問うべきなのである。
参考ブログ
2015.03.11 Wednesday 日経よ、日本の国会議員定数は並? 過小ではないかね 
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3813
2015.02.14 Saturday
アダムズ方式? 「アダムズ・ファミリー」なみの古色蒼然の、子供だましの衆院選制度改革

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3804
2014.12.16 Tuesday
 自民圧勝の虚と怪 これが小選挙区制だ 得票と獲得議席の著しいかい離 全有権者の25%
の支持で76%の議席
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3778
2014.12.18 Thursday
 産経の意味不明の選挙制度関連記事 で、山本記者よ、何をどうしたいのかね

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3780
2014.10.13 Monday
 相変わらず時代錯誤の反民主主義の比例定数削減を唱える民主と維新

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3751
2012.09.02 Sunday
 大手新聞社の政治部記者の選挙認識のレベルに驚く 1-4 毎日用語解説と日経坂本英二編集委員にみる選挙解説の問題 

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3259
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3260
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3262
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3262
2012.12.18 Tuesday
これが小選挙区選挙の実態だ 上下 死票は半数以上、3730万票、死票率は実に56.0

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3355
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3356
2012.01.30 Monday
比例80削減は、民意の「扼殺」 1-5 衆参の議席は国権の最高機関の機能の保障であり、財政改革の対象ではおよそない
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3063
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3064
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3065
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3066
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3067
2011.10.04 Tuesday
国会議員定数国際比較についての本ブログ記事への反応
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=2947
2011.10.07 Friday
 ウォール街デモに思う 上 貧困大国米市民の悲鳴
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=2950
 
| 児玉昌己 | - | 08:49 | comments(0) | trackbacks(0) |
EU離脱の政治 もう1つの保守党分裂 欧州議会の院内会派ECR(欧州保守改革党)の英議員団分裂
 EU離脱の国民投票がイギリスでは連日報じられているが、この一点をもってしても、EUがイギリスのみならず、加盟28か国のすべてにとって、国家的重要性を持つ出来事であるかを知らしめるものである。
 ところで、このEU離脱問題については、保守党のキャメロン政権では、閣僚の5名が離脱支持であることは知られている。また複数が態度不明である。
 つまり閣内分裂状況にあるのが、現在のキャメロン政権である。
 キャメロンが自分が火をつけ、今度は消して回るといういわゆる「マッチポンプ」式にEU離脱を政治的に取り上げ、一転残留というように、ピエロ的に動いているからでもある。これでは離脱主義者はキャメロンの裏切りとしかみえない。

  実際、キャメロンが「改革」を唱えた移民労働者の社会保障の支給削減、EUの連邦的統合への無期限的性格をうたったEU条約の前文のますます緊密化する同盟」(Ever closer Union という文言の除去など、対EU交渉では、わずかに自国が、それに参加しないという利己的なものに終わった。 ちなみに条約改正は28か国の全会一致。
 つまりキャメロン首相は、わずかな譲歩のみで、むしろEUが前提としている移民労働者の福祉の制限を主張し、年来の親英はというべき東欧の諸国家をいらだたせ、
EU全体の方針に重要な点ではいささかも主張を貫徹できないという状況で終わったのだから。
 話を戻せば、EU離脱についての英保守党内部での分裂の話は、閣内だけにでは終わらない。
 EUネット専門誌EurActivが欧州議会でも保守党議員団の分裂が顕在化したしたことを以下で伝えている。
 ECR chief backs Brexit. EurActiv.com ‎2016‎‎3‎‎11‎日がそれだ。
 この見出しですぐに合点がいく人は、相当のEU通だ。
 EUでは28か国すべてで、自国議会同様に、代表民主制度をとり、EUレベルでの議会制民主主義を展開している。その場が欧州議会である。
 そこでは人口比で各国ごとに割り当てられた定数に基づき、5年に1度の直接選挙で議員を選出している。それにとどまらず、各国から選ばれる代表は、国家の議会同様、欧州レベルでイデオロギーが近似する他の国の政党と国家横断的に院内会派を形成して、欧州議会で政党政治を実践している。
 イギリス保守党でいえば、2014年の欧州議会選挙では保守党は20名の議員を送り込んだ。彼らは、ECRを形成して欧州議会で活動している。
 もともと、イギリス保守党といえば、欧州議会では、EU推進政党の欧州人民党に加盟していたが、2009年に最大会派が、あまりに親EU的であるとして、EPPを離脱し、ポーランドの友党などを誘って、独自の会派保守改革グループ欧州保守改革グループ(ECR)を結成した。
 現在の勢力でいえば、751議席中76議席で、院内勢力としては、欧州人民党、欧州社会党(院内会派名社・民S&D)についで、第3位の地位にある。
 そのECRに属する20名のイギリス保守党議員団でも、EUの離脱については、分裂状況であるというのが今日のブログである。
 すなわち、このECRの議長を務めているイギリス保守党出身の欧州議会議員サイド・カマルSyed Kamall(自身はモスリム)がここにきて、なんとキャメロン首相の政府方針とは違い、EU離脱の支持を明らかにした。すなわち議員団の中で、分裂している。もっとも、離脱が国民投票で消えれば、すべてが議席を失い、帰国することになるのだが。
 この議長の表明で驚いたのは、ECR加盟の他国の議員団である。
 
 これに抗議して、これは彼個人の見解であること、院内会派としてはイギリスの
EU残留を支持しているがゆえに、早晩カマルは議長(代表)職を辞任すべきとしている。
  ところで、欧州議会では、EU
レベルでの政党政治を展開する実態として欧州政党と院内会派の規定を置いており、院内会派の形成要件として、加盟国の4分の1以上、すなわち、7か国25名以上と定めている。
 ポーランドの「法と正義党」が18名を有し、会派内第2勢力である。注意すべきは、この会は、1名が実に8か国もある。

 すなわち20名と同会派内最大勢力のイギリスの議員団がECRから一度に抜ければ、ポーランドの政党の指導力は限られており、確実に政党としての力を失い、1名の国家の議員も集散し、会派形成要件を満たせず、解党に追いやられる可能性が高い。
 私は、イギリスの反EU派の粗雑な議論にはうんざりしているから、EUから離脱したかったらどうぞご自由にと、皮肉を込めて、数日前に下記のブログで離脱支持と書いている。
 そのブログの中で、その影響は欧州議会のこの院内会派にも及ぶと書いている。私が指摘したそのことが、まさにこのEurActivの上記の記事と関連するものである。
 現在でも、キャメロン内閣同様、欧州議会のイギリスの保守党選出の欧州議会議員団の中にも亀裂が入っている。
 イギリスがEUから離脱すれば、イギリスは、欧州議会という欧州政治における重要な場でも、その影響力を失う。欧州の主流から離れたまさに田舎国家、最悪リトルイングランドとなる。
 それでも離脱したければ、どうぞというのが私の考えだ。
参考ブログ

2016.03.16 Wednesday 王室をEU離脱キャンペーンに使う英メディア「サン」ら反EU派の魑魅魍魎 
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3996
2016.02.28 Sunday 英のEU離脱 個人的には賛成である
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3985
坂井ロンドン支局長よ、EUは「国家連合」を目指しているからとはロンドン市長は言っていないよ 「連邦的同盟」federal unionを目指しているから離脱すべきと言っている
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3984


 
| 児玉昌己 | - | 10:35 | comments(0) | trackbacks(0) |
 王室をEU離脱キャンペーンに使う英メディア「サン」ら反EU派の魑魅魍魎
  王室3月10日のブログですが、誤って削除したようで、再録します。
  
  3か月後の6月23日に世紀的な重要性を持つイギリスのEU残留を問う国民投票が実施される。
 
Brexit(ブリクジット)という言葉も連日報道されている。
 この問題については、このブログでも書いたし、連日メディアでも広く報じられている。
 今日は大衆紙ザ・サンの記事を紹介しよう。
 なんと、一面全段抜きで「女王陛下はEU離脱を支持」(Queen backs Brexit)とエリザベス女王の、正装した写真を掲げて、報じた。
 「女王が離脱を支持する」との報道が真実ならば、その影響は計り知れず、それゆえ、ただならぬ記事である。
 これに対して、すぐさま、王室広報部は「偽の、匿名の情報にはコメントすることはない、それは国民が決定することである」と対応した。
 サンといえば芸能ゴシップで有名で、3頁に女性のトップレス写真を掲げてきたことから、「3頁の毎日のxx」というあだ名で呼ばれてきた。もっとも、近年、ヌード掲載反対運動で、この頁は終わりを迎えたとのことであるが。
 女王が離脱賛成という劇的な「サン」の記事の背景を言えば、2015年の総選挙で大敗し、連立を離脱した英自由党の前党首ニック・クレッグが副首相時代に、彼の前で発されたというものである。
 この記事については、まったくありえないことだと、クレッグも直ちに否定した。
 EU離脱をめぐる賛否のイギリスでの政治キャンペーンは過熱している。
 例えば、 Financial Timesはここ2週間急速にEU離脱の不利益を報じ始めている。そして同紙はイングランド銀行がその意見を明らかにすべきだ、とも書いていた。
 [FT]英中銀総裁もEU離脱問題を語れ(社説)2016/2/25.
 それに答えたかのように、昨日9日付では、イングランド銀行がそれまでの沈黙を破りEU離脱の危険を語っていた。
 Bank of England warns of Brexit risks, angering eurosceptics. Guardian. Mar 8, 2016
 他方、英商工会議所BCCJohn Longworth専務理事はキャメロンの残留キャンペーンは誇張であると語って、EU離脱を支持していた。だが、この発言で、官邸筋から圧力がかかり、その首が飛んだ。
英商工会議所代表がEU離脱支持で辞任、キャメロン首相を批判| 2016 03 7
 それゆえ、EU離脱派も必死である。
 このように、日々、賛否両陣営はメディアを巻き込み、虚々実々の駆け引きを展開している。
サンの記事はそうしたコンテキストの中で出てきた、EU離脱派、反EU派による一種の謀略的報道というべきだろう。
 それにしても、王室を政治に使うとは、全くあきれるばかりの「心がけ」である。
 このレベルの低さがゆえに、ファラージュら反知性的な反EU派の言説を、全く私は信用していないのである。
 ちなみに彼らには「EU懐疑派」という言葉もあるが、ストレートに反EU派と表記すべきだと私は理解している。
同じ反EU派でも、知的にものをいうボリス・ジョンソン(ロンドン市長)などは例外的なのだが。

参考ブログ
2016.02.28 Sunday 英のEU離脱 個人的には賛成である
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3985
2016.02.26 Friday

坂井ロンドン支局長よ、EUは「国家連合」を目指しているからとはロンドン市長は言っていないよ 「連邦的同盟」federal unionを目指しているから離脱すべきと言っている
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3984
| 児玉昌己 | - | 23:17 | comments(0) | trackbacks(0) |

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