震災発生10日。
こちらはそれと並行して、6月23日に迫ったイギリスの近づく国民投票をウオッチしている。
米大統領バラク・オバマが4月22日からイギリスを訪問している。
表向きは嬢王陛下の90歳の誕生日をお祝いの表敬だが、さらに重要な意味がある。英のEU離脱の動きをけん制し、その愚を説くことである。
Obama: US needs Britain inside EU EUobserver, 22. Apr, 2016.
しかも離脱となれば、イギリスが必要とする米国との通商協定では、イギリスを特別扱いしないともいう。
Obama: No quick UK trade deal if it leaves EU. EUobserver, 22. Apr, 2016.
イギリスの国民投票キャンペンで、EU離脱を説いている集団には手痛い打撃である。
ところで、 Financial Timesのフィリップ・スティーブンス(Phillip Stephens)についてはトランプ支持の米国の有権者と欧州のポピュリストとの相関性を指摘した記事を書いている。
後述するように、イギリスのEU離脱をめぐる国民投票に関連しても、積極的に発言している。
他方、反EU論を盛んに展開していたギデオン・ラクマン(Gideon Rachman)の記事をあまり見かけなくなったのは、Financial Timesの方針転換だろうか。
最近のイギリスの動向は、 Financial Timesの記事のいくつかを日本語でカバーしているJBプレスのサイトでもそれを見ることができる。
EU離脱派についていえば、EU離脱の理由とその後の生き方については、イギリスの大陸との関係よりも、米国との歴史的で特殊な汎大西洋主義を強調し、米に加えて、オーストラリア、ニュージーランドなど旧植民地諸国との関係を強調している。
そしてそれを主にヨーロッパ大陸諸国からなるEUからの離脱の理由としようとしている。
しかし、Financial Timesのフィリップ・スティーブンス記者は、それらのイギリスの友好国のどの国がイギリスのEU離脱を支持しているのかと痛烈に批判し、以下、書いている。
「ブレグジット賛成論者にとってはさらに悪いことに、英国の友好国はほぼすべてオバマ大統領と同じ認識を持っている。1950年代や1960年代の欧州懐疑派は、欧州の代わりにコモンウェルス(英連邦)を好んで売り込んでいた。その末裔たちは「アングロスフィア(英語圏)」なるものの、つまり英語を母国語とする英国、米国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの5カ国から成るグループの再興を熱望している。」と。
「英国のEU離脱派がオバマを黙らせたい理由 「英仏海峡の代わりに大西洋」という選択肢はない」Financial Times 2016.4.19 (邦語訳は上質なJBプレスによる)原文タイトルは以下 Why the Brexit crowd wants to silence Obama April 14, 2016 Philip Stephens
IMFも、イングランド銀行も、イギリスのEU離脱の惡影響をデータで示し始めている。
すでにこのブログで書いているが、イギリス人は初めて、まともにEUとイギリスのことを考えるにあたって合理的という意味でまともなデータを得ているといえる。
実際「BBCのEUへのネガティブな報道は、プーチンや習近平にたいするもの以上のものだった」(The BBC is more negative about the EU than it is about Russia’s Vladimir Putin or China’s Xi Jinping)とガーディアン紙は指摘しているほどだ。
BBC's EU reporting 'more negative than its Putin coverage' Jasper Jackson Guardian 21 April 2016
私自身のEU離脱問題への見解、すなわちBritainとExitの造語であるBrexit(ブレグジット)という名で知られてきたEU離脱問題への見解については、最大の皮肉を込めてブログしている。(下段ブログ参照)
もっとも、EUが素晴らしいと手放しで言っているのではおよそない。しかし陸続きの中小規模の国家がひしめく欧州が単一市場を志向する限り、EUを通したヨーロッパ統合は進むしかないし、それは国家の連合体である欧州連合ではなく、加盟国を統括する政治組織を持つ欧州連邦を必然とするといっているのである。
さらにいえば、イギリスがEUを抜きにしては国家を考えられないほど、加盟国へのEUの影響力は大きいということを言っているのである。
EUはわが国では、誤って「欧州連合」と訳され、国家連合と思われている。
EUの到達目標についてその無期限性を書いた言葉ever closer unionを「さらに緊密な連合」とすると、到達目標は連合を超えることがない。ユニオンはフェデラル・ユニオンであり、連邦を志向している。
その意味で、邦語いう「欧州連合」というEU表記は完全な誤訳なのである。
実際、EUが国家の主権的権限が国家の側に大規模に存在する国家の連合である欧州連合であれば、イギリスが離脱するかを問う国民投票など必要ないのだから。
事実、EUは1950年のシューマン宣言以降、66年にわたり、国家連合であることを否定する思想と行動をとり続けてきた。
すなわち、欧州連邦の構築にに向けて進んできている。そして多数決の多用など主権国家からなる国際連合などとは全く違う組織原理と政治装置をもって進んでいる。
欧州連邦を形成するEUが持つ動きは、必然的に国家主権を痛撃しているのであり、今後も長く国家主権と ゴールドシュタイン (L・ Goldstein)がいう「連邦主権」(Federal Sovereignty)の関係は、EUの加盟国とヨーロッパ政治全般を規定していく。
Leslie Friedman Goldstein, Constituting Federal Sovereignty. The European Union in Comparative Context. Johns Hopkins U.P. press.2003.
さてイギリスの有権者は、どう判断するのだろうか。
下手をすると、新EU派のスコットランドのイギリスからの分離独立とイギリスという国家の解体まで展望できるこの世紀的な政治事件となる可能性を秘めているのが、6月に迫った国民投票である。
今、この世紀的国民投票を現地取材しにロンドンに出向くかどうか、あれこれ日程調整を進めている。
UKIPに代表される反EUポピュリストの反応を直に見て、感じてみたい。
ただし残留が決まっても、イギリスとEUの関係は上記の私のブログで指摘するように、イギリス側からも、EU側からも、明かるいものでは全くないことだけは確かである。
参考ブログ
2016.02.28 Sunday 英のEU離脱 個人的には賛成である
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3985