児玉昌己研究室

内外の政治と日常について想うことのあれこれを綴ります。
「キャメロンの国民投票は英政治史上最も馬鹿げた政治運動である」David Cameron's EU referendum is the most absurd political campaign ever fought(N・Nelson The Mirror)
  イギリスのEU残留を問う来月23日の国民投票が迫ってきた。その取材でロンドン出張する。
 そのイギリスは残留remain 離脱leaveの両キャンプの政治運動が過熱している。
 EU離脱派陣営にあって、2か月前にはまだ抑制が効いていた前市長のボリス・ジョンソンだが、両陣営のキャンペーンが加熱するにつれ、EU統合は、ナポレオンやヒトラーと同じ企てだといって、人々を幻滅させた。それは書いた。
2016.05.16 Monday 加熱する英のEU残留を問う国民投票 陣営内で齟齬(そご)を来す ヒトラーを持ち出すジョンソン前市長
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=4036
 保守党内の離脱陣営は、仮に国民投票で残留が決まっても、党首であるキャメロンに対し不信任案を出すなど言う。
 「残留が決まっても」、というところに最近の離脱派の劣勢とそれを背景にした危機感が強まっているのだが、それほどキャメロン不信が強く、保守党内の亀裂は泥仕合というにふさわしい。

 そんななかで、かつてキャメロンを長く支えていたSteve Hiltonがタイムズとのインタビューで語った評価がAFPを通して広く報じられた。
 ヒルトンは現在米国に居を移しているが、2009年に6歳で亡くなったキャメロン首相の息子の名親(洗礼立ち合い)で、20年来の盟友でキャメロンの選挙参謀を務めた人だ。
 その彼が以下いう。

“If he was a member of the public, or a backbench MP or a junior minister or even a cabinet minister, I’m certain that he would be for ‘Leave.’

「もしキャメロンが一般市民、あるいは陣笠議員、あるいは閣外相であるなら、さらには閣僚であったとしても、彼はEU離脱支持者となっていたことだろうと、確信している」
 Cameron is pro-Brexit by ‘instinct’ By AFP 26 May 2016.「キャメロンは本能的にEU離脱派だ」(盟友ヒルトン)
 実際、キャメロン自身「私はEU懐疑派だ」と公言していたが、彼の過去を振り返れば、それを超え、EU離脱派というにふさわしい実績を残している。
 例えば、EUの行政府である欧州委員会の長選出の政治過程、いわゆるspitzenkandidatプロセスでみせたユンケルつぶし工作に表れている。その様を知るものとしては当然だという気持ちだ。
 実際、2014年2月スウェーデンまで出向き、ユンケルつぶしを画策したが、6月の欧州理事会で蓋を開ければ、最終的には民主主義に問題のあるポピュリスト、オルバンのハンガリーのみがキャメロンにつく26対2という欧州理事会史上最大の不必要な惨敗を見せていた。
 この結果は当初からわかっていて、それでも玉砕覚悟で、採決を求めたのであった。

 またEU残留の条件は、いくつかあったが、EU統合の無期限的性格をいう由緒ある条約上の文言、「一層緊密な同盟」(ever closer union)の削除を口にしていた。このユニオンはフェデラルユニオンと一般に理解され、国家連合を否定する欧州連邦形成を暗示した言葉である。
 ちなみにこれを「一層緊密な連合」と訳する者がいるが、連合という訳語ではキャメロンがなぜこの文言に反対しているのか、まるで不明となる。
 EUは通貨同盟、関税同盟、財政同盟、そしてそれらを含んだ連邦的政治同盟というように合意による主権譲渡の連邦形成の性格を持っているのであり、そのことについて全く認識が及んでいないということである。
 しかも、これは
EU条約上の文言で、全会一致でないと削除できない性格の基本的なものであった。
 それがゆえに親英的なポーランド首相経験者で現在も欧州理事会の議長を務めているトゥスクさえ、トムクルーズの映画タイトルから来た「不可能な任務」(
mission impossible)と語っていたのである。
 結局、イギリスだけが連邦的統合の深化をいうこの文言を認めないという立場に、すべての加盟国は意を置く、という程度の決着を見たに過ぎなかった。
 それゆえ、いまEUについて、その残留とその必要性を声高に唱える彼キャメロンを見ていると、まさにマッチポンプ、すなわちあちこち火をつけて、後で消して回る滑稽なピエロというべき姿が実に印象的である
 そして労働党系で親EU派のタブロイド紙ザ・ミラーMirrorのコラムニスト、ナイジエル・ネルソンはいう。
 それが今日のブログの結論であり、見出しである。
David Cameron's EU referendum is the most absurd political campaign ever fought. The Mirror, 28 May 2016.
 なお、EU離脱派は最近大量難民の流入の危険を強調し、国民健康保険NHSへの負担を離脱の理由とする論調を強めている。
 だがその実際については、例えば、ガーディアン紙がポーツマス病院の事例として、80名の医師、350名の看護婦は、他の
EU加盟国出身者。英国全体で13万のEU加盟国出身の医療や介護の関係者がいて、イギリス以外からきた彼ら(彼女たち)から「途方もない」便益を受けている、と報じている。
NHS had benefited “enormously” from 130,000 European Union doctors, nurses and care-workers. theguardian.com 2016522
 イギリスでは史上初めてあれこれの対EU関係の正確なデータが提示され、国民の間にまともな事実認識に立ったEU認識が形成されつつあるといえる。
 それほどに、BBCも含めて、イギリスのメディアは、ことEUといえば、極めて一方的で偏向したタブロイドの煽情的記事にあふれたており、社会は、反EU報道の害悪に染まっていたのである。
 実に「史上最もばかげた」とミラー紙のコラムニストネルソンが書いたキャメロンが導入した今回のEU残留を問う国民投票に意味があるとすれば、イギリス人がそうした環境を、イギリス戦後史を決定的に画する重要性と意味を持つ政治イベントのまさに土壇場で、ようやく得たということであろう。
参考ブログ
 英の国民投票については、最大限の皮肉を込め、個人的には、以下ブログしています。

2016.02.28 Sunday 英のEU離脱 個人的には賛成である
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3984

2016.05.07 Saturday
EU加盟国首都で史上初のムスリムのロンドン市長誕生とその意味 人種差別主義への一撃
http://masami-kodama.jugem.jp/?day=20160507

 
追記 
 キャメロンはロンドン市長選で数週間前まで労働党候補でムスリムのサディク・カーンを「イスラム過激派」との関係があると根拠もない個人攻撃していた大金持ちの与党候補ザック・ゴールドスミスを応援していた。
 だが、その与党候補が大差で敗れた今、先の発言を謝罪し、サディク・カーン氏と連携するのは「誇りである」と語っていることが、ミラー紙により皮肉られている。
 この急変ぶりこそキャメロンという指導者の資質が表れているように思えるの私だけだろうか。
 もとより、キャメロンは残留獲得に必死だ。
 もし僅差の結果で残留が決まったとすれば、保守党内を分裂させたとしてキャメロン不信が広がり、首相継続の目論見は大いに揺らぐのだから。

David Cameron says he's 'proud' to campaign against Brexit alongside London Mayor Sadiq Khan... just weeks after condemning his links with extremists.By James Tapsfield, Political Editor For Mailonline.The Mirror 30 May 2016.



 
 
| 児玉昌己 | - | 13:00 | comments(0) | trackbacks(0) |
"horror scenario". "G7 2017 with Trump, Le Pen, Boris Johnson, Beppe Grillo

I quite agree with European Commission president Juncker's cabinet chief, Martin Selmayr in his telling that having populist leaders around the world would be a "horror scenario".
G7 2017 with Trump, Le Pen, Boris Johnson, Beppe Grillo is just a horror scenario.

reference:
Juncker's spin-doctor warns of populist 'horror'

https://euobserver.com/tickers/133567
 By EUOBSERVER 26. May 2016.
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| 児玉昌己 | - | 01:33 | comments(0) | trackbacks(0) |
伊勢志摩で始まった2016年のG7主要国首脳会議
 2016年のG7主要国首脳会議が伊勢志摩で始まった。石油危機を受けてジスカールデスタン仏大統領の呼びかけで始まったこの会議、当初は「先進国首脳会議」と言っていたはずだ。
 8年ぶりのホスト国ジャパンでのサミット。もし何かあったらと、警備も大変だ。
 この会議を面白く思っていないのは、蚊帳の外のロシアと中国、そして異様というべくも日本を意識し、プライドはどの国に増して高い韓国かもしれない。
 韓国の報道を見ていると、サミットが、最大の当事者である北朝鮮の核や世界経済を討議する重要会議であることも失念してか、ほとんどその関心と報道は、サミットではなく、オバマの広島訪問と朝鮮人被爆者への謝罪に特化している感じである。
 しかも、旧日本帝国主義の戦争の責任を希釈するという認識でのみこれをとらえ、核廃絶への努力の重要性をもつオバマ広島訪問の重要性には意味をみず、理解を示さないという感じだ。自国が議長を務めたG20とは違い、当事者でないこともあるのだろう。

 本題の主要国サミットに話題を戻そう。
 前回2008年の洞爺湖サミット(第34回)の顔ぶれを確認すると、8年の時の流れを感じる。

 主催国は福田赳夫の息子康夫首相(今年担当者、安倍)、米はブッシュ(オバマ)、フランスはサルコジ(オランド)、イタリアはベルルスコーニ(レンツィ最若年41歳)、英はブラウン(キャメロン)、EUは欧州委員長バローゾ(ユンケル)、カナダはパーパー(トルドー)

 
8年前の洞爺湖サミットを知るものは、長期政権を継続中で会議参加者として最高齢者61歳のドイツ女性宰相のメルケルのみ。
 今年、第42回伊勢志摩サミットの集合写真を見ると、9名が写っている。
 数が合わないではないかと思われる方もおられるかも。であれば鋭い観察眼だ。
 これにはわけがある。
 EUでは、人口順に言えば独、仏、英、伊の主要国のほか、28か国からなるEUを代表して欧州委員長と欧州理事会常設議長の2名が出ているためだ。
 記念写真では、08年は欧州委員長バローゾ(ユンケル)だけだったが、今回は
EUを代表し欧州委員長とともにポーランドの首相経験者ドナルド・ トゥスク欧州理事会議長も写っている。もとより会議にも当然参加する。
 そして8年前と違うのはロシアだ。
 ロシアはクリミアなどの領有問題で、米国とも対立し、
EUからもボイコットされ、2014年からはこの会議の資格停止処分を受けているので、操り人形とも、ワンポイント・リリーフともいうべき前回出席のメドベージェフに替り、本来の大統領職に戻ったプーチン不在のG8ならぬG7である。

 
| 児玉昌己 | - | 19:48 | comments(0) | trackbacks(0) |
オーストリア大統領選 極右のホーファーを抑えて元緑の党党首ファン・デア・ベレン僅差の勝利
 日付も変わった深夜大きなニュースが飛び込んできた。
Far-right candidate narrowly defeated in Austrian presidential election
Alexander Van der Bellen, a former Green party leader running as independent, beats the Freedom party’s Norbert Hofer
Guardian, Monday 23 May 2016 15.27 BST

実はイギリスの国民投票の動向を捕捉しつつこの結果を待っていたのだ。
すなわちオーストリアの大統領選挙である。社民出身のハインツフィッシャーの後任を選出する選挙であった。
 極右の候補が4月の第1回投票で35%強を集めて自由党の第一位に立っていた。
 国民党など中道右派と社会民主党の中道左派が入れ替わる形で、あるいは大連立を組み、ずっと政権を運営していたのがこの国である。しかるに、後に事故死したハイダー率いる自由党が移民流入への反対を政治的てこにして、2000年に政権入りするに至り、EUの制裁を受けることになるほどであった。
 その後、ハイダーが新たに離党し形成した未来党も含めて、近年では、極右勢力が下院議席の3割に達するに至っていた。
 今回大統領選では、政権を担当してきた中道の左右勢力が後退し、決選投票では、極右と、無所属とはいえ緑の党の党首経験者の左派が激突する構図となった。
 そしてこの6月の決選投票でも、この集票から自由党候補の勝利が予測されていたのである。
 実際、BBCも開票では僅差でリードと伝えていた。

 決選投票では、反極右票を集めて、緑の党の元党首で大学教授を務めた無所属のアレクサンドル・ファン・デア・ベレン(72が、ノルベルト・ホーファー(45に僅差で勝利した。
 郵送分の不在者投票の開票を待つために、いったんの結果発表が止められていた。
 その時点では、ホーファーの勝利が伝えられていたのだが、まさに土壇場での逆転の勝利だ。

 自由党候補が49.7%,  ベレンが50.3%である。
 わずかコンマ0.6で、いかに激戦であったかである。

 大量のイスラム移民の流入を前に右傾化するEU諸国にあって、なんとか理性が勝利したということだ。
 喜ばしい。
  追記(AM9:20)

 ファン・デア・ベレンは、第1回投票では91.3万票(21.3%)、決選投票では134万票(50.3%)のばし254万票と票を伸ばした。
これは左派陣営を中心として、EUで初めてとなる極右の大統領の出現に対する穏健な市民の危機感を背景とした集票結果だったといえる。

 他方、極右自由党のホーファーは70万票余りを伸ばし、222万票。
 なお、決選投票での投票率は72.7%(前回2010年は49.17%)で、今回有権者の関心の高さが顕著であった。
 それにしても、2000年当時は極右オーストリア自由党の連立入りでは、EU各国が制裁に入る事態であったが、今では、多くの国家では反EU政党が政権をうかがうに至っている。
 ハイダー自由党が政権入りし、実に16年にして、欧州をめぐる排外主義的ナショナリズムの再生には改めて驚かされる。

 それだけ、とりわけ移民政策について、そして底辺の労働者への社会政策で既成の政治と政党に不信感があるということでもあるのだろう。
 EU統合も急速に進展した。そしてヒトモノカネの自由移動が進展した。しかるに皮肉にもその結果、打撃を受ける生活弱者が出ている。
 21世紀初頭の20年は、急激に進んだ欧州統合への揺れ戻し、すなわち調整段階にあるということでもある。
 作用に対する反作用としてのこのEU加盟国での調整過程は、1985年欧州単一欧州議定書以降、EU統合が進んだのと同じくらいの歳月、すなわち、30年単位で見ておく必要があるのかもしれない。

参考ブログ
2008.10.12 Sundayオーストリアのハイダー党首の突然死 上下
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=1476
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=1477
 

 
| 児玉昌己 | - | 01:11 | comments(0) | trackbacks(0) |
貴兄は行政府の長だよ 安倍総理
安倍首相は、立法府の長といったと、確信的に予算委員会で語っている。
 ユーチューブでしっかりとその場面が残されている。

しかも過去にも同様の発言をしていたともいう。しっかりしなさいと言いたい。
貴兄は行政府の長であって、立法府の長は衆参両院議長だよ。
 ちなみに司法の長としての最高裁長官を加えて、これを三権の長という。

衆 院と参院を公明との連立で抑えているから錯覚したようだが、これはいけない。
無知と、おそらく驕りに基づく誤解といえる。
あまり学生時代に政治学の勉強せずに政治の世界に入ったのかもしれない。
 たかが30%台の支持票で、政権を獲得する小選挙区制で、過剰に議席をとりすぎ、保守の政治家が軒並み緊張感を失っている。
 以前にはこうした驚きの発言をする首相もいなかった。
 近代の政治は3権分立だが、首相の頭の中では、立法府と行政府の2権の長を兼務しているということだ。それこそ独裁につながる認識である。
 小選挙区制度こそ日本の政治をだめにしている元凶である。

 いずれにせよ、自身の立場しっかり理解されることを望むばかりだ。
 参考記事
  安倍総理「私は立法府の長であります」 2016年5月16日衆院予算委員会
https://www.youtube.com/watch?v=L6y1Evc6UVU
 
「立法府の長」発言「言い間違えかも」 安倍首相が釈明 朝日新聞デジタル 523
参考ブログ

2014.12.16 Tuesday 自民圧勝の虚と怪 これが小選挙区制だ 得票と獲得議席の著しいかい離 全有権者の25%の支持で76%の議席
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3778
2015.02.14 Saturday
 アダムズ方式? 「アダムズ・ファミリー」なみの古色蒼然の、子供だましの衆院選制度改革
http://masami-kodama.jugem.jp/?day=20150214

 

 
| 児玉昌己 | - | 22:02 | comments(0) | trackbacks(0) |
潮目が変わったか 残留に急傾斜する英国民投票事前予測
 6月23日の英国民投票まで1か月。両陣営のキャンペーンも過熱してきている。
 ここにきて、ずっとハナの差だった両陣営の賛否は、たとえば、プリディクトワイズでは、7624と大差をつけ始めた。この数値は今までなかったことだ。
 先週の3年ゼミではYouGovでは残留が53、離脱47の数字だった。 この統計では上記のように大きな差はみられないのであるが。
 離脱派が劣勢になってきたのは、経済関係者が各種の英経済への打撃の数字を出すことで、EUの重要性が知られるようになったということだろう。実際、IMFしかり、OECDしかり、イングランド銀行しかり、ドイツのシンクタンクしかり。 
 そして米とわがジャパンを含む非
EU同盟諸国の政府の離脱反対論である。
これに対して、離脱派は、なすすべを知らない。
 このブログで何回も指摘しているように、経済合理性を考えると、実に英のEU離脱など最初からばかげた議論なのである。 しかるにEUの世論は日本のEU報道を思わせるほど、別世界というべくもEUを敵視し、笑いものにしていた。
キャメロンが「UKIPの攻勢にパニックになって」(Guardian, 22 May 2016国民投票を言い出したのだが、スタートからバカな話だったのである。
  ともあれ、離脱派は劣勢となり、キャンペーンの仕方が変わってきた。移民問題特にトルコをやり玉に挙げる仕方である。
 トルコこそ、
EUの移民の大半を一手に引き受けているというべき国家であるのにである。
 トルコのEU加盟問題については、これもいわくつきの話で、キャメロンの保守党は以前から、トルコのEU加盟を推進してきたのである。 その前提には、EUを欧州自由貿易連合(EFTA)あたりまで、希釈できるし、したいという気持ちがあったといえる。
もっとも、そのEFTAは、イギリスが主になって1960年に形成したものの、形成した翌年にはそれを見限り、自らEU(当時EEC)への加盟申請をしたほどで、現在は主要国はすべてEUに移り、小国が3つほど残るだけで、見る影もない。
しかも、そんなキャメロンは、サッチャー同様、欧州議会を低く見ていた。
 おそらくその当時は欧州議会の議席数にも思慮がいかなかったと思えるのだが。
 すなわちトルコは人口からして、ドイツを除くEUの3大国である英仏伊の議席数を超え、80議席を優に超えることになることも知らなかったというべきだろう。
 すなわちこの一点をとっても、イギリスの意思とは無関係に、
EUへのトルコ加盟はまず無理なのである。これについて2011年春に3か月にわたってNHKラジオ第2の歴史発見で話させていただいた。
 ちなみにこれは拙著「欧州統合の政治史」原書房でも書いているところである。
 話を戻せば、このトルコ加盟を離脱派は利用して、イギリスへの大量の移民が押し寄せるなどと、劣勢を跳ね返す議論とし始めている。まさにUKIPばりの人種主義的な対応である。

 イギリスの保守党主導による国民投票の導入と、現在に至る議論についていえば、以前も書いたが、キャメロンのピエロぶりだけが印象に残る。
火をつけておいて、決してに回る「マッチポンプ」の一人芝居という日本独特の表現にぴったりする行動である。
 今はEUこそがイギリスにとって重要だと、かつての議論などうそのような、EU擁護人と化している。だったらもう少しEUに敬意を払うべきであったのである。
 離脱派のキャンペーンに戻っていえば、それは労働党の一部議員も参加しているのであるが、UKIP(英独立党)と党首ファラージュをテレビから遠ざけたいという気持ちで満たされていたのである。
もっとも、キャメロンはITVでファラージュとやりあうほうがいいようにも報道されている。
 それにしても、650の下院議席でわずか1名という泡沫政党(欧州議会で73議席中22)でしかないのと、政権政党のトップがテレビの前で、同等の席に着くというのも、まったく不合理な話である。

 そのファラージュは、もし離脱派が、特に僅差で負けたら、保守分裂となり、保守党議員の3分の1はUKIPに移るなどと豪語している。
 保守党にしてみれば、これは最悪のシナリオとなる。

 すでに、保守党内の分裂は閣内分裂でみられるように、すでに明示的に存在する。
 最後にキャメロン内閣での離脱派を書いておこう。以下だ。

OUT: Chris Grayling, Leader of the Commons
OUT: Iain Duncan Smith, Work and Pensions Secretary
OUT: Theresa Villiers, the Northern Ireland Secretary
OUT: Priti Patel, Minister for Employment
OUT: John Whittingdale, the Culture Secretary 

参考記事
 Vote Leave embroiled in race row over Turkey security threat claims

Guardian.Sunday 22 May 2016.

They wanted to gag Nigel Farage. Now Tory Outers sound like him

Gurdian Sunday 15 May 2016.

| 児玉昌己 | - | 23:32 | comments(0) | trackbacks(0) |
主任警部モースと刑事フォイルの闘い BBC刑事ドラマの思わぬ名場面

 上記のタイトル、共にBBCを代表する刑事ドラマの主人公である。
 NHKが放映したからフォイルをご存知の方も多いだろう。
 肩書は前者モースがDetective Chief Inspector 後者のフォイルがChief Superintendentといい、フォイルが警視相当で、格が上である。
 とはいえドラマのこと。そして今日のブログ。
 インスペクター・モースInspector Morseを見ていた。
 1992年作の
The death of the selfがそれだ。これは珍しくオックスフォードから、助手のルイス刑事とイタリアに出張するという設定である。
 ここで驚くべきは、フォイル刑事のマイケル・キッチンが富裕層相手の詐欺師として登場していることだ。

 そして、オックスフォードから出張してきたモース刑事演じるジョー・ソーと対峙する場面がある。
 マイケル・キッチンといえば、Foyle’s Warで20年後に、今度は、第2次大戦中の抑圧的な社会を背景とした事件を解決するベテランの優秀な警視として登場する。NHKで大ヒットし多くの人が知る、中折れ帽が実によく似合う、渋い英国紳士である。
 20年の時を経て、マイケルキッチンは実に渋いまさにクールな役者さんになっていた。

 助手を務めたあのさわやかなサマンサ(Honeysuckle Weeks)とともに、あのクールさがあっての刑事フォイルである。
 ついでにいえば、上述のモース警部の The death of the selfの回ではニコールというオペラ歌手役で、フランセス・バーバーFrances Barberが登場している。
 こちらは30年後に イギリスの裁判所を中心として展開される各種の訴訟劇を扱った「Silk
王室弁護士マーサコステロ」で刑事担当でアル中気味の凄腕女性弁護士として登場している。

 ちなみにタイトルのシルクとは勅撰弁護士という法廷弁護士バリスターの中でも特別の資格を持つ絹のガウンからきている。
あれこれBBCの「古典的な」名作を見ていると、俳優さんのその後の成長が見えて興味深い。
 イギリスにあっても日本にあっても、役者は役者。
 そして誰にでもただ一度きりの、やり直しのきかない人生がある。
 ともあれ、BBCの名刑事ドラマに見る、それぞれの俳優のその後である。
参考ブログ
 
2014.04.28 Monday
 「刑事フォイル」(Foyle’s War 2002年放映開始)が面白い
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3656

2016.05.04 Wednesday 連休はイギリスのBBC制作の刑事ドラマで過ごす
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=4028

 

 

| 児玉昌己 | - | 22:05 | comments(0) | trackbacks(0) |
英国民投票でのEU離脱派のもう1つの齟齬 極右ルペンの英入国禁止をめぐる動き
 国民投票をめぐる離脱派内部での齟齬について、書いた。
今日は、もう1題。国民投票をめぐる外国からの動きについて。
皆さんは、マリーヌ・ルペンをご存じだろう。そうフランスの極右民族主義を掲げる国民戦線フロン・ナチオナールの党首である。
 彼女は来年の仏大統領選挙で決選投票進出必至という、父ジャンマリ・ルペンのFNを継いだ極右政治家である。

  彼女はイギリスのEU残留を問う国民投票を自己の政治的宣伝の絶好の機会として利用している。
 そして、それをイギリス国内で、残留派と連携してやろうというものである。
 この動きにたいして、離脱派内部で、彼女の入国を禁止するように入国管理を所管するメイ内務大臣に働きかけているというのが、今日のニュースである。
2016425日付の以下の記事がそれである。これはEurActivのフランス語版が報じ、英訳されている。
 ‘Vote Leave’ campaign leader calls for travel ban on Marine Le Pen. By Cécile Barbière EurActiv.fr. Translated By Samuel White.
 具体的に書けば、BBCが明らかにした24日付の内務大臣Theresa May宛の書簡の中で、ルペンの入国を禁止するよう求めるというのがそれである。
 労働党議員としてはめずらしくEU離脱派であり、
公的な“Vote Leave”の共同代表のGisela Stuartに手になるものである。
FNのナンバー2のFlorian Philippotによれば、ルペンは、離脱陣営からイギリスへの入国を要請されており、離脱の討論会に連携して参加する意思を持っているということである。 
 そして、彼は、イギリスは立憲国家であり、先進的な民主主義国家であり、それゆえ選出された議員であるフランス市民がイギリスに出入国することは、何の問題でもないと語っている。
 これにたいし、書簡を出したスチュアート議員は、これまでこの極右政治家は、例えば「街頭で祈るモスリムをフランスを占領したナチに例えるなど多くの、分裂主義的で、扇情的言説を振りまいてきた」と述べ、マリーヌの入国は、公共善にそぐわず、もし入国の意図をルペンが示した場合、これを貴下が差し止めることを要請すると書いている。
 さらにこの記事で興味深いことは、UKIPの党首の発言にも言及していることである。
 ナイジェル・ファラージュがそれであり、彼は名うての反EU派である。
 ファラージュがスカイテレビに語ったところでは、ルペンの介入が離脱派の運動に益があるとは思わないと語っているものの、同時に、入国禁止措置をとることには賛成しないという。
 まさに後段の反対しないというところに彼の意図が明瞭に示されている。

 ファラージュとその党英独立党UKIPについては、イギリスの文献で、「EU懐疑派」という表現が多く使われるが、この一点をもってしても、この定義は誤っている。
 その政党と党首の彼は懐疑派どころか、まごうことのない反EU派として位置づけられるべき政党の党首であると定義すべきだろう。何よりその奇妙な政党名がこの政党の性格のすべてを物語っている。
 イギリス独立党というその名だ。
 彼らの認識では、主権国家のイギリスはEUという怪物に支配され、抑圧され、したがってそこから独立すべきという認識を持っているのである。
 EUに対する「懐疑」などという言葉ではすまない。まさにEUに対する敵対心、敵愾心にあふれているという党名であるのだから。

 それにしても、EU離脱派の中に、ルペンの反イスラムの人種的排外主義ではないという認識が、ルペンの入国禁止を求める書簡にはあり、それがわずかな救いである。
 ともあれ、ルペン入国の動向の今後が注目される。

 なおルペンとEUレベルで統一政党
European Alliance for Freedom(欧州議会内会派名
Europe of Nations and Freedom)を組み共闘しているオランダ自由党党首のヘルト・ヴィルダースはイギリス入国を禁じられた過去がある。
参考ブログ
2015.11.03 Tuesday 話題性を持つ最近の欧州議会 スノーデンとルペン
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3924
2015.12.14 Monday 選挙制度のなせる技 仏国民戦線、地域圏議会決選投票で惨敗予測
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3942

2015.05.30 Saturday
M・ウェーバー欧州人民党党首が英独立党ファラージュを嗤う EU議会の選挙制度の先進性とイギリス下院の小選挙区選挙制度の後進性
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3842



 
 
| 児玉昌己 | - | 23:54 | comments(0) | trackbacks(0) |
加熱する英のEU残留を問う国民投票 陣営内で齟齬を来す ヒトラーを持ち出すジョンソン前市長
  EU離脱を問う国民投票の賛否両派の事前運動は過熱している。
 EU離脱は14%も英のGDPを奪い、ポンドは最大20%下落し、格付け会社から英の債権はランクダウンするという数字と予測を知るものからすると、問題外の選択だとみる。
 だが、友人でイギリス人として一種当事者でもあるスティーブン・デイ大分大教授が言うように、心と頭はそうではない。
ロイターは、「英国のEU残留派、ドブ板選挙で不覚を取る恐れも」、 2016 04 25日と伝えてきている。
 実際、離脱派はダイ・ハードが多く、戸別訪問も徹底するキャンペーンを展開している一方で、残留派は積極的には世論喚起に動いていないということで、出足の違いを書いている。
 このEU残留の賛否を問うキャンペーンは、米CIA長官と、英国内の治安機関MI5元長官の対テロ対策への影響をめぐる認識の相違や、さらには離脱について米大統領とその候補とが全く相反する姿勢を示している。
 例えば、離脱の場合、必要となる対英通商条約の再交渉をめぐり、交渉では、列の最後に並んでもらうというのがオバマ現大統領。他方、EU離脱も支持し、通商交渉で列に並ぶ必要はないとする共和党の同候補トランプというごとく。

 全く異なるスタンスを述べるなど、米国を巻き込む場外バトルに発展している。
 今日のテーマは過熱するキャンペーンの最新事情である。
 このブログでも紹介した離脱派の闘将前ロンドン市長のボリス・ジョンソンが、なんとEUがヒトラーとは違う方法でEUに政治同盟を形成するという同じ目的を持っていたと述べている。そしてこの発言については、同じ陣営からでもやりすぎと、齟齬を来しているということだ。
 保守系の日曜版テレグラフとのインタビュで語られたものである。
正確に伝えれば以下だ。
 過去2000年の欧州の歴史はローマ人の黄金期を再現するための単一の政府の下に大陸が一つになる考えで支配されてきた。ナポレオンも、ヒトラーも、また様々な人士がこれを試み、悲劇のうちに終わった。EUは違った方法でこれをなす試みである、と。
 これにたいして、EUをヒトラーの第3帝国と比較するのはいかがかと同じ陣営のジョージ・フリーマン科学大臣は述べ、チャーチルの孫にあたるニコラス・ソームズ(Nicholas Soames)保守党議員も「いいすぎ」 “gone too far”と述べている。
 以上は、ガーディアンが伝えたものだ。
 実際、ヒトラーへの言及は問題だろう。ボリス君よ。
 前回ブログでは、EUが連邦的性格を深めるという彼のEU認識の正しさについて触れた。
 また「(欧州が目指す)この連邦主義者の構想は恥ずべき理念ではないことを忘れてはならない」(
We should remember that this federalist vision is not an ignoble idea.)と彼が述べたEU認識の発言の公正さについても触れた。
 だが、国民投票を1月前にして日々高まる投票キャンペーンの過熱で、ヒトラーへの言及はやり過ぎたというべきだろうか。
 上記のボリス・ジョンソンのEU認識で明らかに誤りだという点を2つ指摘すれば、まずEUは、ヒトラーに代表される排外主義的ナショナリズムに蹂躙された歴史との決別に立って、この再発を防止するということで出発したということである。第二はヨーロッパ統合を強力に推進するEUは、加盟国にたいし、その加盟国を強制したわけではないということである。加盟国は、ヒトラーの強烈な人種主義に立つ強制的同質化とは無縁であり、加盟国政府はすべて、EU条約をはじめとするEU法の総体をいうaquis communautaireをみずから合意して、EU入りしているという事実である。
 戦後70有余年。戦争を直接知らない世代の子供が政治指導者の地位にある時代だ。教育こそが重要だというのがわかる。
 ただ、離脱派の保守主義者の中に、ボリス以上にEUがわかっている者がいるのが、救いである。
参考記事
Tories divided by Boris Johnson's EU-Hitler comparison. Guardian.16 May 2016 May 2016.
参考ブログ
 2016.04.12 Tuesday スティーブン・デイ大分大学教授と英EU離脱問題を話す
http://masami-kodama.jugem.jp/?day=20160412
2016.02.26 Friday
 坂井ロンドン特派員よ、EUは「国家連合」を目指しているからとはロンドン市長は言っていないよ 「連邦的同盟」federal unionを目指しているから離脱すべきと言っている
http://masami-kodama.jugem.jp/?day=20160226
2016.03.30 Wednesday
 田舎政治家が米大統領になる可能性への世界的危惧 孤立主義に向かう米
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=4005

 
| 児玉昌己 | - | 16:01 | comments(0) | trackbacks(0) |
EUの難民と極右運動を扱った小論考掲載される。學士會会報2016年918号
  過日、旧7帝大のOB会である学士会に終身会員として入会したこと、そして早速、學士會会報編集部から執筆依頼を受けたことは書いた。EUの難民問題を書いてほしいということであった。すぐに取り組んだが、大変な仕事である。
 ともあれ、3月までにそれを終え、5月初旬に掲載され、配布された。 
 以下がそれだ。
 「大量難民流入と
EUへの衝撃 反EUナショナリズムの昂進と統合深化のベクトル」学士会報2016年918号
  字数制限があり、説明不十分な個所もあるが、「解体」、「崩壊」とだけ強調される我が国のEU関係書籍と報道である。
 これに対して、それでも、イギリスの国民投票での離脱派の代表たるボリス・ジョンソン前ロンドン市長がイギリスが離脱すべき理由として喝破したように、EUは連邦的同盟(フェデラル・ユニオン)としての性格を深めている。
 それを念頭に、今後も、危機を通して、EUは「欧州連合」というわが国の問題表記を否定する形で「欧州連邦」としての相貌をもって、統合は確実に進んでいく、というものである。
 実際20年も前に当時欧州議会の最大会派だった欧州社会党からEUの邦語表記については、「欧州連合」の使用停止と「欧州同盟」の使用をもとめる公式書簡(書面質問)さえ出されているのだから。
 わが国メディアや評論家の一方的な軽薄で情緒的なEU解体論の認識に対し、アンチを掲げた次第だ。
 複数の会員の先生から出たね、見たよと言われた。 
  数学者の吉川敦先生(九大名誉教授)から「EU愛」を感じますといわれたのは、頭をかいた次第だ。
  我々研究者も、作家同様、書いてナンボの世界である。
 研究成果や思考を第三者に見ていただくことこそ、使命である。 
 ちなみに学術論文の意義や書き方では、医歯学系からも私のブログが参考にされているのは、ありがたいことだ。
 
https://www.elsevier.com/__data/promis_misc/job-author-workshop.
pdf#search='%E3%82%A8%E3%83%AB%E3%82%BB%E3%83%93%
E3%82%A2+%E5%85%90%E7%8E%89%E6%98%8C%E5%B7%B1'

  それにしても、918号というのは恐れ入る。
 年間6号出ているから、単純に割ると153年という歴史になる。
 私も未知なるイスラームやユダヤ教、それに日本の経済から、木簡と大化の改新、医学の最新情報など、多方面で諸先生方の上質の論文を拝読し、知見を広げることできる。
実に、ありがたいことである。
参考ブログ

2015.11.26 Thursday 「學士會報」のことなど
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3935
大学教員への道10 Publish or Perish
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=104

2016.02.10 Wednesday 「我々は欧州のために戦わねばならない。欧州が問題ではなく、欧州が解決策である」スタインマイヤー独外相
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3974

なおバックナンバーは学士会で取り扱っている。
関心のある方は以下。
http://www.gakushikai.or.jp/magazine/bulletin/
http://www.gakushikai.or.jp/magazine/bulletin/backnumber.html





 
| 児玉昌己 | - | 19:49 | comments(0) | trackbacks(0) |

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