2016.06.29 Wednesday
国家解体を始めたイギリス 英が愛した金融市場がそれを先取りしている
23日の国民投票の結果が24日にEU離脱として明らかになった後、最初の欧州理事会が政治の焦点となっていた。 キャメロンは在任期間で最後となる朝食会となる理事会に出て、自身の後を継ぐ政権がリスボン条約第50条にそって離脱に伴う対EU交渉に臨むことを明らかにした。 イギリスでは後継首相がだれになるのか、9月までには決まるだろう。ただし、候補者の一人、ボリス・ジョンソンなど、遅延作戦に出そうである。しかし遅延はイギリス経済の不透明感を強めることになり、ポンド防衛に反する。 欧州理事会に戻していえば、その後の会議は、イギリスを除いた27か国の理事会になった。 すでに欧州理事会はイギリスを抜きで始められたということである。 欧州理事会での会議へのイギリス首相の不参加は、欧州委員会のイギリス出身の金融担当委員ジョナサン・ヒルの辞任に次いで、イギリスが国民投票の決定に基づき、EU離脱を確実に踏み出したことを明らかにする瞬間でもあった。 他方、今回のEU離脱を問う国民投票では62%対38%の差で残留支持を鮮明にしたスコットランドでは、自治政府のスタージョン首相(The Scottish first minister)が29日欧州議会を訪ね、マーチン・シュルツ議長と会談した。 そして国民投票で離脱するイギリスとは別個に、スコットランドはEUに、残留する意思を明らかにした。 これに対して、議長は、「お聴きし、その意思を理解した」と ‘listened and learned’と述べた。 ここで注意すべきは、これは、欧州議会がその意思を受け入れたということではない。 何より、今回の国民投票でのイギリスの態度決定は、スコットランドを含めたイギリスの全体としてのEU離脱であるという認識に、欧州理事会はもとより、欧州議会などEU機関は立っている。 欧州議会としては、スコットランドの意思は承ったとするものの、イギリスの国内政治には、干渉しないという内政不干渉の立場を示したことを意味した。 すなわち、今後のことでいえば、イギリスがEU離脱するのに合わせて、あるいはそれに先立ち、スコットランドが住民投票で、国家の分離独立を選ぶことを行い、その後独立国として、EU加盟に入るというプロセスとなる可能性を内外に示唆したものといえる。 すなわち、今後のことでいえば、スコットランドにおける第2次住民投票となる。 おそらく独立派が勝利するだろう。 2年前の第1次住民投票時は、賛否は55%対45%でイギリス残留の結果であった。下記ブログ参照。 シュルツ議長と会合した後、スタージョン女史は、以下述べた。 「スコットランドはEU残留する意思を明確した。先に広がる道の困難を過小評価はしていない」と。 すなわち、イギリスにおいて、キャメロン後継となる英保守党政権が離脱交渉に着手するのと並行して、スコットランドがイギリスからの独立を求める第2次住民投票に入ることが明確になりつつある。 イギリスの解体が明確になってきたということである。 イギリスは人口6400万余。スコットランドが530万余。 スコットランドが独立すると、イギリスは4大国のうち唯一、6千万人を割り込む。すなわち独仏伊の後塵を拝することになる。 北アイルランドがそれに続かないとしてもである。また、EU離脱に伴う人口流失は、北アイルランドからのものも含んで、相当規模で進む可能性があり、さらに人口を減らすことが十分考えられる。 また第1次住民投票時で問題になっていたスコットランドの分離独立の場合、スコットランドがこだわったポンド使用については、状況は一変している。すなわち、ユーロ使用、ユーロ圏入りが十分想定される。 ユーロ圏はそうなれば、一部の軽薄な評論家によって言われていることと違い、さらに発展、拡大するということになる。 忘れてはならないのは、EUは、人口で見れば、最大でもドイツが8200万とわが国の3分の2でしかなく、中小規模の国家が多いことである。経済合理性から考えても、各国が、独自通貨にこだわる必然性はほとんどないのである。 EUを見下してきたイギリスはイギリスが最も愛してきたシティに代表する金融セクターから、レッドカードを突き付けられている。 ちなみにイギリスにおける金融セクターの大きさについては、以下Financial Timesを引用しつつ、ブログしている。 2014.08.25 Monday 金融部門のExodus(大量出国)の危険 FTが報じたキャメロンが進めるEU離脱の悪影響 "http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3726"> その一部を紹介しよう。 イギリスでは現在250以上の非英系外銀が支店を置いており、英財務省によると、同国の金融サービスは140万を雇用し、2011−12年では、所得税で275億ポンド、全体の12%をカバーしている。 Possibility of ‘Brexit’ threatens London’s prospects:Dublin seen as alternative for US banks to UK capital. Financial Times. August 18, 2014. 上記の銀行の大量出国(Exodus)の可能性も、2年前に報じられていた。 Britain's EU exit could lead to banking exodus -Financial Times. Reuters. Aug 17, 2014. 合理的に考えれば、あるはずのない選択を、離脱は経済的、国際政治的に不可だというすべてデータが明らかになっていながら、国民投票の形で保守党キャメロン政権が行った。 イギリスは国家の解体に向けて奈落の底に沈んでいく。 その先駆けが、すでに1年で30%も下げているポンドの下落であり、ポンド債の格付け機関による格下げである。 資金調達もままならなくなる状況が生じていくだろう。 最悪イギリスの「ギリシア化」である。 初めて学んだ外国がイギリスであり、限りない愛着もあるが、やむを得ないことだ。 感情で政治を行うと、大ごとになる。無能な政治指導者を抱えると国家はつぶれる、それをまざまざと感じている。
参考ブログ 2014.09.19 Fridayスコットランド分離独立否決 世界が注視した住民投票 http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3741
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