児玉昌己研究室

内外の政治と日常について想うことのあれこれを綴ります。
イギリスはなぜEU離脱を選択したのか EUの止まることのない連邦への深化と主権譲渡こそがその最大の理由である

 イギリスが国民投票でEU離脱したことは世界に衝撃を与えた。

 だが、イギリス国民がEU離脱を選択した理由については、しっかり書けているものがあまりなく、ほとんど判然としない。

 「EUには民主主義がない」などというものがあるが、離脱派の政治キャンペーンそのものに乗った議論で、笑止である。

 一例を示せばそのバカげた性格は一目瞭然となる。

 下院定数650もあるイギリスで、わずか1議席しかないイギリス独立党のファラージュが、なぜあれだけイギリス政治とEU離脱の政治過程で、大きな顔をできたのか、という疑問だ。

 イギリスは膨大な民意の虐殺を合法的に可能とする小選挙区であるがゆえに、厖大な死票をこの党が出していること、他方、EUの議会である欧州議会では、国家横断的に形成している各党が獲得した票に応じて議席が配分される徹底した比例代表制を準則としているがゆえに、一定の議席を得て、UKIPといった反EUのデマゴーグ政党も成立できたのである。

 いやこの政党、国内の下院では議席の数で泡沫政党そのものなのだが、2014年の第8次欧州議会直接選挙では保守党と労働党という政権政党を経験している2党を凌ぎ、イギリス選挙区では437万票(26.6%)を得て、なんと24議席。(現在22)を得て、第1党となった。ついでに言えば、欧州議会選挙では労働党が20、保守党19。

 それを考えるだけで、EUに民主主義がないなどという議論がいかに噴飯ものであることがわかる。

 欧州の諸国では、国内議会選挙では比例代表制が原則となっている。イギリスの選挙制度が厖大な死票を生むという意味で、反近代的な制度であり、それにイギリスは苦しんでいる。

 本題に戻ろう。イギリスのEU離脱の理由は簡単だ。

 EUがもともとEU内に存在する連邦制的装置をさらに強化する方向に傾斜しているからである。しかも、EU統合のの最終地点までが「一層緊密なる同盟」(ever closer union/仏語はさらに止むことのないという語があり、徹底しているune union sans cesse plus étroiteと表現するように、その自動性と無期限性が特色であり、最終到達地点の統治形態ついては未定であることにある。

 キャメロンはこのEU統合の最終形態を不明にし、その無期限性を表した歴史的表現の削除を一貫して要求していた。

 ところで、日本では、マーストリヒト条約が1993年に発効し、その邦語表記が必要となり、「欧州連合」の表記が導入された。

 当時読売新聞は欧州同盟を使っており、表記問題では、各社対応が分かれていた。

 初代EU学会理事長を含め、5名のEU学会理事長経験者が明瞭に欧州連合の採用に反対されていた。(具体的には、6年前の下記のブログ参照)

2010.11.02 Tuesday欧州連合を否定しつつEU(欧州同盟)は連邦主義的権限強化に向かう 上 金融財政部門でのリスボン条約改正の動き http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=2575

 

 その後、EU代表部により国家の協力機関である国際連合と識別もつかない邦語表記が駐日代表部の中で、全く不透明に採用され、新聞の表記統一関係の協会にそれが伝えられ、現在の統一的表記となっている。

 その結果は、20年前に私が予想したように、EUと欧州統合の方向性に関する正確な認識にとって、極めてネガティブに作用した。

 すなわち、EUが度重なる条約を改正し、連邦的性格をさらに濃厚にするのと反比例して、欧州統合に関して、欧州で最も当然とされるフェデラルという言葉が、わが国から消えてしまっている。

 EUの中心であるドイツは全く違った見方を持ち、ドイツの元外相ヨシュカ・フィッシャーは以下のように述べている。 

「ドイツでは連邦的であるとは悪い言葉ではない、他国は連邦主義が唯一の解決策であることを認識すべきである」

In Germany, federal is not a terrible word. Others should realise federalism is the solution.

  EUが連邦的性格を強めるから、国家主権に支えられている主権国家の意思が阻害される。そのようにして、イギリスは反発しているのである。いいかえれば、イギリスと独仏の間の欧州統合の連邦性格と路線をめぐる埋め難い溝が存在するのである。

 連邦制は国家の主権的権限を統合組織、連邦組織に集約することで、その機能を果たすことを最大の特色とする。

 大陸諸国は、国境を隣り合わせている。しかもオランダ、スウェーデン、デンマーク、など1千万台かそれ以下の人口を抱える小国が多い。6千万台は4カ国しかない。ドイツを除けば、英仏はわが国の半分を少し超えた程度である。

 国家の主権的権限の保持などという主張はイギリスのような海で隔てられた大国ができることであり、陸続きのEUの中小国では、現実にも、理論的にも、そうした感覚はありえないのである。

 EUの中小国は、むしろ一体化することで、戦争を防止し、通貨と経済を、そして民族自身の存在を強化できると考えているのである。

 私は20年前に欧州議会に働きかけ、EUの連邦的性格をすべて理解不能にする欧州連合という語の問題を当時欧州議会最大会派の欧州社会党の若手有力幹部のリチャードコルベット氏に英語論文を携え、指摘した。

 結果、EU代表部が使う「欧州連合」という表記の使用停止と欧州同盟への変更を求める書面質問をグリンフォード議員の名で出していただいた。

 しかし欧州委員会も官僚組織であり、組織はいったん問題訳語が採用された後では、よほどのことがない限り、変更することをしない。責任問題もあるからである。

 ただし、そんな官僚の保身だけで、わが国における認識が曇らされてはたまったものではない。

ever closer union は依然として、生きている。それは一部のEU学者が表記しているように、「一層緊密な連合」ではおよそない。EUの到達点はまさに期限を意図して不明にした無期限性にある。これを「連合」とすれば、到達点はあくまで連合を超えるものではないからである。

 EU統合はシュ-マン・プランに明記されているように、連合などはるかに超えた欧州連邦形成にあるのなのだから。何よりジャンモネは欧州連合を否定する欧州連邦から欧州合衆国を展望していたことを想起すべきである。

 EU代表部が邦語表記を欧州「連合」とした後、これを不可だとする論文を書き、欧州議会に働きかけた。

 その最大の理由は、まさに中立であるべき欧州委員会が、かってに欧州統合の到達地点を「連合」に限定したそのことの政治性を問題にしたのである。

 イギリス首相キャメロンが「EU改革」という自己利益の貫徹でこだわったその削除の会議の前と後に、このさらなる統合を原加盟国6カ国外相が確認したように、このエバー・クローサー・ユニオンは、最終的にはキャメロンがわが国は加わらないというだけに押し戻された。

 なんとなれば、条約改正は全会一致であり、最初から統合推進国家がそれを受け付けないことが明確であったからである。

 ともあれ、邦語表記の誤りを指摘して欧州議会最大会派に書面質問書を作成してもらい、20年の時が過ぎた。

 そして、現在のイギリスが離脱するほどまでに至って、「欧州連合」という表記を抱えるわが国では、欧州では常識となっている国際統合組織の連邦的性格にもかかわらず、EUの連邦主義的性格がわが国では、全く不明となっている。

 閣僚理事会における多数決原理を考えてみよ。EU法の加盟国法に優越する規範性を観よ、欧州司法裁判所の司法管轄権を観よ。通貨主権の欧州中央銀行への委譲を観よ。すべてが、連邦政治組織のメルクマールである。

 イギリスのEU残留を問う国民投票における離脱派の政治スローガンが、Lets take back controlというものであった。だが、このコントロールという語こそ、国家主権sovereinty と同義語であった。

 因みに毎日新聞では「政策権限」と訳している。私は、これは原理原則を言う政治スローガンであり、このように政策というべベルに制限した使用法はこの文脈では必ずしも妥当だとは思っていない。

 反EU派の公式キャンペーンでcontrolという言葉が選ばれたのか。

 おそらく、「主権」(sovereignty)という語が、反EU主義のUKIPが使用する言葉であるために、すでにイギリス政治の中で、党派性を帯びており、それがゆえに、反EU派の公式組織を構成する保守党及び労働党の議員たちがその用語を避けただけのことだった。

 ましてUKIPは国内では泡沫政党であり、保守党や労働党の離脱派からみると、欧州議会で議席を持っているものの、本丸の英下院では、意識するほどもないマイナーな存在でしかないのだから。

 実際、国民投票キャンペーンではファラージュは正面から起用されていない。彼の登場は、EU離脱派の公式の運動のなかでは、別動隊であり、その影響力は大きいというものの、あくまでサイドショーでしかなかったのである。

 因みに、主権はグローバル化の中で相対化されているなどと、その存在を軽く扱うものがいる。皮相な議論だ。

 通貨主権を見ても、関税自主権を、司法管轄権を取り上げるだけで、それは国家のバックボーンとして厳然として存在する。なんでも相対化する手合いの議論は要注意である。

 ところで、インターネットで見ていると、最近中国で、EUやソ連の事例を挙げて、国際組織の用語の表記問題が取り上げられていることを知る。しかも、この論争を起こす背景については、EUについて私が問題提起した20年前の資料が掲載されている。

 以下がそれだ。

苏联苏联是照日本苏连来的。日本管欧盟叫欧

https://www.zhihu.com/question/47820963

之前欧洲社会党有个Glyn Ford欧盟委会(Commission)写信,日本管我叫欧洲合不好,我们应该要求日本个称呼,叫我欧洲同盟才好。Commission回信字博大精深,合硬要也不能算,再者都沿用二十年了,何苦改来改去,不混淆就好。
児玉昌己:EUの日本語表記としての「欧州連合」の使用停止と「欧州同盟」への変更を求める「欧州議会からの書面質問書」と「欧州委員会からの答弁書」,及び表記問題に関するR・コルベット欧州社会党事務総長代理からの書簡とその経緯
作者:
接:https://www.zhihu.com/question/47820963/answer/

107852047
来源:知乎
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 用語論争は、対象の概念規定に直結する学術にとって最も必要なものである。中国もそれだけレベルが上がってきたともいえる。

 因みに中国語では「欧州連盟、省略して欧盟」と訳している。韓国語ではわが国の訳例を採用している。中国にとっても英離脱は対欧州戦略を直撃し、その再考を必要とする重大事件である。その性格の把握は、他人ごとではないのである。

 ともあれ、若い時代に提起した論考と欧州議会への働きかけで得た公的文書が20年の時を経て、欧州統合の連邦的深化とイギリスのEU離脱を受け、中国で取り上げたのは、正直うれしいことであった。

 なお、EU代表部への欧州議会の当時の最大政党の欧州社会党から20年前に出された グリン・フォード議員(欧州社会党)からの欧州委員会への書面質問書と回答を掲載しておこう。

原文は拙著『欧州議会と欧州統合』(成文堂2004年)の付録として所収している。
WRITTEN QUESTION E0138/96
by Glyn Ford
PSE
to the Commission
Subject : Japanese translation of the term ‘European Union’
Can the Commission confirm that its information office in Tokyo is using the expression ‘Oushu Rengou’ as the Japanese equivalent of ‘European Union’ and that this term has, as a consequence, been taken up by the Japanese press?
Is the Commission aware that the term ‘Rengou’ means ‘Association’ and not ‘Union’? Is the Commission aware that ‘Oushu Doumei’ would be a more appropriate term and that this has been used in the only Japanese translation of the Treaty of Maastricht
published by the semigovernmental organization JETRO under the supervision of Pr. Kanamaru, former President of the Japan Association of EC Studies? Is the Commission aware that the term ‘Rengou’ causes conceptual confusion in the Japanese media, when reporting, for instance, on the association agreements signed by the EU with Central and Eastern European countries, it being difficult to explain how an ‘association’ has association agreements with associates who are not members of the association?
Will the Commission instruct its Tokyo office to use the correct term ‘Oushu Doumei’ and cease to use the inappropriate and confusing term ‘Oushu Rengou’?

 

資料2 欧州委員会を代表してレオン・ブリタン卿からの答弁書

Answer given by Sir Leon Brittan

on behalf of the Commission

22 February 1996

When the need arises for the translation of a new, hitherto unknown, expression into Japanese, the Commission and in particular its delegation in Japan undertake the necessary checks and consultation of language experts in order to ensure that the proposed translation suits the required purpose.

The Kenkyûsha dictionaryJapanese-English)(standard reference dictionary used for translation of modern, in particular official Japaneselists the following entries :

rengô(連合)=combination, union, incorporation, league confederacy

dômei(同盟)=alliance, league, union confederacy

The Kenkyûsha dictionaryEnglish-Japanesgives as translations for the following expressions:

Union 結合(ketsugô),連合(rengô

United Kingdom:連合王国(rengô ôkoku

United Nations:国際連合,国連(kokusai rengô, kokuren

The translation of Englishor other European languageexpressions in Japanese is often difficult and can not be undertaken solely on the basis of an equivalent expression.The above examples can only give an indication of what a proper translation of the word Union would be in Japanese.

 

Two essential problems can be distinguished :

a. Foreign official terms, when translated into Japanese, are in fact translated into Sino-Japanese expressions, i.e. combinations of characters. These characters are, as the expression Sino-Japanese shows, of Chinese origin. Even when the dictionary entry for a given Japanese word, such as dômei, is translated as union at first, the character combination used

may not necessarily carry the same association as the word union does in English.

A particular side-effect of this is that the meaning of a given Japanese word may not cover exactly the same ground as the English word used for its translation. For instance, rengô can be used to translate association in association agreement, but it can not be used to translate association as in shopkeepers’ association. The correct word in this case would be rengôkai(連合会)

b. Expression, such as are created in the Community to give a name to new Europeanas opposed to nationalinstitutions, are by definition new also in the Community e.g. European Commission. This has taken on a meaning of its own, and is now associated with“bureaucracy,

large administration, etc”This is quite different from the meaning associated with

“parliamentary commission”based on the traditional meaning. Similarly, in Japanese, the words used to translate European Commissionôshû iinkai,欧州委員会)are not self explanatory, but must be explained and understood as an expression ‘sui generis’.

The translator of ‘Europeak’ expressions into Japanese is therefore faced not only with the difficulty mentioned under a., but also with the necessity to invent a new Japaneseor Sino-Japaneseexpression that is as close as possible to the intended meaning of the European words.

| 児玉昌己 | - | 23:47 | comments(0) | trackbacks(0) |
都知事選、小池女史の圧勝

 久留米は今夏何度目かの猛暑で、全国第2位。うだる暑さの中で、イギリスのEU離脱ブレグジットに関する論文執筆に向かっている。

 この間、参院選挙があり、今日は都知事選挙の投開票日だった。

 夜8時のNHKでは、民放よろしく、すぐに当確を打った。

 ボクシングなどのスポーツ新聞の言葉を借りれば、組織を背景にした有力2候補にたいして「瞬殺」という状況だった。

 鳥越氏は正直、選挙戦では、出馬会見にあったような、生気を感じさせるものでなかった。

 真夏の選挙戦、若い候補者でも辛い辛い選挙だ。手術4回の体調に堪えたのだろう。

 小池候補の精力的な街頭演説と比べても、まったく消極的で、いかにも、体をかばっているようであった。

 まったく運動をせず当選し、全く評価されることなく1期のみ、数千万の退職金と共に去った放送作家、青島幸男の時代ではない。

 しかも住んで良しなど、あの3、4つの言葉も、有権者に対して、「子供だまし」と評されるような、迫力をおよそ欠いたものだった。憲法問題への異議申し立てだけでは、都民の心を鷲掴みにはできなかった。

 ともあれ、都知事が決まった。

 猪瀬、舛添と前二者が金でこけるというようなひどい都知事としての終わり方だったから、それは心配しなくてもよくなったのだと思っている。

| 児玉昌己 | - | 22:55 | comments(0) | trackbacks(0) |
英のEU離脱(Brexit)以降超多忙 それを詠む 海鳴庵児玉

 7時に起き、草稿。パソコン病が出てきている。外部からの講演や論文依頼もあり、一日さぼると、それだけお役に立たてないと、さらに目を酷使している日々である。

 

 

ロンドンの あの日の衝撃 今もあり 身体労わる 余裕(ゆとり)さえなし 

 海鳴庵児玉

| 児玉昌己 | - | 08:47 | comments(0) | trackbacks(0) |
同志社でのイギリス政治研究会から戻る

 週の始まり。7時に目が覚め、ほどなく起床。カメの水槽の水を換え、エサの炒り子をやる。

 同志社での英政治研究会から戻る。

 幹事である小堀立命館大教授の言葉を借りれば、「手作り」の研究会だが、関西のイギリス政治研究者や院生が集まった会であった。

 イギリスの国民投票では、ロンドンのアールズコートにそれぞれの宿舎をとり、現地調査したデイ(大分大)、力久(同志社)の両先生と顔をそろえたのが、楽しいことだった。

 夜、三条のホテルに戻るときには、コンチキチンのお囃子と浴衣姿の女性が夏入りした京都の情緒をそのまま残していた。 

 この間、在京の有力な国際政治専門誌から英のEU離脱に関する独立論文の執筆依頼があり、これを1か月後の締め切りだが、受けた。

 猛暑確実視される8月。その期間、その執筆に忙殺されることになる。

 だが、しかるべきところから、書きたいものが出せることほど研究者にとってありがたいものはない。

 我々も、「出版せよ、さもなくば滅びよ」の言葉通り、書いてナンボの世界である。

参考ブログ

2006.05.24 Wednesday 大学教員への道10 Publish or Perish

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=104

 

   

| 児玉昌己 | - | 08:32 | comments(0) | trackbacks(0) |
メイBrexit内閣とリスボン条約50条の発動時期

 過日勤務校の法学会でEU離脱を問う国民投票について話をしてきた。学生さんを含め、学部以外からも数名来られていたのが、ありがたいことだった。

 また関心も当然高いので、多く興味深く拝聴させてもらったという感想をいただいた。

 今EU学者や英政治学者はみなここに注目している。特にキーナンバーは50。リスボン条約50条のことで、EU離脱規定である。

 リスボン条約は2009年末に批准発効して、現在のEU条約となっている。先月ロンドン出張し、毎日新聞に24日の結果を待って、25日付で、コメントを掲載していただいた。

 毎日といえば、私の海外取材に2009年のリスボン条約の成否を問う第2次国民投票の際、アイルランドのダブリンに取材に出た。

 当時ブリュッセル支局長だった福島さんが現地入りしていて、ホテルも偶然同じだった。

 それで記事を書かせてもらい、かつ同社傘下のエコノミストにもリスボン条約の意味を書いた。その資料を久しぶり取り出してみると懐かしい。

 しかし、その画期性についてあれこれ書いているが、離脱条項については特段触れていない。

 まさかそれが7年後にその条項が使用される、しかも対象がイギリスになるなど考えてもみなかった。

 しかし連邦へ向けて大きく動いたのがその条約であり、国家連合を意味する「欧州連合」を否定して、連邦的EUfederal Unionへと深化するEU像を提示したのが、その条約であった。

 その規定によるspitzenkandidatという、欧州議会が決定的役割を果たす新欧州委員会の任命手続も定められ、EUの権限は行政府の長の選出にまで及ぶことになる。

 イギリスの対EU関係の硬化と反発そして離脱の国民投票の序曲となったのである。

 あれから7年が過ぎたが、ブリュッセル支局の勤務経験のある編集部の森さんから、電話をもらい、幸運だった。EU関係は制度が複雑で、例えば、理事会がなにか、欧州議会がなにか欧州委員会が何かを知らないとなると、こちらとしても実に困ってしまう。

 パリ政治学院教授で友人のクリスチャンルケンヌ(欧州大学院大学同期)も日本や韓国のメディアや外交官から取材を受けているということだが、同様のことを話していた。

 話を戻せば、50条の発動時期。利害関係者は当然、双方に分かれて、早く実施せよ、あるいは無期限に発動を延期せよと、訴訟案件も含めて、せめぎあいも激しい。

 当然、国民投票の結果は結果であり、イギリス国民が示した離脱の意思を覆すことは限りなく不可能となる。

 実際、メルケルと会談した後、彼女の同意を得て、年末まではしないとメイ首相が述べた。

 EU政治では何度も書いているが、独仏枢軸で、フランスも重要だが、特にドイツの意向が決定的となっている。

 裏を返せば、英政府は方針が立った年初から発動(トリガーという)するともいえる。

 発動されば、交渉が始まり、2年を最大期限として、離脱に向けて動いていく。

 同じく2017年後半に予定されていた閣僚理事会の議長国も辞退し、エストニアが繰り上げて就任する旨も発表された。

 私は、これらの状況を勘案すれば、2017年に通告がなされ、EUとの離脱の交渉は2018年までには決着がつくと思っている。その核心となる通商協定とEUとの関係では、スイス型、カナダ型、トルコ型、ノルウェー型など、最低WTOラインまでが考えられるが、それこそ神のみぞ知る。

2019年には欧州議会議会選挙である。

 出ていく意思が示された国家が任期5年の73名の欧州議会議員を大々的に選出するということも考えにくいからである。

 ブレグジット内閣と呼ばれることになるメイ。

 ここ数年、最大限の注目をしつつ、EU研究者としての最後の数年の務めを果たしていくことになる。

参考文献

2009年平成211110日学者が斬る(434)リスボン条約批准で近づく「欧州連邦」への道 週刊エコノミスト(毎日新聞社)876011105255

 

 

 

 

| 児玉昌己 | - | 10:09 | comments(0) | trackbacks(0) |
ロボット掃除機、我が家で走る

 わが家ではヤマダ電機で購入したシャープのロボットが稼働し始めた。

 ロボットと書くと、ヒューマノイドロボットかと思うが、何のことはない。ロボット掃除機。

 ルンバがよく知られているが、予算の都合で、シャープにした。

 長女に手伝ってもらい、稼働。びっくりするほどよく動き、しっかり埃をとってくれて満足だ。

メッセージを発しているのだが、近づかないと、稼働音で、よく聞き取れない。

 それでも、玄関や、和室の掘りごたつに落ちることもなく、1時間走り回っていた。初仕事は上出来だった。

 センサーと駆動技術がやはり驚きである。リチウムイオンのバッテリーも3年はもつということだった。

 

 

| 児玉昌己 | - | 01:44 | comments(0) | trackbacks(0) |
梅雨は明けたが、心の梅雨は晴れないトルコ、英、米の国際政治状況

 トルコはエルドアンがクーデタ派の一掃を試みている。

 政治的敵を「ウイルス」と呼んだのは、注目している。この言葉は、ナチスがユダヤ人虐殺の序章で使った言葉だ。

 ウイルスならば、それを隔離し、絶滅するということになる。

 すでに8千名もの人間が逮捕、拘束されているという。クーデタに連座した軍人はもとより、判事、警察官、公務員と多数にわたるという。

 強権的な姿勢を強化してきエルドワン政権。

 この機をとらえ、これを利用し、クーデタ関係者のみならず、一挙にその政治的敵をせん滅することに活用しているのではないか、とさえ思わせる「その後」の対応である。

 わが国では、九州から東海まで、梅雨明けしたと、講義を終えて、汗をかきかき戻って、知った。

 確かに大雨の日々の後、それはうれしいことだが、米国の白人警官による捕縛黒人の私的処刑への反発に始まった白人を狙った多発する一連の警官襲撃事件、そしてトルコの政情不安。

 ロンドンにEU離脱を問う国民投票の弾丸取材からもどって3週間ほどになるが、離脱の決定と、その後のポンドの暴落。そして大型旅行会社の倒産の報。離脱条項ローマ条約50条の発動の時期などなど。

 米国では、あの前代未聞の商売感覚でのみ国際政治をとらえる低俗なトランプの大統領選勝利に向けた共和党大会と、懸念は尽きない。

 心の梅雨は一向に晴れるどころか、暗澹たる状況である。

 もっとも私ごときが心を暗くしてもどうなるものでもないことも、重々承知しているのだが。

 

| 児玉昌己 | - | 22:10 | comments(0) | trackbacks(0) |
トルコクーデタ未遂事件にみる政治権力のすさまじさ

 トルコは反乱軍が鎮圧されて、「一件落着」。NHKのコメンテイターも指摘していたが、お粗末といえばお粗末だった。放送局占拠も、実態を失えばすべて茶番となる。

とはいえ、軍の中に強い不満分子がいることが明らかになった。しかも、従来と違い、世俗派というよりも、真逆の宗教勢力に影響を受けている可能性があるとのことだ。

 米国在留の指導者ギュレン師の拘束を米政府に求めているという。すなわちトルコ政治の基軸が「世俗か、イスラムか」ではなく、イスラムの中での派閥間対立に比重を移したということだ。

 すでに参加した将兵数千が逮捕拘束されている。これが反政府的な民間人にも及んでいく危険もある。国内の政治的緊張関係は継続するということだ。それゆえ冒頭で、「一件落着」とカッコ書きにした。

ニースの虐殺は84名、おそらく重体者も多数いるので、100名に迫っていくと危惧されるが、このトルコクーデタでは、ひとたび軍が暴発すれば、簡単に256名(執筆段階)という如く、大量の死者が出ている。

 軍が使用する銃器の殺傷能力が格段に高いからである。

 それにしても政治権力のすさまじさだ。

 大学では欧州政治と政治学を講じているが、政治学は「諸科学の王様」と言われながらも、日ごろ、経済学、法学、自然科学と比べて、評価されていない。就職にも役に立たないと極論される場合もある。

 しかし、政治学の重要性は、何より、「国家を守る」という大義のもとに、人をして数百万単位で殺傷し、かつその行為を、国民に平然と要求するという政治権力という<怪物>を扱うが故だということを常に話している。

 国民はもとよりであるが、国政担当者の政治家諸君は、政治権力の行使者として、怪物というのふさわしい政治権力の重要性をゆめゆめ忘れてはならない。

 なおクーデタとはフランス語が語源coup d'État、「国家への一撃」。政治体制が同じで指導者が武力で入れ替わる。革命とは、政体を変えること。

追記

 トルコクーデタでの死傷者数1600名余と14時現在ある。多くが国内治安に責任を持つ警察官という。反乱軍による襲撃で警官が犠牲者というのが、クーデタの典型的事例だ。

 

| 児玉昌己 | - | 13:40 | comments(0) | trackbacks(0) |
トルコクーデター

 朝起きると、トルコではクーデターとの報。

 アジアでは、中国の南沙での軍事的進出を背景にした領土認識についての、仲裁裁判所の違法性を認める判断。中国の共産党独裁政権はこれを紙くずだと、一蹴したものの、大慌てだ。国際法は強制力はないが、一定の規範性はある。国際社会における責任ある国家としての中国という、習近平の外交姿勢に対する、強烈なレッドカードである。

 フランスでは社会に対する遺恨と復讐というレベルでの84名もの犠牲者を出した革命記念日でのニースの大虐殺事件。

  そしてトルコ。実に、目まぐるしい国際政治の展開である。

 トルコについていえば、この国は世俗主義を軍が守ってきた歴史がある。世俗主義は建国の父であり、国父ともいわれるアタチュルクの方針でもあった。

 イスラムにおける世俗主義の在り方を実践してきた国家である。それで西欧化し、EU側との関係も構築できてきた歴史がある。

だが、世俗主義の反動というべきエルドアンの登場と、その強権政治の深化。イスラム色の強化。

 EUとの関連で言えば、例のイギリスのEU離脱をめぐる国民投票の常軌を逸した離脱派の虚偽と偏見の中で、キャメロン首相自身が離脱派の挑発に踊らされ、「トルコのEU加盟は紀元3000年になってもあり得ない」という、不必要かつ挑発的言説を成し、トルコの市民の怒りと不信を買っていた。

 EUにおいては新規加盟申請はEU条約では全会一致であり、望めばイギリスがブロックできたことであり、離脱派に挑発されたとはいえ、一言ありえないといえば済むことだった。本来保守党は、EUFTA的組織に希薄化させるために、むしろトルコのEU加盟を支持していた歴史もあることも付言しておこう。

 EU条約についてのキャメロン本人の無知にあったということができるし、この富裕層を絵に描いたエリート出身の政治家の政治的資質の無さでもあった。ともあれ、トルコを不必要に侮辱し、対欧州認識を貶めたこの首相のレベルが知れる出来事ではある。

 話を戻せば、トルコは、Natoでは対IS攻撃の重要拠点であり、厖大なシリア難民等の防波堤でもある。

 安定したトルコはその地政学的位置において、西欧にとっても、アジアにとっても、実に国際政治の必須要件である。

 軍もエルドガン強権主義で、多数の犠牲を払っており、これにたいする軍部の抵抗とみれば、民主主義という重要問題とは別に、それなりの必然性はある。

 もとより民主的に選出された政権の軍部による覆滅は、ありえないし、認められない。とはいえ、同時にそれぞれに国の事情もある。他国や自国、そして自分自身の価値観で事が運ぶほど、国際政治は容易な対象ではない。

 論理的には独裁でありながらも、交渉の受け皿として統治を確固としている政権をつぶして、国家の統治機能を喪失し、ISの跳梁跋扈を生んだ、米英のイラク介入とフセインつぶしの悪しき例もある。

 韓国の今の発展と繁栄と民主主義は、朴正熙の軍事クーデターにあると理解すれば、開発独裁として知られる軍事政治は、時に意味を持つ。

 要は、市民がどう反応するのか、それが最も重要なことである。政権の正統性は市民の意思を誰が得るのかである。

 その推移を見るしかない。それによって、革命ともなり、クーデターともなる。

 政治とは実に厄介なシロモノである。

 なおトルコ在住の日本人は2千名という。平穏であることが一番である。

追記

 ロイターが以下伝えている。

2016 07 16 08:56 JST トルコに戒厳令・外出禁止令、国営テレビが軍声明伝える

国営テレビTRTのアナウンサーが15日、軍の命令を受け声明を読み上げた。

アナウンサーによると、トルコは現在、「平和評議会(peace council)」が掌握、公共の秩序が損なわれる事態は認めないという。また、民主的、世俗的な法の支配が、現政権下で後退したとし、新憲法制定に向けた準備が間もなく行われるとした。

 

 従来のクーデターは国営テレビを押さえられるかが重要な分かれ目となる。

 両者が勝利声明を出しているというが、大統領の消息も不明で、国営テレビは軍が押さえたということだろう。続報が待たれる。

 とにかく地政学上第一級の重要性を持つトルコ。泥沼にならないことだけを望むばかりだ。

 続報

 軍が全体として動いているわけではないということだ。反乱軍は、一部の宗教勢力に感化されている者たちとも報じられている。また降伏する兵士も映されており、もうしばらく決着には時間がかかるのだろう。

 国家統治の基盤がしっかりしていることこそトルコには求められる。

 

 

 

| 児玉昌己 | - | 10:27 | comments(0) | trackbacks(0) |
手つかずだった庭の雑草の除草を詠む 海鳴庵児玉

 連日の大雨、庭の草も伸び放題 

 

 てつかずで 我が物顔の 雑草に ようよう対処 雲間さす陽に

                       海鳴庵児玉 

 

            

            

2016.07.01 Friday 海鳴庵児玉句歌集2016年前期

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3979

       

| 児玉昌己 | - | 00:53 | comments(0) | trackbacks(0) |

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