児玉昌己研究室

内外の政治と日常について想うことのあれこれを綴ります。
在英EU市民の権利を保障するスコットランド民族党の動議否決について

 EU離脱の国民投票から4か月。

 この間はっきりしたことは、キャメロン首相が丸投げで、職務を全うするという自身の言を翻し、敵前逃亡したこと、後継のテリーザ・メイ首相が3月末までにEUにEU脱退通告をすることを明らかにしたことである。

 ちなみに、「合法的脱税者リスト」というべきパナマ文書にも名前を残したキャメロン前首相は、今後、EU離脱という最悪の選択の責任追及を恐れて首相辞任にとどまらず、下院議員さえも早々に辞めた。しかも、自身は、高額な契約で、自伝をウイリアム・コリンズ社から出すことも報じられている。

 契約額は460万ポンド(2007年当時の円換算で11億円余)のブレア元首相を超えるものともいわれている。ただし、この額は、キャメロン自身が招いたEU離脱によるポンドの急落で、対円換算では半分までさがっている。

 とはいえ、若者の将来を曇らせつつ、自身は長い老後を安楽に暮らせる「晩年」の実入りである。

 ちなみに、わが国の一部の評論家は、円安が株高を生むという類推で、ポンド安を評価する向きがある。だが、まったく論外のことだ。

 イギリスがEUの関税同盟から離脱することになれば、輸出産業は関税に苦しみ、単一市場からは排除され、多数の外資系企業の離脱を生み、海外投資は激減し、インフレに苦しむことになる。

 イギリスのEU離脱が同国経済をバラ色にすると唱える、すべての評論家のレベルを疑えということだ。

 ともあれキャメロンについては、実にくだらない政治指導者だったが、彼のことはいい。すでに終わった。

 歴史が彼を正しく評価するだろう。今のイギリスの若者には気の毒としか言いようがないが。

 イギリスの現政権についていえば、まだ多くのEUの脱退の戦略と工程表は見えない。

 EU離脱派、法的にはEU法との整合性をとった1972年の3共同体法を破棄して完成するが、Great Repeal Actで対応することが語られる以外、依然、具体的な指針は見えない。

 今日は北アイルランドの高等裁判所がEU離脱については、議会に諮る必要がないと判示した。

 国民投票の結果という高度に政治的な選択を前にしては、司法は、いわゆるわが国の自衛隊と軍事問題で往々にしてみられるような、統治行為論を展開することで、司法は憲法判断を避けるのかもしれない。

 国民投票自体が代表民主主義を否定する直接民主主義の究極の手段であり、そこでの決定は、確かに高度に政治的決断の意味を持つ。

 もう1つ政治学者として興味深いのは先週の20日、イギリス下院でスコットランド民族党(SNP)により提出された動議について、インディペンデント紙が伝えたニュースである。 

 すなわち、EU離脱後の在英のEU市民の権利を保障を求めるこの議案が293250の僅差で否決されている。

 国民投票から4か月経ったが、イングランドとウェールズについては、人種差別やヘイトクライムが急増している。

 これを背景にし、依然として、イギリス在住のEU市民の権利が維持されるかは不透明であることを理由にし、それを確固たるものとするという親EU派、EU残留支持政党のSNPの政治的意思を表した動議である。

 この動議は拘束力のない一種の政治的決議というものであるが、上記のような僅差で否決された。

 政府の移民担当相のRobert Goodwillは、動議が「万一イギリスがEUを離脱した場合」(Should the UK exit the EU)という文言に注目し、「イギリスのEU離脱は疑いがない」Brexit  means Brexitという首相の発言を繰り返しつつ、EU離脱は「万一」という仮定ではなく既定方針として動かないと理解し、SNPの動議はこれに反するものとした。

 すでにイギリスでは27000名余が在EUイギリス市民と在イギリスEU市民の権利を保障するように請願に署名したことが伝えられ、他方、すでにブログしたが、国民投票後離脱に備えてイギリス市民のなかに他の国家の市民権を取得するような動きが顕在化している。

 私にしてみれば、SNPのこの動議は、現在それぞれのEU加盟国に在住する双方の市民にとっては、既得権益の維持の保証にすぎない。いわば、最低レベルの現状追認の動議でしかない。

 実際、この議案は、EU離脱派が絶対に受け入れられないとする無条件の、将来にわたる人の自由移動の自由の確保に関わるものではないのである。

 しかるに、それに保守党政権がこの動議に反対したということが重要である。労働党の動議反対者数も気になるところだ。

 ちなみにこれを報じた親EUのインディペンデント紙は、珍しく、議案について個々の議員の賛否を、票を投じた下院議員の氏名をすべて明記し、報じている。すなわち紙媒体から撤退し、ネットだけの媒体になった同紙だが、明らかに動議に反対した議員らに圧力をかけているとみてよい。

 私見だが、EUが確保してきた、将来にわたる無条件の人の自由移動の原則をイギリスが認めないとするEU離脱派の条件で交渉に臨めば、離脱派が一方的に望むEUの単一市場へのフリーアクセスもありえず、hard Brexitにならざるをえないということだ。

 すなわちスコットランド側から見れば、底流にあるSNPのUK離脱の意思を強めるであろうし、EU側から見れば、今回の議案の動議についていえば、イギリス政府の姿勢に態度を硬化させ、イギリス政府が望むような良いとこどりは、不可能となると考えられる。

今後、イギリスの経済状況が悪化を辿る可能性が高いことを考えると、下院では特に「1972年の3共同体法」廃止時に必要とされる議決において、離脱反対が増える可能性もあり、予断を許さない。

 その意味で、SNPの動議提出はイギリスのEU離脱をめぐる前哨戦というべきもので、この記事、現時点での英下院議員の動向を知る意味で、きわめて価値のある報道ということだ。

 なおSNPの影響下にあるスコットランド自治政府はウエストミンスターにEU離脱は許さないとしているが、スコットランドの人口は福岡県を少ししのぐ520万余。ちなみにデンマークが570万で、中小規模の国が多いEUにあっては一国に相当する。

 スコットランド自治政府(SNP政権)は同議会で63議席であり、129の定数の過半数を取っているわけではない。だが、2014年に続きイギリスからの離脱を求めて第2次の住民投票を実施する方向で、動いている。

 その際の質問文が以下、明らかにされた。

The question of the referendum will be: "Should Scotland be an independent country?"

「スコットランドは独立国家か」というものである。

 わが国では、イギリスのEU離脱に伴いEU解体と捉えた評論家が多いが、笑止千万である。EUは特にその核心部分であるユーロ圏19か国は、揺るがないむしろ、UK解体の可能性(危険)が指摘されるべきなのである。

 参考記事

MPs vote against protecting the EU right to live and work in the UK. Independent. 21 October 2016.

MPs vote against motion protecting right of EU nationals to live and work in UK after Brexit INews. October 20th 2016.

北アイルランド高裁、EU離脱で議会承認必要ないと判断 ロイター201610/28.

参考ブログ

 

 

| 児玉昌己 | - | 23:30 | comments(0) | trackbacks(0) |
同志社ラグビーの雄、平尾誠二を想いつつ詠む 海鳴庵児玉

 金曜日、「追悼平尾誠二」をブログにアップした。多く同志社関係者だったのだろうが、700近い人が見てくれた。

 昨夕、NHK衛星放送で、絶対王者松尾雄治率いる新日鉄釜石と、大学ラグビーの頂点にたっていた平尾率いる同志社の1985年1月の日本選手権の再放送を見ていた。放映は大震災からまもない4年ほど前のことだ。

伝説となったこの試合の解説、松尾雄治ともども四半世紀ぶりに椅子を並べた平尾は、キラキラ輝いていた。

 平尾の死はいつになく堪えた。体を外湯に沈めて、浮世談義を耳にしつつ、以下詠む。

 

 キラキラと 輝く君の 雄姿(し)を刻み 歩まんこの身 前を見据えて

 

 神無月 神は在りしや 浮世風呂 浮いて沈んで 悔しく泣けり

                         海鳴庵児玉

 

2016.10.21 Friday 追悼平尾誠二 同志社そしてラグビー界の雄にして華、逝く

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=4143

 

 

| 児玉昌己 | - | 08:43 | comments(0) | trackbacks(0) |
「大量出国」を生み始めた英のEU離脱

  情報量とその分析力で、今最高水準にあるといってよい英ガーディアン紙は「EU加盟国に市民権を求めるイギリス人が急増」と1019日付で報じている。2016年の最初の8か月で少なくとも2800名が他のEU加盟国の市民権(国籍)を申請したという。これは2015年の250%で、特にデンマークでは10倍、スウェーデンでは3倍という。

Brexitがその原因であることが明確だ。

ボリスジョンソン現外相は今もってEU離脱に楽観的な未来があることを語っている。だが、前ロンドン市長として、EU離脱の旗を振っている時期、EU離脱反対の言説をしていたことも暴露されている。まったく無様極まりないことだ。

CNNによれば、彼はEU離脱キャンペーン入りするわずか2日前に、以下Sunday Timesに書いているとのことだ。

Brexit would cause an "economic shock" that could lead to the "breakup" of the United Kingdom.

「経済ショック」と「イギリス解体」に導くことを知りつつ、ではなぜ離脱の旗振り役をしたのかということだ。

 多くの若者がEU離脱で前途に、不必要に大きな障害を抱える決定をしていたのだ。

43年にわたりEU加盟国として存在してきたイギリスにおいて、生まれてこのかた、EUの中のイギリスしか知らない、前途ある有望な若者を苦境に追いやる一方で、イスタブリッシュメントというべきボリス自身はその立場においても、その生涯においも金銭的に全く困らない状況にいて、である。

 もとより排外的ナショナリストにあおられた「シルバー民主主義」が背景にあるが、それに手を携えた、現在外務大臣の職にあるこの政治家の神経を疑う。

 独仏の政治指導者からは、異例にも「嘘つき」呼ばわりされるのも、これまた異常、異様なことである。

参考記事

Boris Johnson's secret pro-EU article revealed.CNN.October 16, 2016.

'Outrageous' and 'a liar' – Germany and France lead criticism of Boris Johnson. The Guardian, 14 July 2016.

Brexit : shame on you, Boris !LE MONDE | 01.07.2016  Boris Johnson, à Londres.

参考ブログ

2016.07.03 Sunday 仏有力紙ルモンド「恥を知れボリス」と、英語のタイトルで英のEU離脱の張本人の敵前逃亡を叱る

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=4073

| 児玉昌己 | - | 10:20 | comments(0) | trackbacks(0) |
追悼平尾誠二 同志社そしてラグビー界の雄にして華、逝く

 平尾誠二の写真をテレビで見たとき、一瞬、表彰でもされたのかと思っていた。其れがなんと訃報で、一瞬凍てついた。

平尾誠二、同志社関係者はどれほど、その名前を誇りに思っていたことだろう。

私より1周り下だが、長く苦しい大学院生活にあって、全く別の世界にありながら、彼は常に、私の誇りであり、憧れでもあった。

 彼の偉業は誰も忘れない。ラグビー大学選手権史上初の3連覇、神戸製鋼7連覇と、まさにラグビー界の至宝だった。

 サッカーかラグビーを選べと言われれば、ラグビーを私は挙げる。それは、疑いもなく、同志社で、名監督岡仁詩と平尾誠二を身近に感じていたからだ。

 53歳、あの勇者も病魔に勝てないのか、悔しくて、悲しい。

参考ブログ

2007.05.12 Saturday 同志社ラグビーの名監督、岡仁詩先生のこと

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=580

| 児玉昌己 | - | 09:15 | comments(0) | trackbacks(0) |
混迷する英国独立党(UKIP)有力党首候補離党

 友人で英国人のスティーブン・デイ教授がテレグラフのUKIP情報を送ってくれた。

テレグラフ紙の以下、ウォルフ議員が離党するという内容の記事だが、驚くことでもない。

Ukip is ungovernable. I hoped to be leader - instead, today I quit the party. Steven Woolfe.17 October 2016.

EU離脱の国民投票に勝利した後、英国独立党(UKIP「ユーキップ」と呼ぶ)のファラージュが党首を辞め、党首選でダイアン・ジョーンズが選出された。

 だがこの女性党首、わずか18日で、統制不能を理由に突然辞任。

 話はそれで終わらない。その後継者選出の過程で、次期党首選に立候補を表明していた欧州議員スティーブン・ウォルフ氏(49)が6日なんとストラスブールの欧州議会内で同僚議員に暴行され、意識不明となり、病院に搬送されるというとんでもない事件が起きた。

 以前から私は、この政党をEU統合の「あだ花」といっている。「徒(あだ)花」とは「実を結ばない花」(blossom that bear no fruitのことである。

 欧州議会の民主的選挙制度が生んだ「鬼っ子」とも私は呼んでいる。

 ところで、イギリスのEU離脱の実際を言えば、EUのすべての機関から離脱することを意味する。その中には欧州議会も当然含まれる。すなわちイギリス選出の73名の議員の地位の喪失も含まれる。

 UKIPは周知のごとく、直近の2014年の欧州議会選挙で、英選挙区第1党として、保守労働党を抜き、24議席を得た(現在22)。

 この英独立党、読んで名の如く、EUからの離脱、すなわちイギリスの独立が唯一の目的であった。

 彼らの認識ではイギリスはEUの植民地状況にあり、EUから離脱すること、すなわちそれが独立を掲げた党名の由来であった。それゆえEU離脱が達成されれば、単一争点政党として、結党の目的を失い、用済みとなる。

 この政党、英離脱キャンペーンでは保守党の離脱派以上にインパクトのある活動を内外で展開していた。それもこれも、欧州議会の英選挙区第1党の地位があればこそだった。

 欧州議会から出れば、徹底した小党排除に働く反民主的な英下院議会選挙の完全小選挙区制度の下で、わずか1議席でしかない。党首ファラージュでさえ議席を持たない単なる泡沫政党へ逆戻りである。実に無様なことだ。

 グロテスクというべくも小選挙区制度によって支持票が合法的に虐殺され、徹底して排除されている英自民や緑の党と共闘して、封建遺制というべき現在の小選挙区制度から転換して、比例代表制に動いてくれれば、少しは評価してもよいのだが。

 ちなみにファラージュ自身が、自己が偏愛しつつも、自身の党を完全に締め出しているイギリスの選挙制度について2015年5月8日、総選挙で自身の議席も取れなかったことに関して、「小選挙区制度は破たんしている」と以下語っている。

"Personally, I think the first-past-the-post system is bankrupt," he said. "It is bankrupt because one party can get 50% of the vote in Scotland and nearly 100% of the seats, and our party can get 4 million votes and just one seat. Nigel Farage resigns as UKIP leader as the party vote rises. BBC. 8 May 2015.

 それにしても、英のEU離脱を問う国民投票での離脱決定に伴う党内の内紛という敵失が続く英政権与党、保守党である。すなわち、労働党からみれば、政権奪還の千載一遇のチャンスというべき位置にある。それにもかかわらず、組合運動家という極めて視野の狭い党首を抱え、一国社民主義に特化し、大陸の社民勢力との共闘もできず、国際性を全く失っている英労働党の無様さを救いがたい思いで見ている。

参考ブログ

2016.09.19 Monday

党の存在理由を失った英国独立党(UKIP)は消滅あるのみか 新党首就任に寄せて 

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=4128

2015.05.30 Saturday M・ウェーバー欧州人民党党首が英独立党ファラージュを嗤う EU議会の選挙制度の先進性とイギリス下院の小選挙区選挙制度の後進性

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3842

| 児玉昌己 | - | 12:34 | comments(0) | - |
神無月の祠にカンナの花 それを詠む 海鳴庵児玉

 一時期のあの炎暑は終わったものの いつもの祠には未だ、カンナの花 それを詠む

 

 神無月 祈る祠に オレンジの カンナの花が いまだ咲きおり

          海鳴庵児玉

 

海鳴庵児玉昌己句歌集2016年後期

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=4118

 

| 児玉昌己 | - | 09:07 | comments(0) | trackbacks(0) |
同志社での研究会出張 Brexitを話す

 研究会で京都に来ている。前回はコンチキチンのお囃子が聞こえる祇園祭の時だった。

前回は英のEU離脱直後で訪英していた3名が同志社のイギリス政治研究会で帰国後の報告会だった。今回は、3か月がたち、別の関西政治社会研究会と同志社大人文研共催のもの。

 この間、海外事情に「英のEU離脱の衝撃」と題して、論考を発表し、それを下にした報告で、EUの防衛政策では右に出るものがない権威、阪南大学前学長の辰巳先生と一緒だった。この分野で誰かいないかといわれ、学長職を終えられた辰巳先生にお声をかけたのだった。先生とは、ブログでも書いたが、尾道旅行をこの夏ご一緒したところだ。

 それをも終わり、ホテルでの朝。今日は、日曜日。オフ。

 研究仲間で地元出身の同大助教の原田君が付き合ってくれるというので、彦根城、三井寺などみて、見聞を広げたいと思っている。

 せっかくの上洛だ。秋の最高の季節。まだ見ぬ、近江路を楽しみたい。

  

●1015() 13001825分 同志社大学烏丸キャンパス志高館2階共同研究室SK288

https://www.doshisha.ac.jp/information/campus/

imadegawa/karasuma.html
2016年第6回関西政治社会学会研究会同志社大学人文科学研究所 共同研究会
1部 テーマ「EU問題を正しく理解するために」1305-1535分 (150分)
報告者1、児玉昌己氏(久留米大学法学部教授) 
タイトル 「英のEU離脱の衝撃 現状、意味、理由」(40分)

| 児玉昌己 | - | 08:14 | comments(0) | trackbacks(0) |
植民地遺制というべき時代錯誤の米大統領選挙とその制度

  噴飯ものとはきつい表現だが、米大統領選挙は、2つの意味において実際、その形容がふさわしい。

 1は、2名の、まぎれもなく超富裕層というべき候補者の泥仕合。

 今、卑猥な会話で女性を差別的に扱う動画が公開され、女性層と共和党幹部のトランプ離れが拡大している。

 金と卑猥さでしか政治外交を語らないトランプだ。しかして、ロシアや北朝鮮は彼の当選を心待ちにし、ヒラリーに不利になる情報をハッキングして流しているありさまだ。

 このトランプという卑俗、無教養反知性、反国際性という言葉を地で行く前代未聞の候補からすれば、ヒラリーはましだが、彼女もまた富裕どころか、権力の中枢にいるというべきイスタブリッシュメントそのものである。

TPPには反対というが、その裏腹な動きがロシア側からすっぱ抜かれている。TPPに対することの是非はここでは触れないが、彼女の情報管理能力には疑問がある。個人ならさほどのことでもないが、当選すれば大統領だ。

 以前、私用で、公的携帯を使っていたという事実も明らかにされていた。危機管理には疑問符が付く。

 

 第2に指摘したいのは大統領選挙制度の問題だ。

 3億人を超える人口にもかかわらず、候補がわずか2名のみ。

 因みに、議員任期が当選年と改選年の2年しかない下院議会は議員定数435だ。これは1929年から90年余り不変だ。現在3億を超える人口だが、当時は1.2億程度だった。

 完全に貴族化している100名の上院議員の定数も100年余り不変だ。政治家と有権者の声は離れるばかり。人口100万人に2人も国会議員を確保できていないのは、世界広しといえど、先進国では米国ぐらいだ。

 寡頭政の政治と私は以前書いた。

 大統領選挙に戻れば、ここ25年、ブッシュファミリーと、クリントン・ファミリーといわば、アメリカ政治が特定の超富裕の権力者のファミリー・ビジネスによって「世襲」、支配されているという意味で同様である。

 第2は、21世紀の火星にも人類は飛だそうという時代にあって、世界最強の国家の米国において、その選挙制度たるや、植民地時代の封建遺制をまるで変化させていないということだ。

 大統領選挙における間接選挙制度がその最たるものだ。州ごとに決められている選挙人をAll or Nothingで選び出すものだ。それゆえ有権者の意思と、投票結果が異なるという馬鹿げた結果になる。あのfoolish Bushを生んだことで知られるゴアとの選挙戦がその典型的事例である。

 有権者が直接候補者に票を投じ選出する21世紀の世界の常識がここでは通らない。

 しかも、有権者の投票結果で、勝者を選挙人がすべてそのものに投票するという建前さえもぐらついた。「不実の選挙人」が話題となった。

 「不実な選挙人」(faithless electors)とは、州レベルで事前に選出されていて、勝者の党に属する選挙人は、その党候補に投じるというものである。

 今回、建前に反して、南部ジョージア州の共和党の選挙人団16名の1人のベトナム系米人が、11月の本選挙時に、トランプには投票しないというものだ。理由は、トランプは異常で、国を率いる資格がないということだ。

 理由は分かるが、これがまかり通れば、一体、特別に選ばれ責任を負う「選挙人」(一般有権者ではない)とは何なのか、ということになる。

 元来、民主主義の先進国では考えられない間接選挙自体が驚きだが、その内実さえ、恣意的に動くというものである。これもブログした。

 ちなみに、不実な選挙人は1948〜2004年に9人しかいないと読売紙が伝えてくれた。数は少ないとはいえ、間接選挙自体の異常さを、さらに異常にする事態である。

 さらに大統領当選者は、戦後ほとんどが上院議員経験者ということである。プライマリー(予備選)にはじまる3年近くに及ぶ大統領選で、いかほどの政治資金を必要とし、それを投入したかをみれば、その異常さ確認できる。米国史上初の黒人大統領となったオバマでさえ、2008年9月だけで過去最高となる選挙資金、152億円を集めていた。読売新聞20081020日  選挙戦開始以降、オバマが集めた資金は、米大統領選史上最高の6億ドル(600億円)に達していると伝えられた。同上 およそマイノリティによる草の根民主主義の勝利といったものとは程遠い。富裕層のみの争いである。

アメリカの民主主義とは一体何か、それがあったとすれば、今や、風と共に去りぬ、American Democracy has gone with the windというべき状況だ。

 かくして、アメリカの大統領選挙の異常さは、ここに極まれりである。

 ともあれ、延々とつまらない候補者のテレビ討論などで米の有権者はうんざりしないのかね、それを延々と垂れ流すメディアはこれで満足なのかね、といいたいところだ。

 米国人は何につけて、「自由な国」(Free State)と胸を張るが、こと社会の根幹をなす政治においては、よりましな「陳腐さ」を選ぶという以外、選択肢が全くないという意味で、実に不自由な国家であることは間違いない。

 欧州のことも知らず、アメリカかぶれし、いまだにアメリカの政治がいい、アメリカに倣えという「知識」人がわが国にもいる。だが、私など、まったく魅力のない大統領選挙制度と現下の選挙戦である。

参考ブログ

2016.03.30 Wednesday田舎政治家が米大統領になる可能性への世界的危惧 孤立主義に向かう米

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=4005

2016.08.04 Thursday 米大統領選挙で「不実の選挙人」の存在を知り驚く

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=4095

2009.01.10 Saturday 国会議員の数 5 上  議員の希少性と権威化、保守化する米政治

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=1655
2009.05.31 Sunday 単純小選挙区制に進む議員削減論の鳩山民主はウルトラ保守である3

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=1843

 

| 児玉昌己 | - | 21:08 | comments(0) | trackbacks(0) |
卒業後、50周年となる中学同窓会にでる 歌も詠む 海鳴庵児玉

 日曜日、佐世保に中学の同窓会で出かけていた。市中心部の中学だったので、合併して、同じ場所にあるというものの、名前はなくなった。

 私の場合、小学校も、同じく市の中心地にあったために、周辺への人口移動のドーナツ化現象に加え、一般的な少子化を受けて、閉校。全くとんだことだ。

 中学の同窓会、4年に1度、五輪時に開催しているために覚えやすい。卒業生のうち半数近くの200名の所在を確認しているが、そのうち50名ほどが集まった。遠く、東北に嫁いだかつてのマドンナも顔を見せてくれた。すべて幹事のみなさんのおかげである。

 次回は東京五輪時だ。なんだかフレッシュだ。

 自営業者や自由業を除き、同期の多くが、60の定年を終え、65までの再雇用も終わりとなる。

 親の介護のこと、闘病のことなど、卒業後半世紀の時を過ぎて、会話の話題は、懐かしさということよりも、多くそうしたこと

 ともあれ、無事の再会を誓って別れ、山県町のバーで、独り、人生のことなど思いに耽った次第だ。

 

 なつかしさ それより介護 闘病と 同窓会後(かいご)の酒は ほろ苦きもの

                  海鳴庵児玉 

                       

 

| 児玉昌己 | - | 16:56 | comments(0) | trackbacks(0) |
英離脱後のEUはどうなるか、Continental Partnership論へのコメント

 4日間のバーミンガムでの保守党大会が終わった。3月末までにEU脱退の通告を行うと、新首相メイが言明した。

 移民制限なくして、英国民の国民投票の意思の実現と実践はありえない、とも語った。したがって、それは実践するとした。この瞬間、ポンドは対ドル比で30年来の暴落を見た。

 ボリスジョンソン(前ロンドン首長)、ファラージュ(UKIP)、コーブ前司法大臣らイギリスの離脱派が半年前からあれほどはしゃぎ、煽ったEU離脱だが、終始、市場はポンド売りのレッドカードでその怒りを表し続けている。

 イギリスの英離脱後について楽観的にいうものすべてを、我々は疑ってかかるべきだろう。

 彼らはいまだ「パイプの夢」の中にあり、幻想に浸っているということだ。

 これからイギリスを襲う経済的苦境が強ければ、そしてイギリスのEU市場へのフリー・アクセスの維持と英経済無傷論の幻想が瓦解すれば、今度は一転、強烈な反発と怒りが、これらEU離脱派に向けられることになるだろう。

 EU側も、イギリスの親EU派も、離脱の準備も何一つなくまさに国民投票というギャンブルをやり、離脱の決定では、後継首相に丸投げし政治舞台から逃亡したキャメロンへの怒りは強い。

 この首相、後からの災難を避けてか、首相はおろか、議員さえさっさと辞めてしまった。無責任を絵に描いた首相として、歴史に名を遺すだろう。

 それでも後任のメイ首相が、3月までにEU離脱を実践することを明言したことで、EU関係者は安堵している。

 イギリスの離脱後のEUとヨーロッパはどうなるのだろう。今日はこれを考えてみたい。

 それに関して、まさにその名の通りの論考が出ている。

 Jean Pisani-Ferry(仏)、 Norbert Röttgen(独)、André Sapi(ベルギーULB)、 Paul Tucker(英イングランド銀行)、 Guntram B. Wolff(独)による Europe after Brexitがそれである。プレス関係者から教えてもらい、目を通した。

 著者らの経歴を見ると、EU関係に熟知した皆さんだ。だが、簡単に言って、これもイギリスの側に立った、wishful thinkingでしかない。

 イギリスが大陸のEU加盟国、周辺国とContinental Partnership(CP)を形成するというものだ。

 概略すれば、政治同盟の強化を支持しない国家を中心に、EUの内外で、人の移動を除く通商関係を確立するというもので、多くの国家に開かれているという。

 だが、EUの独仏ベネルクスの原加盟6カ国は相手にしないし、ユーロ圏19カ国も同様であろう。

 EUの中核における統合のレベルは、この論考が前提とするレベルを遥かに超えている。

 例えば、ユーロでいえば、通貨同盟の強化はぜい弱な構造を抱えていて、それがゆえに財政同盟の強化、すなわち欧州統合の連邦的深化は必然となるからである

  CP論については、読んでハタと思うことがあった。

 なんと、これは1960年に結成された欧州自由貿易連合(EFTA)の21世紀版ではないかと。

 EFTAはまさに「欧州(自由貿易)連合」であり、連邦と同義語の政治同盟を求めていない。イギリスは国家主権の移譲を嫌い、Inner sixのEECに対抗して、いわゆるOuter Sevenとして形成された。しかし、結果的にその主要メンバーがほとんどEUに移籍してしまいほぼ政治的に意味を失った。CPはまさに21世紀のFTAの欧州版だ。

 実際、歴史が示すように、欧州統合は65年余りの歴史を経た。

 CP論者が何を言おうとも、ヒト、モノ、カネ、サービスの4つの自由を組織の琴線としているEUのコアの6カ国がFTAに後退することはないし、ユーロ圏においても、財政同盟という政治同盟に合意して、ユーロ圏を形成しているがゆえに、CPとの協定など歯牙にもかけないだろう。

 さらにいえば、CPは私にはEUが周辺国家と締結している連合協定のanother versionを思わせる。

 連合協定とは、わが国の表記では、「欧州連合」に「連合する」というように、加盟協定かと誤解される。

 ちなみに、これが欧州連合の表記の使用停止と欧州同盟への変更を求める1996年の欧州社会党からの欧州委員会への公式質問書の理由の1つであったが、EUが周辺国家と取り持つ関係であり、主体と求心力は、あくまでEUにある。

 外辺部を吸収しつつEUは28となった。その発展はEUが魅力もあったがゆえである。

 翻って、CPを掲げて、他国を誘うだけの力と魅力がイギリスにあるだろうか。

 答えはネガティブである。

 イギリスはかつて強大であった。1960年のEFTA形成時には周辺国を束ねる求心力があった。しかし今はどうだろう、それは全く期待できない。当時のポンドの価値を思い出すだけでいい。

 若い人は全く知らないだろうが、私より一世代上で、三井物産、三菱商事などで1960年代初頭に英国勤務をしていた商社員が当然としていた1ポンドの対円レートは、千円だった。

 今日現在ポンドは対円で129.37だ。見る影もない。

 大英帝国のノスタルジーの過去にとらわれたシルバー世代に媚びる、パブリックスクール出身のオックスリッジのエリートが跋扈するイギリスの凋落は、目を覆うほどだ。シルバー民主主義とはこのことだ。

 時にEU内であっても、自己の組織であるEUのダイナミックに進む統合レベルについて理解できず、評論家、経済学者が政治の現実の前で保守化し、むしろ欧州統合の深化の抵抗勢力となり、事態を予見できないことはままある。

 その典型的事例が、わが国の一部出版社が、異常、異様に入れあげているエマニュエル・トッドだ。

 自称左翼のようだが、私にしてみれば、反EU主義の国民戦線のルペンと変わりない。この反EUナショナリストのトッドは、親ロ、親プーチンで、その内実において、極右のレベルにまで接近している。

 因みに、パリ政治学院ルケンヌ教授を含め、私のヨーロッパの友人たちは全く彼を評価していない。

 日本の、そこそこ名の有る出版社がトッドを「世界最高の知性」と宣伝しているが、私には悪い冗談の類であることは書いた。 

 ユーロが実質化する2002年に現金流通を開始したユーロだが、1993年のマーストリヒト条約に至る過程で見せた欧米の経済学者、国際金融学者の否定的評価を知っているからである。

 結果はどうであったか。まさに、彼らの思惑を超え、政治的決断でユーロが導入され、現在19の加盟国、3億人以上をカバーする世界的通貨として機能している。

 ユーロの制度的欠陥については、竹森俊平教授が厳しく指摘している。だが、私に言わせれば、当時の制度設計を担った者たちは、制度的欠陥を知りつつ、それでも強力な意思と政治指導で、これを導入、実現した。

 したがって、あの当時では、制度設計では、あれが限界だったと考えている。時間をかけ完成させるケルンの大聖堂やバルセロナのサグラダ・ファミリアを構築したあの発想である。

 言い換えれば、ユーロの機能不全を知りつつそれでも、政治的意思を優先して、導入した。 

 竹森氏についていえば、EUの意思決定についての困難さについての同情と機微、すなわち惻隠の情を欠いた、「数学者的」書き方だ。実際の政治はもっと泥臭い、非合理の人間の行為の塊でしかない。

 もとより、その不備のために現在のユーロに脆弱さがあることは、当然誰もが認めているのだが。

 CPに戻れば、この論考の執筆者は、経済学者、金融学者、あるいは実務家のトップで、政治学者がいない。

 東欧のもつ対ロ恐怖症という経済以外の要素がEU統合のベースにあることを彼らは過小評価している。しかもクリミアを編入し、ウクライナ東部に軍事侵攻したあのロシアの脅威を。

 EUは、One Market(単一市場)だけで成立しているわけではない。One Voice(単一の対外政策)がある。

 ロシアを仮想敵とする域内での非戦共同体の実現にある。

 ことあれば一体としてロシアに当たる、それがEUだ。EUは反戦共同体ではない。

 CPでは、ヒトの自由移動に参加せず、政治同盟にも参加する意思も意図もないイギリスの意思と国家利益を基準にしている。軍事は、イギリスが協力するという前提だろう。

 だが、すでにリスボン条約での欧州統合のレベルは、経済と軍事外交では、イギリスの思い描いている状況を遥かに超えている。

 加盟国の国家的生命に直結する人の移動、国境管理ではEUに組み込まれている。直接的にはEU移民の流入を抑えられないイギリス保守党の不満がEU離脱を招いた。そのことが示すように、EUは、加盟国の法、つまり主権にたいする上位規範であるEU法に裏付けられた連邦的主権を行使している。

 CPを提唱するイギリスは、ユーロにも加盟していないし、シェンゲンにも加盟していない。しかも今回のBrexitブレグジットだ。

 EU結成時の理念はもとより、他の加盟国との共通の利益と相似性も完全に失っている。

 イギリスに離脱問題のどさくさにかかわらず、国境管理でのEUの権限は強化された。日経の森本学ブリュッセル支局長が以下伝えている。

 欧州国境警備隊が発足 難民対策、EU加盟国任せを転換 日経2016/10/6 20:18

 イギリスは、EU市民の受け入れさえ、国家的不利益とみて、これに対峙した。ましてや保守党政府の意向を受けたBBCがEU域内移住と難民をMigrantマイグラントと、不明確な用語で説明するほどに、難民問題は他人事だ。

 そんな状況で、中・東欧、ギリシア、南欧、独仏などの痛みと利害を、共有できるはずがないということでもある。

 ポーランドを考えればいい。300万のイギリス在住のEU市民のうち、80万を1国で出している。その締め出しとなれば、第2次大戦以前からの親英国家としての対英関係も終焉しないまでも変化するだろう。

 すでにイギリスには、EUのコアのみならず、外辺部との相似性もない。

 イギリスなきEUでは、外交安保軍事でさえ、EU独自で進むという分析もある。

 実際、東欧から「EU軍」の創設が言われて、離脱交渉を前にしたイギリスが、ナンセンスにもNatoと重複するとして、この案に拒否権の発動を言う始末だ。

 ポーランドもハンガリーも現在の右派政権は、確かに国家からなるEUへとドゴールやサッチャー主義的なEU改編を考えているが、それでもEUを離脱するとは言っていない。

 また、主権国家からなるEUに、連邦的EUを改編する政治指導力などハナからありもしない。自国の民主主義が問われるレベルの国家でしかない。

 イギリスと違いロシアを近くにする東欧諸国の恐怖を、インテリの富裕なるイスタブリッシュメント出身の著者、すなわちCP論者は理解できていないということだ。

 経済でも説得性を欠くCP論だが、軍事外交問題には全く視座が及んでいない。こんなCP論についていくわけがない。EUにつくのがまだましだと思うだろう。

 CPの条件は、EUの加盟国を規律しているリスボン条約と抵触する可能性が高い。すなわち、EUを離脱しない限り、それは不可能だし、見ようによれば、それはEU分裂の誘いともいえる。

 ともあれ、独仏ベルギーをカバーする欧州人が書いたものではあるが、基本的には、親イギリス的であり、仏独現政権の意向とも全く一致していない。

 EU統合のさらなる強化というEUの方向性のコンテキストの中では、ユーロの脆弱さが解消されれば、ユーロ圏はさらに拡大する。

 それゆえ、私見を言えば、CP論は、欧州統合の数あるエピソードの中で、一過性の、間幕劇でおわる提言だろうと考えつつ読んでいた。

 「CP論については分かった。では、貴兄はイギリスなきEUを、そしてEU離脱後のイギリスをどう考えているのか」、と問われる方もおられるだろう。

 最初の質問については、65年のEU統合の歴史が示す如く、EUは危機の中で危機を通して、統合を進めるという、西独首相ブラントの言葉を改めて強調したい。すなわち、独仏枢軸が崩れないという前提で、連邦的色彩を濃くしながら、EU統合は欧州連合を否定し、欧州連邦に向かい進むということである。

 現在のユーロ圏の中途半端さは、ユーロを導入しながらも、ギリシア国債とドイツのそれにみるように、国家間の財政力を反映した金利差がある。各国は財政需要に応じて、それぞれユーロ建の国債を出していることにみられる。

 この克服は絶対命題で、ユーロ圏内の均衡を保ち、金利が同一のEU共同債も発行されることで解消されていく事を求める。それはEU財務省が責任を持ち、ユーロ圏予算となる。そして、それは欧州議会内の、ユーロ圏議会が監督する制度を必要とする。今ドイツは、それは財政移転同盟だと反発している。だが、ドイツ一国の利益のみを考えて行動すると、角を矯めて牛を殺すことになる。

 社会的公平性を掲げ、EUによる財政投入を積極化すべく、南欧の国家とも協力しつつ、SPDがEUの財政のカギを握る独政府、メルケルに働きかける必要がある。

 なお、ユーロ圏がEU加盟国数と同等になれば、欧州議会と別の権限を持つ、ユーロ圏議会の必要もない。ユーロが安定すれば、EU加盟国は、すべからくユーロを導入、使用することになる。

 イギリスの将来については、EUという、ネガティブの評価と文句を言うだけの対象ながら、実は最もイギリスを輝かせていた世界から離れ、暗い見通ししかない。EUの市民の入国制限を掲げる限り、スイス方式も、ノルウエ―方式のもとれない。両方式とも、ヒトの自由移動はもとより、多額のEU分担金を収め、さらにEU法制定について全く一方的に除外され、その決定に従うことになるからだ。

 WTOという、高関税という意味で、最低のラインまで後退することは必至だ。それはイギリスの企業に年間7千6百億円の損失をもたらすといわれている。

 イギリスについていえば、EU加盟は43年の歴史をもつ。

 EUで育ち、EUの中のイギリスしか知らない世代が国民の半数以上だ。いわゆる古い世代の選択が通り、本来国家をこれから背負うイギリスの若者の将来のあらゆる可能性を閉ざすことになるからだ。

 しかも、イギリスについていえば、この愛すべき国際国家がEU離脱を契機に、ヘイトクライムの汚名さえ帯びつつある。実に痛恨の極みである。

 

 あえて私の個人的なwishful thinkingを言えば、イギリスがEU離脱した後、リトルイングランドとして、親EU国家と変じて、EUに再加盟することである。まあ、当面、見果てぬ夢かもしれないが。

参考記事 

David Davis accused of having no plan for Brexit The Guardian,  5 September 2016.

Brexit is an opportunity for EU defense policy EUobserver. 8. Jul, 2016.

 

参考ブログ

 2015.10.21 Wednesday 竹森俊平の「逆流するグローバリズムーギリシャ崩壊、揺らぐ世界秩序」PHP新書を読む 上

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3917

2015.07.19 Sunday奇妙なる仏のナショナリスト、E・トッドEmmanuel Toddの書、『ドイツ帝国が世界を破滅させる』 文春新書2015年 上下

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3865

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3868

 

| 児玉昌己 | - | 10:20 | comments(0) | trackbacks(0) |

このページの先頭へ