児玉昌己研究室

内外の政治と日常について想うことのあれこれを綴ります。
佐瀬昌盛先生から近著『対ソ国交回復交渉の軌跡』南窓社2016年届く

 防大名誉教授佐瀬昌盛先生には、日頃、学者としての真摯さと筋を通す剛直な生き方に、故猪木正道先生とともに、常に敬意と尊敬を抱いてきた。

 久留米大学の公開講座、比較文化研究所欧州部会にもたびたび足を運んでいただいた。

 すでに御年82であられる。

 今般、「対ソ国交回復の軌跡−戦後日本の政治風土」を上梓され、ご恵贈賜った。450頁余の大著である。

さっそく電話でお祝いを申し上げる。

 安倍政権は日本固有の領土として4島返還を抱えてきたが、近頃、その国是をまげて、全体の5%程度の歯舞、色丹の2島返還で手打ちするかのような北方領土の返還外交が報じられている。

 そんななかにあって、対ソ外交の歴史的な経緯を知るうえで、若い人のみならず、外務省の若手諸君、とりわけ政権の座にある自民の政治家諸君には必読の書といえる。

 第1部と第2部からなり、第1部が対ソ国交回復の第2部の予備的なものとして、おかれている。

 第2部が対ソ国交回復交渉を正面から扱ったもので、実に読みごたえがある。

 特に、鳩山一郎とドイツ宰相、コンラート・アデナウアーの外交交渉の比較については、引き込まれるほどである。

 何より、先生は30代の若き日にあの浩瀚なアデナウアーの回顧録を独語原文から翻訳され、河出書房から出されている。

 その圧倒的な知識と造詣を背景にしての、両国政治家の比較であり、改めてほとんど忘れらている戦後直後の両国の対ソ外交の課題とそれへの対処の仕方に上段から切り込まれている。

 何はともあれ、日本の国際政治をリードされた大先達が、衰えることのない情熱で取り組まれた、政治とは何か、外交とは何かを問われた書、大いに学ぶべき書である。

参考ブログ

2012.04.19 Thursday学恩にわずかながらも報いうる喜び

 http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3112

2016.10.03 Monday  安倍総理よ、2島先行返還、冗談だろう、択捉が一部入る面積等分論が出発点だよ

http://masami-kodama.jugem.jp/?day=20161003

 

| 児玉昌己 | - | 23:05 | comments(0) | trackbacks(0) |
これから厳しい地雷原を通るEU  英のEU離脱の中でも統合は深化しつつある

  EU解体論がかまびすしいが、EUは解体しない。

 60年余の統合の成果は加盟国にしっかり根を下ろしている。それゆえ、簡単には崩せないし、崩れない。

 一部の周辺的な加盟国は抜けるかもしれないが、それは本体には影響しない。もしEUが解体するとすれば条件がある。

 何より1952年のEU創設(当時欧州石炭鉄鋼共同体/ECSC)メンバーである独仏伊の一角が崩れる時である。そして次に同じく創設メンバーのベルギー、オランダ、ルクセンブルク、すなわちベネルクスだ。

 ドイツの財務相ショイブレは、オランダが抜ける可能性に言及しているが、まずないだろう。

 「英国以外のEU離脱、可能性排除すべきでない=ショイブレ独財務相」 ロイター2016年6月10日

 これら創設メンバーは同時にすべてユーロ圏諸国である。

 仏国民戦線のルペンの盟友、オランダ自由党のヘルト・ヴィルダースがそれを望んでも。前の通貨ギルダーに戻るなど、フランスがフランに戻るのと同様、金融、証券市場で売りたたかれる、狂気の沙汰である。

 フランス・フランが、あるいはイタリアリラがユーロに置き換わるまで、どれだけ弱小通貨だったか、忘れたかである。

 英は離脱できたではないか、という人に言おう。

 イギリスは大国で、もともと、欧州統合に消極的であり、しかもユーロ圏でなかったゆえにそれが可能であった。実際、2大政党が労働党も含め、イギリスは欧州統合に積極的でなかった。

 何より、イギリスがEU(当時EEC)加盟するのは、1973年のことである。すなわち、独、仏、伊、ベネルクスから見ると、「イギリスなきEU」を21年も経験している。それがEUとイギリスの関係である。 

 今年の623日のEU離脱を問う国民投票が行わたが、あまり知られていないが、すでに40年以上も前のEU加盟2年後の1975年に英労働党(ハロルド・ウイルソン首相)によって実施されており、第2回というべきものであった。

 英離脱の影響についていえば、昨年7月では190円を付けていたポンドが、140円と、離脱直後から戻しているとはいえ、25%強の減である。離脱交渉が進めば、さらに売りたたかれるだろう。EU離脱の高いツケを払わされることは必至だ。日中の企業も含めて、イギリスに欧州本部を置く必然性が消えてしまう。緩やかながら、非合理的選択をした高いツケが来ることをイギリス政府関係者も意識し始めている。 東欧諸国でのEUの重要性はさらに高い。

 欧州連邦形成に向けて意識、無意識に進むEUだが、ポーランドやハンガリーは、現政権下で、かつてのドゴールや、サッチャーの如く、主権国家からなる欧州連合への「換骨奪胎」を志向しているが、EUを離脱するとは言わない。 

 ロシアの脅威があるからだ。国際化された金融市場の報復という経済の怖さも理解している。

 また中小加盟国では、EU離脱は、証券、金融両市場からの厳しい報復をもたらす。

 ハンガリー、ポーランドについていえば、彼らがEUの連邦制とその思想を離れた国家連合に組み替えたいとする意志については上述の通り、強いものがある。

 だが、EUをリードできるなどはハナから問題外である。

 むしろ、EUの中核がから見れば、新規の東欧諸国は、その価値の維持という点で極めて後ろ向きで、お荷物になりつつある。ハンガリーでいえば、EUでは、人種差別的ともいえるその排他的主義的な姿勢がEUで問題になっているほどだ。 

 実際、ハンガリーでは、9月13日には、欧州理事会開催を控えたルクセンブルクのジャン・アセエルボーン外相は、独ウェルト紙に、難民問題でEUの価値観を「著しく侵害している」とし、ハンガリーをEUから締め出すべきだとまで述べていた。ハンガリーは、セルビアとの国境にフェンスを建設して国境を封鎖、難民を追い返しており、言論の自由や司法の独立も尊重していない。

「難民を締め出したハンガリーにEUから出て行け」ニューズウィーク日本版2016914

  実際、EUはハンガリーの国民投票実施によるEUレベルでなされた合意を覆そうとする決定が断行された。すなわち、ハンガリーでは加盟国に難民受け入れの割り当てを義務付けたEUの決定を受け入れるかどうかについて国民投票が実施された。

 幸いにして、10月にそれが投票総数が成立の要件を満たさず、不成立に終わっていた。

 またポーランドでは、中道右派政権の法と正義党でいえば、司法への露骨な政治介入をし、それでEU法を侵しているとして、EU条約による制裁が考慮されているほどだ。

 イギリス離脱で、EUの危機的側面に目が奪われている。だが、それでもEUは統合を強化している。

 1つは、軍事同盟の強化。2つ目は国境管理の強化、さらには司法警察協力、特に法改正を進めているユーロポールも指摘できる。これらの面で著しい。

  ここでは軍事同盟と国境管理の2点を指摘しておこう。

 第1の軍事同盟強化については、独仏がそのプランを明らかにした。

 NATOとの関係の重要性に重きを置くイギリスだが、それを脅かすとしてEU独自の軍事同盟強化にイギリスは反対してきた。だが、その反対を緩めつつあるとの報道だ。以下ロイターの記事。

 Germany, France seek stronger EU defense after Brexit: document.Reuters  Sep 12, 2016.

 UK softens opposition to EU defence union EUobserver 14. Nov, 2016.

英とは無関係に同盟強化をEUの中核、独仏は進めつつある。

 ついでにいえば、EUの上級代表で欧州委員会副委員長のモゲリーニは、あのトランプが大統領になる新たな時代、すなわち世界国家としての世界の警察と自負してきたその義務を放棄する危険性が高い時代と理解している。

 その状況にあって、EUは「平和のスーパーパワー」になるべきと、NATOとは重複しない形での軍事的重要性を指摘している。トランプが大統領になれば、アメリカ第一主義で、自国の利益しか考えなくなると理解しているからである。

Mogherini calls EU a peace ‘superpower, in wake of Trump win.EurActiv.com with AFP ‎2016‎‎11‎‎10‎。

 

 EUにとって通貨と並んで深刻な危機の要因は、移民、難民問題である。

 そのカギを握るのは、ユーロ圏でいえばギリシアであり、難民問題ではトルコである。

 トルコはクーデター未遂事件を機に強硬姿勢に転じ、EUがトルコに対し厳しい対応を取り始めて、EUトルコ関係は厳しい状況に置かれている。

 欧州議会はトルコのEU加盟をめぐる対トルコ交渉を当面凍結するよう加盟各国などに求める決議案をストラスブールで賛成多数で可決した。具体的数字は、緑の党を含め、賛成471反対37、棄権が107

Turkey reacts angrily to symbolic EU parliament vote on its membership The Guardian24 November 2016

 軍事クーデター未遂事件後の政治的敵に対するトルコのエルドガン現政権の、弾圧というべき過剰な対応を理由とするものである。

 他方、数百万規模でトルコに留め置かれているEUへの移住を希望する難民をEUに出国させると、彼らを「人質」にしたビザ・フリー協定の実施をトルコは要求している。

 AFPは、このトルコの動きについて、トルコは北大西洋条約機構(NATO)加盟国だが、本来はNATOと対抗する目的で結成されたはずの中ロ主導の上海協力機構(SCO)にさえ加わる可能性を示唆した、と伝えている。

 「トルコとEU、関係最悪=混乱の欧州に難民危機警告−反対派弾圧許せない欧州」時事2016/11/27。

 しかし国境(EU境というべきだが)管理は確実に強化されている。

 106日、EUレベルで域外との国境警備にあたる「欧州国境・沿岸警備隊」を正式発足させた。

 これは、EU加盟国の国境警備の調整を担っている欧州対外国境管理協力機関(フロンテクス)の権限や装備を強化して発足させたもので、特定の加盟国で難民らの流入が急増した場合、その国の国境警備の強化や非正規移民らの域外への送還などを助ける。

 日経によれば、2016年内に少なくとも常時1500人規模の警備隊を確保、本格稼働させるというものである。EUでは、西独首相ブラントの「危機は統合を進める」という格言があるが、実際、危機の渦中でも、確実に進んでいる統合深化の側面を忘れてはならない。

「欧州国境警備隊が発足 難民対策、EU加盟国任せを転換」 日経2016/10/6

 

 このように、最近でもEUは危機を体験しているが、EUと欧州統合にとっての、これからの厳しい政治日程を示せば以下だ。

 12月4日の上下両院対等から下院優位へと政治システムを変えるイタリアの憲法改正の国民投票(その結果如何ではレンティ首相の辞任含みとなる)、同じく12月のオーストリアのやり直しとなった大統領選挙での極右候補の勝利の可能性。

 年が改まれば、オランダに続いて、独仏というEUの枢軸での政治動向が見ものとなる。

 5月の決選投票までのフランスの大統領選挙と、そこでのルペンの勝敗、秋のドイツ下院議会選挙の実施とそこでの極右AfDの進出状況など、注視すべき動きが多発する。

 EUはそれを構成する加盟国の政治動向を受けつつ、地雷原を駆け抜けていく。 

| 児玉昌己 | - | 22:38 | comments(0) | trackbacks(0) |
シュルツの欧州議会議長辞任報道に際するメディアの報道姿勢 

 昨日、マルチン・シュルツの欧州議会議長辞任について以下ブログした。

2016.11.25 Friday マルチン・シュルツ欧州議会議長辞任と母国ドイツ下院議員選出馬を発表

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=4158

 これについて、追加しておきたいことがある。洋の東西を問わず、報道の姿勢の重要性である。

EurActivの上級編集者のブルガリア出身のGeorgi Gotevは、根拠も示さず、メルケルがシュルツの盟友のユンケル欧州委員長の実績について否定的にとらえており、その辞任を希望しており、それにより「EUがよりましになるリセット」を考えていると記事している。以下がそのサワリ。

“Kicking out Juncker would be the first thing to do if someone wanted to make the EU a better place,” a well-informed institutional source told EurActiv, asking not to be named.

According to the source, Merkel, whose opinion of Juncker’s performance has significantly deteriorated, would like to see him replaced, giving the chance for a ‘reset’ of the EU.

Schulz’s departure ‘gives chance for EU reset EurActiv.com 20161124

しかし、メルケルがユンケルを嫌って転出を願っているという重要な発言を匿名で出すなど、まったく記事として信ぴょう性を欠くと言わざるを得ない。

 オランダ労働党で欧州委員会副委員長のチンメルマンスとの入れ替えを示唆している。

 たしかに、下記に紹介しているように、チンメルマンスは私は評価しているEUの政治家である。

 だが、上記の記事では、個人的に、ユンケルを嫌う書き手のGeorgi Gotev自身の希望を語っているだけではないか。

 なによりユンケルはspitzenkandidatの過程を経て選出されており、誰にもましてEUの中で、正統性と正当性を得ている。

 他方、イギリスの反EUメディアが政治的に彼を嫌い、ユンケル欧州委員長を貶める記事を書いてきたことは知られているし、別段、新しいことではない。

 しかし、重要なのは、欧州委員長が変わると仮定して、EUにおいて、2009年発効した現行EU条約であるリスボン条約に基づき、2014年に実施されたspitzenkandidatという新欧州委員長選出手続とその過程を抜きにして、次期欧州委員長に誰がなれるというか、である。

 本人に重大な瑕疵がある場合や、自らの意志で降板する場合を除いて。彼が重大な瑕疵を犯したとでもいうのだろうか。本人が辞意を表明したとでもいうのか。

 すでにEU首脳会議である欧州理事会は、現行EU条約であるリスボン条約で「欧州議会の選挙結果を考慮する」というように、「拘束」され、欧州委員会の長を指名する仕事に限定されており、決定権限は欧州議会に移っている。

 メルケル独首相がシュルツ議長の退任を受け、彼と親しいユンケルの首を切り、新たな欧州委員の長を選び出すなど全く愚昧極まりない推論である。

 EurActivの編集者ならそんなことわかっていると思われるのにである。

 時に首をかしげたくなる記事が、優れたEU情報サイトEurActivに、上級編集者から出る。EU条約を知るものからすれば、制度を無視した実に軽薄な、というべき記事である。

 穿っていえば、国家主義者が嫌うspitzenkandidat手続の骨抜きを意図した記事かもしれない。

 欧州議会が最終決定権を持つのではなく、国家が欧州委員会の長を選ぶべきだという理由で。

 なんであれ、どこから出た記事であれ、メルケル独首相がユンケル欧州委員長の降板を望んているなどという、重要な内容を含むものであればあるほど、匿名の「その筋」 a well-informed institutional source) などいう報道は、疑ってかかる必要があるということだ。 

 参考ブログ

チンメルマンスについては、以下2016.07.08 Friday

欧州議会で感動的なチンメルマンスTimmermans 欧州委員会第1副委員長(オランダ労働党)の演説

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=4077

| 児玉昌己 | - | 09:53 | comments(0) | trackbacks(0) |
マルチン・シュルツ欧州議会議長辞任と母国ドイツ下院議員選出馬を発表

  マルチン・シュルツ欧州議会議長が3期目を前に退任することを発表した。

 議長職3期続投の意志を断念し、ドイツ政界転進の声明の背景としては、欧州議会内外で彼の続投を支持しないうごきがあった。

 なにより直前には、日ごろから対中への歯に着せぬ発言などで問題があったエッチンガー・ドイツ出身の欧州委員がロシアのロビイストに近いドイツのビジネスマンの飛行機を使う便益を得ていたなどが指摘され、その問題への議会としての対処に消去的との不満が出されていた。

 またブルガリア出身の欧州委員クリスタリナ・ゲオルギエヴァ女史が世界銀行に転出するに際して、同委員が担当する予算と人道援助担当の職務をエッチンガーに移すという欧州委員会の人事に対して、欧州議会の各会派代表協議会では、シュルツの提案と支持で、彼への公聴会を見送ったということがあり、シュルツへの批判が高まっていたこともある。

 しかし、全体としてみれば、欧州統合史では欧州議会とその影響力をかくも実践できた議長もいない。

 その意味で、史上初の欧州議会直接選挙後に就任した女性議長シモーヌ・ヴェイユをしのぐものかもしれない。欧州委員会の長の名を高めたのはミスターヨーロッパこと、ジャック・ドロールその人だったが、欧州議会議長など、象徴的存在でほとんどの人が名を知らないという実態が長く続いてきた。欧州議会の存在と影響力は、マルチン・シュルツの就任で時代を画するほど大きくなった。

 EU関係者を除いてほとんど無名だったシュルツの欧州議会議長としての登場の経緯と背景をいえば、現行EU条約であるリスボン条約でのスピッチェン・カンディダートspitzenkandidat(ドイツ語の選挙用語、英語ではprime candidat、狭義には比例名簿登載一位者をいう)と関係している。

  これだけではEUと欧州議会を知らない人にはチンプンカンプンだろう。

 少し説明しよう。

 EUでは行政府の長を長く加盟国政府、つまり国家の側が合意で決めていた。

 2009年リスボン条約でその手続を変えたのである。すなわち、欧州議会の院内会派の背後にある欧州政党がそれぞれ党内予備選をやり、候補者を選出し、欧州議会選挙で第一党となったところから、欧州委員長候補を推薦し、EU首脳のサミットの欧州理事会で指名してもらい、欧州議会が最終的にそれを議決するということである。

 これをspitzenkandidat手続と呼ぶ。

 それはリスボン条約を根拠にする新たな欧州委員会の長選出手続であり、その政治過程全般を指すものであった。さらに言えば、EUの議院内閣制への接近ともいえる制度改革であった。

 なぜ国家から欧州議会に行政府の長の選出の権力関係にかかわる重要な制度変更をしたのかについては少し説明がいる。

 要は、欧州委員会が行政府として強力になるにつれて、EUが加盟国に指示するにあたって、欧州委員会はだれからも選出されていないではないかという批判があった。これをEUでは「民主主義の赤字」と呼んでいたが、これが長年、問題視されてきており、spitzenkandidat手続はその改善策であった。

 シュルツにもどっていえば、彼は欧州社会党を代表して、欧州の社会民主主義者の代表として、EUの行政府である欧州委員長指名を受けるべく党内の予備選に出馬し選出された。

 欧州人民党は同様の手続でユンケル現委員長を選んだ。そして欧州議会選挙では欧州人民党が第一党、欧州社会党が2番手となったということにある。

 議会と欧州理事会は、欧州議会の最大会派の欧州人民党から欧州委員長が選出されたことで、バランスを取るべく、欧州議会第2党となったシュルツを欧州議会議長に選出することに合意したのである。

 日経11月20日付では瀬能論説委員が大きな紙面を割いて、欧州議会の比例代表選挙制度が極右を結果として増大させているという記事をだした。

 これと同紙面で、取材を事前に受けていた私のコメントも掲示された。この大きな記事のテーマは大きく2つある。1つは、EUでの極右勢力の台頭は欧州議会の選挙制度と連関していること、第2は欧州議会の影響力は、単に政策面だけでなく、制度面で進んでいることである。

 欧州議会では、言われている極右の台頭は欧州議会を通して弾みがついているが、私は、中期的には欧州議会の影響力は英のEU離脱を考えれば、削がれ、後退するとみている。

 実際、労働党を含めイギリスに付与された議席の73名が消えることになり、英保守党も含め、それらに付随している現在の反EU勢力である120名余りが、その職を失い、あるいは行き場を失い、極右勢力は後退するというのが私のコメントであった

  第2の主題である制度形成の進展では、議院内閣制をとる国家の議会では議会多数派が行政府を構築することが一般的で、欧州議会もその制度に近づけたということである。 それが私のコメントの主要見出しの「議院内閣制への接近」として掲示されている。

 実際、国家の議会とは別途EUには議会が用意されており、その中で、あたかも国家のように欧州議会が欧州委員会の長を選ぶというまでに進んでいる。

 言い換えれば、国家の単なる連合体を意味する「欧州連合」を否定するEUの連邦的統合の深化、いわばEUの連邦国家化への進展の証である。

 当然、反EU勢力からすれば、ますます個別国家の主権的権限の簒奪がすすみ、それと表裏一体のEUの連邦主義が強化されることを意味した。 

 欧州政党による欧州委員長候補者を選ぶ予備選挙では、英前首相キャメロンが徹底してこれに抵抗した。イギリスこそがEUの欧州連邦化を何よりも明確に理解していたからである。そして、それが英のEU離脱の1つのも契機ともなった。

 遺憾ながら、わが国では「欧州連合」というEU表記に自己呪縛され、メディアや専門家も含め、このEUの「連邦化」という欧州では当然至極の認識が希薄であり、EUの連邦化が英のEU離脱を生んだという根本理由に、目を向けないものが多い。

 ちなみにEU離脱を主導したボリスジョンソンはEUを通した欧州統合について、以下語っている。

 「本質的問題は残る。欧州人は、我々が共有しない理念を持っている。彼らは、 真に単一の連邦的同盟、すなわち大方の英国人が考えていない欧州合衆国を創設したいのである。」(The fundamental problem remains: they have an ideal that we do not share. They want to create a truly federal union, e pluribus unum, when most British people do not.)B・ジョンソン前ロンドン市長、2016222日) 拙稿「英のEU離脱の衝撃−EUの連邦的統合深化を拒絶した英国」「海外事情」2016年9月号 106−119頁

 イギリスの保守党党首で首相のキャメロンは徹底してspitzenkandidat過程に、自党が中心となっている欧州保守改革党による予備選をボイコットし抵抗したのだ。

 だが、実は、これはリスボン条約に明記された手続であり、イギリス政府自身が、2009年の発効時点で、署名し、成立させていた条約と条文に基づく手続だったのにかかわらずである。

 イギリスは、このあたり対EU戦略で、ずっと、逡巡し、迷走し、キャメロンが反EU姿勢を前労働党政権よりも明確化させたということだ。

 その後彼は国民投票を実施し、離脱となり、首相を辞任し、下院議員も辞めてしまった。

 シュルツの議長辞任に話を戻そう。彼の欧州議会議長辞任にあたり、EU離脱交渉の欧州議会担当者で、シュルツとも懇意であったベルギー首相経験者のフェアホフシュタットは以下ツイッターしている。

Thanks, @MartinSchulz for the eight years of cooperation and friendship. I wish you all the luck in your new endeavor, Guy

  この両者、EU離脱でEUを去っていくイギリス保守党政治家を含め、欧州の反EU勢力からは、欧州統合推進者であることで、忌み嫌われてきた。

 しかし、はっきりしておくべきは、政治はカールシュミットの友敵論にあるごとく、究極において、客観的であることを装ったり、中立をとるなどありえない。

 私は「欧州統合は連邦的統合を必然とする」と30年前から考え、そう主張している。そしてその方向に確実に動いているすでにユーロ圏では帰還不能地点を超えている。

 たしかに危機は連続している。しかし、考えれば当然のことだ。28か国の意思を統一することへの困難は計り知れない。それでもEU加盟国はイギリスを除き統合強化に向かっている。対処的、事後的と批判されながらも統合は進んでいる。例えば、ユーロメルトダウンなどと浜矩子女史ははやし立てたが、現在のユーロの相対的安定は、危機対処の部分的成果を示している。

 対象を見て、分析する際、自身の確固たる判断基準が確立されていないものの意見は、右左にと、安易に移ろう。要注意である。

 ところでシュルツはその後どうなるのだろうか。

 来年実施されるドイツの連邦下院議会選挙に古巣のSPDから出ることになる。その後の去就をあえて言えば、外相職に就く可能性もあることを指摘しておきたい。

 これだけ欧州議会で活躍し、欧州レベルで名前をなした政治家である。外相ポストを得ても、不思議ではない。 ちなみに、ドイツでは大連立で、CDUとSPDが連立を組んでおり、現外相はSPD出身のシュタインマイヤー。

 すでにシュタインマイヤーはドイツの大統領職に立候補することで両党が合意している。

 シュタインマイヤーもドイツ政治の中枢にいるものとして揺るぎない親欧州主義者である。従って、現首相メルケルなどCDU主流派も、シュルツがSPDのシュタインマイヤーに代わって外相職に就く人事に反対する積極的理由はない。

 反EU派はシュルツの欧州議会議長職の離脱を歓迎しているであろうが、EUで最も強大な勢力を持つドイツの有力政治家として、今度は、ドイツ政治の舞台から欧州統合推進になお一層取り組むというのが、私の結論である。

 参考ブログ

2016.06.11 Saturday

マッチポンプのキャメロン、反EUの火をつけて回り、挙句、消火できずに国家が大火災 EU離脱の可能性が高まる英国民投票

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=4050

 

 

 

 

| 児玉昌己 | - | 00:28 | comments(0) | trackbacks(0) |
6時前 3mの津波警報 東北沿岸

 東北沿岸にM7.4の地震、異例に早起きした今朝、6時前に、3mの津波警報。

NHKの警報放送は すぐに高台に逃げるようにと、絶叫調になる。

 NHKの実況者を含め、我々は津波の怖さを知っているからだ。

テレビを通して、悲痛な現地の警報音が九州北部の町にも響き渡っている。

追記

10時に警報解除

 

 

 

 

| 児玉昌己 | - | 07:01 | comments(0) | trackbacks(0) |
日経今日11月20日付日曜版に「波乱の欧州統合」で欧州議会に関する私のコメントが出ました

 今日1120日付、日本経済新聞日曜版に、「波乱の欧州統合」として、EUの欧州議会の特集が組まれ、瀬能論説委員の記事が掲載され、私のコメントが写真と合わせて出ました。

議院内閣制に接近 久留米大教授 児玉昌己氏

2016/11/20付情報元日本経済新聞 朝刊

http://www.nikkei.com/article/DGKKZO097531

80Z11C16A1TZG000/

 

 

| 児玉昌己 | - | 10:49 | comments(0) | trackbacks(0) |
ピラミッドと悠久の大河 豊かなるナイルを詠む 海鳴庵児玉

 過日、勤務校である久留米大学の学術交流協定でカイロ大学に出張、終わってピラミッドを見学、それを詠む

 

 

広大な 砂漠(すな)の大地に 忽然と 死して睥睨 嗚呼ピラミッド

 

芒洋の 大地を裂いて ナイル川 人を育み 都市を興すや

                

 

海鳴庵児玉昌己句歌集2016年後期

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=4118

| 児玉昌己 | - | 09:07 | comments(0) | trackbacks(0) |
 過日長女の結納 剪定なった庭にツワブキの黄色が花を添える それを詠む海鳴庵児玉

 

 晴れの日の その色嬉し ツワブキや 結納式に 華を添えおり

               海鳴庵児玉

| 児玉昌己 | - | 09:12 | comments(0) | trackbacks(0) |
新棟本館がほぼ完成し、事務も教員もようやく大移動が完了する

 大学では、一部周辺工事を残しているが、新棟への引っ越しが終わり、ようやく御井学舎挙げての旧棟からの大移動がなった。足掛け4年を費やした。

 この間、学生さんには不便をかけていた。これで安心して勉学が進む。

 我々もまだ新たな教室や会議室の方向が分からず、モタモタ、オロオロしている感じだが、それも自然に収まってくるだろう。

 今の学年は旧棟と新棟を共に知る最後の学生ということになる。時代は緩やかに変わっていく。

 

 

| 児玉昌己 | - | 10:37 | comments(0) | trackbacks(0) |
68年ぶりのスーパームーンにしばし癒され それを詠む 海鳴庵児玉

 トランプごときが大統領になり、世界は仰天。その後を注視という事態だが、いつになく大きな月は不変に輝き、いらだつ心を慰める 

 

フルムーン 世事と無縁に 天空(そら)を占め 猛き心を 和ませ賜い

                  海鳴庵児玉

 

海鳴庵児玉昌己句歌集2016年後期

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=4118

 

 

| 児玉昌己 | - | 23:53 | comments(0) | trackbacks(0) |

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