児玉昌己研究室

内外の政治と日常について想うことのあれこれを綴ります。
関心高まる仏大統領選挙 エマニュエル・マクロンへの期待

 政治学者はストレスがかかる職業だ、と書いた。

他方、政治学者は、自身が職業としている対象が政治権力ということで、その頂点を争う政治権力の重要性を知っているがゆえに、そのフォローは同時に楽しくもある。

対象と距離を置きつつ「それでもなお(dennoch)熱情をもって」と『職業としての政治』で書いたのは、あの有名なドイツ人社会科学者マックス・ウェーバーだ。

 ちなみに同書を訳したのが故脇圭平。人ぞ知る丸山真男の愛弟子で、トマス・マン、ウェーバーなどドイツ現代思想史の研究者である。同志社時代に先生に末席で政治思想の手ほどきを受けた。

 今日はドイツではなく、フランスの大統領選挙について書こう。

 欧州はこの2017年はスーパー選挙年だ。オランダの総選挙が2週間後の3月15日、フランスは4、5月に大統領選挙だ。5月が決選投票。9月下旬がドイツの総選挙。

 仏大統領選は、私が専門とするEUの将来がかかっていることもあり、きわめて重要な選挙である。 極右国民戦線のマリーヌ・ルペンの決選投票進出がほぼ動かない。

 ではだれが1位か2位になり、決選投票で、彼女の当選の可能性を突き崩すかということだ。

私的なことを言えば、フランスのこの大統領決選投票は、EUにとって極めて重要な選挙となるので、現場主義者としてできる限り現場にいたいということで、55日にパリ入りして、これを取材する準備を進めている。

 幸い今日のブログの主人公で、大統領有力候補となってきたマクロンの母校でもあるパリ政治学院の教授クリスチャン・ルケンヌ(欧州大学院大学同級生)がいつものように、自宅に泊まっていけと言ってくれ、厚意に甘えることにしている。この間常時意見交換とブレーンストーミングである。

 最有力候補で、楽勝かと考えられていた野党・共和党の統一候補、フランソワ・フィヨン(Francois Fillon)が、妻女の公金流用疑惑で、途端に失速をはじめた。

 他方、ルペンも国民戦線の本部ビルが司直の捜索を受け、秘書とガードマンが拘束され、取り調べを受けている。

 ナント市では国民戦線の支持者が、本部ビル捜索に反発し、暴動を起こし、機動隊と激しくぶつかっている。ルペンは政治捜査だと反発を強めている。

そうした事態を受けて、保守傾向の当のフィヨンは、民主主義の平和裏の実践の条件を作り出すことに首相とその政府は失敗していることを非難すると、26日にコメントした。

 しかしである。

 これは考えてみると、身から出た錆ではないか。大統領選に出るにあたり、妻女に司直の手が入るとは、自らの不明の致すところで はないか。

 ルペンについては欧州議会で自らが、作り出した不正である。

欧州議会の予算はEUのために支出されるべきものだが、一度もブリュッセルに行って仕事をしたことがないものにたいして、EU予算で賄うなど、まさに不正流用だ。

 ただし、EUにはまだ警察権限はない。いずれはFBIに相当するEU連邦警察の発足もあると思われるが、現在は共通逮捕状の整備など、情報交換を主とする司法警察協力が精いっぱいだ。それゆえ、加盟国であるフランスの司法警察に情報を渡して、捜査を依頼している。

 ルペンに限らず、とにかく極右といわれる者たちの政治行動は不正にまみれている。

 315日に総選挙を迎えるオランダ自由党のヴィルダースもモロッコ系住民に差別発言を公然となし、有罪判決を受けている。

 ファラージュ辞任後UKIPの党首となったポール・ナタルも同様だ。

 彼は、最もEU離脱支持票実に69%という選挙区 Stoke-on-Trent Central を選んで、先の補欠選挙を戦ったが、労働党候補に敗れた。日経に、EU離脱キャンペーンに成功したUKIPの役割について問われ「終わりの始まり」とコメントした(2016.11.20)。

 この党、EU離脱の単一争点政党がゆえに、目的を達して、まさに終わりが始まったといえる。

 この反EU政党の党首ナタルは、補欠選挙キャンペーンを通して、博士号取得についても学歴詐称が暴露され、あるいは選挙区にあるとされる居住地についても、その実態がないことが明らかになっている。

 ハンナ・アーレントも使用したbanalitiesという言葉が彼らにはふさわしい。

 デマゴーグというべき大西洋をまたいだ極右の台頭については、「富者のファシズム」というProject Syndicate上(2015.12.)での論考で「白人世界の終焉への恐怖」を反映しているといったのは、フィッシャー元独外相だ。

 フランスでは、これに対抗する政治家として、若干39歳のマクロンが急浮上している。

 彼はパリ政治学院、ENAとフランスのエリート中のエリートが学ぶ学校に在籍していた。

 その後、彼はロスチャイルド投資銀行からオランド大統領の経済・産業・デジタル相となったが、政治家を経験したことがない。

 仏社会党を出て、独自に自己の政治組織アン・マルシュ(En Marche英語でmarching forward)を立ち上げ、支持派は仏全土に広がり、会員は19万人を超える。

 このブログでも紹介したが、彼はEUに欧州の未来を見る数少ない政治家である。ロシアメディアがマクロンに関して、フェイクニュースを流しているということが明らかになっているが、ロシアと、ロシアから政治資金を受領しているとも噂されるルペンが、彼を脅威に思っている証である。

 私はEU研究者だが、より厳密にいうと、国民戦線のマリーヌ・ルペンの事務所捜索の発端となったEUの議会である欧州議会を専門とする研究者である。

 欧州議会といえば、1979年にそれまでの国会議員が兼任する選挙制度を改め、直接選挙となった。

 だが、選挙区が加盟国を単位として争われるため、国内政治の延長、すなわち現内閣の信任投票の形で争われ、国民議会選挙の延長であり、secondary national electionsと呼ばれている。

 それにより、争点も明確化せず、欧州議会とEUの正統性を損なうという批判にさらされてきた。

 イギリスがEUを離脱することで浮くイギリス配分の73議席を活用し、マクロンは、この制度を改め、単一欧州選挙区の採用を主張している。

 すなわち、欧州の政治を直接全欧州レベルで知名度のある候補者を比例リストに搭載し、それで競わせ、選出させるものでもある。

 すなわちEUの連邦主義的統合論者であるアンドリュー・ダフ(前欧州議会議員欧州自民)などが唱える革命的制度変更だ。

 マクロンについては、経済政策で明確でないと批判されていたが、北欧型の経済制度をとるべきと主張している。

 大統領選も近づき、セントリストの政治家フランソワ・バイルFrançois Bayrouも支持を表明した。また、左派のコーン・バンディットも同様である。ただし、5日前にはフィオンがマクロンを突き放したというブルームバーグが紹介した世論調査もあり、事態は混とんとしている。

 いずれにせよ、政治権力を扱う政治学者はイデオロギー的に無色透明、中立などと簡単に言うわけにはいかない。

  「私は中立」などと口にするのがいるが、こうした手合いこそ、主義も主張も理念もなく、ころころとその時々に蝙蝠みたいに意見を変える輩で、要注意である。

  排外主義イデオロギーに満ちた極右政治家の台頭をみるにつけ、マクロンに期待が膨らむこのころである。

アンマルシュ運動ついては以下

https://en-marche.fr/le-mouvement

参考記事

当局が極右政党・国民戦線本部を家宅捜索毎日新聞2017221

Macron jumps in French polls as rivals marred by legal woesEurActiv.com with AFP 2017227

フィヨン氏がマクロン氏逆転、ルペン氏決選投票支持上昇−仏大統領選 Bloomberg 2017222

参考論文

拙稿「欧州議会選挙法改正と欧州議会の対応 : 1998年欧州議会選挙法案とEUの代表民主主義」長崎純心大学人文学部紀要1999第5

Joschka Fischer, The Fascism of the Affluent. DEC 28, 2015 Project syndicate

https://www.project-syndicate.org/commentary/affluent-fascists-western-politics-by-joschka-fischer-2015-12

参考ブログ

2016.11.12 Saturday トランプ大統領登場とEUと加盟国への影響

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=4151 

 

| 児玉昌己 | - | 14:03 | comments(0) | trackbacks(0) |
金融、財政面から確実に進むEUの統合深化とEU統合の2スピード化の加速 下

本稿は以下の続きです。

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=4202 上

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=4203 中

 

 ところで、EU統合の大規模な進展に伴う2分化について、興味深い記事が、EU専門の上質なネットジャーナルのEurActivから出ている。

 「父はEUの全会一致に苦しんでいた」という見出しの記事で、EU統合の創設の父、ポールアンリ・スパークの娘が記者に問われて語った言葉だ。

 スパークはEEC創設を導く1955年の「スパーク報告」でその名を欧州統合史に残している。

 ちなみに、このスパーク報告をわが国で初めて仏語原文から翻訳したのが、後に初代EU学会理事長となる片山謙二である。彼は九州帝国大学仏法を修め、戦前、関西学院大の法学部教授として奉職した。

 後に、片山教授はEUの訳語として「欧州連合」という訳語を、それは国家連合を意味するという観点から、EUを創設したものの理念と思想を体現していないどころか、それと全く相反する訳語だとした。

 実際、EU創設の父たちは、最大到達点としては欧州合衆国を構想した。事実、モネはECSCの最高機関の委員長を辞めた後、「欧州合衆国行動委員会」(Comité d'action pour les États-Unis d'Europe)の委員長であったことを思い起こすべきである。

また最低でも「欧州連邦」を構想していた。欧州石炭鉄鋼共同体を導くシューマン宣言は「欧州連邦の具体的な最初の基礎」(les premières bases concrètes d’une fédération européenne )と位置付けていた。

 これらを熟知する片山謙二は、「欧州連合」というEUの組織表記の訳語は、国家主義を乗り越え、欧州連邦を形成しようとした欧州統合の創設の父たちの意思をまったく反映するものではなく、あたかも、「我が家の庭を土足で荒らされるごとき」と表現し、EUは「欧州同盟」でなければならないと述べていたのである。(拙著『欧州議会と欧州統合』付録英文論文参照。

 その結果は、欧州議会の当時最大会派だった欧州社会党からEU表記に関する「欧州連合」の使用停止と欧州同盟の使用の書簡まで出るに至る。1996年2月のことだ。

 私が英文論文をもって、日本でのEUの訳語をめぐる状況について、リチャード・コルベット欧州社会党党幹部(現英選出欧州議会議員)に知らせたものだった。

 話を戻せば、ポール・スパークの娘アントワネット・スパークAntoinette Spaakは、現在88歳で、自身も欧州議会議員経験者でベルギーの有力政治家である。

 彼女は、重要事項において、国家主権が貫徹され擁護される全会一致制の下では、EUの意思決定が停滞する現状を意識している。

 そしてますます深刻化し、市民を不安にする移民問題の対処での全会一致制度に関連し、2スピード(2層)のEUの可能性について、「父君(スパーク)が存命なら賛成でしたか」とEurActivの記者に問われて、以下回答している。

 Yes, I think so. We need a two-tier Europe. We cannot be held to ransom by one country out of the 28 that rejects the solutions that are best for Europe as a whole.

Spaak: My father was tormented by the unanimity rule.EurActiv.com 2015520

 「そう思います。私たちは2層の欧州を必要としています。欧州全体にとってベストな解決策を1カ国が拒否するとすれば、その国家1国にかまってはおれません」と。

 ちなみにポーランドの指導者カチンスキーは上述のEurActiv.com with AFP の記事の中で以下語っている。

The future EU “must be one and it must also be different, it must be better.”

 「EUは一つであるべきだが、それぞれ相違しているべきでもあり、それがベターである。」

 前段は、EUが制度として統合を求め、現実もそうであるがゆえに、仕方なくそれを認め、後段でむしろ本音を吐露しているとみるべきだろう。

 ポーランドの現政権などが主張するのは、EUの連邦的政治組織から国家からなる連合組織、つまり「欧州連合」への改組転換である。

 しかし、EU(欧州同盟)の、国家連合である「欧州連合」(European Association)への後退的改組は、EU条約の改正を必要とする。EU条約の改正は全会一致である。

 すなわち、これまでの、そして現在の独仏枢軸体制が壊れない限り、そうしたポーランドなどによるEUの改組転換は全くナンセンスで、論外の議論となる。

 すなわち、EUEUを通して進む欧州統合への参加が嫌なら、イギリスのようにEUから離脱すればいい。だが、それさえできないのがポーランドである。

 ポーランドがEUから離脱すれば、たちどころに通貨ズロチは売りたたかれ、国際的信用は吹き飛ぶ。軍事的にもロシアを前にその脆弱性が増す。イギリスでさえそうなのだから、いわんやおやである。

 イギリスのポンドは下がっていないではないかという諸君には1年半前の7月ポンドは190円だったことを思い出すべきだ。すでに20%以上下がっている。離脱の瞬間的にはそれ以上、下落した。蛇足だが1960年代初頭ポンドは対円で1000円を超えていた。

 しかも、まだ離脱の始まりとなるリスボン条約50条の通告の引き金は引かれていない状態でこれである。

 ともあれ、EUは解体、分裂するのでなく、EUは統合の連邦強化の方向での深化という中核部の一層の統合進展で、「二分化」するのである。まして統合が終焉するなど笑止千万な議論だ。

 二分化するが、進まない側、例えばポーランドなどの東欧諸国の多くは権威主義的覇権主義に傾くロシアへの対応という軍事的観点から、そして単一市場のメリット、EU予算を通したEUの所得配分の恩恵からEUを離脱することなど考える余地もない。すなわち、最低でも、現在の統合レベルを維持していくことになる。

 そして経済的に余力が出た国家は、ユーロ圏入りし、先頭集団に加わる。 

 それがEUの中核である独仏やベネルクスの連邦主義者が、抱いている認識であり、実際であり、将来の構想である。

 もとより、各国で強まる極右反EUナショナリスト諸政党はこれに徹底抗戦するだろう。

 ポーランドなどが欧州統合の深化に反対しても、そして日本の英語圏の反統合理念に影響された研究者が何と言おうとも、EUの核心部分のユーロ圏での金融経済財政統合はさらに深化していく。

 すなわちEUの二分化は必然的だ。

 このブログの最後に、EUの前身である欧州共同体を通した欧州統合は危機のなかで深化してきたという西独首相ブラントの言葉と、単一通貨創造が国家の側に与える意味と影響について、EU法研究者プリアコスが放った言葉とを再録しておこう。

 「端的に言って、今でもそうだが、欧州共同体の歴史は危機の総計ということができる。それは危機を通して、危機の中で発展してきた過程であると書き記すことができよう。」 

 Brief as still is, the history of the European Community is the sum of its crises. It might be described as a process of development in crises and through them. 

 Willy Brandt, People and Politics: The Years, 1960-75 1976.

 「共同体の通貨主権の出現は,予見できない効果をもって国家主権の堅い核を打ち破る。」
“ L‘émergence d’une souveraineté monetaire communautaire brise le noyau dur de la souveraineté  étatique , avec des effets imprévisibles.”

Pliakos, A.D., La nature juridique de l‘union européenne . Revue trimestrielle de droit européen.  No. 2. 1993, p. 223.

 参考記事 

EU、右派政権を調査 「法の支配」違反も 毎日新聞2016525

Poland rejects EU warning on constitutional court crisis.EurActiv.com with AFP20161223

Poland shrugs off EU warning EurActiv.201663

Visegrad calls for complete change of EU-27.EurActiv2016629

参考ブログ

2017.02.15 Wednesday Spitzenkandidaten(欧州委員長選出手続)Ver.2について

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=4200

2016.07.11 Monday 英EU離脱についてのタブロイド・メディアの責任

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=4082

2010.11.02 Tuesday 欧州連合を否定しつつEU(欧州同盟)は連邦主義的権限強化に向かう 上 金融財政部門でのリスボン条約改正の動き

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=2575

2014.06.06 Friday EU懐疑派を代表するギデオン・ラクマン(Gideon Rachman)のFT記事を批判する 上下 彼の言う「欧州の民主主義を救え」は「イギリスの保守党の言う民主主義を救え」ということだ

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3681

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3682

2015.10.21 Wednesday 竹森俊平の「逆流するグローバリズムーギリシャ崩壊、揺らぐ世界秩序」PHP新書を読む 上下

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3917

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3918

敬称略

 

| 児玉昌己 | - | 14:01 | comments(0) | trackbacks(0) |
「ならずもの国家」(rouge state)の真骨頂 北朝鮮による国家テロ、正男毒殺

 特段、政治を扱う研究者でなくとも、ストレスは大小を問わずあり、社会、すなわち他者との中で人生を送る限り、日常のことで、これは避けられない。

 政治権力が絡む場合、政治学を専門にするものは特にそれが強くなる。

 平然としてこれに対処できるならいいが、鉄仮面にはなれない。実にストレスがかかる仕事だ。

 北朝鮮も、トランプも、欧州極右も、国有地売却問題を深刻化させつつある安倍内閣も。

 北朝鮮といえば、かつて「ならず者国家」とブッシュが形容した。

 珍妙にも「共和国」と称しているが、北朝鮮の政治体制は、政治学的には、共和国など縁もゆかりもない。金王朝の3代目の正恩が世襲独裁を続ける、全体主義国家であり、21世紀最後の封建王朝でしかない。

 その北朝鮮は、VXガスでの国家テロ殺人を実行した。処刑の対象は、初代の血を引く「由緒正しき」異母兄の正男だ。彼については数日前以下、書いた。

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=4199

 空港の監視カメラが毒殺の犯行の一部始終をとらえていて、広く公開された。

 北朝鮮工作員と協力者による政治的な殺人の瞬間である。

 処刑を実施した指導部には、驚愕のことだっただろう。21世紀の国際空港では当たり前のことだが、それがわかっていなかったのだろう。

 繰り返しその場面が放映されているので、皆さんも映像見られただろう。その衝撃は世界的だ。

 北朝鮮は正男の遺体解剖で具体的に国家テロが暴露されるのを恐れて、駐マレーシア北朝鮮大使が好き放題のマレーシア非難だ。国家テロをやりましたと自ら、逆に、公に認めているその行為である。

 この国の外交官は、外交特権を盾に、麻薬、偽札、拉致、誘拐など何でも手を染めてきたことは知られている。

ならず者の北朝鮮は1983年の当時ビルマのラングーンで、韓国の当時の大統領であった全斗煥チョンドファンの爆殺未遂事件を起こしている。

 大統領は遅刻したことで間一髪のところで被害をまぬかれたが、未遂とはいえ、副首相に外務大臣や随行員が多数爆殺された。

 このときは友好国だったビルマが激怒し、国交断絶となった。その再来となりそうだ。

 マレーシアが北朝鮮の友好国だったなど、知らなかったし、盲点だった。

 大規模人権蹂躙は言うに及ばず、全身が国家的犯罪にまみれている北朝鮮と友好関係を持っていたとはこれまた驚きで、北朝鮮を甘く見ていたツケが回っている。

 VSガスなど個人が製造できるものではない。逮捕者がその道のプロだったというのはうなずける。

日経は今日付電子版で「外部委託」などというが、直接的にトップの指示を受けた工作員が後継者抹殺作戦を実施したという認識を曇らせてはならない。

 逮捕された女性も、初期に報道されたような利用された者ではなく、毒殺を知って実行している。

 ちなみにVSガスといえば、麻原のオウムがいる。

 オウムは主観的には太陽真理国という国家建設を標榜し、あれはエリートの理系学卒者や医師、自衛隊員も参加に取り込み、VXやサリンも製造開発し、ロシアから購入したヘリコプターでその使用まで画策した平成の時代が経験した未曾有のクーデター未遂事件だった。

 通常の刑法犯で裁かれたことの妥当性は長く議論になるだろう。

 北朝鮮に戻れば、国家と人間はここまで、悪辣かつ馬鹿になるのかという典型だ。

 この事件に意味があるとすれば、正男の個人的悲劇を超えて、国際社会にたいして、この国がいかに異常か一層伝わることだ。それがさらなる北朝鮮への国際的制裁に作用すると考えている。

参考ブログ

2011.12.30 Friday 「ならず者国家」(rogue state)北朝鮮の独裁者の死と、真実の改ざん 上下

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3031

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3033

| 児玉昌己 | - | 10:22 | comments(0) | trackbacks(0) |
金融、財政面から確実に進むEUの統合深化とEU統合の2スピード化の加速 中

 遠藤乾が終わったとする「大文字の統合」は、私に言わせれば、マーストリヒト条約で規定された経済通貨同盟に発し、その完成に向かって、ドイツとフランスの財政移転同盟に関する意見の対立を先鋭化しつつ、今まさに始まりつつあるということができる。

 ましてイギリスがEUを進んで去り、EUの連邦的統合推進を阻む最大の阻害要因が除去されることでは、なおさらだ。

 その中では、当然、すでにあるようなEU内の多段階統合は必然となる。

 すでに1993年にマーストリヒト条約で経済通貨同盟を構築し、ユーロ圏を構築した段階で、EUの二分化は顕在化したのである。

 国家主権の維持にこだわるイギリスは「不幸なる結婚」(児玉昌己/毎日)に終止符を打ったが、EUを離脱し、単一市場の外、すなわちEU域外に出るといかなる結果を生むか、惨憺たるイギリスの将来が見える。

 もとより、いかなる組織も崩壊消滅の可能性はある。それを否定するつもりはない。

 万に1つEUが崩壊する状況を想定できる条件があるとすれば、その条件はフランスかドイツのその時の政府が互いに決定的に利害を異にし、EUを離脱するときであろう。

 独仏は統合からの離脱EUからの離脱など考えていない。むしろ統合は確実に進んでいる。

 欧州議会ではリスボン条約を受けて、spitzenkandidatenという欧州議会が欧州委員会の長を選出する議院内閣制へと制度を整えつつある。まさに大文字の統合は終焉するどころか、それが実践されている。それがイギリスの反発を生んでいるのである。

 ユーロ分析では定評のある経済学者の一人に竹森俊平がいる。

 竹森は、自著例えば『ユーロ破綻−そしてドイツだけが残った』(日経2015年)で、「欧州同盟」を使用し、欧州連合の使用を退けている。だが日経に記事を掲載されるときには「欧州連合」の使用という、いわば「言葉狩り」にあっている。EU代表部が採用しているその理由でである。

 余談だが、竹森は、欧州統合を是とし善としているものがいることについて、「欧州統合教信者」という言葉を使っている。

 だが、私を含め、欧州統合については、あくまでも非戦共同体と単一市場形成に果たしてきたEUの巨大な実績と理念を評価するが故である。別に宗教的な情熱で、EU支持者ではない。

  一国ナショナリズムを地で行く排外主義的な政治家トランプが登場すると、EUが掲げる理念と価値がいかに尊いものか理解できる。

 それに「ユーロ破綻」というタイトルも言い過ぎだ。現在も、どっこい生き残っている。

 経済通貨のみならず、政治部門でも欧州統合は進んでいる。

 EUの制度形成の重大な突破口、すなわち大文字のEU統合となる行政府の欧州委員会の長を欧州議会が選出するというのは、遠藤がこの書をまとめている2012年当時にはすでに制度化されていた。

 すなわち、2009年に発効したリスボン条約において規定されていたものであった。その実践こそ、統合深化をさらに進めた現行EU条約のなせる業である。それによって、キャメロンは決定的に反EUに転じた。

 そのイギリスでは、そうしたEU統合の連邦的性格から、国家主権の擁護が、そしてEUへの警戒と不信がEU加盟の当初からあった。

 1973年にイギリスがテッドヒース政権によりEU加盟を果たしたが、そのわずか2年後に、労働党のハロルド・ウイルソン政権がEU離脱の、今となっては第1次となる国民投票を実施さえしている。

 ウイルソンが労働党内の指導性を失い、有権者に丸投げし、議会主権を放棄したとたたかれもしたのが、それだ。もっとも、その時は67%のEU残留となり、2016年のBrexitまでそれが継続したのである。

 イギリスについていえば、このように、1952年の欧州石炭鉄鋼共同体創設時から、イギリスでは国家主権の譲渡への強い抵抗が一貫してあった。そしてEUの統合深化が市場統合を超え、国家主権の核心部分である通貨同盟という形で深まるにつれ、サッチャー英首相に代表されるように、反EUの言語空間が強く広がっていた。

 それらは、総じて「EU懐疑派」と訳されるが、その本質は反EUといえる。

 EUでは、リスボン条約という大文字の統合の構想が打ち出され、それを実践する小文字の統合が大規模に進みつつある。イギリスでは、反EU的対応はそれに応じて厳しくなり、キャメロンが総選挙に勝利し、親EU派の英自民との連立を解消し、2期目に至って完全に反EUそのものに転じたといえる。

 実際、キャメロンのイギリス保守党やファラージュ独立党とそれを支持する勢力はもとより、テレグラフは言うに及ばず、BBCやフィナンシャル・タイムズでさえそうであった(下記のブログ参照)。

 このEU懐疑主義、あるいは反EU的なイギリスの言語空間にどっぷりと浸かってきたと思えるのが、遠藤乾のEU統合の終焉の議論である。

 実際、遠藤乾は、わざわざここ25年、ずっと、「メルトダウン」の表現に代表されるEU解体論を唱えて、最近では安倍の掲載政策に関して「アホノミックス」などというただならぬ言葉を使っている浜矩子のEU認識を無批判に紹介し、肯定的に評価している。

 ちなみに、数年前と違い近頃、テレビ露出度が急速に減っていると思えるこの評論家については、EU経済、金融研究において、権威的というべき田中素香や尾上修悟の業績では、全くレファレンスを見ない。

 実際、浜は「崩壊する」ユーロに代わるものとして、EU関係者がだれも口にしない「地域通貨」とか、全く論外のことを言っている。しかもEU統合の核心部分である独、仏の文献についてはまるで言及がない。

 EUの前身欧州石炭鉄鋼共同体創設から60有余年。

 この間、EUが解体どころか、どれほど発展、成功してきたか。加盟国の数を見るだけでいい。

 当時6、現在28である。この20年でも15から28である。どこがEUの崩壊や解体かである。

 遠藤が評価し、統合終焉論の基礎としていると思える浜の議論については、解体する組織にどうしてかくも加盟国が増えていくのかである。しかるに25年近く解体だと言い続けていることでいえば、これこそ「宗教的」というべきで、まったくその見通しを誤っていたということだ。

 加盟国が増えれば、相似性も低下し、域内格差も広がるのは当然ではないか。

 にもかかわらず、EUが非戦共同体として、経済共同体として存在し、発展しつづけているその冷厳なる事実を、まったく失念したのかである。

 ちなみに私は2011年1月から3月、あの東日本大震災の渦中でヨーロッパ統合の政治史をNHKラジオ第2歴史再発見シリーズで12回にわたり講じたが、そのテキストのサブタイトルは「その成功と苦悩」とした。現在芦書房から、『欧州統合の政治史』として、新たな章を書き足し刊行されている。

 2度の世界大戦の後に始まるEUを通した欧州統合は、国家主権の大規模なEUへの移譲を伴う、1648年のウエストファリア条約で構築された国民国家からなる国家間関係のパラダイムを変える潜在性を持っている。

 いわば、世界史的実験というべき政治的営為が欧州統合である。

 EUは、加盟国が国家主権をEUに譲渡していく受け皿になるということで、その本質において、制度形成の過渡期段階とはいえ、類型化すると、構成国を律するEU法があり、それを理事会とともに出す議会があるということにおいて、まごうかたなく連邦機関である。

 そのEUに国家主権を「譲渡/移転」していく、すなわち欧州司法裁判所の判例ではtransferしていくという、国家主義者が腰を抜かすその空前絶後の政治的営為を国家の為政者によって合意して進められてきたのが、EUである。

 国家主権を大規模に国家の合意によって移譲していくというその空前絶後の営為の前にしてみると、EUの危機、国家主義者の顕在化する不満の亢進はまったく驚くに足りず、日常的なものでしかない。

 しかも遠藤は、大量の移民・難民の流入やソブリンローン危機に端を発するユーロ危機の状況を、短期的スパンでみることで、EUが抱える現下の危機の事象に多大に影響されている。

 だが、すでに述べたようにEUでは危機は日常のものである。

 実際、EUでは1960年代に今以上に激しい対立と、厳しい危機を経験している。 すなわち、1965年の「ルクセンブルグの危機」がその嚆矢であった。

 この事件は、欧州議会がEU予算を監督していくという財政連邦主義の構築に傾斜するEUの政治過程で発生し、フランス対ドイツを含む5つの加盟国との対立を生み、国家主義者シャルル・ドゴールによる理事会での空席戦術、すなわちフランス代表の総引き揚げという抵抗を見た、草創期におけるまさにEUの分裂消滅をはらんだ深刻な内部対立であった。

 ユーロ危機の対処法での独仏の対立は、第一次大戦後のドイツのあのレテレン・マルクの導入と危機の解消にみる如く、ハイパー・インフレに苦しめられた過去の恐怖症を背負うという歴史的な背景を持っている。

 そして、田中素香や、竹森俊平が指摘するように、ドイツマルクの番人であったドイツ連邦銀行の行動様式を受け継き、欧州中央銀行にドイツが通貨主権を譲渡した後の現在も、インフレ恐怖症と積極財政への警戒は、ドイツのDNAとして残っている。

 それがゆえに、積極財政を主張するフランスとの意見の相違が激しく衝突しているのである。

 しかしドイツとフランスの歴史性を背景にした経済政策の相違にもかかわらず、それを承知の上で、両国は、より高い利害の一致をEUと欧州統合の中に見出しているのである。

 遠藤のこの欧州統合終焉論については、その議論と認識が正しいものか、その当否が実証されるには、それほど時間はかからないとみている。

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| 児玉昌己 | - | 19:48 | comments(0) | trackbacks(0) |
金融、財政面から確実に進むEUの統合深化とEU統合の2スピード化の加速 上

  EU では将来構想を巡り2スピード案がより明確化しているが、それにポーランドなどが抵抗している。以下がその記事だ。

Poland’s Kaczynski warns two-speed Europe leads to ‘breakdown.’ EurActiv.com with AFP ‎201729

 表向きは現れず院政の形で君臨するのが、ポーランドのカチンスキーである。

 彼が率いる現在のポーランドの政権与党の「法と正義党」は、難民政策で強硬主義を主張し、将来を不安視する保守的有権者の心をつかみ、2015年に8年ぶりに政権を奪還した。

 だが、政権樹立後、憲法裁判所の違憲審査に関し、違憲裁判の要件を自党の政策に有利に改正(改悪)し、最高裁の人事にも容喙し、司法権の独立を危うくし、国内民主化と相反する政治にまい進し、EU理念の1つである法の支配を脅かしているとEUの側との緊張を深めている。

 ちなみに、そのEUの欧州理事会の議長トゥスクは、ポーランドの前政権の市民プラットフォームから出ており、2期目の継続問題が浮上している。ポーランドのカチンスキーは、トゥスクの再任は問題外だと反対している。

 本来ならば、EU大統領とも訳され28か国を擁するEUの顔である欧州理事会の議長職にトゥスクが就任している事実は、どれほど国家としてのポーランドの宣伝に役立っているかである。

 しかるに、トゥスクは、カチンスキーにとって反ポーランドに傾斜するEUの側に立つ政治的な敵でしかない。

 本題に戻せば、ハンガリー、ルーマニアも民主主義について似た状況である。

 ポーランドに対して、EUは、EU条約の民主主義擁護に反する国家に対する制裁規定である第7条の適用さえ検討しているほどである。

 欧州議会の議員の中には適用を逡巡すべきではない、もっとEUは圧力をかけるべきと主張するものもいるほどだ。

 旧東欧圏のポーランド、ハンガリー、チェコ、スロバキアの4カ国は、現在EUのコンテキストでは、「The Visegrad group」という表現で語られることが多いが、これらの国家は、スターリン主義的独裁国家の時代を長く経験しており、民主主義の歴史が浅い。

 EUに加盟してまだ15年にもならない。

 まだ近代国家の形成途上というべきも、こうした原則を十分に享受せず、ポーランドに至っては、その必要性をむしろ抑える勢力が国家経営にかかわっている。

 他方、EUには、民主主義、法の支配、人権の保護という重大な原則がEU条約に規定されている。

  しかもそれらの諸国は、EU加盟国ではあるがEUのユーロ圏外にあり、その周辺部として、存在する。 言い換えれば、ユーロ圏に入る能力をいまだ持ちえないとされているということでもある。

 その加盟国にとっては、ユーロ圏で進む金融財政統合の深化をうけて、2スピードになるのは、当然だ。

 国家の統治のシステムを打ち砕くのが政治同盟である。

 時に数百万単位で国民に血と死を求める軍事外交など国家主権の統合は、最も困難な課題だが、経済通貨同盟もそうである。通貨は国家そのものでもある。

 EUでは、金融経済財政といよいよ統合の深化で明確になってきた。財政同盟は、サッチャーがナショナリストの側から喝破しているように、国家の財政主権の根幹にかかわる課題で、まさに政治同盟そのものである。

 EU28カ国では、現在19カ国が欧州経済通貨同盟(EMU)の完成に向けて努力している。

 だが、ギリシャ債務危機に見られる、ユーロ圏は、金融政策と財政政策の所管が前者は欧州中央銀行に、後者は加盟国にと分断されており、本質的な脆弱性を抱えている。

 国家にあって、金融と財政の政策権限は、例えばわが国で言えば、日銀と政府とが所管しており、日銀の黒田と首相安倍の関係を見るように、両者は有機的に連携している。

 翻って、この分断状況を抱えるEUでは、両者の一体化は急務となっている。例えば、欧州債務危機の反省に基づく域内の金融安定策として「銀行同盟」の実現は急務となっている。

 銀行同盟の眼目は、銀行監督、破綻処理と預金保険制の整備にある。

 さらに金融危機の際に銀行同盟にとどまらず、EUはユーロ圏危機の背景となっている、各国の債権の金利格差や国家のファンダメンタルスの格差を背景とした銀行の破たんを防ぐために、また積極的には加盟国の経済格差の是正のために、各国の競争・財政政策を監視し、統合的に運営する機関の創設が次なる喫緊の課題となる。

 EUでは、特にユーロ圏を揺るがした財政危機危機の再来を避けるためにも必然的に財政同盟を強化する必然性を持っている。

 具体的に言えば、ドイツのショイブレ金融相が依然として抵抗するEU共同債の発行、EU財務省の設置、欧州理事会にあるユーロ・グループに相応したユーロ圏予算を監督するユーロ圏議会の創設となっていく。

 現在EUではその議論が進められている。EUでは、特にユーロ圏を揺るがした財政危機危機の再来を避けるためにも必然的に財政同盟を強化する必然性を持っている。

 具体的に言えば、ドイツのショイブレ金融相が依然として抵抗するEU共同債の発行、EU財務省の設置、欧州理事会にあるユーロ・グループに相応したユーロ圏予算を監督するユーロ圏議会の創設となっていく。

 現在EUではその議論が進められている。

 しかるに、わが国ではEU崩壊論、EU統合の終焉論が支配的である。 

 その1つが遠藤乾の議論である。ジャック・ドロール論では評価すべき業績を持つ遠藤乾は、『統合の終焉』(岩波書店2013年)を出した。

  彼は、その中で「大文字の欧州統合は終焉した」という。だが、私にすれば、全くナンセンスなEU認識である。

 EUは終焉どころか、財政同盟という政治同盟は確実に進みつつある。

敬称略 

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| 児玉昌己 | - | 09:23 | comments(0) | trackbacks(0) |
Spitzenkandidaten(欧州委員長選出手続)Ver.2について

 Spitzenkandidatenのことで、スティーブン・デイ(大分大経済学部教授)と議論する。

 spitzenkandidatenとは、2009年リスボン条約発効で導入されたEUの行政府である欧州委員会の長(国家風に言えば、総理大臣)の新選出手続である。

 ドイツ語に由来し、最近ではその重要性から、英語化されThe Spitzenkandidatsと定冠詞や複数をつけて、使用されることもある。そんな政治(選挙)用語であり、英語で言えば、prime/leading candidate(党を代表する候補者)を意味する。

 これを知っている人はEUの通だろう。 

 この手続、実は革命的にも重要な手続である。欧州理事会から欧州議会にEUの内閣である欧州委員会の長の人事決定権限が移行するものである。

 実際、EUの危機、EUの解体などと声高に叫ぶものが多いが、こんな手合いに限って、EUで進む国家形成ともいうべきEUの連邦主義的な制度形成の目覚ましい発展などには全く無知なものが多いから、要注意だ。

 EUには加盟国の最高首脳を集める欧州理事会という最高意思決定機関がある。そして、加盟国を選挙区としつつも、EUの代表民主主義のかなめとして機能する欧州議会がある。さらにEUの行政を実践する欧州委員会がある。

 この長の選出にかかわるのが、上述のspitzenkandidaten手続である。

 具体的に言えば、欧州政党が各党内で選考をして、候補者をそれぞれ選出し、欧州議会の選挙結果を受けて、その中から欧州理事会にその中から選ばせるというものである。

 これを私は日経の瀬能論説委員の手になる一面を使った欧州議会と極右台頭の特集記事でコメントを請われて「議院内閣制に接近」と日経1120日付で表現した。

http://www.nikkei.com/article/DGKKZO09753180Z11C16A1

TZG000/

 議院内閣制をとる国家であれば、例外なく国家の行政府を議会の多数派がとる形となっている。しかるにEUではそうではなかった。

 EUでは、欧州理事会に欧州委員会の長の任命権限があり、欧州議会は初期においてはここに関与する権限がなかった。

しかし、欧州統合が加盟国の国家主権の根幹部分に触れるようになるにつれて、だれからも選出されていない欧州委員会は、何の正当性をもって、国家を拘束するEU法を提案できるのか、という理論的、実践的問題が提起されていた。

 しかも欧州議会は欧州議会で、EUの代表民主主義の要という位置づけを得ながらも、選挙のたびに投票率を低減させるという厳しい状況に直面していた。

 なぜなら、欧州議会選挙は、自国の下院議会選挙と違い、EU加盟国の有権者は、だれに投票しても、どの党に投票しても、EUの政権構築に何ら影響を及ぼしえないし、まして14兆円を超えるEUの予算や政策に直接影響を与えることができないからであった。

  議会が行政府の長を選ぶべきだとの議論は1980年代からずっとあり、欧州議会の権限が条約改正を経るごとに強化されるにおよび、特に強くなっていった。

 さて、spitzenkandidatenの基礎となる第2回目と欧州議会選挙が2年後に迫っている。これに合わせて、各欧州政党は来年にも党内の予備選に入る。いわゆるVer.2の始まりである。

 これを好機として、欧州自民党など連邦主義者の中には、イギリスが抜けることで生じる同国配分の73議席を単一欧州選挙区に充てる案まで浮上している。

 他方で、加盟国の中には抵抗したり、消極的だったりする国家がある。

 第一回の実践過程を振り返れば、欧州議会が極右を除き、主要各派が一致して推薦したユンケルをキャメロンが徹底して嫌い、予備選を経ていないトーニングシュミットデンマーク首相に打診したり、直前にはスウェーデンにとび、同国のラインフェルト、独メルケル、伊レンツィ首相などに阻止工作をするなど、反ユンケルキャンペーンを実践した。

 欧州理事会でも、キャメロン英首相は徹底抗戦を続け、負けると知りつつ異例にも採決を求め、わずかにあのハンガリーのオルバンの支持だけで、イギリスは26対2で惨敗した。

 イギリスがEUから離脱することが一層明らかになった今、たしかにVer.1の継続に不満を持つ国家は多くある。

 だが、正面切って、欧州理事会で、リスボン条約14条の規定すなわち欧州議会が、そして前回の欧州政党の事前の党内候補選出という前例を無視して、この手続に堂々と反対する国が最終的に現れるとは思われない。

 ちなみに14条1は以下、明確に欧州議会による欧州委員会の長の選出を規定している。

It shall elect the President of the Commission.

 各国の代議員を含め欧州政党で行われた党内予備選を無視し、Spitzenkandidatenに反対してきたイギリスだが、当事者のキャメロンは、国家を傾けるギャンブルを実施し、国民投票で敗北するや敵前逃亡よろしく、首相はおろか、下院議員さえやめている。そのイギリスが実質的にEUを離脱する今、それを受け継ぐ国がでるとは思われない。

 スティーブン・デイはその可能性も指摘していたが、さてどうなるか。

 私はspitzenkandidatenVer.2.を考える場合、ドイツの動向の重要性を考えている。

 欧州議会議長として欧州議会の地位向上を一貫して実践したマルチン・シュルツが、同議長退任後、国内政界に移り、ドイツの首相候補としてSPDを代表し、長期政権を継続するCDUの女性宰相メルケル相手に、支持率では善戦中である。

 EUにおけるドイツの影響力を考えると、その動向は見ものだ。今注目しているところだ。

 私の関心はイギリス離脱は織り込み済みとなり、Brexitの動向分析から、急速にEUそのもの政治に再び移りつつある。

 実際、2017年はスーパー選挙年である。3月にはオランダ、5月にはフランスの大統領の決選投票、9月にはドイツ総選挙とつづく。

 いずれにせよ、イギリスの離脱は、自国にとっては最大の政治課題であるとはいえ、それはイギリスの国内政治の話であって、EUと欧州統合史からみれば、幕間劇に過ぎないのである。

 なによりイギリスはEU(当時欧州石炭鉄鋼共同体/ECSC)に21年も遅れて加盟した事実を思い出す必要がある。EUは、イギリスなきEUを21年経験しているのである。

 しかも、イギリスが完全にEUを離脱してしまえば、イギリスはEUの制度形成や法案制定において、まったくの部外者になるのだから。それゆえ、イギリスを考えずに、EU研究者は安んじてEUだけの研究に打ち込める。

 もっとも、イギリスが抜けてもEU加盟国は27か国だから、独仏伊の分析を含め、EU研究における強烈な困難さは変わらないのである。

参考記事

One head, two votes: The case for a pan-European list for EU elections.‎2017‎‎1‎‎10‎EurActiv.2017‎‎1‎‎10‎

Emmanuel Macron unveils plans to ‘bring European democracy to life’ EurActiv 2016105 (updated: 2016106)

参考ブログ

 参考文献

児玉昌己「 2014年欧州議会選挙と Spitzenkandidaten 『海外事情』平成26125日第6212.

児玉昌己 『欧州統合の政治史』(芦書房2015年)第13章。

 

| 児玉昌己 | - | 14:06 | comments(0) | trackbacks(0) |
 北朝鮮、金正男、毒殺さる

 北朝鮮の独裁者、金正恩には異母兄金正男がいる。殺害が確認された今、いたというべきだろうが。

 この正男、田中真紀子の外相時代の2001年5月、わが国に偽造パスポートで入国し、拘束されたこと、そして政府は拉致被害者との交換という知恵も回らないほどにも大慌てで、出国させたことで、わが国ではよく知られている。

 正男は2代目の世襲独裁者の金正日の長男であり、正恩の権力樹立後、彼による正男の暗殺を嫌う中国の庇護を受けていたが、今回、マレーシアの空港で女性工作員により毒殺されたとの報が入ってきた。

 ずいぶん前から、独裁者の権力の座を脅かす可能性がある正男は、正恩から狙われていた。

 ちなみに、正恩は、叔母・金慶喜氏 (朝鮮労働党書記)の夫の張成沢も処刑している。

 敵となるものをすべて抹殺する。

 21世紀にあって、「スターリン主義を維持する全体主義の独裁国家」(欧州議会)、北朝鮮の所業だ。

参考記事

北朝鮮>金正男氏を毒殺 正恩氏の異母兄 マレーシアで 毎日新聞 2/14() 21:18配信

参考ブログ

2013.12.14 Saturday 北朝鮮の世襲金王朝 No2処刑 さらなる断末魔

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3583

2015.10.11 Sunday噴飯もののTBS北朝鮮「報道特集」 あまりのお粗末に愕然とする

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3914

 

 

 

| 児玉昌己 | - | 23:44 | comments(0) | trackbacks(0) |
2017年前半海鳴庵児玉昌己句歌集

 

 開票所 マクロンルペンと 上げ下げの 語気に聴きたり その支持不支持

 

フランスの マクロン勝てりて 知ることは シトワイアンの その意味なりて    

 

フランスの 旅を終えれば 薫る風 緊張(きもち)は溶けて 心軽やか

 

 

2017.04.11 Tuesday  庭に気になる花がある。調べると、ペチコート水仙 それを詠む

 

ラッパでも 釣鐘でなし ペチコート 君も水仙 可憐に黄色

          

 

 

 

  寒暖の 激しき弥生(はる)の ことなれば 花は咲きても 身体(からだ)奮わじ  

 

 

2017.03.20 Monday春分の日 卒業を祝う親の気持ちを詠む

 

 春分の 若者巣立つ この日こそ 親も安どの 時になりてや

 

 

2017.03.04 Saturday ラッパ水仙の花暖かき わが庭 海鳴庵児玉

ラッパ水仙が2輪花をつけた

 

  水仙の 白や黄色の 暖かく 庭に陽注ぎ 春は来にけり

 

 

2017.02.10 Friday  時ならぬ 雪をいただく 紅梅に メジロ遊ぶ それを詠む

 昨夜は星が見えていたが、一夜明けると、銀世界。雪に、紅梅、それにメジロ。最高の組み合わせ

 

  時ならぬ 雪をいただく 紅梅に メジロ遊びて 夢のうたかた

 

 

2017.02.05 Sunday 春雨で庭の梅はさらに紅さを増す それを詠む 

 

  紅梅を しとどに濡らす 春雨は 青きほどにも 花紅く染め

        

 

2017.02.03 Friday 如月に紅梅を手折りて活ける それを詠む 

紅梅を 手折りて飾る 如月に 夕餉も楽し 独りたりとも 

 

 如月に 紅梅(うめ)愛でるは あな嬉し 春はそこまで きたるものゆえ

              

 

2017.01.28 Saturday 六十五の誕生日を詠む

 とうとう前期高齢者入り 法定老人だが、特段のこともなし それを詠む

 

誕生日 嬉し悲しや 六十五 されど変わらぬ 昨日も今日も

 

五十六(いそろく)は よくも知りたる ひとなれど 六十五など 面白もなし

 

 

2017.01.24 Tuesday 寒い日々が続いている庭に目をやると、春の息吹 それを詠む

 寒空に 襟立て上ぐる 日々なれど 梅に水仙 花芽つけおり

 

 鈍き花 されど芳し 蝋梅に 厳冬忘る ひと時の春 

 

 

2017.01.01 Sunday 正月、母が誂えてくれた着物に久しぶりに袖を通す それを詠む

平成29年正月。穏やかに晴れ上がる元旦を迎え、着物でも来て、久しぶりにゆるゆるとした気分

 

元旦や 和服に袖を 通したり 亡母(はは)誂えし ものぞなりにて

 

 

| 児玉昌己 | - | 22:35 | comments(0) | trackbacks(0) |
 時ならぬ 雪をいただく 紅梅に メジロ遊びて 夢のうたかた 海鳴庵児玉

 昨夜は星が見えていたが、一夜明けると、銀世界。 冠雪した紅梅にメジロが遊ぶ。いいショットが撮れて、フェイスブックにアップする。

 写真には最低3つの要素がほしいとずいぶん前から思うようになった。

 例えば、ロンドンでは、ビッグベン、ユニオンジャック、オースチンの黒のタクシーかダブルデッカーバス

 勝浦の亡帰洞では、温泉、太平洋、洞窟というごとく。

 今朝は、雪に、紅梅、それにメジロ。最高の組み合わせだ。

 おのずと歌が出る。

 

 時ならぬ 雪をいただく 紅梅に メジロ遊びて 

夢のうたかた          海鳴庵児玉

                   

 

 

| 児玉昌己 | - | 09:23 | comments(0) | trackbacks(0) |
控訴審でトランプ入国禁止令敗訴 ドイツのシュピーゲル誌「自由の女神」の首をもつトランプの表紙 

 自分と意見を異にするものを敵として、攻撃する。就任式の参加者数でも、ありもしないデータを事実として信じ、他方、有力メディアの数字をねつ造という。これがトランプ政治の常道だ。就任直後の記者会見でのCNNへのあの憎悪むき出しの敵対的言動は全世界に流れ、衝撃を与えた。

 実にマナーもデリカシーもあったものではない。

 しかも彼の国際政治と国内政治に対する事実認識のお粗末さは、目も覆うばかりだ。

 ドイツや日本に対して、為替操作で通貨安に誘導していると非難している。

 EUの金融政策がドイツも含めユーロ圏19か国では、欧州中央銀行(ECB)に一元化され、金融政策は国家主権の及ばない事項になっていること、わずかに財政政策だけが国家に残っていることさえ、まったく理解できていない。

 日本もデフレ脱却の目的で、G20でも、認められていたものだ。

 驚くべき無知なる男だ。

 自動車問題でもそうだ。その認識たるや30年前、すなわち日米摩擦が激化した1980年代のレベルである。

 この間、どれほどトヨタ他、米国に進出しその雇用に貢献しているかである。おかげで産業空洞化さえ起こり、わがジャパンでは労働者が地方が苦しんでいる。

 トランプの友と敵を峻別し、敵を徹底して攻撃するその定石は、司法にまで及びつつある。 

 信じがたいほどだが、あろうことか、連邦判事までも個人攻撃し始めた。

 その憲法感覚、さすがにこの男は真に独裁者だという感じを多くが持つことだろう。

 トランプの思想信条国籍をもとに人種差別をし、連邦判事に牙をむくその姿勢に連邦高裁も、レッドカードを突き付けた。

 彼は、なんと申し開きしていくのだろうか。実に危険人物が世界の最強国のリーダーになったものだ。

 納税開示さえしていないただの不動産屋の社長であったなら、すべてが社内で意のままにできたであろうが、連邦制度をとる合衆国だ。州もあり、司法も上下両院もある。

 本来なら彼を支えるはずの共和党でさえ、内部に強い不満を高めている。

 もしかしたらこの男、四面楚歌の状態で、そのストレスで、職務放棄をするかもしれない。あるいはニクソンのように、弾劾され失脚するかもしれない。

 なお、ドイツの最有力週刊誌spiegel(鏡/ミラー) (2月4日発売)は、「自由の女神」の首を落とすトランプの以下、表紙を出した。

 https://pbs.twimg.com/media/C3wU90wWEAAY5Ln.jpg

 世界がこの男に、そしてそれを支持する排外主義的人種差別主義者にレッドカードを出しつつある。

 それは、単に米国のトランプにだけ向けられるのではなく、英のファラージュや、仏のルペン、そして315日に総選挙(定数150を迎えるヴィルダースのオランダの極右ポピュリストへの批判となることを望んでいる。

参考記事

入国、当面禁止されず=米控訴裁、政府側の訴え退けビザ無効措置も撤回 時事通信 2/5

参考ブログ

2017.01.27 Friday 政治学者からはトランプはどうみえるか、議会審議を回避する大統領令乱発の手法

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=4188

2016.05.07 Saturday EU加盟国首都で史上初のムスリムのロンドン市長誕生とその意味 人種差別主義への一撃

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=4030

 

 

 

 

| 児玉昌己 | - | 09:58 | comments(0) | trackbacks(0) |

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