今日はフランス大統領選挙の第 1 次投開票日。 EU 政治研究者として、最大の関心をもって見ている。フランス研究者はもとよりのことだろう。EUが加盟国に圧倒的な影響を持ち始め、加盟国の政治を左右する重要性を持つことがさらに明白となる今度の仏大統領選挙である。
私もこれほど仏大統領選挙に関心を持ったのは、ルペンショックの2002年以来だ。このときはマリーヌ・ルペン現国民戦線党首の父親のジャンマリが社会党候補ジョスパンを抑えて、16.86%をとり、第2位につけ、決選投票に進み、EU加盟国を驚愕させた。
第2次での結果は、社会党がシラク支持に回り、82.21%で圧勝し、極右候補のこの挑戦を一蹴した。それでもショックだった。
今回は20%以上もとることが予測されており、1位も視野に入れるという国民戦線の勢力伸長ぶりで、それゆえに前回15年前とは比較にならないほどの緊迫感がある。
アントワープの友人ピーターが以下Eメイルしてきた。
Hello Masami,
The voting has started. See whether the events of last week will have a significant impact. It seems that there are a substantial number of undecided .
投票が始まったこと、選挙がきわめて大きなインパクトをもっているが、態度未決者が相当数いるということを伝えている。
ちなみにルモンドによれば、海外県やカナダのケベックなどでの投票が土曜日から始まっている。上述のピーターはそれをうけたもの。
欧州内のフランス France métropolitaine では、6.6万余の投票所で8時から前回より1時間遅い7時まで行われるが、いくつかの大都市では8時まで。投票所の警備には警官が5万、7千の軍隊も動員されているということだ。
Premier tour de la présidentielle 2017 : l’outre-mer et les Amériques ont voté dès samedi. LE MONDE | 22.04.2017
20日にはまたしてもパリがテロに見舞われた。今回は、なんと世界的な大通りシャンゼリゼで警官3名が襲われ、死傷している。
今度の選挙の注目点 は、徹頭徹尾ルペンの動向だ。それ故だれが2位かが最も重要だ。
なぜらなら、フランスは2回投票制で、1位者が過半数を得れば、それで決まりだが、その可能性が全くない(通常はいつもそうだが)から、第2次の5月7日が重要となる。
今回は、マクロン対ルペンの構図が一番枠だ。
マクロンか、フィヨンが首位に立ち、ルペンが2 位につけると、1位者に決選投票では票が流れ、ルペンの大統領選出の可能性は消滅する。
2位にNATO脱退やEU見直しを主張する、ルペンの主張にも似た主張の左翼メランションが来ると、勝敗は混とんとし、予測不能となる。
EU にとっても、昨年 6 月の英の EU 離脱を問う国民投票に続き、 12 月のオーストリア大統領選挙、そして混年 3 月のオランダ総選挙、そして 9 月のドイツの総選挙と一連の重大総選挙での、極右と EU の対決と EU 政治の帰趨を決める最重要な選挙だ。
ルペンが負け、マクロンが登場すれば、一気に欧州統合は弾みがつく。ドイツでは欧州議会議長を務め、EUを知り尽くした社民のシュルツが騰勢を回復させている。2014年から主権主義者にやられっぱなしだったEU政治で全く違った流れが出てくる。
それにしても、トランプ。
あの発言にまるで信頼性と安定さを欠くトランプに分断される国内社会だが、国際社会もこの異様な大統領に振り回されている。
異例にも一国の政治に特定候補を肩入れする政治的コメントを出し、それが あろうことか、極右、人種差別主義のルペン支持を表明するものであったから、開いた口が塞がらない。
逆に彼女が負ければ、そんな不見識の「政治屋」を米国と世界は最強の国家のボスに据えていることが明白になる。まあ、これまでの言動でこの男の異常さは改めて驚くことでもないのだが。
トランプ氏、ルペン氏に肩入れ 銃撃テロ受け「彼女は最も強い」産経新聞 2017 年 4 月 22 日
ロシアとの秘密の合意でもあって、シリア攻撃もルペンの支持も、想定内と考えているのかもしれない。
NHKスペシャル「激震トランプの時代」22日土曜日でCNNやNY記者がいっていたように、ロシアとの関係を暴こうとする上質メディアにたいして、狂犬みたいに牙をむき、メディアを攻撃することで、対ロ関係追及から世人の目をそらそうとしているようにさえ見える。
ちなみに、 EU から離脱が決まっているイギリスについていえば、最も高級かつインテリ紙の The Guardian は、マクロン支持を 4 月 21 日付社説で表明している。
ストレートに社説に自社の見解を表明するこの紙に常に敬意を表している。フランスだって、そんな主要新聞はないだろう。ましてわが国など、右に左に左右し、時に権力に迎合する姿勢を示してきたのが、大手紙だ。
The Guardianはいう。
もしわれわれが 1 票持っているとすれば、外国人排斥の潮流を押し戻すべくエマニュエル・マクロンに投票する、と。
If we had a vote it would be for Emmanuel Macron to turn back the tide of xenophobia.
The Guardian view on the French presidency: hope not hate.The Guardian, Editorial 21 April 2017 .
この後上位2者による決選投票だ。このブログでは、それについてはパリから書くことになるだろう。
参考ブログ
2017.04.19 Wednesday 英解散総選挙を対 EU 関係でどう見るか 3つの視座
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=4231
2017.04.18 Tuesday 寝耳に水の、メイ首相による英総選挙6.8 実施発表 スティーブン・デイ教授からの第一報
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=4230
2017.02.28 Tuesday 関心高まる仏大統領選挙 エマニュエル・マクロンへの期待
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=4206