児玉昌己研究室

内外の政治と日常について想うことのあれこれを綴ります。
アラジンの魔法のランプならぬ、魔法の板 スマホのこと

 今日のタイトルはスマホ。

 スマホとはもとより、スマートフォンの略だが、それなども含め、短縮言葉は美的感覚に乏しく、なるべく使いたくない。

しかし、コンビニなど、うたがうこともなく私も使っている。それについては、このブログを始めた11年前に書いている。

2006.06.22 Thursday 美しさを欠く省略言葉

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=168

今日はそのことではない。スマホが提供する圧倒的な学術的可能性だ。

今日はユーロはいくらかね、ユーロ圏は何カ国かな、マーストリヒト条約調印時の加盟国数は、ポーランドの政権与党の名はなどなど。

 講義中に、不確かな情報で話したくないとき、みな調べてと求める。

しかも誰が一番かな、見つけた人は手を挙げてなどと、いう。ほとんど真剣に応対してくれる。

 まさにアラジンのランプならぬ、アラジンの魔法の板なのだ。触ることでたちどころに必要な情報が入手できる。

 しかもありとあらゆる情報が。

 あと30年もすると、大学の教室という形態をとった講義や授業は不要になっているのかもしれない。

 教授も不要になっているかも。

 そういえば、囲碁の最高実力者がAIマシンソフトのアルファ碁の前に完膚なきまでに敗北したことも伝えられた。

 昨夜はカイロ大学で日本文化を学び、来年九大に来る予定の学生さんとこのスマホのメッセンジャー機能を使って、話せた。もとよりはるか彼方のアフリカはエジプトのカイロにである。当然、無料だ。

 その後は、ロンドン大学LESに学ぶ参院の根岸さんとも。パリからロンドンに渡った時に、時間をとってくれて、一緒にロンドンの一風堂で食事した。

 ロンドンでは、ローストビーフのシンプソンが予約満席で、一風堂のラーメンを食べたことはすでにブログしたかも。

 私が学生時代だったころからすると、その時代はITに関しては、中世か、いや原始時代だったのだと思うほどだ。国際電話など、目が飛び出すほど高額で、しかもコインが飛ぶように消えていき、脇からコインと同じほど冷汗が流れ出た。

 40年前のロンドンでの語学留学中も日本の情報に飢えていて、ロンドンでそうした需要にこたえるサービスがあり、2ペンスで電話して、日本の政治のことなど流れる音声で聞いていた。福田総理、といっても康夫でなく父君の赳夫さんの時代だ。

 タブレットでWi-Fを接続し、The Guardianやルモンドをみ、無料でインターネットを通して国際電話できるなど、それこそ想像もしなかった時代だった。

 現代に話を戻せば、こちらも持参したタブレットやサーフィスで無線Wi-Fiを拾う知識も鍛えられてくる。でないと仕事ができないから必死だ。

 おかげで、ホテルなどで主流になっているWi-Fiとの接続もさほどに苦ではなくなった。本来は有線ランがあると、接続の設定などせずに済むから、一番有り難いのだが。

 若い人に言わせると、何を今頃といわれるかもしれない。

 デジタル・ディバイドという言葉もある。デジタル機器が使える人と使えない人の格差のことだ。

  「絶滅危惧種」という言葉もあるが、私などITの知識では、誰も危惧してもくれないので、ただ単に絶滅種でしかない。

 だが、かろうじて、現代の魔法の恩恵だけは、生がある限り、享受したいと思っている。

参考ブログ

2007.07.27 Friday Youtubeとドラえもん

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=741

 

 

 

 

 

 

| 児玉昌己 | - | 23:16 | comments(0) | trackbacks(0) |
おごれるもの久しからず 傲慢になる安倍政権

 昨日深夜トランプのことを傲慢と書いた。

 日本でも、権力者の傲慢はあまり変わらない。

 高々4割の支持でしかないにもかかわらず、議席で7割を占め、与党議員や総理官房長官を含む大臣は、無様なほどにも緊張感を失ってしまっている。

 挙句、復興大臣の立て続けの不適切発言や、所管する共謀罪法案について、説明が二転三転し、マスクした官僚答弁をオウム返しに語り、自らの発言にまったく自信がない法務大臣(官僚が、大臣に助言する際、周囲に口の動きを不明にするなど、半世紀政治を見てきたが、前代未聞だ)、そして断言した言葉をあっという間に訂正する防衛大臣がでる。

 さらには、首相の妻女が深くかかわった森友事案。それに続く「官邸の御意向」が特定の組織に与えられたことが前次官により暴露され、まさに利益誘導を疑わせる安倍政権のスキャンダルである。

 官房長官の前次官にたいする感情的といえる対応は何か。彼を評価していたが、がっかりだ。

 前次官の個人の問題はまさに個人の問題である。しかし、権力者による特定組織に対する恣意的な利益供与の疑惑は政治の根幹を揺るがす問題となる。まして権力の頂点にあるものが、直接、「御意向」という言葉でかかわったとされるが故にである。

 旧来墨守をもって旨とする官僚社会にあって、この文言は特異かつ異例のものだ。PKO関係において防衛省でも見られたが、文書の意図的な破棄、隠蔽なども懸念される。当事者は存在しなかったとして済ますつもりだろうが、第3者機関による徹底した調査が望まれる。

 近年情報の意図的な秘匿が顕著となっており、行政に対する、国民の知る権利について重大な疑義が生じている。

  官房長官は、政権維持に必死であり、本質に回答せず、問題のすり替えをしているとしか思えない。

 多くが、何か、おかしいと思っている。

 対北朝鮮外交については、この政権を評価している。それをもって内政における彼が任命した大臣と自らの相続く失態を軽視し、これを軽んずる者もいるようである。だが、内政の問題をそれで解消できるわけではない。

 次官といえば、本省事務キャリアの最高のポストだ。省内を知り尽くしている。

 石破元防衛大臣が言うように、「あったものをなかったとは言えない」とする、前次官の姿勢こそ意義があり、評価される。

 自民都政が招いた汚染まみれの豊洲への市場移転問題。なんであれ、有権者が政治の主役である。 

 安倍自民には都知事選が待っている。大敗の兆しもある。

 我々はこのような政治家の傲慢が起きる元凶は何なのかを知る必要がある。すなわち、それはすべからく、民意を十分に反映しない現行の選挙制度であることを確認する必要がある。

 この非民主主義的な選挙制度に目を向け、民意が議席に反映できる比例代表制など、政治家に緊迫感を持たせるべく、現行選挙制度を改める必要がある。

 アダムズ方式などは小選挙区制度を強化し、地方と中央の格差を全開させる小手先の改革でしかない。それとは違う、抜本改革としての比例制に軸足を置くドイツ方式をである。

 そうでないと、優秀といわれてきた官僚組織さえ、現下我々が目撃しつつあるように、腐らせてしまう。

 行政(官)は、選挙ごとに変わりゆく政権の下僕ではない。行政(官)は市民に奉仕する公僕である。それを議員はもとより、行政官僚も、我々もしっかり心に刻む必要がある。

関連記事

自民・石破茂氏が前川喜平・前文科事務次官の発言を「意義ある」と評価 加計学園 産経2017.5.26.

関連ブログ

選挙制度の問題については以下

2013.07.23-25 日経清水編集委員の選挙制度認識の問題 上中下

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3501

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3502

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3503

| 児玉昌己 | - | 16:17 | comments(0) | trackbacks(0) |
ハリーポッター原作者 Rowling女史、トランプ米大統領に You tiny, tiny, tiny little man

  Natoの会議で、前列に出る際、6月にメンバーになるモンテネグロの首相を押しのけて前列にでたトランプ。

 全く礼儀とか教養とかまるで無縁の政治屋だ。そしてあのしたり顔。

 実に不遜極まりないことである。皆さん観られただろうか。

 「あなたは、小さい、小さい、小さい、小物だ」とは、ハリーポッターの作者で知られるローリング女史の言葉だ。

 今はインターネットで映像も含め、すべてが瞬時に報じられる。ワシントンポストは「国家の恥」と形容。全く同感である。Natoでも、強権的姿勢を深める対ロ防衛の結束どころか、カネのことしか言及しなかった。

 司直の介入を恐れ、FBI長官を首にした。選挙戦から濃厚になっていたロシアとの関係を隠すことが最優先であるのだろう。

 そういえば、イスラエルの諜報機関による機密情報も、嬉々としてロシア外相に直接本人から得意満面で伝えられた。同国関係筋は、モサドで知られる同国の諜報活動についてただ漏れに、怒り心頭という。

 さらに言えば、マンチェスターでの劇場での死者22名を出したISかぶれの自爆テロについても、秘匿されていた容疑者情報について、英政府が発表する前に米政権からリークされ、メイ政府は抗議している。

 情報管理のイロハもわかっていないのが、政権のトップにいる。この大統領、不動産屋の社長は務まっても、凡そ世界に大きな影響を与える国家の政治家の器ではない。いやその対極にあるものがその地位についている。

 落ち目の国家こそ、それを立て直す政治家が必要だというのに。

 歴史の皮肉とはこれを言う。

 欧州でも、メルケルに対しても、EUが排他的に持つ通商権限についても全く無知で、一貫して国家をベースとした米独の2国間協定を口にしていた。

 そして、メルケルからそのたびにEUにおいては通商権限は加盟国にはない、EUにのみ通商権限があると指摘され、なんと、11度目に、ついに、「ではヨーロッパ(EU)と」と述べたとロイターが報道した。

 対EU関係における最重要事項についての彼のこの無知ぶりは、インディペンデント紙ほか、広く各国で伝えられている。わが国で報道されたとは聞かないが。

 選挙戦最中から彼がそんなEUのイロハも知らずに、自己の「政策」とやらを語ってきたということだ。

 この排外主義ナショナリストについては、類は類をもって集まるということわざ通り、あろうことか、フランス大統領選挙に公然と介入し、同じく排外主義者のルペンを公然と支持し、結果、マクロンの圧勝での選出で、大恥をかいている。

 西側世界が構築してきた自由、人権、民主主義についてのこの「小物」の政治認識、対外認識の軽薄な理解がことごとく、ナンセンスであることが暴露されている。

 米国にとっては、ワシントン・ポスト紙がいうように、実に国辱の日々であり、移民国家の米国の市民が憂慮を深めている。

 対ロ関係に戻っていえば、利敵行為、もしくは反国家的行為について、娘イバンカの夫、すなわち義理の息子のクシュナー上級顧問が米当局の捜査対象と報じられている。

 この政治家、大統領選挙の過程から、ロシアに深くかかわり、それがゆえに、KGB出身のプーチンに手玉に取られているといえる。

 そして、フェイクニューズも含め、ヒラリー追い落としで使ったロシアとの関係で、自身の首が飛ぶ可能性も高い。すでに終わりの始まりの局面かもしれない。

 おごれるのも久しからず。

参考記事

Angela Merkel 'had to explain fundamentals of EU trade to Donald Trump 11 times'. US President will now reportedly prioritise EU trade deal over post-Brexit agreement with Britain. Independent 24 April 2017.

米大統領娘婿クシュナー、FBIのロシア疑惑捜査の対象に ロイター2017526

参考ブログ

2017.04.27 Thursday ルペンが敗北する理由  仏選挙を語るに米国をもってする愚 選挙制度の相違を失念するな

http://masami-kodama.jugem.jp/?day=20170427

 

| 児玉昌己 | - | 00:56 | comments(0) | trackbacks(0) |
カイロ大学と久留米大学の学術交流の具体化について 

  勤務校の久留米大学では、外務省OBの宮原文学部教授や浦田比較文化研究所長等のご尽力で、昨年、エジプトを代表するトップ校のカイロ大学との学術交流協定を締結した。

 その具体化を図るべく本学の比較文化研究所にアハマド・ラハミー先生(元カイロ大学日本文化学科長)を招聘し、この4月より、大学院および学部において講義も始まっている。

ちなみに先生は日本語の古典にも通暁されている。若き日、大阪外大に学ばれている。 

 本学での講義のテーマの1つが伊勢物語であるといえば、その意味がお分かりになるものと思う。

 今般、さらに両大学の関係を充実すべく、7月中旬にカイロ大学で両校の教員によるエジプトと日本の近代化の比較研究の国際シンポジウムを開催することになり、私もおよばずながら、参加することにしている。

 イスラムといえば、人口約16億人(世界の23.2%)である。ちなみにキリスト教徒は約21億7千万(31.4%)。

 一部に偏見もあるようだが、国際化するわが国にあって、イスラム文化圏との交流の重要性はますます高まっている。

 組織はどこでも同様だが、大学は特に研究教育機関として、教員の質に負う極めて人の要素が高い属人的組織であり、人を得て、そのレベルも向上する。

 大学人として、こうした形で両国の文化交流に貢献できるとすれば、嬉しいことだと思っている。

 なお本学公開講座(本学福岡天神サテライト)でラハミー先生は「エジプトの寅さんと呼ばれてー日本エジプトの文化交流」とのテーマで9月から4回にわたり講座を開かれる。よろしければ、以下参照、ご参加いただければ、幸いです。https://www.kurume-u.ac.jp/site/chiren/guidebook-8.html

国際シンポジウムについては以下

http://www.nkg.or.jp/wp/wp-content/uploads/2017/03/170715cu.pdf#search=%27%E3%82%AB%E

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 関連広報

https://www.kurume-u.ac.jp/site/backno/20170214-02.html

 

| 児玉昌己 | - | 00:15 | comments(0) | - |
庭に繁る常盤露草 それでも可憐 歌を詠む 海鳴庵児玉

ようやく解放された日曜日 庭に出ると常盤露草(ときわつゆくさ)がドクダミに負けじと茂る それでも命 一輪飾る

 

 

疎(うと)ましき 常盤露草 三角(みつかど)の 白き花ゆえ 一輪飾り

                                海鳴庵児玉

 

 参考歌 ドクダミを詠む海鳴庵

 どくだみの 十文字の列 迎えけり 淡き夕べに 深き純白

 白き花 一輪挿すは どくだみの 十文字こそは 君だけのもの 

2017年前半海鳴庵児玉昌己句歌集

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=4198

 

| 児玉昌己 | - | 00:39 | comments(0) | trackbacks(0) |
マクロン政権成立 進む総選挙準備 仏大統領選挙決選投票の現地調査から一週間

 短期の仏英の出張で、疲労感の残る多忙な一週間が終わろうとしている。

  駆け足でフランスの大統領選挙の開票作業を視察しロンドンを回って帰国して、1週間。

 まだ、どこかに疲労感が残っている。昼夜逆転を体験し、しかも帰国しても、通常の講義や会議、ゼミが当たり前のこととして待っている。

 ただ大学の教員は単に教育だけでなく、調査研究も同様に重要である。研究者としてのプライドと責務があるからこそ、いい歳をして海外にも出かけうる。

 むしろ歴史的局面で、その現場に立てていることで、欧州政治の研究者としての喜びを強くする、そんな出張であった。大学と所属の学部には感謝である。

 実際、今回フランスの大統領選挙は、専門とするEUの将来を左右するという意味で、ここ20年で最も重要なイベントであった。

 しかも今回は、開票の実際を実見できるということで勇んで出かけたのだ。

 マクロン選出のその後のフランス政治を書けば、彼は、直ちに組閣に取り組み、それを発表した。

首相は、共和党からの脱党組ル・アーブル市長で、マクロン同様、国立行政学院(ENA)出身者のエドゥアール・ フィリップ氏(46)を指名。公約通り、男女ほぼ同数で内閣を組織した。

 内閣はフィリップ首相、及び18大臣、4名の副大臣からなり、所属の政治選好の内訳では、左派6、中道3、保守3、市民派11

 またそれにとどまらず、ルペン勢力と真っ向から勝負するように、EU重視を打ち出し、仏外務省の機構改革と名称変更を実施した。

  すなわち、同首相はEU担当副大臣を大臣職に格上げし、欧州議会議員(欧州自民)を務めたMarielle de Sarnez女史を欧州(EU)担当相に据えた。ケドルセLe Quai d’Orsayとして知られる仏外務省の名称は「ヨーロッパ」を加え「ministère de l’Europe et des Affaires étrangères (MEAE)「欧州・外務省」と変更した。そして、オランド政権の防衛大臣だった重鎮Jean-Yves Le Drianを就任させた。また職務については、欧州EU担当相と所管を分担する形にした。 

これは、マクロン大統領の親EU姿勢を反映し、フランスの対EU関係を重視する姿勢を徹底したといえる。

 総選挙関連で言えば、4月にはEn March(前進)という運動体をLa République en Marche(共和国前進)と名を改め、この新たな政党をもって、来月に迫った総選挙に臨むことになり、下院議会の候補者選定が進められた。

 フランス下院議会である国民議会の定数は577だが、すべての選挙区で候補者を擁立する時間がなく、512日付AFPは、仏大統領の政党、共和国前進(LREM)」は11日に下院選の全選挙区577(欧州のフランス領は535海外領42)の内428人にとどまったこと、しかも、政治経験のない候補と女性候補がそれぞれ全体の半数を占めると、報じた。

 それでも、この政党への支持は高く、最近の世論調査では、同党は、57日時点から6ポイント支持を伸ばし32%、支持者が競合する中道右派の共和党は19。これは議席にしてマクロン新党が国民議会で280-300で過半数を制する可能性があるという、世論調査とはいえ、驚きの数字である。

 https://twitter.com/LesSondages2017

わが国では新大統領の未熟さを指摘する論調が多い。だが、政治は常に若者によって新しい時代が切り開かれる。わが国が異様に保守化してしまっている。日本の政治には、マクロンのようなこうした若者がほしい。

 しかも、マクロンは政治の素人ではない。イタリアのレンツィ前首相とも懇意であり、またオランド政権下で経済相を経験し、ドイツ社民のガブリエル外相とも、保守のショイブレ、メルケルとも極めて近い関係を形成しており、凡そ素人ではない。

 私はEUの専門家であり、フランス政治プロパーの研究者ではない。それゆえ専門家に叱られるかもしれないが、あえて私見を言えば、主要政党外からマクロンが当選したということは、1958年のドゴールをもって始まるフランス第5共和政以降、最大の政治的大変革の始まりだと考えている。

 旧来の共和党と社会党の2大政党による統治が完全に終わりを見せ始めているということにある。

 なお敗北したルペンは577議席中、現有議席は2議席であるが、15議席が目標といっている。

 さほどにルペンの国民戦線は下院では泡沫政党である。それもこれも小選挙区制が故である。

 排外主義者ルペンを全く支持するものではないが、イギリス同様、小選挙区制度自体が、民意をいかにゆがめる選挙制度であるかは、大統領決選投票で、34%余、千万票を集めたルペンの国民戦線の数字を前にすると、理解されるはずである。

 小選挙区制度は政治を安定にする制度と教科書にある。カネもかからないともいう。

 ところが、膨大な死票の上に成立する政権は、短期的には安定しても、時間の要素を考えれば、政治に生かされなかった市民の怨念を蓄積し、政治を中期的に緊張させ、敵対の政治を極大化していく制度でしかない。

 教科書の小選挙区制度についての記載はそれゆえ誤記というに等しく、反民主主義的制度であると書き換えられる必要がある。

 参考記事 

France's Macron selects his government from left, right and centre The Guardian, 17 May 2017.

Europe leapfrogs foreign affairs in new French government.EURACTIV.fr ‎2017‎‎5‎‎18‎

Polls suggest parliamentary majority within reach for Macron EURACTIV.com with Reuters

参考ブログ

2017.04.23 Sunday 誰が2位に来るのか ルペンかマクロンか、EU政治を決する仏大統領選挙第1次投票始まる

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=4234

2017.04.24 Monday極右ルペン敗れたり マクロン第1次投票、勝利 2017年仏大統領選挙

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=4235

2017.04.25 Tuesday 2017年仏大統領選ルペン敗北 追記 

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=4236

 

| 児玉昌己 | - | 00:35 | comments(0) | trackbacks(0) |
EU内ユーロ圏議会創設 その形態について

 ユーロ圏議会の創設の動きについて、独仏が協議したことが取り上げられた。それはほどなく具現化していくことだろう。

 EUのユーロ圏の中核国家の合意した意志であれば、なおさらだ。

 ただしその形態は、どうなるか。それが今日書くべきことである。

 ユーロ圏議会といえば、何か新たな議会を欧州議会と別に選出して設けるということが想像されるが、そうではない。

 既存の欧州議会内の金融財政関係委員会を拡充させていく方法をとると考えられる。

 ブログのタイトルにEU内とした所以(ゆえん)である。

  その理由は簡単だ。2つある。

 第1は、EU内での組織の重複や肥大化を避けること、第2に、EU条約改正作業を回避する必要がある。

 第1の点でいえば、欧州議会とは別にユーロ圏議会の議員を新たに作れば、その議員を別途選出する必要が出てくる。組織効率、費用の観点からみて、論外の事態となる。

 第2の点でいえば、条約改正を必要とする新たな機関の創設となれば、EU全加盟国の支持を必要とする。それを避ける必要がある。イギリスが去れば27国となるEUで、ユーロ圏でない国家は8つとなる。

 この非ユーロ圏国家の中には、ポーランド、ハンガリーなどEUのさらなる連邦的統合の深化を嫌う国もある。これらに妨害されることを回避する必要がある。

 実際、ユーロ圏議会の可能性とその在り方に関連しては、関係者によって、過去に検討されている。上述したことがそこで触れたていた。

  しかも、新規に機関を構築するのではなく、既存組織を拡充する方式については、すでに先例はある。

 ユーロ・グループがそれだ。

 ユーロ・グループはユーロ圏19か国からなる金融財政担当大臣の会議である。それは、ユーロの価値の維持に関し最も重要な機能を果たしているが、既存の欧州理事会の中にそれが開設された。

 実際、ユーロ・グループについても、そうした形で、欧州理事会内に最初の会合が設定され、後にそれを条約上に明記していく、お定まりの方法が採られた。

 ヨーロッパ統合はそうした形で、組織の発展については柔軟に対処されていくのが常道である。

 ともあれ、ユーロの価値の安定と防衛に関し、ユーロ圏の独自予算を持ち、それを民主的に監視する機関が新たに誕生する可能性が高くなった。

 すでにユーロ・グループは、欧州安定メカニズム(ESM)を将来的に欧州通貨基金(EMF)に改編す可能性を探っている。それにとどまらず、ユーロ圏の独自予算の獲得からそれを監督するユーロ圏議会に至るまで、さまざまなユーロの価値の防衛策が練られ始めた。

 欧州委員会の長のユンケルは、マクロン仏新大統領のスーパー財務相構想には消極的であると報じられているが、フランスがドイツを説得すれば、EUの行政府欧州委員会としては動かざるを得ない。

 しかも、マクロンの提案は、欧州経済通貨同盟完遂のための、と銘打った2015年6月にEUの5大機関(欧州委員会、欧州理事会、欧州議会、欧州中央銀行、ユーロ・グループ)の議長報告(私にすれば、2014年当時の反EUの嵐の雰囲気の中でかろうじて出された最小公倍数の報告としか評価していないが)をはるかに超えた大胆なものとなりつつある。

  今後、その形態も含めて、注視されるべきだ。

参考ブログ

2017.05.13 Saturday  ユーロ圏議会構想をマクロンとショイブレが協議 EU懐疑論者を青ざめさせるユーロ圏における連邦通貨主権創造への一歩

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=4250

 

 

 

| 児玉昌己 | - | 11:13 | comments(0) | trackbacks(0) |
巴里から戻ると薫る風  それを詠む 海鳴庵児玉

仏大統領選挙取材から戻ると薫る風

 

 

フランスの 旅を終えれば 薫る風 緊張(きもち)は溶けて 心軽やか

           

 

2017年前半海鳴庵児玉昌己句歌集

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=4198

          

                                                   

| 児玉昌己 | - | 22:46 | comments(0) | trackbacks(0) |
 ユーロ圏議会構想をマクロンとショイブレが協議 EU懐疑論者を青ざめさせるユーロ圏における連邦通貨主権創造への一歩

 ヨーロッパ統合の連邦的強化の最大の抵抗勢力だったイギリスが3月29日にEU離脱をEU側に告知し、5月のここ数日前にマクロンが仏大統領に選出された。

 そして間を置くこともなく統合は息を吹き返し始めた。

 予測通り、ユーロ圏議会について、早速、マクロンが会談して、ドイツの財務相ショイブレがその創設に乗り出すことことをイタリア紙が伝えた。以下がロイターのそれだ。

独財務相、ユーロ圏議会の創設を呼び掛け=伊紙 2017 05 12

Germany's Schaeuble calls for euro zone parliament: La Repubblica.

Reuters  May 11, 2017

私は、多くの在京のEU研究者が「欧州統合の終焉」といった、近視眼的な記事を書いていた3年前に、ショイブレのユーロ圏議会構想に注目し、下記のブログでそれについてコメントしている。

 ヨーロッパ統合は確実に進むのである。理由は簡単である。

 カール・マルクス風に、下部構造の進展が上部構造の変革を要請していると書くことができるが、それでは、芸がない。

 もっとわかりやすく言えば、ユーロの価値の防衛は必然的にEU予算によるユーロ市場の下支えを必要としているからである。それは失業保険や再雇用促進費、さらには銀行の支援、整理など国家の事例と同様に広範なものとなる。

 ユーロ圏議会が問題ではない。すなわちユーロ圏自身が活用できるユーロ圏独自予算の創設の必要がユーロ圏議会創設の背景として存在する。

 駆け出しの頃より学会を通して懇意にさせていただいている田中素香東北大学名誉教授に、例えば、「ユーロ共同債」はどうですかと問うと、それがあれば、ユーロ防衛には、便利ですね、という回答を即座に頂いた。

ユーロ共同債は、ユーロ圏財務省と、さらにはそれを監督するユーロ圏議会を必然とするのである。

 実際、国家の財政当局が出す国債をユーロ圏レベルでやろうとするから、発行の主体、発行額、利率、集まった資金の配分など、管理問題が直ちに発生する。

 乱発すれば、ソブリン債同様、ジャンク化し、国家経済を苦しめるギリシャ債同様、ユーロ圏ひいてはEU全体を苦しめることになる。

 ドイツの財務大臣ショイブレは、ソブリン債機の全面的展開の過程で、厳しい緊縮財政をもとめて南欧の諸国の怨嗟を買ったが、ユーロの価値の維持については、財政家として、 ユーロ圏の独自予算の必要とそれを民主的に監督するユーロ圏議会の必要性を語っていたのである。

 他方、マクロンも経済相時代に、スーパー・コミッショナー率いる欧州の「経済政府」が市場で資金を借りられるようにし,この政府にEU の域内総生産の約 1 %よりも大きな個別予算を持たせるとその機能を具体的に語っている。

  「ユーロ圏通貨同盟どう強化するか,2 陣営で議論」ロイター 2015 9 14

 確かにEUは周辺国家と中核国家に分断されていくが、それはやむを得ない。関税同盟と単一市場だけでも、ハンガリーやポーランドなど国家主権擁護派の国家からすると、せっかくロシアから奪還した主権の簒奪として、腹の虫がおさまらない。本来それに合意してEUに加盟したはずなのだが、現政権はそんなことに無頓着である。

 だが、こうした非ユーロ圏諸国を別にすれば、ユーロ圏19か国ではユーロの価値の防衛が絶対的な命題である。

 EU加盟各国の単一通貨、すなわち19か国においてはユーロの安定が必須であり、これなくしては、EU統合など意味をうしなうのである。

 すでにEUにあっては、ユーロ導入により、ユーロ圏と非ユーロ圏とで分化現象を起こしている。

 EUにあっては、国家主権の確保の場である欧州理事会の中に、早くも1998年にユーロ・グループが導入されている。  

 欧州議会の中にユーロ圏議会が創設されても何ら不思議ではない。それどころか、まさにユーロ・グループに相応した民主的監督の制度が出来るのは、理にかなっている。

 実際、ユーロの価値の維持に混乱をもたらすにユーロ圏の諸国に対してEU予算を活用することになれば、問題を生じる。

 それはユーロを発行している19か国の、すなわち限定される問題であるからである。

 予算の行使と監視は議会の伝統的機能であり権限であり、おのずと予算の使途を民主的に監視する機関が必然となる。

ユーロ圏議会の動き、今後の展開を注視したいところだ。

 いよいよヨーロッパ統合は、国家が金融主権と財政主権を一体として持ち、有機的に行使していると同様に、真の財政連邦主義と、連邦通貨主権の獲得へと独仏一体として、乗り出していく。

 ユーロの防衛など関心なく、むしろ足を引っ張ってきたEU統合の抵抗勢力というべきイギリスの影響力がEU離脱で消滅し、ヨーロッパ統合推進派のマクロンが仏大統領に選出された。 

EUを通したヨーロッパ統合は、再び前進を始める。

 イギリスをベースにEUを語ってきた世のEU解体論者、欧州統合終焉論者は青ざめることだろう。

参考ブログ

2010.11.02 Tuesday欧州連合を否定しつつEU(欧州同盟)は連邦主義的権限強化に向かう 上 金融財政部門でのリスボン条約改正の動き

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=2575

2014.01.30 Thursdayドイツ財務相ショイブレのユーロ圏議会構想 上中下

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3609

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3610

http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3611

参考文献

児玉昌己 危機の時代におけるEU・欧州議会の権限強化の動向 ─立法権限,行政府構築,通貨分野への関与強化─

阪南論集2016年第51巻第3号特別版 辰巳浅嗣学長退任記念号

| 児玉昌己 | - | 00:47 | comments(0) | trackbacks(0) |
2017年、仏大統領選挙現地調査より「市民」(citoyen)を体感して戻る

 わずか一週間余の駆け足の日程でしたが、フランスとイギリスに出張をしてきました。

 メインは仏大統領選挙の現地調査。イギリスでは総選挙キャンペーンの調査。

 極右国民戦線ルペンを破って親EUの若干39歳のマクロンの当選という仏史上空前の政治に立ち会えて、有り難いことでした。

 実際この選挙はフランスの今後5年の政治の方向を規定するばかりか、ユーロ離脱、EU解体派の動向、消長にもかかわる重大選挙でした。

 実際、極右国民戦線のルペンの進出はEUの将来、欧州の将来をきわめて危うくするもので、その得票に注目をしていました。

 今回もまたというべきで、友人のルケンヌ仏国立政治学院教授の協力を得て、彼の住む地域フォンテンブロの投開票所の実際を実見できました。教授が地元の投票所で開票作業を一市民として引き受け、投票のみならず、夜7時からの即日開票の作業をしたので、それを真横で観察できたことでした。

 年配の女性ボランティアが投票ごとの結果を読み上げる心地よい仏語の強勢のあるマクロンという声と、ルペンと尻落ちする低い声が、彼女がどちらを応援しているか判別するには十分でした。またルペンの票が出るたびに気落ちするその心のありようもうかがうことができました。そんな1メートルの距離で、開票作業を見つめていたのです。

 この経験を通して、個人的には、フランスではルソーなども含め政治史、思想史に必ず登場する市民citoyenシトワイアンの意味を、肌身で体感できたのが最高の収穫でした。

 なにをいまさら、という方には恐縮なのですが、勉強して、字面(じづら)で学んで知っていることと、認識(体感)することは違うということなのです。

 

| 児玉昌己 | - | 09:37 | comments(0) | trackbacks(0) |

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