ちょうど1年前の都知事選につづく、都議会選挙。都民ファースト圧勝の報道を観つつ、この5月と6月のマクロン政権の誕生と国民議会選挙での新党圧勝をもたらしたフランス政治の地殻変動を追体験している想いだった。
フランスではこの5月マクロンがルペンに大差をつけ大統領となった。しかし、政治は一人では動かせない。
舞台は国民議会に移り、1年前には存在もしなかった彼の急ごしらえの政党「共和国前進」が、友党の「民主運動」とともに、議席の6割を占め、政権が盤石となった。
このマクロン同様、政府与党を出て、都民ファーストという新党を全く一から小池百合子が立ち上げ、そして今回、都議会(定数127、過半数64)に、反安倍、自民勢力と公明を合わせて、79という圧倒的多数の議席を得ることになった。
たしかに、フランスと東京の両者には、マクロンは国政、他方、小池は都政とレベルの相違はある。
だが、民主主義国家における選挙。民主国家においては、独裁国家とは異なり、長期の政治的支配はあり得ないことをまさに示すものだった。
しかも、例えば、仏社会党、仏共和党など、歴史ある政権与党を経験した大政党があっという間に勢力を落としたということでは、両者は共通性を持つ。
ルモンドによると、240議席失い大敗した仏社会党では、大統領の公認候補だったブノア・アモンまで、7月1日離党した。
今度の都議選は、単に都議選という東京の地方選挙ではなかった。都民が国民を代表して、安倍自民にノーを突き付けた選挙だといえる。
だからこそ現有議席の6割を失う今回の東京自民の大敗が生まれた。単に都政の問題ならば、こうした数字はあり得ないし、ムードとしての反安倍を超えた、安倍政権自体への怒りとして初めて考えうる事態である。
現有自民都連の公認候補者は57から36ものの落選者を出した。日替わり弁当というべくも問題を連発し、そのレベルを国民に露呈した自民の国会議員とその責任を問わない安倍首相自身を彼らは恨むしかない。
実際、はるか年上の秘書を「ハゲー、死ねば」とか、ののしる東大出ながら前代未聞の品格の低さを露呈した女性議員がいた。
そしてまた教育勅語を信奉し、A級戦犯合祀の靖国に詣で、法のエキスパートの弁護士であるにも関わらず、自衛隊法(第1条の規定)もまともに読んだことがなく、政治を超えた中立的存在である自衛隊を自民党の私物とする発言をする閣僚がいまだにいる。だれが見ても不適格というべき大臣である。
しかもこの稲田の場合、これほどの大敗の責任の多くを占めているにもかかわらず、安倍はその温存にかたくなに拘(こだわ)っている。落選した議員候補は、安倍首相を恨むしかない。
今度は当然、都民ファーストは国政に進出してくる。 これに火が付くとき、自民の終わりの始まりとなる。
ちなみに都議選では7つの選挙区が定員1名の小選挙区。全議席を独占していた自民は島部をのぞいて、全滅だった。
小選挙区制度での総選挙であったなら、2009年の悪夢の再来となったはずだ。小選挙区制度はかくも異様に議席が上下、左右に触れ、著しく政治を不安定にするのである。
都議選が基本的に中選挙区制度(本質的には大選挙区)であるがゆえに、まだ自民の議席減がこの程度で済んでいるのであることを知るべきであろう。
これだけの都民の不満を蓄積している傲慢な政治の本質的理由は、まさに国会議員選挙における得票率と獲得議席の異常な乖離をもたらす小選挙区制度で生まれた安倍政権にある。
都民の都政における政治的な大変革の背後には国家の政治があり、それが近未来において、都民ファーストから、国民ファーストに押し上げていく論理必然性を持つ。
今度の都議選では、自民のみならず、民進の敗北も指摘すべきだろう。
自民の大敗が語られるが、民主から名を改めた民進もまた、5議席と2議席失い、公明はもとより、共産の足元にも及ばない結果となった。
すなわち、政権与党に代わるの受け皿に全くなりえていないことも、明らかになった。いや解党を予測させるというべき数字である。
実際、わずか7年前、2009年8月の総選挙で、圧勝し、自民から初めて政権を奪取し、あれだけの機会を得えながら、行政を「仕分け」という名の見世物のショーに引きずり出し、これに敵対し、これをうまく使えず、指導者の無能ぶりが露呈され、2012年12月の第46回総選挙で安倍自民に惨敗した。
このときの民主の政治といえば、落選し、引退し、あっという間に政治舞台から消えてしまった仙谷官房長官などによる尖閣・海保事件にみられるような情報秘匿と、強権的政権運営に終始していた。
野に下ってもその失敗を振り返ることもなく、国民、そして都民から見放され、現在都議選に見るその体たらくを迎えている。
実際、その民進といえば、民主党大敗の「戦犯」というべき指導者が、責任をとることもなく、ゾロこの党の中枢に居座っているから、当然といえばいえる。
右か左か自己の立ち位置が全く不明となったこの政党、完全に政治における意味を消失したといえる。これに進んで吸収された旧社会党関係者の責任も大きい。
自己の過去の政治的実績のお粗末さを顧みることもなく、国籍問題さえ簡単に回答できなかった指導者が、あつかましくも自民を攻撃しても、誰も相手にしない。賞味期限切れとはこれをいう。
若い人は知らないかもしれないし、年配の世代も忘れているかもしれないので、当時のブログを下記に掲示しておこう。
どんな政治をすれば、国民が怒るか、理解できるだろう。
森友、加計学園にみる情報秘匿、そしてその対処や、人事任免権では自らの責任をまるで問わないという強権的姿勢において、今の安倍政権は、あのでたらめだった民主政権とでまるで同じである。
今回の都議選で言えば、自民も民進に対しても、都民は、歯牙にもかけず、実に無慈悲な懲罰を与えた。
安倍政権は傲慢になり、情報を開示せず、説明責任も、実際の責任も取らず、居直るというその政治的現状を見るにつけ、民進(旧民主)がたどった道を再現している思いがする。
ともあれ、フランス同様、由緒ある政党が勢いをなくし、そして、女性、人権、平和、格差是正、積極的な情報開示と適正な行政執行についてフレッシュな感覚をもつ国民目線の新党に期待が集まる。
フランスにおいても、日本においても21世紀に相応する政治が生まれつつあるということで、古びた政権与党の独裁的手法と決別する時代が到来しつつあるということだ。
欧州政治の研究者としては、国政への都民ファーストの進出と政界再編の動きが今後注視されるところだ。
敬称略
参考ブログ
2017.05.27 Saturdayおごれるもの久しからず 傲慢になる安倍政権
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=4257
2017.06.19 Monday 2017年フランス国民議会選挙決選投票関係データと党派別獲得議席
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=4268
2011.06.07 Tuesday 「ルーピー」と「ペテン師」 菅直人政権の終焉 上、下
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=2844
2012.12.18 Tuesday これが小選挙区選挙の実態だ 上、下 死票は3730万票、死票率56.0% 虚構の2大政党制
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3355
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3356
2010.11.20 Saturdayあきれるばかりの閣僚たち 続く最小不幸社会ならぬ極大不快政治 上、下
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=2596
2010.01.18 Monday尋常ならざる民主党 1-6
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=2185
党派別当選者数
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自民
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公明
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共産
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民進
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都民フ
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ネット
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維新
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社民
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諸派
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無所属
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計
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合計
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23
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23
|
19
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5
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55
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1
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1
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0
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0
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0
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127
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(現)
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21
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19
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11
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3
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11
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1
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1
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0
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0
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0
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67
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(元)
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0
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0
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0
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1
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5
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0
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0
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0
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0
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0
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6
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(新)
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2
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4
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8
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1
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39
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0
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0
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0
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0
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0
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54
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(現有)
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57
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22
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17
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7
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6
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3
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1
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0
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0
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13
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126
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2017都議選 投開票タイムライン(毎日新聞)
https://mainichi.jp/senkyo/2017togi/timeline/